第14話(累計・第53話) クーリャ46:集めた情報から推理するわたし。敵はどこにいるの?
「え! それはどういう事なんだ? 俺が師匠から聞いた話とは大きく違うぞ」
晩さん会を終えて部屋に帰ってきた、わたし達。
お互いに得た情報を纏める。
「ですわね。ダニエラ様が何か都合が悪い事を知ったのと、派閥争いで命の危険があるという話でしたわ」
ゲッツの師匠、ゴットホルトさんがお城に通う下働きさんに聞いた話では、王族内では次の王を争っており、毒殺すらありうる状況だとか。
そして知ってはならない秘密を知ったダニエラ様が幽閉されていると。
「しかし、ゼリーを分け合って食べているのを見るに、少なくとも王女達の間では毒殺を考えている方はいらっしゃらないですわ」
「わたくしの眼からでは、第一王子様も怪しそうには見えませんでした。ただ、……」
先生も、わたしの第一印象と同じ事を思ったようだ。
「第二王子様、ルイトポルト様はドワーフ族としては繊細で人みしりが激しいと、イポリトさんの資料にあります。また武術も好むとか。こんな彼が王位を目指すのも不自然です」
マスカーの眼からでは第二王子様は、ただの人見知りで毒殺など考えそうもないとの事だ。
イポリトさん情報でも、王族は家族仲良く、争いは思春期の親子喧嘩や幼い頃の兄弟喧嘩くらいで、大きな争いは今まで何もなかったとある。
「アタシが調理場借りてゼリーを作ってた時も、相続争いじゃなくて、どうして王様は治らないのかって話ばかりなの。なんでも凄い薬師さんをマルゴット様が、ウチの王国から連れてきたって言ってたの」
「そういえば、晩さん会でもマルゴット様はそんな事を言ってたの。お兄様の第一王子様とは王様の治療方針では揉めているようですが……。ん? もしかして、……」
「ええ、姫様。敵は王族内部には居ないかもですわ。その薬師さんの情報が知りたいです。出来れば王様に調剤している薬を見たいですわ」
先生は、私の「思い付き」が怪しいと言ってくれた。
「カティ、先生。では明日ダニエラ様に食べて頂くゼリーを作る際に調理場で薬師の方のお話を聞いてくださいませんか?」
「はいですぅ!」
「分かりましたわ」
わたしと先生の予想が当たっていれば、薬師が怪しい。
特に王国から来たというのが気になる。
そして、公爵様が暗躍しているというのも気になる。
王族内で争いをしているという噂の出どころも怪しい。
もしかすると、外部から王族が操られそうになっているのかもしれない。
「わたしは、マスカーと共にイポリトさんのお店に行って情報を貰ってきます。ゲッツはゴットホルトさんにもう少しお話を聞いてきてくださいませ。わたくしが思う通りなら、今回の事件は完全解決しますわ」
◆ ◇ ◆ ◇
「イポリトさん、今日は買い物に来ましたの。何か面白そうな物ありますか?」
「え! クーリャ姫様。こんなところまで来て下さり、申し訳ないです」
王都内にある商店が立ち並ぶ商家地域の中に、イポリトさんのお店がある。
ここには雇われている地元店員さんが居て、時々行商しているイポリトさんが変わった商品を持ち込んでいる様だ。
「ドワーフ王国内なだけに、金属加工商品が多いのですね。他には王国由来の商品もあります。あ、うちの牛乳石鹸もありますわ」
「この石鹸はとても人気商品ですね。今後ともクーリャ様にはお世話になります」
石鹸にはウチの紋章、鷹と剣を組み合わせたモノがくっきりとあり、ひと目でどこ製品か分かる様になっている。
……うふふ。どこでもわたしの発案した石鹸が好評なの!
「さて、今日はお買い物以外に『情報』の擦り合わせに来ましたの。人払いできるところは、ありますかしら?」
「では、奥の方へどうぞ」
わたしとマスカーは、店の奥にある商談室へと案内された。
「昨日は、早速ドワーフ王国内の情報を下さりましてありがとう存じます。とても役に立ちましたわ。ですが、今の状況と合わない部分が出てきましたので、再確認に来ました」
「そうですか。急いで集めたので不具合もあったかも知れません。申し訳ありませんでした」
お茶を入れてくれたイポリトさん、わたしに謝る。
「いえ、どうやら王家内部と外部の情報が剥離している可能性がありますの。外部では、王家内部で相続争いが発生しているとの噂ですが、昨日わたくしが晩さん会で会った王族は、王様の治療方針で争ってはいたものの、王様の健康問題が第一で王妃様も健在ですので相続問題は発生していませんでした」
「そうなのですか? 私が集めます王族に関する情報は、いいところ城内の下働きの方々の愚痴を間接的に聞いていますので、現実と一致しない可能性もあります」
イポリトさんが、先にお茶を毒見として飲んだので、わたしも一口飲む。
……良い茶葉使ってますのね。
カティが聞いた下働きの方々の話とイポリトさんの情報は、一致をしない。
つまり、わざと王族の悪い噂を流している人がいるのではないか?
ゴットホルトさんも下働きをしている人から噂を聞いたとの事。
「もしそうなら、意図的に情報操作をしている人物がいます。実は、外国の勢力でこの国が荒れることを望んでいる派閥が存在しますの。その手の者の仕業だとすれば辻褄が合いますわ」
「そ、それは大変な話ですね。私共、国を渡る商売人は国同士が争うのはもちろん、国内が荒れるのも歓迎致しません。平和で民衆が豊かに買い物をして初めて儲かりますから……」
戦争で物流が止まるのは、『アタシの世界』で十分と言えるほど見てきた。
内戦で荒れ果てた街の映像は、それこそ嫌になるほど見た。
……ここでは、そのような事はさせませんですの!
「わたくし達は、これから真実に近い情報を持つ方に会いに行きます。イポリトさんには、ある人物の事について調べてほしいのです。もちろん無料でとは申しません。お金は手持ちがあまりありませんから、代わりにこのレシピをどうぞ」
わたしは、イポリトさんにゼラチンの製法と使い方を紙に書き、渡した。
「こ、これは。クーリャ様には命や商品を守って頂きましたのに、これを頂くのは心苦しいです」
「いえいえ。これは先行投資ですの。この先、ゼラチンは食品にも科学技術にも用いられます。わたくし共だけが作るのでは、正直足りません。それと、似たような物に海藻由来の寒天があります。そちらも見つけて下さると嬉しいですわ」
わたしは、にっこりと微笑む。
この先、武器に関連しそうな技術はさておき、食品関係の技術は広まってほしい。
今回、ドワーフ王国王族へレシピを渡したのだから、他所の国でも同様に美味しいお菓子を作ってもらいたい。
そして、おいしいお菓子を世界中で開発して欲しいと思う。
「クーリャ殿は商売も詳しいのかや? 実に上手い商取引をするのじゃ。この手の生活に役立つ技術は、得意な者に渡して量産してもらい、安くなったものを購入する方が良いのじゃ。軍事に繋がる情報は秘匿すべきじゃが、庶民の口に入る情報は共有するのが一番なのじゃ!」
作者自身は、母が商売していたのを横目で見ていましたので、門前の小僧レベルですが、少しくらいは商売のむずかしさを分かっているつもりです。
富を独占しすぎるのは、妬みも受けて危険な事もあり得ますし。
「うむなのじゃ! 富は適度に分散化すべきじゃな。では、明日の更新を楽しみにするのじゃ! ブックマークを頼むのじゃ!」
チエちゃん、宣伝ありがとね。
では、明日!