第14話(累計・第95話) クーリャ87:暴走する学院長先生。わたし、どうしたらいいのぉ!
「ワシが落ち着くのは、棺桶に入ってからじゃ! まだまだ、ワシは研究もアッチも現役まっしぐらなのじゃ!!」
すっかり暴走状態の学院長先生。
横に座るエルフ男性もあきれ顔で、手綱をわたしに渡すつもりと言う。
「えーと、シルヴァリオ様でしたか。いきなり学院長先生を頼まれても、わたくし困ってしまいます。わたくし自身、身内から鉄砲玉娘とか暴走姫とか言われております幼き身でございますし……」
「そうか? クーリャ殿からは年齢以上のオーラを感じるぞ。あ、そうか。前世の魂と現世魂がハーモナイズしているのか。ふむ、同一人格であるからこそできるパワーアップ方法だな。となれば、過去の自分や未来の自分を仮召還して自分とリンクさせれば……」
今度は、ぶつぶつと何かを言いながら思考の迷路に入り込むシルヴァリオ様。
……ん? 今、前世って言ったよね、シルヴァリオ様って。ということは、わたしの秘密が全部バレているじゃないのぉぉ!
「先生、それにシルヴァリオ様。これ以上クーリャ様を混乱させないで下さいませ。それ以上追及なさるなら、わたくしは先生方と言えど許しません!」
「そ、そうだ。アタイもクーリャのダチとして、これ以上クーリャを苦しめるのは許せないよ!」
「ボクもクーリャちゃんの友達です。シルヴァリオ様、学院長先生。貴方方は西方エルフ大公国とドワーフ王国、それにニシャヴァナ男爵を敵に回すのですか? これ以上の狼藉は許せません!」
先生、ダニエラ、エル君がわたしを庇う様に宣言する。
「アタシの大事なクーリャ姫様を傷付ける人は許さないのぉ!!」
カティに至れば耳やしっぽ、全身の毛を逆立たせて、今にも飛び掛かろうとしている。
「この辺りでお遊びは終わりにしませんか、お二人とも? クーリャ姫様やダニエラ姫様をお試しになるのは、このくらいで十分でございます」
いつのまにか学院長先生とシルヴァリオ様の間に立ち、2人に苦無型ナイフを突きつけるアデーレさん。
……アデーレさん、かっこいい!
「し、しまったぁ。出遅れてしまったぁ」
わたしの背後でタイミングを逃してしまったマスカーが悔み声を出している。
「と、冗談はこのくらいにしないか、シルヴァ。この凄腕メイドやクーリャちゃん達を敵に回す程、我らは愚かではあるまいて」
「そうだな、エフゲニー。百年ぶりに楽しませてもらったぞ」
急に真顔に戻る学院長先生達。
わたしは、急展開に一切ついて行けていない。
「……冗談は、もう御やめ下さいませ、お二人とも。ただでさえ、先生に対するセクハラでわたくし、学院長先生を今一つ信用できませんですもの」
「すまんのぉ。つい、可愛い女の子を見ると手が出てしまうのじゃ。さて、何故ワシやシルヴァがクーリャちゃんの秘密を知っておるかじゃが、先日ニシャヴァナ男爵殿から文が来ており、ワシは跳躍魔法で直接男爵殿と会ったのじゃ」
学院長先生によると、お父様はわたしからの報告を受けて、なんとしても学院長先生を味方に付けるべく、わたしにはナイショで動いてくれていたらしい。
「最初は『ゲーム』がどうとか異世界がどうとか、信じるのが難しい事ばかりじゃったが、クーリャちゃんが作った数々の物や理論、そして語った言葉を見聞きして、信じるに至ったのじゃ」
学院長先生は、すごく優しい目でわたしを見てくれる。
「今作っておるらしい、空気からパンを生み出すプラントとやら。それが事実なら、今困窮しておる農民たちを救う神の御業。ワシは貧しい農村の出なのじゃ。重税に苦しみ、ひもじい思いをする人は見たくないじゃ。じゃから、ワシは魔法を含む様々な方法を研究し、多くの人々を幸せにする方法を探しておるのじゃ!」
熱弁を始める学院長先生、その言葉には愛と力がこもっており、話している思いが事実であろうと思われた。
「じゃが、技術は魔法も科学も使い方を間違えれば、誰かを傷つけるものとなる。イゴーリの様な悪魔に魂を売るのものもおるのは悲しい事なのじゃ。クーリャちゃん。君は兵器も開発しておると聞く。それは誰に銃口を向けるものじゃ?」
鋭い視線でわたしに問いかける学院長先生。
それに対し、わたしは答えを叫ぶ。
「わたくしが撃つのは人の悪意であり、わたくしやわたくしの大事な人々を傷つける邪悪です。この力はむやみに使うつもりはありませんが、敵対するのなら容赦は致しません。それを行うのにわたくし個人がどう言われようとも構いませんわ!」
「では、己が世間一般でいう正義とは言わぬのか? 言っておる言葉は正義の味方じゃぞ?」
「正義とは人の数だけ存在します。わたくしの『正義』が全ての人々の正義と同じとは思いませんものね。大体、世間で宗教などで正義を謳うのはろくでもない方々が大半ですの」
宗教の名の元でのテロなぞ、バカらしい。
わたしは前世で嫌になるほど、愚かな「正義の戦争」を見聞きした。
「学院長先生。クーリャちゃん、いえ、クーリャ様は、かのように申しておりますが、今回ボク、いえ私の母国を救うために態々御身を危険に晒しております。先日もダニエラ様を救うために自らの命をも囮に使われたのは学院長先生も見られているでしょう。ですので、クーリャ様を危険視なさらないで下さい。この子は、大バカがつくお人好しなんです」
「おい、エフゲニー。今回はお前の負けだよ。エルロンド君、キミには悪意を見る力があるな。そのキミが証明したのだから、絶対大丈夫さ」
エル君がわたしを庇ってくれたのを、シルヴァリオ様は認めてくれた。
……あれ? どうしてエル君の悪意感知能力の事、シルヴァリオ様は知っているのかな? そういえば、どことなくエル君と似ている様な…?
わたし自身、エルフ族の顔を見慣れないので、2人が種族として似ているのか、血縁があって似ているのかは判別できない。
「そうじゃな。度々試してすまぬ、クーリャ殿。ワシ、いや学院は全力をもってキミと学友達を守る。この世界をより良い物に変える為に協力を頼むのじゃ!」
「はい、喜んで!」
こうして、わたしは力強い味方をまた増やしたのだった。
「これで、クーリャ殿は学院での安全も確保できたのじゃ。後は、悪いフラグをどんどん叩きつぶすだけなのじゃ!」
今回で、「ゲーム」では立たなかった良いフラグがクーリャちゃんに立ちました。
しかし、この世界にはクーリャちゃん以外にも「ゲーム」外からの干渉が……。
「ん? それはバカな専務が飛び降り自殺をした際に、カトリーヌ殿が見た流星じゃな。お! そういう事なのかや!!」
まあ、そこはこの先をお楽しみに、チエちゃん。
では、明日の更新をお楽しみに!