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第17話(累計・第56話) クーリャ49:犯人を見つけたわたし、絶対に許さないの!

「で、気になってお父ちゃんの部屋にこっそり行ったら、只人のローブ着た怪しい人が変な薬を作っていたんだ。赤い砂みたいなのを炎にくべて銀色の変な薬を作って、それを煎じてお父ちゃんに飲ませていたの」


 ダニエラは泣きながら、わたしに王様が受けている「治療」について話してくれた。


 彼女は、治療怪しい事を薬師(くすし)を雇った姉、第一王女様に伝えに行った。

 だが自分が良かれと思っている治療を馬鹿にされた第一王女様は怒り、母、王妃様といっしょになってダニエラを離宮へと幽閉した。


「ダニエラ、落ち着いて話をしてくださいませ。薬師が怪しい治療をしているってお話したのはお姉様だけですか? 他の方にお話されましたか?」


「ルイトポルトお兄ちゃんには話したんだ。お兄ちゃんもお姉ちゃんの薬師を怪しく思っていたそうなんだけど、ジキスムントお兄ちゃんに馬鹿な話だって言われたんだって」


 第二王子(ルイポルト)様が第一王女(マルゴット)様や第一王子(ジキスムント)様に、不信感がある眼を晩さん会でしていた理由が納得できる。

 可愛い妹の話を聞こうともせずに、どんどん父親の病状が悪化しているのでは、不信感しか感じないだろう。


 そして第一王子様も馬鹿なことと言いながらも不安になって、第一王女様と治療方針で争っているものと思われる。


「全てわかりましたわ、ダニエラ。よく話してくださいました。全てが繋がりましたわ」


「そうなの、クーリャ? お父ちゃん、助かるの?」


 まだ涙を流し続けているダニエラ。

 父親、王様が心配でたまらないのだろう。


「まだ絶対とは言えませんが、助ける方法を探しますの。でもそうなると……」


 「薬」の秘密を知っているのは、第一王女様とダニエラ。

 雇い主かつ「躍らせる」対象として、第一王女様はしばらく安全だろう。

 しかし、王位継承権も順位が低く、「王家内毒殺事件」の被害者として扱いやすい、更に王様に毒を盛っている現場を目撃したダニエラは、とても危ない状況にある。


「ダニエラ、この離宮にその薬師は来たことはありますか?」


「いや、アタイ怖いから誰も絶対来ちゃダメって言ってて、お姉ちゃんも、そこは守っているの。あ、クーリャは別だよ!」


 どうやらダニエラが今まで無事だったのは、幽閉されていたからだった可能性が高い。

 屈強な門番がいて、地下離宮だから他に入り口がないので、暗殺者が入って来れないから。


「姫様、これは迂闊に動けません。よく考えて行動をなさってくださいませ」


「ええ、先生。わたくしも、いきなり王様の寝室に殴りこむつもりはありませんの。証拠を掴んでから勝負に出ます。ダニエラ、もう少し待っててね。わたし、絶対に皆を幸せにするから」


「うん、クーリャ。お願いね」


「ボクからも頼むよ、クーリャちゃん。女の子は泣き顔も可愛いけど、笑い顔が一番だもん。あ、痛いよダニエラちゃん、クーリャちゃん」


 空気を読めないエル君を、2人同時で蹴るわたし達。

 痛がるエル君を見て、ようやく笑顔になったダニエラだった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 わたしは、少々不安が残るけど、エル君にダニエラの事を頼んだ。


「絶対に普段と違う人をダニエラに近づけさせないでね。特に食事関係には気をつけて」


「そこは任せてよ、クーリャちゃん。ボク、これでも解毒魔法は中級は完璧、上級も少しは使えるんだ。いつもダニエラちゃんやボクが食べる料理には、解毒魔法掛けてから食べているから。あ、クーリャちゃんの料理は別だよ。だって、キミには悪意というものが全く見えないものね。ボク、悪人はすぐ分かるし」


 ……そういえば、エル君は『ゲーム』でも妙にマニアックな魔法だけ覚えていたね。後、敵の存在がいつもすぐに分かっていたし。なら、安心かな?


