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第24話(累計・第63話) クーリャ56:逆恨みの薬師、彼の毒刃がわたしに迫る!

 ドワーフ王の寝室に突如現れた古めかしいドア(転送門)

 ドアがきいぃと軋む音を立てて開き、そこから眩しい光が薄暗い部屋に溢れる。

 そして逆光の中、いかにもな老魔導士が現れた。


「バージョヴァ君、久しぶりだね。今回はイベントに呼んでくれてありがとう。おかげで、この問題児を処分できるよ」


 真っ白なローブ、そして白い三角帽、ねじれた古木を使った魔法杖(スタッフ)、ちいさな眼鏡に真っ白な髪と顎髭。

 お伽話の中の魔法使い、そのままという風貌の老人。

 彼が国立魔法学院の学院長、エフフゲニー・ボトキン。


 ……思い出したの。カトリーヌ様の最強の守護者。全ての魔法を上級まで極め、更に上の魔法をも使うという世界最強の魔法使い。


「ぼ、ボトキン! オマエまで私の才能に逆恨みをして邪魔に来たのか!」


「まだ悪あがきをするか、ヴォロビエフよ。王様、王妃様。事前通告もなく、寝室に直接転移などと無礼な事をして申し訳ありません。しかし、このままコヤツの悪行を放置は出来ません」


 先生達に向けていた好々爺の表情を、イゴーリに顔を向けた瞬間に全く別の、憐れむような表情へと変えるボトキン学院長。


「お、オマエは私が何をしていたのか知っているのか? 私は薬を、不老長寿の妙薬を処方していただけだ!」


「あら、本気でそんな事を言うのかしら。もう気が付いていたのでしょ? だから、水銀を毒として使ったと。確かに古代は『奇跡の水』やら『賢者の石』とも、その金をも溶かす力から言われていましたの。でも、水銀は重金属。身体にはとても悪いものです。それすら知らずに本当に秘薬として使っていたと言うのなら、とても愚かですわ」


 まだ自分は毒を盛っていないと言い張るイゴーリに、わたしは最後通告をする。


「そ、そんな訳あるか! 俺は王国最高の薬師だぞ! 毒か、そうでないかくらい知っている! 水銀が、不老長寿の妙薬でないくらいはな! しかし、どうしてオマエのような小娘がそんな高度な科学知識を……。そ、そうか! オマエが、いつも『あのお方』の邪魔をする男爵のところのクーリャか!」


「あら、自白しましたわ。王様、この方は『とある方』の配下、王様を害する事でこの国を乱す目論見でしたの!」


 イゴーリは、まんまとわたしの舌戦に誘導されて自らが公爵に雇われていたことを白状する。


 ……案外と舌戦に弱いのね。それじゃ、学会での論文発表時に言い負けちゃうわよ!


「ほう! ワシが何も言わずとも、この賢いお嬢ちゃんが決めてくれたか。バージョヴァ君が褒めるのも分かるよ。さあ、ヴォロビエフ。観念せよ!」


 わたしの頭を優しく撫でてくれた学院長は、その手に持った杖をイゴーリへと向けた。


「ち、ちきしょー!」


 大きな声で喚いたイゴーリ、急に第一王女マルゴット様に飛び掛かったかと思うと、背後から彼女を羽交い絞めにし、王女様の首筋に細い針のような短剣を向ける。


「そ、その短剣は!」


 先生が叫ぶ。

 そう、その短剣は去年わたし達を殺そうとした司祭アフクセンチーが使っていたものと同じ、黒い粘液で覆われているのも同じだ。


「ああ、そうか。あのクズ司祭がオマエ達を殺すのに失敗していたな。そうさ、司祭が使った毒は俺が処方したものさ。これを作るのにケモノを100匹は使ったな。すぐに死ぬように調整するのは大変だったよ。さあ、王や王妃、そこの王子共。この女が大事なら、俺をここから逃がすんだな。これは、かすり傷でも死ぬぞ! 俺が安全な場所まで逃げられたら、この女を開放してやる!」


 凶悪に歪んだ笑顔のイゴーリ。

 その醜悪さに、わたしは胸がムカムカした。


「このような下劣で醜悪なもの、わたくしの目の前から早く永遠に消えなさい! 逃げるとは、わたくしが怖いのですか? この小さな女の子が? 恥ずかしい男だこと。女性を人質にせねば、対等にわたくしと話せないとは……。はぁ、嘆かわしいし、愚かね」


「な、なんだぁ! オマエはこれが見えないのか! 一刺しでこのドワーフが死ぬぞ!」


「あら、恥ずかしい事。はっきり言いますわ。正直、わたくしはダニエラと王様以外にはどうなっても知りませんの。貴方の様な邪悪なものが同じ空気を吸っていると思えば、気持ちも悪くなりますわ!」


 わたしは、一歩大きく前に進みイゴーリを挑発する。

 その様子にマスカー、ゲッツ、先生にカティは一瞬わたしを止めようとするけど、わたしが一瞥すると頷いてくれた。


 ……皆、ありがとうなの! ここで、こいつを倒すの!


「クーリャ! お姉ちゃんを助けてよぉ……」


 ダニエラはわたしの袖を掴み、必死に姉の助命を歎願(たんがん)する。


「ダニエラ。わたくしに全て任せて下さいませ」


「ダニエラちゃん、クーリャちゃんは考えがあって動いているよ。今はクーリャちゃんを信じるんだ」


 今にも泣きそうなダニエラを後ろからそっと抱き、頭を撫でるエル君。


「エル……」


 そして、ダニエラはわたしの袖を離してくれた。


「クーリャ、頼むね」


「ええ、お任せ下さいませ」


 わたしは、イゴーリから眼を放さず、後ろのダニエラに答えた。


 ……エル君、ナイスフォローなの!


「く! お、オマエは怖くないのか? 俺はオマエのようなチビガキを一瞬で殺せるぞ?」


「あら? その割には大汗かいてお困りですのね。やはり、わたくしが怖いのかしら?」


 わたしは、ゆっくり足先の力だけでジリジリと前に進む。

 そして、王女様を抱えながらも大きく震えるイゴーリへ間合いを詰める。

 背後の仲間達も同じようにして付いてきているのを感じながら。


 ……怖いよぉ。でも、ここでわたしが頑張らなきゃ、誰も救えないの! 今が勝負なの!!

「クーリャ殿、無茶をするのじゃ! 確かにクーリャ殿に犯人の視線を集めれば、おのずと死角も増えるのじゃがな」


 自己犠牲の精神は無いのですが、自らの身を囮にするくらいはクーリャちゃん、根性が座ってます。

 今回は、あまりに邪悪な、更に公爵配下というクーリャちゃん関係の相手なので、自らの手で方を付けたい訳です。


「公爵の手の者なら、間接的にクーリャ殿に負けたのが影響して事態が早くなっておるからのぉ。じゃが、おかげで救える人も増えておるのじゃ! ここが踏ん張りどころなのじゃ!」


 そういう事ですね、チエちゃん。


「しかし、クーリャ殿もやっぱり女の子じゃ。男が女性と口喧嘩して勝てる筈もないのじゃ。更に学院長まで来たら、プレッシャーであらぬことまでしゃべってしもうたのじゃ。馬鹿なのじゃ!」


 人種差別して人体実験するような愚か者が、馬鹿じゃない訳ないでしょ。

 こういう奴は、さっさと排除です。


「ということで、頑張るクーリャ殿の活躍を楽しみにするのじゃ! では、明日なのじゃ!!」


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