第5話 クーリャ3:爆裂令嬢、早速スタート!
考えが纏まった朝、気持ちの良い目覚め。
「はぁ、気持ちいい朝なのぉ!」
「姫様……。昨夜は、すいませんでしたぁ」
キツネ耳少女メイド、カティ。
彼女は、怪我をしたわたしを不寝番するはずが寝てしまっていた事を謝る。
「え、何かありましたかしら? カティは、わたくしに良くしてくれていますのに?」
「だって、アタシ昨夜は不寝番のはずなのに寝てしまって……」
わたしは、しょげるカティが可愛くて、少しからかう。
「あら、わたくしは何も見ていませんですわ。わたくしが目を覚ましたときには、カティはちゃんと起きていましたもの。問題無しですわ」
「え、そのような事は……」
「何も無かったのです。そういう事ですの! 良いですわね、カティ」
わたしは、ニッコリ笑ってカティの顔を見る。
「姫様……。ありがとうございますぅ」
感動で泣きそうになっているカティに、「アタシ」は表情をニヤリに変えて話す。
「ですから、今後はカティ。貴方もわたくしの仲間、一蓮托生ですの」
「は、はい??」
カティは、大きなクエスチョンを頭に浮かべた様な顔をしていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「お父様、お母様。おはようございます。昨晩は、わたくしのワガママで皆様にご迷惑をおかけしました」
カティに身繕いを手伝ってもらい、わたしは朝食の食堂へと顔を出した。
「クーリャ、大丈夫かい? 頭とか痛くないかい?」
「ええ、昨日はだいぶ変でしたもの。無理はしなくて良いのよ?」
「コブが少し痛いですけど、大丈夫ですわ。それにのんびりしていられませんものね。時間は限られていますから」
心配そうな両親にわたしは、にっこりと優雅に返答をする。
「おねーさまぁ。いたくない?」
「ラマン、ありがとうですわ。絶対、貴方を守りますのよ」
とっても心配そうにわたしを見てくれる、天使のような愛らしい弟。
わたしは、思わず愛おしい彼をぎゅっと抱く。
「おねーさま?」
「あら、ごめんなさい。痛かったかしら?」
目元に浮ぶ涙をわたしは、そっと拭った。
……絶対、皆を守るの! それがわたしの使命なの!
目標が出来たわたしは、朝食をモリモリ食べて、次の行動に移った。
◆ ◇ ◆ ◇
「バージョヴァ先生、色々教えていただきたい事がありますが、今日は、まずこの世界についてもう一度おさらいをしたいんです」
わたし専属の女家庭教師、ナターリヤ・バージョヴァ。
わたしより7つほど歳上、17歳の未婚乙女。
王都に住む騎士爵家次女として生まれた彼女は、生まれ持った知性を生かして学院に残りたかったのだけれども、家庭が裕福ではなかったので、15歳になる時に学院を離れ、家族を養うために働く事になった。
そして、なんでも知りたがるわたしに困っていたお父様は、彼女の優秀さに眼を付けて、2年前にわたしの家庭教師として雇った。
「クーリャ様、昨日のお怪我の事は聞いておりますが、大丈夫ですか? いきなりご無理はなさらなくても良いのですのよ?」
「それが時間が無いのです! 少しでも早く準備をしたいのです! ですから、御願いします!」
おっとりした顔の先生は、わたしの真剣さを見て、首を傾げる。
「お時間なら、学院に行かれるまでは2年近くありますわよ? 今でも姫様の学力なら問題は一切ありませんが?」
「そこでは無いのです。5年で勝利条件を満たさなければ、すべてが灰になるのです!」
「姫様、一体何があったのですか? 今までも学習に熱心でいらっしゃったのに、それだけでは無いですわよね?」
あまりにわたしが真剣なので、先生は心配そうな顔をする。
わたしの横に待機中のカティも、顔を曇らせている。
「もしかして昨晩の縁談の破談が原因ですか? あの事はマクシミリアン様は問題ないとおっしゃっていますが……」
「あ、すいません、先生。気持ちだけ先走りしていましたわ。カティ、心配ありがとう存じます。わたくし、令嬢らしくない態度でしたわね。ええ、アントニー様との事は原因でもありますの」
わたしは、自分を必死に押さえ込んだ。
ここで、先生を味方につけなければ、この先の勝利は無い。
先生自身の運命も、わたしの動き次第なのだ。
「そうですか。わかりました。では、おさらいをしましょうか」
先生は、この世界の成り立ちから地域の地形、王国内の事を説明してくれる。
……まさか、世界の創造主様が、貴腐人のおねーちゃんだとは思わないよね。
先生は、神々がどうのと話す。
「……と一般的には言われていますが、科学的には『法則』という神によって世界は作られている、そうわたくしは思っていますの。もちろん、国教会神殿からすれば異端ですけどね」
先生は、この魔法すらあるファンタジー世界において科学を重視する、珍しい人だ。
この人のおかげでわたしは科学を知り、更に人と話す大事さを知った。
「わたくしもそう思いますの。例えば、物が落ちるスピードはハンマーも王冠も同じですものね。羽毛なら空気抵抗でスピードが落ちるかもですけど」
「あら、クーリャ様。どうして昔に王都の斜塔で行われた実験の事をご存知なのかしら? まだお教えしていないのに? それと空気抵抗とは?」
……しまったぁ! 『アタシ』の知識で話しちゃったのぉ!
「ど、どこかで誰かが話していたのを聞いた気がしますの。空気って重さを感じないのに、例えば布を広げて前に進んだら力を感じますわよね。そうそう帆船も空気の力を使いますし!」
「帆船をどうしてご存じでしょうか、姫様? わたくしも、まだ本でしか知らないのに?」
……ダメなの! ますます墓穴掘っちゃう。もう迂闊に話せないよぉ!
「え、えっとぉ。その本をわたくしも読んだ……で、いいかしら?」
「その本は、王都の学院にあるのですけど?」
……もー、言い逃れできないのぉ!
疑いというより困惑の目でわたしを見てくる先生。
……どう説明したら理解してくれるんだろう? ここで変な事言ったら、わたし気が変になったとか、悪魔付きになったって座敷牢送りになっちゃう。そうなったら、皆助けられないよぉ。
「わ、わたし……」
わたしは、怖くなって涙をこぼして視線を先生から外した。
「クーリャ殿、口が滑ってしもうたか。新しい知識を得たら言いたくなるのは、理系あるあるじゃな」
作者も、ついウンチクしちゃう傾向があって他人事じゃないですね。
因みに斜塔からの落下実験ってのは、有名なイタリア・ピサの斜塔からの落下試験です。
ガリレオが行ったとも行わなかったとも言われています。
これについては、ほぼ真空の月面にて羽毛とハンマーの落下試験が行われ、同時に落着したのが確認されていますね。
「ここで先生を味方に付けられるか、クーリャ殿最初の試練なのじゃ! じゃが初日更新は、ここまでなのじゃ。続きが気になるのじゃ!」
そこは明日の更新まで待ってね、チエちゃん。
ということで、初日公開は、ここまで。
応援の程、宜しく御願い致します。
声援次第では、短編版の先まで物語を描けます。
設定だけは、ずっと先まで出来ていますよ。
「明日までにブックマークや評価で応援よろしくなのじゃ! ファンアートやレビューも随時募集中なのじゃ!」
では、明日以降は正午過ぎに更新しますね!