 離宮出口から去る時にも、警備兵の方々にはダニエラをよろしくと頼むと、


「外国の方に言われるまでもなく、ダニエラ様は絶対に守ります。あのお子は城内でもアイドルでしたから。クーリャ様も機会がありましたら、またお越しくださいませ。ダニエラ様の楽しそうな顔を久しぶりに見せて頂きましたから」


 と、嬉しそうに言ってくれた。

 ダニエラとエル君は、大変な状況なのに門の直前までわたしを見送ってくれたのだ。


「先生、マスカー、ゲッツ、カティ。お部屋に帰ったら相談がありますの」


「はい、何でも申して下さいませ。姫様の望む幸せな結末にしましょうね!」


「うんなの!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「今回の事件について犯人が分かりました。これから、どうやってこの事実を王妃様達に信じてもらうかを考えましょう」


 部屋に先生の作った風による防音結界を貼って、会議を開始したわたし。

 カティの入れてくれたお茶を飲んで話しだす。


「姫様。俺にも犯人が薬師だってのは分かったけど、どういう方法での暗殺なのかい? 銀色の薬ってのが怪しいけど」


「そうですわね、皆には説明しますの。今回使われていた毒は、赤い砂、辰砂(しんしゃ)です。科学的には硫化水銀、朱のような赤い塗料やめっきに使う水銀の原材料ですの」


「それは、一時期『賢者の石』と呼ばれていたものではないですか? 金属でありながら液体、そして多くの金属を溶かしてしまうものですよね」


 ゲッツの質問に答えると、先生が更に説明をしてくれる。


「ええ、その通りです。金をも溶かして、加熱すると金だけを残すので金メッキに使われますの。ですが、重金属の一種で非常に毒性が高いですわ」


「そういえば、めっき職人が若いうちに倒れるのを良く聞きますわ」


「ええ、温める際に出た水銀蒸気を吸った水銀中毒ですの。下痢、頭痛、倦怠感、しびれや不安症、不眠などの症状が出ます」


 水銀をアマルガム(合金化)にして行う金メッキ。

 アタシの世界でも古代から知られていて、奈良の大仏建立時には多くの職人が水銀中毒を起こしたらしい。

 そして、今回の薬師はドワーフ王を意図的に水銀中毒にしている可能性が高い。


「しかし、毒殺に使うものとしては珍しいですわね。普通は銀食器を黒くするヒ毒を、こっそりと使いますわ」


「先生。ヒ素ですが、それだけでは銀を黒くしませんですの。銀が黒くなるは不純物にある硫黄分が原因です。純粋な亜ヒ酸なら、銀食器でも黒くならず気が付かないですわ」


「そうなのですか? これは注意しないとですね。他にも毒は多いですから、姫様の安全の為にも気をつけないとですわ」


 古来より貴族が銀食器を使うのは、毒殺を避けるため。

 その流れで、アタシ世界の近年では同じ輝きのステンレス食器が多いけれども。


 しかし、硫黄分を含まない毒、例えば青酸化合物、リシン、トリカブト、フグ毒等の生物毒もある。


 ……テストゥード号にも使っているヒマシ油にもリシンは入っているの。ウチは毒殺はしないつもりだけど、注意はしておかなきゃね。

「リシンといえば、暗殺によく使う毒なのじゃ。確か、傘に仕込んだリシン毒玉で暗殺した事例があったのじゃ!」


 日本でも夫を暗殺するのに焼酎に入れた事件とかもありましたね。

 人工物は有害、自然は無害と思うのは間違い。

 自然毒の方が強い場合が多いですものね。


「トリカブトとふぐ毒のミックス技をした保険金殺人もあったのじゃ。毒の世界も奥深いのじゃ!」


 作者も化学者の一人ですから、色々注意はしてます。

 なにせ、硫酸ぶっかける悪質な傷害事件も世界にはありますし。


「アシッドアタックは怖いのじゃ! では、皆の衆。毒には注意なのじゃ!」


 それでは、明日の更新をお楽しみに。


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