第8話(累計・第89話) クーリャ81:わたし、凄い事を思いつく! 世界初の民主制なのぉ!
「では、宜しくお願い致します、イポリトさん。くれぐれも、お気をつけて」
「はい、お任せくださいませ」
「クーリャおねーちゃん、またねぇ!」
朝、当家を離れるイポリトさん親子。
昨晩は当家で晩餐を共にして、ダニエラ、エル君、弟のラマンと一緒にモニカちゃんとは存分に遊ぶことができた。
……妹ってあんな感じなのかな? 弟も可愛いけど、同性の姉妹ってのも良いよね。わたし、妹欲しいなぁ。
今回エルフ大公国に向かうに際し、イポリトさんが今まで聞いてきた情報だけでは、判断に困る部分も多い。
ちょうど行商に西方エルフ大公国へイポリトさんが近日中に向かうという話を昨晩聞き、先行しての情報収集をわたしが頼むとイポリトさんは快諾をしてくれた。
……もしかして、態々次の行商先を大公国にしてくれた……のかなぁ。だったら、悪い事しちゃったかも。
向こうとしては恩返しのついでの商売だろうが、こちらとしては戦乱が起きる可能性がある地に幼子を連れて行ってもらうのは、非常に心苦しい。
ぜひとも、ドワーフ王国での事みたいにはならずに穏便に事態を終わらせたい。
……流石に今回は、公爵様は無関係だよね。公爵領から大公国は遠いし、先日までドワーフ王国で活動していたから、二方面同時作戦する余裕は無いだろうし。
季節は秋の始め。
あと、ひと月程で紅葉が始まり、高山では雪が降りそうな時期。
勝負をかけるなら、真冬になって積雪の中での活動を避ける意味でも、近日中に動くべきだろう。
「お父様、お手紙を大公様にお願いしますの。それとドワーフ王国の王妃様と連絡を取りたいのです」
◆ ◇ ◆ ◇
「ダニエラ。其方はエルロンド殿を母国へ送り、救いたいと申すのですね」
「はい、お母様。この度、男爵様やクーリャ様の協力を得る事になりました。今までエル様に受けた御恩をお返ししたいと思います」
今、ドワーフ王国の王妃様とダニエラが、魔法通信札による遠隔通信をしている。
ダニエラがウチに留学する事になり、手紙以外の連絡方法が欲しいということになり、当方でいつも使っている通信札をワンセットドワーフ王国へ満タン充電、いや充魔力した魔結晶と一緒にプレゼントした。
……たまには親子の会話もしたいだろうしね。
「男爵様、娘がご無理を申しているようで申し訳ありません。本当に鉄砲玉のようにすぐに飛び出す馬鹿娘で……」
「王妃様、それはウチのクーリャも同じですよ。2人突撃娘が揃ったら、こうなるのは仕方ないかと。ですが、今後の事を考えますと西方エルフ大公国の国難は、我々も無関係ではございません。隣国の政情安定化と友好関係は維持したいですし」
王妃様とお父様がため息半分で、わたしとダニエラに文句を言う。
お父様の言ではないけど、わたしもダニエラも突撃暴走タイプ。
その上に大事な友達のエル君が困っているというなら、助けに行くのは当たり前。
『ゲーム』シナリオがどうとかは、ドワーフ王国を救った段階でもう関係ない。
わたしのワガママで泣く人が減るのなら、それで良い。
……当面の不幸フラグ全部叩き追って、安心して開発や勉学に力入れたいもん!
「分かりました。ダニエラは、既にウチのアデーレから十分叱責も受けているでしょうしね。あ、男爵様。クーリャ様の件は、既に了解済みです。こちらは、『勝利の女神様』を悪鬼に売るような事は決して行いませんから」
「バカ娘の事、申し訳ないです。また、落ち着きましたらそちらへの技術供与や貿易を考えますので、宜しくお願い致します」
「それは、当方も助かりますわ。では、男爵様、クーリャ様。ウチの馬鹿娘を宜しくお願い致します」
二人の親が、お互いのバカ娘を可愛く思う会談がにこやかに終わった。
「おかーちゃん、ひっどい事言うのぉ。アタイ、そこまで馬鹿なのかなぁ? 男爵様もクーリャにひどい事言われてませんか? クーリャはとっても賢いのに。ね、クーリャ」
「わたくしの場合は、自分でもしょうがないと思いますの。実際、もっと正体を隠すつもりがあるのかと、後から考えたら恥ずかしい事多いですし」
「確かにクーリャちゃんもダニエラちゃんも賢いのにバカだよね。もっと器用に生きられるのに、自分から苦労買っているんだもん。でもね、そんな2人、ボクは大好きだよ。あ! 痛い。2人で蹴らないでぇ!!」
友達とバカ話が出来る楽しさを実感しながら、わたしは作戦を練る。
「では、お父様。大公様からお返事があり次第、西方エルフ国へと参ります」
「分かったよ、クーリャ。しかし、どうやってエルフ内の不満を打開するのかい? 不満を解消しない限り、また国が分裂するのは避けられまい」
「そこですが、使えそうな知識があります。少し纏めますので、明日の夕食後にでも皆様とご相談したいと思います」
◆ ◇ ◆ ◇
「では、皆様。今回の案件を解決できるかもしれない案をお話します。ただ、これは劇薬。おそらく貴族社会を破壊しかねないものです」
夕食後、いつもの面子で行われる会議。
今回の議案は、西方エルフ大公国での政情不安を改善する方法。
いつまでも上層部が世代交代できない問題点をどう改善するかの方法。
「また今回は大きく出たね、クーリャ。それも前世知識とやらかい?」
「はい、お父様。アタシの世界でも昔はこちらと同じく王や貴族が国を治める王政・人治国家、特定の個人達のみが権力をもって国を運営していました。しかし、数代にわたり王政を続けていれば最初の王が素晴らしい英雄でも暗君が生まれる事もあります」
フランスにしろ、ロシアにしろ、ドイツにしろ。
古代ローマ帝国の流れを組む国家は、王政が長く続き民衆の不満がたまっていった。
そして中世から近世になり、民衆の力が強くなり不満が限界まで来た時に革命が発生し、多くの王は歴史の闇へと消え命を落としたものも多い。
「そうか。暗君が支配すればいつか打倒される。民衆が立ち上がるか、別の英雄が国を興すか。出来れば人死にが起きない方法で改革をしたいものだな」
「あら、お父様は貴族社会が壊れるというのは嫌ではないのですか?」
意外な事に、貴族社会崩壊を気にしていないお父様。
「僕の場合は、下級貴族だけに貴族社会が面倒だからね。普通に暮らしていけるなら、権力振り回すのは嫌いだし」
「確かにお父様の場合は、貴族というより経営者的なお仕事多いですからね」
「クーリャが言う通り、お金儲け関係が多いかな。さて、本題の貴族社会が壊れる案とは一体何なのかい?」
「それは議会制民主政治、選挙なのです!」
「ほう、クーリャ殿は、ゲーム展開を早める気じゃな。ゲームシナリオでは、王政打倒をする主人公が大統領になるのじゃし」
ええ、クーリャちゃんは、そういう方向性でいくつもりですね、チエちゃん。
「しかし、この場合問題になるのが、民衆の識字率なのじゃ。文字が読めねば投票なぞ無理なのじゃ!」
そこをどうするのか。
それは今後をお楽しみに。
「では、読者の方々、ブックマーク頼むのじゃ!」