第34話(累計・第73話) クーリャ66:作戦を練るわたし。無関係な人々を傷つけるのは絶対に許さないの!
「ダニエラ、それで上手くいきますの?」
「うん、お母ちゃん! いえ、王妃様。クーリャ様のお考えでは、ゴーレムを溶鉱炉へと落としてしまえば、倒せるとの事です」
ダニエラが王妃様に、意見具申をしている。
王妃様の周囲には、王子や騎士や側近たちも多く詰めているので、母親としてではなく指揮系統最高責任者に対してダニエラは話す。
……ふーん、ダニエラもちゃんと所作出来ているじゃないの。
わたしは、自分を高い棚の上に上げておいて、真剣に王妃様を説得しているダニエラを感心しながら見た。
「そうですか。クーリャ様がおっしゃるのなら、勝算もあるのでしょう。では、作戦を承認致しますわ。皆様をこちらに呼んでくださいませ。詳しい作戦を聞きます」
「はい、王妃様! ありがとう、お母ちゃん。クーリャ、こっち来て!」
「うん、いくよー! さあ、皆様。ここからが勝負だよ!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の作戦ですが、ゴーレムをゴットホルトさんの工房にある転換炉に叩き落とします。さしものミスリルゴーレムであろうとも、溶鉱炉に落ちたらタダではすみませんでしょう。この作戦の問題点は2つ。一つはゴットホルトさんの工房が間違いなく破壊されること。これに関しましては王妃様から事態終了後に工房再建の資金援助をお約束願えましたので問題は無くなりました」
わたしは、王妃様、第一王子、第二王子様、そして多くの騎士や側近達に囲まれて作戦の説明をしている。
……わたしは、数日前に城内無血制圧やっちゃったから、ある意味信用度上がっちゃったのかもね。普通、他所の国の11歳の女の子のアイデアなんて採用するはずないもん。ただ、後から追及が怖いかも……。
ますます自分が「タダモノ」じゃないのを宣伝している気がするけれども、今はドワーフ王国の人々の命が大事。
ここはチート知識で、アントニーをぎゃふんと言わせたい。
「残る問題ですが、どうやってゴーレムを工房へ誘導するかです。前線でゴーレムと戦った方からの情報はありますか?」
「先ほどまでの報告では、遠距離攻撃を幾度も行うと単眼から熱線分解魔法を撃ってきます。幸い連打は出来ませんので、初回以外は被害はありません。後、攻撃をしない相手は無視して基本的には北西の方角に進んでいます」
騎士団長らしい髭のナイスミドルなオジサマが説明してくれた内容では、ゴーレムは目的地もしくは目的者を設定されているらしく、それ以外は基本的に自己防衛に専念しているようだ。
……初回は喰らったということは、誰か死体まで残らない亡くなり方をしたのね。仇は必ず討ちますわ。さて、商業地域から北西ということは……。
「でしたら、ゴーレムにはターゲットが設定されていて、そのターゲットはココ、もしくはココにいる誰かですわね。商業地域から北西となりますと、この城が該当しますの」
「クーリャ様、貴方様はターゲットとやらに心当たりがあるのではないですか?」
わたしの説明に、敵の予想がついている王妃様が尋ねる。
「ええ、王妃様。おそらく王妃様をはじめとする王族、そして……」
「クーリャ様ですね」
「はい、王妃様。『あの方』の事ですから、わたくしの可能性が一番高いですね」
……アントニーの事だから、第一目標がわたし、次にわたしの側にいる可能性が高い王族の方々でしょうね。まったくハタ迷惑なの!
