第13話(累計・第52話) クーリャ45:晩さん会に案内されるわたし。ここが勝負どころなの!
「今日は、遠路はるばる王の為に来て下さり、ありがとう存じます。ささやかな宴ですが、お楽しみ頂けると嬉しいですわ」
「いえいえ。こちらこそ急に赴きましたのに、かのような豪華な宴を開催して頂き、ありがとう存じます」
城内の宴会用食堂と思われる場所で行われている晩さん会に、わたし・先生が客として、マスカーが警護騎士、カティが給仕役として参加している。
ゲッツは、あてがわれた部屋で待機、入手した情報を元にダニエラ様が居るであろう離宮への潜入ルートの選定、及び脱出方法について検討してもらっている。
……ちゃんとゲッツにも、夕食は運んでもらっているの。
「クーリャ殿と申されましたか。まだ幼い身でありながら、男爵様の名代、ご苦労様です。聞くところによると、男爵領は最近新たなる産業で潤っている様ですね。見舞い品に石鹸がありましたが、側仕えによると匂いも良いし、泡立ちも素晴らしいそうです。また植物紙も沢山ありがとう存じます。我が国は見ての通り、鉱山が主産業、農業は食べるのがやっとくらいなので、このような品物を頂けるのは嬉しいですわ」
外見は、肝っ玉お母さんっぽい王妃様、名前をアレクサンドラ様という。
8人の子供を産んだのも納得という、でっぷり体形。
しかし、一見優しそうな眼も知性に溢れ、わたしを値踏みしている様にも思える。
……早速情報収集に来たのね。では、こっちも探りますわ。
メインディナーのお肉を食べて、一息ついたのでわたしも本気で情報収集に入る。
「こちらこそ、金属製品をこちらから沢山輸出して頂き、ありがとう存じます。今後ともお互いに徳をする商取引をしたいものですわ」
「いえいえ。ドワーフ族は鍛冶屋にしか頭がない者たちばかり。その仕事が、ちゃんと外国から評価して頂けるだけでも感謝しております」
……つまり、今後とも取引よろしくね、って事ね。王妃様は、ウチとは仲良くしていきたいのね。でも、他の人はどうかしら?
「本来は王様にもお会いしたかったのですが、おかげんが優れないとのこと。心配ですわね」
「王も若くないのですし、そろそろ次の王を選ぶ準備をしていましたから、問題はないですわ。それでも長生きしてほしいと思うのは妻として思う次第です」
「ええ、父は偉大な王でした。鍛冶や武力のみを考えていたドワーフ族の中で、ただ一人国を肥し人々に平穏を与える事を考えていましたから……」
女王の隣に座る第一王子、確か名はジキスムント様。
ドワーフにありがちな髭をさっぱりと剃り、これまた母親ゆずりの知性的な眼差しだ。
……ふむ、第一王子様は案外と理性的。彼が政権を取る分には問題も起きそうにないし、ダニエラ様も無事じゃないかな?
「ですわね。偉大なる父が早く良くなることを祈るばかりですわ」
そして、第一王子の横に座る少女の風貌をいまだ残す女性、彼女が第一王女マルゴット様。
イポリトさん情報では、国内の有力豪族と結婚して、既に一児の母だとか。
彼女も見た感じは、父親の体調不安を案じている様子。
……太めの女子大生って感じかな? あれ? 聞いた噂では第一王子様と第一王女さまの間で跡継ぎ争いをしているって話だったけど、比較的仲良い雰囲気なの。これは何か裏がありそう。
「ええ。そう思い、父もわたくしを偉大なる王様の見舞いに送ったのです。そういえば、王様はちゃんと食事を取られていますか? 体調不良の際には、食欲も湧きませんですよね」
「そうなのです。王も以前よりは食が細くなって心配をしています」
「わたくしも、父の為に薬師に妙薬を処方してもらっていますが、効果があまり出なくて困っていますの」
「マルゴット、君の薬師は本当に大丈夫なのか。私は父が心配でならない。他の医者の話も聞きたいのだが……」
「わたくしが探したロマノヴィッチ王国一の薬師様を疑うのですか、兄上? 絶対にわたくしの薬師がお父様を癒しますわ!」
案外、簡単に王の病状を話す王妃様と第一王女様。
どうやら公式に発表をしないだけで、王様の体調不良は深刻らしい。
そして第一王子様と第一王女様は、王様の治療方針では争っているらしい。
……せっかくの見舞客には嘘を言わないのかもね。そして争いといっても、王様を心配しあってのじゃ、話が違うかも。じゃ、早速作戦開始なの!
