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第22話(累計・第61話) クーリャ54:化学実験で毒を示すわたし! 敵を追い詰めるの!

 暗闇の中、獣脂ランプの明かりが寝室を照らす。


「王様、これをお飲みくださいませ」


「うむ」


 フードを深く被る只人(ヒト)族の薬師(くすし)から渡された薬湯を飲むドワーフ王ダイン。

 その様子を娘、第一王女マルゴットが見ている。


「ぐふ、ごほ」


 薬湯を飲み込み切れずにせき込むドワーフ王、急いでその背をさする娘。


「父上、ゆっくりお飲みください。この薬が効けば、必ず良くなりますから」


「ああ。ありがとう、マルゴット」


 ドワーフ王が倒れて半年、かつての筋肉隆々の身体はやせ衰え、今では白い髭もあって、まるで死の床に付く老人の様。

 どんどん衰え小さくなっていく父の背中をさする第一王女の眼には、涙が浮かぶ。


 ……高い金を支払って隣国随一の薬師を呼んだのに、どうして父上のお身体は治らないの?


 ロマノヴィッチ王国の有力貴族から聞いた噂、なんでも治してしまう凄腕の薬師が王都に居ると聞き、マルゴットは高額を支払いその薬師、イゴーリを雇い入れた。

 イゴーリの薬を飲んだ王は、一時持ち直し公務にも戻ることができた。


 しかし、ひと月もしないうちに再び王は倒れ、今や死の淵に佇んでいる状態だ。

 ドワーフ王国内の医師は全員匙を投げ、治癒・解毒魔法術士達も対象術式を見つけることができなかった。


「お、お父様……」


 マルゴットは小さくなった父を抱き、大きな涙をこぼした。


「あと、もう少し。ぐふふ……」


 父娘の抱擁を横目で見ながら、ほくそ笑む薬師イゴーリ。

 キリキア公爵の依頼、王の毒殺が叶えば、王立学院の学院長へと推薦してくれるという話を聞き、目立ちにくい水銀を使った毒殺を狙う。


 ……これで、学院から俺を追い出したボトキンを追い落としてやる。どうして亜人による実験を認めてくれぬのか! 亜人なぞただの獣、高貴たるヒトにはあらず!


 公爵と同じく、ヒトこそが唯一の知的生命体、他はヒトの似姿をしている獣だという、ヒト至上主義なイゴーリだった。


 ……ん? 外が騒がしいな?


 そんな時、王の寝室ドアの向こう側で人が言い争う声が聞こえたと思うと、バーンとドアが蹴破られた。


「イゴーリ! 貴方の犯行現場を見つけましたの。さあ、オマエの罪を数えろなのです!」


 ドアの向こう、逆光の中で身長130センチ少しくらいの少女が、大きな声を上げた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「さあ、オマエの罪を数えろなのです!」


 わたしは、言いたかったセリフ、その2を叫ぶ。

 因みに、その1は「予の顔を見忘れたか!?」


 まだ知名度が低いわたしには使えない、高度なセリフだ。


 ……特撮とか、時代劇の決めセリフは、こういう時に使いたいのぉ! フィリップ君ってあの頃は、可愛かったよね。配信で何回も見たの。


「い、一体何を言っている?」


「ク、クーリャ様。どうして、ここに?」


 突然の訪問で困惑している薬師に第一王女様。


 ……このイゴーリって薬師、不健康そうな顔しているの。でも、どっかで見たような気が?


 暗い室内なのにフードを深く被り、目の下にクマ、頬がこけた中年男が薬師らしい。


「お、お父ちゃん!」


 そんな中、大声で叫ぶダニエラ。


「ダ、ダニエラかい?」


 小さな声で、しかし愛情を感じさせる声で話す王様。


「どうして蟄居(ちっきょ)中のダニエラが、ここに来ているのですか? それにクーリャ様も。今は王の治療中、余人の入室は困ります!」


「だって、このままじゃお父ちゃん死んじゃうもん! アタイ、クーリャに頼んで連れてきてもらったの。お父ちゃん、お姉ちゃん、アタイやクーリャの話を聞いて! そこのヤツは、お父ちゃんに毒を盛っているの!!」


 姉の王女に詰問されるも、泣きながら強い口調で言い返すダニエラ。


「い、一体何を言い出すと思ったら、この世界有数の薬師たる私が王に毒殺を狙っているだと? 王女、それに王。貴方方はどのような教育をなさっているのですか?」


「あら、そんな事を言うのですか、イゴーリ? 貴方の罪を数えなさいと言いましたよね。既に証拠は挙がっているのです!」


 言い逃れようとする薬師イゴーリに、わたしは舌戦を挑む。


 ……負けないよ、わたし!


