第11話(累計・第50話) クーリャ43:ダニエラ様のことを聞くわたし。絶対助けるの!
「初めまして、ゴットホルト様。わたくしがクーリャ・マクシミリアーノ・カラシニコヴァでございます。今日は父、ニシャヴァナ男爵領主マクシミリアンの名代としてお話を聞きに参りました。こちらの仮面の騎士はマスカー。わたくしの警護をしてくださってます」
「姫様に紹介頂きました騎士マスカーです。ゲッツ殿には素晴らしい剣を作って頂き、お世話になっております」
わたしは先ほどまでやっていた未来予想、いや脳内妄想を一端放置して、ゲッツの師匠ゴットホルトさんにカーテシー込みの「ちゃんと」貴族令嬢らしい挨拶をした。
「こんな場所に高貴なお姫様をお連れすることになって申し訳ない。それと俺は、しがない鍛冶屋で『様』なんてもんじゃねえし、平民だ。呼び捨てにしてくれや、クーリャ姫様」
わたしの完璧(よね?)な挨拶で、急に恐縮しだすゴットホルトさん。
「そうですか? ゲッツのお師匠さまなのですから、『様』を付けるのが礼儀だと思いますわ。でも、お気になられるのなら、ゴットホルトさんとお呼び致しますの」
わたしが貴族、相手が平民であろうとも、年長者や優れた人格者、技術者などには敬意を持つのは当たり前。
呼び捨てにするのは、身内枠だけで十分。
「す、すまねぇ。姫様。で、ゲッツから話は聞いてくださっているんですかい?」
「ええ、ダニエラ様の危機ですわね」
そこからわたしは、ダニエラ様の幼少期からの話を聞いた。
「小さい頃から城を抜け出しては、俺の鍛冶場に来て色々と聞いてきてたよ。身なりが良いお子様、どこかのお嬢さんだとは思ってたけど、まさか王女様だったとはびっくりさ」
鍛冶仕事やテクノロジーに興味があるダニエラ様、鍛冶場にある様々な物に興味を持ってゴットホルトさんやゲッツに聞きまくったそうだ。
「例え五女とはいえ王女様って分かったら、こっちも怪我とかさせられねぇから、来ちゃ駄目だって言ったんだ。でもダニエラ様は、城内には面白いものが何もないし、俺達と話すのが楽しいって言ってさ。お姫様扱いしないでって、泣きながら言うのさ」
急にお姫様扱いされたダニエラ様は、とても悲しそうな顔をしたそうだ。
「周囲には人が居ても、ダニエラ様を一人の女の子として見てくれる人が居なかったのかもな。泣いてるダニエラ様見て、しょうがねぇから俺は彼女にいつでも来いって言ったのさ。まさか、それから毎日来るとは思わなかったがな。ははは」
「だな、ダニエラ様は師匠や俺に懐いてくれて、王様にも師匠を直接紹介してくれて、師匠は王家公認の武器鍛冶師になったのさ」
誇らしげに師匠自慢をするゲッツ。
ゴットホルトさん、確かに一見ぶっきらぼうだけど、子供好きそうで優しい人なのだろう。
ダニエラ様の事を言うときの眼が、とても優しい。
……態々、わたしにダニエラ様の救出作戦を頼むくらいだもんね。
「そんなダニエラ様が命の危機にあっているので、ゲッツを通じてお父様に救援を求めましたのね」
「はい、そうです。ゲッツがマクシミリアン様やクーリャ姫様に大事にしてもらってるのを見て、賭けてみたくなりました」
ゴットホルトさんは、ダニエラ様が命の危機にあって、蜘蛛の糸を掴むような気持だったのだろう。
で、わたしに賭けてみたと。
「お話は分かりましたの。わたくしはお父様の名代として、今回の件はお受け致します。できる限りの力でダニエラ様をお救い致しますわ」
