第7話(累計・第88話) クーリャ80:商取引は大事! わたしは化学知識で新製品を作るの!
「では、イポリトさん。お話宜しくお願い致しますの」
「はい、クーリャ様。お尋ねの西方フレイヤ・ヴァナヘイム大公国ですが、……」
今、謁見用の部屋に、わたしとお父様はルハン商会の代表者、小人族のイポリトさんを呼んでエルフ大公国について話をしてもらっている。
……もちろん給仕役のカティ、警護役のローベルト、マスカーも居るけどね。
大公国内での争いを止めたいというのが、エル君の望み。
しかし、エル君からの話以外は、情報が一向に入ってこない。
排他的では無いが、他種族との付き合いを行わないエルフ族。
国外にいるエルフ族も王都の学院以外には殆ど存在しないために、不明な点が多い。
いくら、わたしが猪突猛進型でも情報も無しに突撃はしない。
……そこで、わたしが新たに作ったコネを使うのね。
わたし達がドワーフ王国へ向かう途上、街道にて野盗達に襲われていたルハン商会の馬車。
命の危機に陥っていたイポリトさん、娘のモニカちゃん、徒弟のセリノさんをわたし達が助けた。
そして馬を失い馬車を破壊されていた彼らの荷を、テストゥード号でドワーフ王国の王都まで送った。
それを恩に思ってくれたイポリトさん、今後わたしの味方になると約束してくれた。
その一環としてドワーフ王国では、ルハン商会は情報取集や変わった物の入手の手伝いをしてくれ、わたし達の勝利に役立った。
……イポリトさん、エルフ大公国や精霊王国とも商取引があるって話だったから、その情報収集の能力で助けてもらうの!
ちょうど当地に商売に来ているということなので、お話を聞きたいとウチに呼んだのだ。
「なるほど。今のところはエルフ達の間では表面的には争いはしていないが、一触即発状態ということだね。ハーフエルフ達の動きも怪しいと。情報ありがとう、イポリト殿」
「いえいえ、マクシミリアン様。私共、クーリャ様にあの時助けて頂けなければ、今この世には居ません。御恩を返す時をいつも待っています。しかし、クーリャ様はいつも私共に、何らかの利を与えて下さりますので、恩返しがなかなかできませんです」
「それは、こちらも同じですの。普通では入手できない情報を毎回頂けるだけでも感謝ですわ。お父様、例の品をルハン商会に卸しても良いですわね」
イポリトさん、いつもわたしに対して困り顔をしているけど、恩返しなら十分にしてもらっている。
毎回、確かな情報が入るだけでも、とても助かっているからだ。
情報こそ力、それに対して正当な代価を支払うのは当たり前。
……お話が終わったら、モニカちゃんと遊ぼうかしら。今晩はウチに逗留してもらう予定だし。
父子家庭なイポリトさん、一人娘のモニカちゃんはいつもお父さんと一緒。
今は、先生とダニエラ、エル君、そして弟のラマンが一緒に遊んでいるはずだ。
「ああ、構わないよ。どうせアレはクーリャが作った物だしね」
「一体何を私共に卸して下さるのでしょうか? 既に高級石鹸や植物紙を卸させて頂いて、非常に助かっていますのに」
「今回も植物紙ではありますが、このように真っ白なのです。カティ、お願いしますわ」
「はい、これですぅ」
カティは、重そうに抱えていた植物紙の束をイポリトさんに渡す。
「こ、これは! 一体どのような方法でこのような真っ白で綺麗な植物紙を作られたのですか?」
「製法に関しましては、もう少し当領の秘密にさせて頂きますの。その代わり、販売はルハン商会が主で行うということで、宜しいでしょうか?」
「そうですよね。特産品の秘密は大事です。当方で販売させて頂けるだけで、とてもありがたいです」
「実は、製法が当方でしか出来ない部分があり、更に少々危険なのです。もう少し世の中が進歩しましたら、ゼラチンの様にパテントを売るかもしれませんが……」
今回、真っ白な紙を作るのに使ったのが、苛性ソーダと次亜塩、つまり水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムだ。
共に食塩水を電気分解することで生成させた。
……電気分解なんて、この世界じゃわたし以外は誰もやっていないものね。
水力発電所からの電気を使い、わたしは電気分解を行った。
そして入手した水酸化ナトリウム溶液を、今までの植物灰汁の代わりとして、パルプ作成や石鹸の鹼化に用いた。
また、出来上がったパルプの脱色に次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて、塩素漂白をした。
……今のところ、薬品製造・火薬製造も順調。このまま科学チートで勝利するの!
「クーリャ様に教えて頂きましたゼラチン、各所で好評であります。王侯貴族の方々が競って買いにきます。誠にありがとうございました」
「それは良かったですの。美味しいものは世界に広めたいですものね」
軍事技術や科学技術は、ひとつ間違えれば大量虐殺兵器となる。
例えば今回作った次亜塩素酸ナトリウムも、酸と一緒になれば塩素ガスを出す。
塩素ガスは、「アタシ」世界の第一次世界大戦で始めて使われた毒ガス。
ドワーフ王国の城塞内で塩素ガスを流せば、確実に全員を殺せるだろう。
なので、迂闊には表に出せない。
しかし食事に係わるものであれば、皆を喜ばすものとなる。
……美味しいは正義なの! 皆で美味しいごはん一緒に食べたら幸せになれるよね。
「情報収集をしつつ、商取引を行うのじゃな。クーリャ殿は、実に多才なのじゃ」
戦場での前線指揮の才能は無い上に戦闘力も低いですが、作戦立案、後方支援とか兵器開発、商取引とかを得意とするのがクーリャちゃん。
自分の不得意分野は鍛えて、得意分野をとことん伸ばすのが勝利への道ですね。
「少女、それも貴族令嬢が無理に前線で戦う必要なぞ無いのじゃ! じゃが、降りかかる火の粉は払う必要があるし、知ってしまった悲劇を無視出来るほど薄情で居れぬのがクーリャ殿の美点であり弱点なのじゃ。ワシは、クーリャ殿が大好きなのじゃがな」
ありがとうね、チエちゃん。
作者も、私の作品に出てくる全ての子たちが大好きです。
もちろん、チエちゃんは大好きですよ。
「作者殿、ありがとうなのじゃ! では、明日の更新を楽しみにしておるのじゃ。読者の皆はブックマークに評価なぞして待っておるのじゃ!」