第9話(累計・第48話) クーリャ41:王都へ向かうわたし。人の縁は侮れないの!
「おとうちゃん、すごいよぉ!」
「そうだね、モニカ。只人族の街には、このような馬も要らない乗り物があるなんてびっくりです」
「すいません。これはまだ試作品で秘密の物なのです。くれぐれも他所には内密でお願いしますの」
御者としてセリノさんが乗った荷物いっぱいの馬車を後ろに繋いだテストゥード号、イポリトさんとモニカちゃんも載せて快調に王都への街道を進んでいる。
テストゥード号の車内で夜を過ごしたわたし、先生、カティにモニカちゃんの女性陣。
ゲッツとマスカーは、イポリトさん達と一緒に交代しながら夜中も周囲を警戒してくれた。
そして早朝、荷物を壊れた馬車から修理した馬車に移す作業は大変だった。
皆が重そうにしている荷運びを見ているだけは嫌だったわたし。
先生やマスカーに、またまた令嬢らしくないと文句を言われつつも、身体強化魔法を使って軽そうな荷を選んで運び、その様子にイポリトさんはますます恐縮していた。
「クーリャ様には、私共の命の他に積み荷まで守って頂き、感謝しても感謝しきれません。何かの形でお返しをしたいのです。王都に到着すれば買い付ける資金も使えますが、お金でお返しというのは貴族様に失礼では無いでしょうか?」
「そうですわねぇ。わたくし個人はお金も嫌いでは無いですが、それ以上に欲しいものがありますの。まずは情報。今回、わたくしはお父様の名代で王様に謁見するのですが、ドワーフ王家にあまり良い噂を聞きません。何か情報があったら教えて頂けたら助かりますの。後は、研究開発にわたくしが欲しい資材があれば、適正価格で売って頂けると嬉しいですわ」
イポリトさんが、わたしに恩を返したいというので、ドワーフ王国の情報と研究資材の入手を頼んでみる。
……行商人というのは、いろいろ知っていてそうだもん。変わった物も売ってたら買いたいなぁ。
「そのような物で宜しいのですか? はい、喜んでご提供致します。クーリャ様に助けて頂いた恩義、ルハン商会はこの先ずっとクーリャ様のお味方です。お入り用の物は最優先、全て無料で提供致しますので、末永くよろしくお願い致します」
「えー、そんなに恩に思わなくても良いですの! 無料ではわたくしが困ります。諸経費くらいは支払わさせてくださいませぇ!」
……ちょ! 只より高いものは無いのぉ! わたし、困っちゃう。損させてしまうのは嫌なのぉ!
「うふふ。姫様良かったですわね。イポリト様、姫様は今後いろいろと必要になるものが多いのです。ぜひとも入手に協力お願い致しますわ。もちろん適正価格で」
「はい、お安い御用です、ナターリャ様、クーリャ様! モニカ、君も将来クーリャお姉ちゃんを助けてあげてね」
「うん! おねえちゃん、よろしくね!」
わたしは、見殺しが嫌なので人助けをしただけなのに、何か大きなフラグがピコンと立った気がする。
……こういうイベント、『ゲーム』では無かったよねぇ。うーん。
わたしは、前世での「ゲーム」記憶を思い出しながら、街道を走った。
◆ ◇ ◆ ◇
「本当にありがとうございました。情報が入り次第、お城のクーリャ様にお知らせに参ります」
「おねーちゃん、またねぇ!」
王都の商家地域でイポリトさんと分かれたわたしたち、可愛いモニカちゃんの手を振る姿をバックミラーに見ながら、お城へと向かう。
……そういえば、『ゲーム』ではドワーフ王国への逃亡途中に同じ場所で、わたしは盗賊に襲われて爆弾と銃で返り討ちにしたっけ? お父様達を皆殺しにされた後だったから、怒り心頭そのままの勢いで盗賊のアジトも持ってた爆弾で吹っ飛ばしたの。あれ?