「あ、ありがとうございます。本来ならば、ドワーフ王家内の問題。隣とはいえ他所の国、ましては種族も違う姫様にお願いするのが間違っております。しかし、俺には他に頼る手が無かったんだ。ほ、本当にありがとぉ」
男泣きをするゴットホルトさん。
ダニエラ様を自分の娘みたいに思っているのだろう。
……これは本気で頑張らなくちゃね。
「で、今ダニエラ様がどういう状況なのか、ご存じですか、ゴットホルトさん?」
「俺は又聞きだけれども、城内離宮の何処かに幽閉されてるらしいな。城は鉱山跡だから、内部は迷宮になっているとも。俺も通用門と一部しか城内は知らないんだ」
涙をぬぐって説明してくれるゴットホルトさん。
わたしが案内人に聞いた通り、城内は複雑な構造らしい。
これは探し出すのも大変かもしれない。
「分かりましたわ。わたくしが城内に在留中に探し出してみますの。では、ここからはダニエラ様とは関係ない話なのですが、工房を見せて頂けませんでしょうか? わたくし、ゲッツの鍛冶場もいつも見ていますから、興味がありますの!」
「ああ、構わないです。ゲッツ、確かにダニエラ様とクーリャ様は似ているな」
「ええ、師匠。俺も前からそう思ってました」
どうやらゲッツは、わたしの事を鍛冶場通いする変な女の子として紹介しているらしい。
……確かに鍛冶場を喜ぶお嬢様ってわたしとダニエラ様くらいだと思うの。
「こちらが、溶鉱炉。ここで鉱石を溶かしてます」
ゴットホルトさんによって案内されたのは、溶鉱炉。
多分ゲッツの弟弟子にあたるだろう、ドワーフの男性達が鞴を動かしながら石炭らしき石と鉄鉱石を一緒に混ぜて加熱している。
「木炭ではなくて石炭を使っていらっしゃるのですね。石炭の不純物は、どうなさってますか? このままでは硫黄分等の石炭の不純物で脆い鉄になるのですが?」
「ああ、そこは石炭を蒸し焼きして作った骸炭を使っているんだ。……!? え、どうして石炭じゃ鉄が脆くなるのを知っているんだ、姫様! そういえば、ゲッツ。オマエにはまだ製鉄の秘密は教えていなかったのに? それに魔法銀を切れる剣の秘密もあまりに不自然だ。ま、まさか……」
「あ、師匠! えーっと……。姫様、お言葉には気を付けてって言ってますよね」
「姫様、場所を変えませんか? ゴットホルト様、良いですか?」
「あ、ああ。ここじゃ話せない事だな。分かった、もう一度応接室に帰ろう」
「あのぉ、マスカー。ゲッツ。ごめんなさいなの」
「しょうがありませんね。後からナターリャ様から叱ってもらいますね」
「ほんと、困った姫様だぜ」
わたしは、ついつい前世知識を元に話してしまった。
つい、専門家と技術話できると思ったのが悪い。
……またまた、やっちゃったのぉ!
「ほんとに口が軽いクーリャ殿なのじゃ。しかし、ワシも理解できるのじゃ。技術者同志、いろいろと話し合いたい事もあるのじゃ!」
ええ、チエちゃん。
技術者あるあるです。
作者も職場の機械修繕に来た方と色々話しちゃいます。
特に自分が知らない分野、電気機器とか土木工事関係は、興味わくわくですね。
「じゃが、クーリャ殿は気軽に情報開示は出来ぬ立場なのじゃ。もう少し気を引き締めて欲しいものじゃ!」
彼女も少しづつは改善してます。
今後を期待して、許してやってくださいませ。
「まあ、今回で早速イポリト殿とゴットホルト殿を味方に引き入れたのじゃ。裏表の無い無邪気なクーリャ殿の力じゃな」
ここで得た縁、これが今後どうなるのか。
こうご期待、では明日の更新をお楽しみに!