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第40話(累計・第79話) クーリャ72:決着! わたし、ゴーレムを倒すの!

 ギギギと異音をさせて動く半壊状態のゴーレム。

 顔を持ち上げて、視線をわたしの幻影から城塞の上部を向けた。


「あ! 皆様、急いで攻撃を。ゴーレムは最後に熱線分解魔法(ディスインテグレート)でお城を撃つつもりです!」


 わたしの指示で、周囲に待機していた兵士からクロスボウやマッチロック(火縄)式マスケット銃がゴーレムに撃たれる。

 また、騎士からは投げ槍が放たれる。

 しかし、一向に打開策にはならない。

 ゴーレムの稼働は止まらず、単眼の輝きがますます激しくなる。


 ……不味いのぉ。最後に自爆覚悟でお城を壊す気なのぉ。もう一回城塞砲を使うのは不可能。もう手が……。


「クーリャ殿、ここまでご苦労。これ以降は王族たる俺が行くぞ。ダニエラ、後を頼む。うぉぉぉ!」


 背伸びして、太い指先でわたしとダニエラの頭を撫でてくれたルイポルト殿下。

 兜の面貌を下げて、わたしが作ったHEATハンマーを片手に飛び出していった。


「おにーちゃん!」


 わたしの背後でダニエラが悲痛に叫ぶ。


「お前ら、牽制を頼む!」


「殿下。はい! お前ら行くぞぉ!」


 騎士たちは徒歩ながら馬上槍(ランス)を抱えて、ゴーレムの左右から魔法加速して音速突撃をしていく。

 そして殿下も、ものすごいスピードで走る。


 ……殿下やドワーフ騎士達って身体強化魔法使っているんだ。そうじゃないと、脚が短いドワーフ族ではあのスピード出せないわ。まあ、脚が短いから馬とかには乗りづらいですものね。


 ドスドスとミスリルの身体に突き刺さる馬上槍。

 「焼きなまし」の効果があったのか、柔らかくなっているので、砲撃や馬上槍も攻撃が通る。


「いけぇ!」


 ルイポルト殿下が今にもビームを撃ちそうなゴーレムの胸元に潜り込み、右手に持ったHEATハンマーを胸にあるゴーレムのコア、「emeth」と書かれた部分へ振り下ろす。


 かちん。


 引き金が引かれて火花が飛ぶ。

 しかし、HEATハンマーは爆発しない。


 ……しまったのぉ! 不発なのぉ!! やっぱりテストはしなきゃなのぉぉ!


「くそぉ。なれば、<火球(ファイアー・ボール)>!」


 ルイポルト殿下は、左手に火球を魔法で生成し、それをHEATハンマーに叩きつける。


 どかん!!


 爆発音が響き、ゴーレムの胸はボッコリとへこむ。

 そして、殿下は爆発の反動で吹き飛ばされた。

 爆発とほぼ同時に放たれた熱線分解魔法の光は、爆発でゴーレムが仰け反る事で城塞の上部をかすめて空中へ消えた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ちきしょう。今の爆発は、ただの火球じゃないだろ。せっかくの魔法が外れたじゃねぇかぁ。こいつだけは許さん! そこのドワーフを握りつぶせ! こいつくらい道連れだぁ」


「御意!」


 全てを妨害されたアントニー。

 もはや一人でも殺さねば気が済まない。

 それも残酷な方法で。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ぐ、ぐぅぅぅ!」


 ルイポルト殿下がゴーレムの残った左腕に握られている。

 そして、その握力で握りつぶされようとしていた。


「ルイポルト様ぁ!」

「殿下ぁ!」


 騎士達は斧を、殿下を握りつぶそうとしているゴーレムの左腕に叩きつける。

 他の兵士たちも槍や剣をゴーレムに叩きつけるも、効果が薄い。


「マスカー!」


「御意!」


 わたしの命令でマスカーが飛び出し、魔力強化した膂力(りょりょく)でゴーレム腕部の関節部を狙う。

 しかし、かちんと日本刀は弾かれる。


「ぐ、お、お前ら早く逃げろぉ」


 面貌が吹き飛んで見える殿下の口元から血が垂れる。


 ……このままじゃ、殿下が。ダニエラのお兄ちゃんが死んじゃう。ど、どうしよう。どうしよう。


 わたしは、予想外の展開でオタオタして何も思いつけない。

 思わずゴーレムの前に顔をだしてしまうのだけれども、大事な人達が死にそうになっているのに何も思いつかない。

 死にそうになっている殿下を目の前にして、何も出来なかった。


「クーリャ、お兄ちゃんが使ったハンマー。もう一個ない?」


「あ、そういえばもう一個予備があったの。ゲッツ!」


「お、おう。これが……! お、ダニエラ様!!」


 わたしの後からゴーレムを見る為に出てきたダニエラ。

 ダニエラは、わたしにHEATハンマーの予備がないか聞き、ゲッツが取り出したのを掴んで、戦場に飛び出した。


「お、おにーちゃんを離せ、この化け物ぉ!」


 疾走するダニエラの周囲に深紅の魔力が漂う。


 ……あ、あれは<バーニングフィスト>なのぉ!