そんな時、ピカリと記憶が繋がる。
「あ――!!! モニカちゃんは、『ゲーム』で会ってたのぉ!」
「姫様、モニカちゃんとご縁があったのですか?」
ハンドルを握りながら驚くわたしに、びっくりしつつも問いかける先生。
「ええ、先生。『ゲーム』でわたくしはアントニー様に家族を殺され、ドワーフ王国へと逃げ延びます。その際に国境付近で盗賊団に襲われ、ブチキレモードのわたくしは、襲ってきた盗賊団を持っていた爆弾で返り討ち、皆殺しにします。そしてその勢いで盗賊団のアジトまで強襲に行き、そこで盗賊団に慰め物にされていたモニカちゃんを見つけ、助けるのです」
『あなた、悪意ばかりの世界に復讐しませんか? わたくしは、世界に復讐します。わたくしと一緒に来ませんか?』
数年間にも渡る凌辱でボロボロな姿のモニカ。
彼女はコクンとうなずき、わたしの手を取った。
そして、わたしはモニカを配下にして魔族帝国へと逃げ延びるのだ。
あまりに今の可愛い幼女姿と、盗賊団で「もて遊ばれて」いた哀れな少女の姿が一致しなかったので、今まで気が付かなかった。
「お優しい姫様が盗賊団を虐殺ですか。『ゲーム』ではそこまで姫様を追い詰める自分が心苦しいです」
「今のマスカーは立派な騎士。気に病むことはございませんの。最早ありえない未来ですしね」
しょぼんとするマスカー、それをわたしは慰める。
完全にわたしの騎士になったマスカーは、「ゲーム」でのヴァルラムとは完全に別人なのだから。
「そういうことですと、『ゲーム』ではイポリト様は昨日の襲撃で命を落とされ、モニカちゃんは盗賊に囚われて……」
「ええ、先生。わたくし、イポリトさんとモニカちゃんの危険フラグを吹き飛ばしちゃいましたの。良かったとは思いますが、わたくしが動くたびに他の方の運命を変えていくの、少し怖くなりました」
「姫様は思うように動かれたら良いですわ。昨日、姫様は多くの方の運命を良い方向へと変えたのです。そこは誇ってもいいですわ」
先生はわたしを励ましてくれるが、わたしの大きな運命力は良くも悪くも他の人の人生を変えてしまうらしい。
……イポリトさんにセリノさん、モニカちゃん。そして頭を失った盗賊団もこれで壊滅していたら、生き残った盗賊さん達も命拾いしたのね。
そしてこれから、わたしはドワーフ王やダニエラ様の運命も変えるつもりなのだ。
……そりゃ、お父様達の運命を変えるつもりだったけど、わたしの存在は大変なのかもしれないの。覚悟は、しなきゃだわ。
「姫様は、お心のままに動くべきでしょう。自分も姫様に救われた身です。ですから、姫様の剣として人助けのお手伝いしますよ!」
マスカーも仮面を外して「ヴァルラム」として、私を励ましてくれる。
「分かりましたわ! これからも、頑張って幸せな世界構築を目指しますの!」
「ですが、くれぐれもご自分の御身安全は第一でお願いしますね。姫様の言動は、まだまだ見ていて危なかしくて怖いですわ」
「マジ、姫様は危なっかしいぜ」
「そうなの! アタシ、姫様が大好きだから気を付けてほしいの!」
「もー。皆、過保護ですのぉ!」
わたし達は、笑いながら王城へと入っていった。
「なるほど、クーリャ殿の大きな運命力は周囲に大きな波紋を残し、人々に良き影響を与えていくのじゃな。見ていて気持ちよいのじゃ!」
クーリャちゃんは、困った人を見ているのが嫌。
だから、自分の心の平穏のために人助けしてます。
お父様達家族を守りたいのが主目的。
その途上でも気が付いたら、困った人を助けないと気がすみません。
騙されようが、困らせられようが、助けてと言われたら助けちゃう。
彼女は損得じゃなく、ただ笑顔があふれる中に居たいだけなんです。
「ある意味、不器用で損な性格じゃな。じゃが、だからこそ周囲に仲間が集まってくるのじゃ!」
そこが、描いてて作者もクーリャちゃんが可愛くてたまらないですね。
賢いのにおバカで損なお人好し。
「ワシも大好きなのじゃ!」
チエちゃんも同じタイプですものね。
では、明日の更新をお楽しみに!
「ワシ、クーリャ殿を応援するのじゃ!」