「なので、最終的にはわたくしが囮になります。もちろん絶対大丈夫なように準備はしますが。それまでは散発的に攻撃をして頂き、ゴーレムの足止め及び誘導を騎士団や兵士の方々にお願いする事になります。皆様に死地に赴くのをお願いするのは、とても心苦しいのですが……」
「何を言う、クーリャ殿。我らでは倒し方すら想像できなかった。なのに、其方は幼子の身で王やダニエラ、そして我らを救うだけでなく、今回の策を授けてくれた上に囮になると言う。なれば、その恩義に報いるのがドワーフの、戦士の心意気よ。母上、我はクーリャ殿の支援に参りたいと思います」
なんと、無口で陰気ぽかった第二王子、ルイトポルト様がわたしと共に戦うと力強く言ってくれる。
「ルイポルトよ。私は、ここで母の補佐をして最終的には父や妹たちを守らねばならぬ。戦場でクーリャ殿を守るのはお前に頼む」
「おう、アニキ! いえ、第一王子様」
第一王子様、ジキスムント様は弟君ルイポルト様と熱い握手をしている。
……2人とも、とってもかっこいいの!
「兄上、クーリャの側でアタイ、いえ、わたくしも戦いたいと思います。わたくしもクーリャ様には恩義がありますし、大事な友人です。何ができるかは不明ですが、お役に立ちたいのです!」
「あ! ダニエラちゃん、ボクもダニエラちゃんやクーリャちゃんと一緒に行くよ。ダメだといっても無駄だからね。その代わり生きて帰ったら、二人をハグさせてね……あ、痛い、蹴らないでぇ二人ともぉ!」
……どさくさに紛れて何言ってんの、エル君ってば。このスケベ!
わたしが囮になると言うと、多くの人が一緒に来てくれると言う。
背後を見れば、先生やマスカー、ゲッツ、ゴットハルトさんにカティ。
全員がしょうがないって顔で、わたしの顔を見てくれる。
……お母様が、マスカー、いえヴァルラムを仕官させる時に言ったのは、こういう意味だったのね。
指揮官は、可愛い部下であろうとも優秀であればあるほど、殿や囮に使うべく「死地へ向かう」命令を出さねばならない場合がある。
今回、王妃様からすれば騎士団や兵士達は可愛い部下。
それを「死んで来い」に近い戦場へ送って時間稼ぎをしている。
そしてわたしが、自分の身を囮に使うというと、必ず誰かが一緒に来る。
多分わたしが嫌だ、ダメだと言っても。
……こうなったら、絶対に勝って、全員で喜ぶの。これ以上、誰も死なせないの!
「分かりましたの。わたくし、必ず勝利を皆さまに捧げますし、誰も死なせませんわ!」
わたしは、貴族令嬢らしくは無いけど、気合を入れる為に頬を両手でパンと叩く。
そして、王妃様が頷くのを見て、全員に命令を出した。
「王妃様、先ほど言いましたように、騎士団や兵士の方々には誘導をお願いします。くれぐれも無茶はせずに、お命をお大事に。ゲッツ、先ほどお話してましたが試作品のアレを使います。カティ、エル君と一緒にテストゥード号の発進準備共々お願いします。先生とダニエラ、ゴットホルトさんは、残りの兵士や騎士の方々と先に工房へ行って溶鉱炉の準備をお願いしますの」
そしてわたしは、ルイポルト様とマスカーの方へ向く。
「ルイポルト殿下とマスカーは、わたくしと共にテストゥード号で攻めに行きます。ある程度誘導してもらったゴーレムの最終誘導及びトドメをお願い致します」
全員がうなづくを見て、わたしは宣言する。
「絶対にわたくし、爆裂令嬢がドワーフ王国の勝利の女神になります!」
「クーリャ殿が攻めに行くのじゃ! しかし、ゲッツ殿が準備するものが気になるのじゃ。どうやら、あらかじめ作っていた試作品らしいのじゃが?」
うふふ、チエちゃん。
そこは明日以降のお話をお楽しみに!
「さて、対ミスリルゴーレム戦、楽しみにしておくのじゃ。クーリャ殿、がんばれー!!」
では、明日の正午をお楽しみに!