「でしたら、わたくし共に病人向けに口味が良く甘くておいしい菓子がありますの。そのレシピを公開しますので、お役に立てて下さいませ」
「それは何ですか? もし良かったらお教えくださいませ」
「甘いお菓子ですか? わたくしも気になります」
「お菓子ですって……」
早速王妃様や第一王女様や他の王女様たち、そして給仕をしてくれているお姉様方々も話に食いつく。
……やっぱり女の子は、甘い菓子が大好きなの!
「はい、では。カティ、お願いしますの!」
「ハイですぅ。クーリャ姫様!」
わたしは秘密兵器その1、ゼリーを晩さん会に投入した。
「これは、また奇妙な菓子ですね。まるで水を固めたよう」
「はい、王妃様。これは甘味を付けた水を、ある素材で固めたものですの。わたくしが毒味しますので、王妃様達もお一口どうぞ」
わたしは、砂糖煮した果実入りのゼリーを口に入れた。
……うん、美味しいの! 材料は準備してたから、後は先生の凍結魔法の氷で冷やすだけ。今回も成功なの!
いつもよりもろ過精製に注意したので、透明度も高いゼラチンゼリー。
果実を封じた見た目も、実に美味しそうである。
「では、わたくしが毒味したものですが、どうぞです」
王妃様の給仕役に、わたくしが一口食べたゼリーを渡す。
「それでは、頂きますわ。はむ」
気品あふれる様子でスプーンを使い、一口ゼリーを食べる王妃様。
「こ、これは甘くも後味がさっぱりしていて、冷ややか。そしてアクセントのように砂糖で煮られた果実がまた甘くておいしいですわ」
「お母様、あたくしにも一口下さりませんか?」
「ええ、どうぞ」
王妃様の驚く顔と美味しさのレビューに我慢できなくなった第一王女様。
給仕の方に急ぐように頼んで、ゼリーを食した。
「た、確かにこれは見事ですの! クーリャ様。これは、どうやって作っていますの? そして、この国でも作るのが出来ますか?」
食卓から乗りあがるような勢いでわたしに問いかける第一王女様。
その様子は、他にもこの場にいる王子、王女様たちも驚き顔。
……よし! 食いついたのぉ! マスカー、いやこの場合はヴァルラムかな。彼にレシピの品評をしてもらっていて良かったですの。
「はい、もちろん可能ですわ。ですので、わたくしはこの水菓子、ゼリーのレシピを公開すると話しました」
……あれが第二王子、ルイトポルト様ね。立派なお髭だけれども、何か表情が暗いの。第三王子様は、まだ成人前で子供っぽいのだけど、お髭が少しあるのはちょっとおかしい感じなの。
ドワーフ族の男性は、成人少し前くらいから髭や体毛が急激に濃くなる。
可愛い男の子のうちは、とても短い。
だから、只人族のお姉さま方からの「賞味期限」は短い。
……そしてあれが第二王女、第三王女、第四王女様。皆、小柄で只人族、いいえ地球人なら太っちょの中高校生っぽい雰囲気なの。
そしてドワーフ族女性は、男性と身長は大きく変わらないものの、やや筋肉質で太め以外は少女っぽい風貌のまま成人になる。
なので、おばちゃん風になったドワーフ族は、そこそこ以上の年齢らしい。
そして、王女様たちはきゃいきゃいと言いながら、ゼリーを姉から貰って一口食べては感動している。
……この感じだと、怪しいのは第二王子様くらいかな? でも、継承権を考えたら第一王子様、第一王女様も怪しいの。
「あら、そういえば王妃様には姫様が5人いらっしゃると聞いていますの。一番下の、確かダニエラ様ですか。彼女はどちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、あの馬鹿娘ですか。この大変な時期に城から抜け出すので、お仕置きとして離宮に閉じ込めていますわ。まだ幼いとはいえ、王族であるのを忘れて遊ぶのは問題ですわ」
「ええ、そうですわ。今はわたくしが管理する離宮にいますの」
これまた簡単に、ダニエラ様の居場所が分かる。
……あれ? 王妃様と第一王女様が公認で離宮に隔離なの? なら、命の危険性は無いかも。でも、何か引っかかるの。本当のことはダニエラ様に聞きたいな。
「王妃様。では、わたくしがダニエラ様にゼリーをお持ちしてよろしいでしょうか? 一人寂しくなされていますのなら、同じ子供同士お話をしたいと思いますの」
わたしは、大勝負に出た。
「案外と簡単に情報を入手できたのじゃ。これも『美味しいが正義』なのじゃ!」
ええ、チエちゃん。
美味しい食事は、心を和ませます。
その一口が、こわばった心を癒す事もあるのです。
「それもこれも、ヴァルラム殿。いや、今はマスカー殿が味の吟味をしてくれたおかげなのじゃ! マジ、情けは人のためならずなのじゃ!」
ですね。
では、明日の更新をお楽しみに!