「こんにゃろぉぉ! いけぇぇぇ!」


 深紅の魔力、燃え盛る炎を身体に纏ったダニエラは、殿下を握るゴーレムの左腕に飛び掛かり、上からハンマーを叩きつけた。


 がぎぃぃ!


 トリガーが引かれると同時に、ハンマー周囲に漂う炎がHEATハンマーの中の火薬に着火。

 轟音と共に音速の数倍速度で飛び出した銅が金属流体となってミスリルゴーレムの左腕を真っ二つに粉砕した。


「ひやぁぁぁぁ!!」


 爆発の反動で空に舞い上がるダニエラ。

 火の粉をまき散らして飛ぶさまは、綺麗だ。


「マスカー! ダニエラをキャッチして! 先生、風魔法で落下速度を調整!」


「御意!!」

「はい!」


 わたしの意図を察してくれたマスカーは、刀を素早く鞘に入れて、ダニエラの着地地点まで素早く走る。

 また、先生もダニエラの周囲に風の壁を作ってくれて、落下速度がゆっくりになる。


「きゅぅぅ」


 爆発音で眼を回したダニエラ。

 無事にマスカーがキャッチをしてくれた。


「ふぅ。うちのクーリャ姫様も命知らずですが、ダニエラ姫様も無茶しすぎですね」


 無事ダニエラをキャッチしてくれたマスカー。

 ダニエラの顔を見て、思わず愚痴る。


 ……ごめんね、マスカー。わたし達、突撃姫様コンビで。


「う、ううう。だ、ダニエラは大丈夫か?」


 ミスリルゴーレムに握りつぶされそうになっていたルイポルト殿下。

 ダニエラの攻撃でゴーレムの握りが緩み、無事に解放されたが、最初の言葉は妹の安否確認。


「ルイポルト殿下、ダニエラ様は無事ですの。ウチのマスカーがちゃんとキャッチしました」


「そ、そうか。良かった」


 妹の安否が確認できたので安心したのか、気絶するルイポルト殿下。


「早く治癒魔法が使える方、衛生兵の方々お願いしますの。あ、ゴーレムは?」


 わたしは、衛生兵を呼んだ後、ゴーレムを見た。


 ぎ、ぎ。


 もはや両腕を失い、胸部は大きく穴が開き、頭部も熱線の反動で焼け焦げ、脚部も使えないゴーレム。

 わたしは、周囲が止めるもゴーレムへと歩み寄る。

 そしてその単眼を覗き込み、宣言する。


「これ以上、わたくしの大事な人々に手を出すのは許しません! 次にわたくしの前で誰かを傷つけるつもりなら、わたくしが、『爆裂令嬢(ボンバーガール)』が直接貴方を倒します!」


 その宣言を聞いたのか、私の宣言直後に単眼から赤い光が消えた。

 そしてゴーレムは、ようやく動きを止めた。


「はぁぁ。勝ったのぉ!」


 わたしは緊張の糸が切れて、ばたんと倒れる。

 そして天を仰いで、思う。


 ……今回は、なんとか被害を抑えられたけど、それでも街は焼け、沢山の人々が傷ついたの。もう、二度とこんなのは見たくないの。帰ったら、早速軍拡なの! どんな相手でも勝てる軍備と科学技術立国を目指すのぉ!


「やっとゴーレムを倒せたのじゃ。ミスリル製ともあれば、強度もケタ違いじゃったのじゃ。しかし、次は手の内もバレてこうもは行かぬ。どうするのじゃな、クーリャ殿は?」


 そこは、クーリャちゃんの今後の課題ですね。

 大口径砲撃が効かないということも無いですから、確実に当てられる砲撃。

 そしてHEAT等の高性能砲弾の開発、ライフリングの製作。


「まずは、アンモニアの合成からじゃな。ハーバー・ボッシュ法で沢山作って肥料ともども沢山火薬も作るのじゃ!」


 肥料にも使う硝酸アンモニウムと油があればANFO爆薬も作れますしね。

 硝酸アンモニウムの爆発は、ドイツ1921年のオッパウ大爆発や、つい先日2020年レバノン・ベイルートでの爆発が有名です。


「ベイルートの爆発は、ネット上の動画で衝撃波が広がるのを見たのじゃ。量があれば怖いのじゃ!」


 「君の名は。」で変電所を吹っ飛ばしたのは、水を含ませた含水爆弾で、成分は硝酸アンモニウムとアルミ粉末でしたね。


「爆弾の世界は化学なのじゃ!」


 ということで、皆様は危ない事はしないでね。

 では、明日の更新をお楽しみに!


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