「何が証拠か? 私は何一つ罪を犯していませんが?」


「では、王様に投与なされた薬を見せて頂けますか? 何も問題がないのなら、わたくしに見せても問題は無いですわよね?」


 わたしが舌戦を挑んでいる間に、後方から沢山の兵士達と共に、第一・第二王子、そして王妃様や他の王族も来る。


 ……危機管理的には、一か所に王族が集まるのは不味いよね。でも、皆が来るということは王様が皆大事で愛されているんだね。なら、ここが勝負どころなの!


「ちょうど、王妃様達もいらしています。ここで、わたくしがペテン師、いえ暗殺者の嘘を見抜いて見せますの!」


「そこまで言うなら、ホレ。もってけ!」


 イゴーリが差し出した薬湯をカティが油断する事なく受け取り、イゴーリから視線を切らないまま、後ろ歩きをしてわたしに渡してくれた。


「カティ、ありがとうね。さて、お集りの皆さま、この薬湯と言い張るものには毒、水銀が入っていますの。わたくしが、水銀が入っていることを示して見せますわ!」


 わたしは、薬湯の中に少しの硫酸と塩化スズ、金属の(すず)を塩酸で溶かしたものを混ぜた溶液を加えた。

 すると、薬湯には白い沈殿物が出てくる。


「この濁りが塩化水銀です。更にここに塩化スズを加えると金属水銀が出てきて黒くなりますの!」


 塩化スズ溶液を更に加えると薬湯が黒く濁り、底の方に水銀の小さな塊が遊離してきた。


「さあ、これが証拠ですの!」


「一体何を言っているんだい、このお子様は? ただ、混ぜて黒くしただけじゃないか? 全く困った、人騒がせなお子様だよ」


 証拠を提示しても動揺を見せないイゴーリ。


 ……コイツ、化学反応を分かっていないのね。まあ、ファンタジー世界の薬師じゃしょうがないか。


「では、イゴーリ様。貴方様は、薬湯を飲めますか? 薬湯を飲まれてから王様の体調が悪化していると聞いていますのよ」


「あ! そういえば、確かに……」


 第一王女様には、思い当たる節があるよう。


 ……事前に、その辺りは先生やカティが調査済みなの!


「クーリャ殿も特撮・時代劇ファンなのじゃな? 確かに『予の顔』は使い方が高度なセリフなのじゃ。『異世界CSI』では、異世界帝国皇帝が使ったのじゃ。代わりが、ライダーWの決めセリフじゃな。今やフィリップ殿は売れっ子役者なのじゃ! 電王やドライブの彼も、売れっ子じゃし、今や若手俳優の登竜門なのじゃ!」


 お母様受けを狙ったのが良かったのかもですね。

 シンケンの「殿」も売れっ子俳優になったし。


「さて、クーリャ殿が行ったのは、化学反応を利用した元素分析じゃな。この辺りは作者殿の専門じゃろ?」


 ええ、水銀分析はよくやってます。

 今は機器分析をしますが、その前処理に硫酸環境下での塩化スズによる還元反応を利用していますので。

 塩化スズと水銀化合物、この場合溶液になっているなら塩化水銀の形態をしていると思われますが、スズイオンが酸化されて逆に水銀イオンが金属水銀になります。


「じゃが、これは化学を知らぬファンタジー世界の住人には分からぬのじゃ。そこをどう説明するのじゃ?」


 そこはクーリャちゃんも困っている部分。

 どう解決するのかは、明日の更新をお楽しみに!


「皆の衆、ブックマーク、評価、レビュー、ファンアート等など待っておるのじゃ! クーリャ殿でなくても、ワシ宛でも歓迎なのじゃ!」


 もー、チエちゃんたらぁ。


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