第37話(累計・第76話) クーリャ69:罠に嵌めるわたし。しかし手ごわいゴーレム!
「ど、どうして俺はアイツを、あのちびメスガキを殺せないんだぁ!」
馬車の中で少年が吠える。
「わ、私には分かりません。チャージ出来次第、熱線分解魔法を再発射致します」
水晶玉の向こう側では、馬が居ない妙な「馬車」がくねくねと大通りを走り回っている。
そして馬車の周囲には、何台もの馬車が見える。
「これは幻影魔法か? ちきしょお、どこまで俺を、公爵家を馬鹿にしたら気が済むんだ、ちびメスガキ共がぁ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
ゴーレムは、どこかの工房らしい場所に入る。
先ほど、工房に「馬車」が入るのを確認はしている。
ターゲットの少女も、馬車から降りている姿も見た。
「どうして、このような場所に逃げ込んだ? ここから城は近いのに?」
アントニーは、見慣れない工房の中の映像を水晶玉越しに見る。
ターゲットの少女、クーリャは自分たちをここまで案内してきた。
おそらく罠では無いかと思われるが、こちらは無敵のミスリルゴーレム。
更には、遠距離攻撃用に分解魔法すら撃てる。
絶対に負けは無いと、アントニーは信じていた。
「お! 見つけたぞ、クーリャ!!」
水晶球に、生意気そうな少女が映った。
彼女は、周囲よりも少し高くなった場所の真ん中に立っていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「聞こえているかしら、アントニー? わたくしを殺すために、こんな事まで仕出かすなんて。わたくし、貴方のその捻くれた根性をたたき直しますわ!」
わたしは、ゴーレムの前に立って大声で挑発する。
……もちろんゴーレムの前の『わたし』は、幻影だけどね。
わたしの姿に反応したのか、一つ目のゴーレムの目が光り、わたしの幻影を穿った。
……やったの! これでしばらくはビームが飛んでこないわ!
「あら、そんな攻撃でわたくしを殺せるとでもお思いでしょうか、アントニー? さあ、わたくしを殴りにでも踏みつぶしにでも来なさい!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ち、ちきしょぉ! お前が言う様に踏みつぶしてやる!」
アントニーは、映像から聞こえもしないクーリャの声を感じ、老側仕えに命じてゴーレムを前に進めさせた。
「死ねぇ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「残念、ちぇっくめいと!」
わたしは使いたかったセリフ、その4を言う。
ちなみに、その3が「こんなこともあろうかと」
最近は使うタイミングがありそうで、なかったり。
確実に使いこなしたい言葉だ。
ゴーレムは高台に上るように大きく脚を前に持ち上げ、そして幻影のわたしを踏みつぶす様に強く踏み出した。
がたん!
しかしゴーレムの脚は、わたしの幻影ごと床の鉄板を踏み抜いた。
そして、そのまま転げて身体全体が床をぶち抜いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「い、一体何がぁぁ! くそぉ、早く立ち上がらせろ」
「はい、え! た、立ち上がれない。どうしてぇ!」
アントニーと老側仕えが馬車の中で叫ぶ。
水晶球は、眩しい光で満たされている。
そしてゴーレムはバタバタとするも、粘り気が強い赤白く輝く「何か」がまとりつき、立ち上がることが出来なかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「まんまと罠にハマったのね、アントニー。無敵だからと油断しすぎなの。ゴーレム自体は無敵でも、それを操る者が愚かでは戦力は半減。そして足元がおろそかになってますわよ」
わたしは、誰に問うまでもなく呟く。
「へぇ。自分を囮にして落とし穴にした溶鉱炉に落とすなんてすっごいね、クーリャは。『大男総身に知恵が回りかね』だったっけ?」
「本当にクーリャちゃんは、一体何者なのかい? 知識にしろ度胸にしろ普通じゃないよ。あ、痛い! ダニエラちゃん蹴らないでよぉ」
わたしの後ろに居たダニエラとエル君が、わたしの呟きを聞いたようだ。
……ダニエラ。その諺は微妙に違うかも。確かにアントニーは馬鹿だけど。
「ダニエラ、それにエル君。まだ油断はできませんの。このまま止めが刺せたらいいのですが、熱すぎてこちらも手出しできませんし……」
転換炉の上に薄い鉄板を置いて、そこを落とし穴にしていた。
そして先生が作った幻影を転換炉の上に置いて罠とした。
ゴーレムは罠にハマり、落とし穴、溶けた鉄の沼に落ちた。
……マスカーからの情報では、ゴーレムは映像と機体状況だけしか操作者に送られていないらしいの。音声も周囲温度にも気が付かないから、罠に引っかかったのね。
バタバタと溶けた鉄の沼の中で暴れるゴーレム。
足場が不安定な上に、溶けた鉄が粘り機体にこびりつくので立ち上がれないし、ビームもしばらくは撃てない。
よく見れば銀色の機体は徐々に赤くなっており、蒸気が立ち始めている。
「クーリャ殿。まだか? 俺はいつでもいけるぞ!」
「殿下、落ち着いて下さい。このままでもゴーレムは壊れますから」
ルイポルト様が今にも飛び出しそうにしているのを、周囲の騎士達やゴットホルトさんが止めようとしている。
「クーリャ姫様、ちと雲行きが怪しいぞ!」
そんな時、ゲッツが叫ぶ。
ゴーレムが転換炉の縁にしがみつくのが、わたしからも見えた。
おそらく、もう少しで立ち上がって更にわたしを襲うだろう。
「あら、まだ動きますか。では、皆様、第三段階です。各自、早急に次の場所へ!」
「了解!」
わたし達は、工房から撤退を始めた。
「ゴーレムを加熱させるのには成功したのじゃな。あの様子では、たとえ落とし穴から這い出られてても、熱による変形とこびりついた鉄が関節部に詰まって、運動性が失われておるのじゃ。後は、ビーム攻撃さえ封じれば、勝ちなのじゃ!」
ええ、このままチート知識による策で押しつぶすのがクーリャちゃんなのです、チエちゃん。
「では、次の話を楽しみにしておるのじゃ! 皆の衆はブックマークを頼むのじゃ!」