第7話(累計・第46話) クーリャ39:人助けは大事。悪党どもは吹っ飛ばすの!
ドワーフ王国内の街道、山林の中で野盗達が馬車を襲っている。
前方で行われている悪行を見過ごせないわたし達。
このまま街道を進むのにも邪魔な彼らを、排除することにわたしは決めた。
「では、作戦開始!」
わたしは自動車のアクセルを踏む。
そして魔力自動車は街道を進み、なおも戦闘中の馬車に近づいた。
「行きます! 『凍てつく白きものよ、我の命に従い目前の敵を凍らせよ、<凍嵐>!』」
魔法射程範囲に入った時、野盗達はテストゥード号に気が付く。
……気が付くのが、遅いの!
しかし、盗賊たちの中心で先生から放たれた蒼い魔力玉が炸裂し、氷の嵐が吹き荒れ5人程が氷像になる。
「では、御免!」
急停車したテストゥード号から飛び出したマスカー。
マスカーは、盗賊たちの中で一番大柄で装備が良い只人族の敵に日本刀で切りつけた。
「何ぃ!」
混乱気味ながらも、マスカーの接近に気が付いた大柄な野盗。
マスカーの初手で小手ごと左手を切り飛ばされるも、野盗は右片手で戦斧を振り回してマスカーを凪ぐ。
「ほう。しかし、まだぁ!」
マスカーは、軽くステップバックで戦斧を避ける。
そして戦斧を振り回した為に態勢を崩し、大きな隙を作った野盗の左腹深くに平突きで日本刀を差し、そのまま左に切り裂いた。
そして苦痛で動きを止めた野盗の首を右凪ぎ一閃で切り飛ばす。
……見事なのぉ! もうローベルトやお父様とも良い勝負かもね。
「オマエら、まだやるか? ここで引かねば、皆殺しにするぞ!」
マスカーの宣言と同時に、先生が<魔法の矢>を四発放ち、狙い外さず四人の盗賊が倒れた。
「お、お頭がぁ!」
「に、逃げろぉ。こいつら魔法使いだぁ!!」
もはや烏合の衆になった盗賊達は、慌てて逃げ出した。
「ああ、逃げろ。そして、もう馬鹿なことを考えるなよ。そうすれば俺みたいに生きられるさ」
マスカーは、そう小声で呟き、日本刀を一閃した後、懐紙で血糊を拭った。
「状況終了なの! 皆様、お疲れ様でした。マスカー、ゲッツは周囲の安全確認を。先生とカティ、わたくしで馬車の方を見ますわ」
◆ ◇ ◆ ◇
「命を救って頂き、本当にありがとうございました」
馬車には行商の商人とその娘、そして徒弟が一緒に乗っていた。
馬車2台での行商、道中安全の為に護衛を十人ほど雇ったのだが、彼らが裏切ってしまったらしい。
山中深くなり人気が無くなった場所で、護衛達は急に立ち止まり、森の中から20人以上の盗賊が現れ、馬を殺し馬車の車軸を壊した。
後はわたしが見た通り、もう一歩で皆殺しに合うところだったそうな。
……最初から殺して荷を奪うつもりだったのね。
「いえいえ。困ったときはお互い様。わたくし達も先に進むのに盗賊は邪魔ですもの。しかし、雇い主を裏切るとは困りものですね」
ぱちぱちと焚火が燃える音がする。
結局、事態を完全に終わらせるのに夕方になってしまい、馬を殺され車軸が折れた馬車を放置できないので、わたし達はここで野営となった。
「しかし、皆様お強い。幼いあなた様が主人の様に見えますが、どなた様なのでしょうか?」
手当てを終え、包帯を数か所巻いた小人族の壮年な商人は膝に女の子を抱き、わたしの顔を見て尋ねた。
「えっとぉ。あまり大っぴらにしないで下さると嬉しいのですわ。わたくしの今回の旅は一応公務ですので。わたくし、ロマノヴィッチ王国、ニシャヴァナ男爵マクシミリアンの娘、クーリャ・マクシミリアーノヴァ・カラーシュニコヴァでございます」
……ちゃんとお作法勉強してて良かったのぉ!
わたしは、両手でスカートの裾を軽くつまみ上げ、貴族令嬢らしい名乗り上げをした。
「あ、マクシミリアン様のご息女でしたか! お父様には、いつも高級石鹸でお世話になっております。私から名乗るのを忘れてしまい、申し訳ございません。私は王国やドワーフ国、エルフ国の間を行商しております小人族のイポリト・ルハンと申します。こちらは娘のモニカ。あちらで手当てを受けている徒弟はセリノです」
……小人族まで、お姉ちゃん設定してたっけ? 確かスペイン語由来の名前だったはず。
小人族は、ドワーフ族よりも更に小柄で、少し尖り耳。
成人しても身長が130センチメートル程度でしかなく、やせ型。
その代わりに足が丈夫で大きく、裸足でも岩場を歩けるほど。
イポリトは、只人族なら5歳くらいに見える幼女を抱いてわたしに見せてくれた。
話によると妻を早くに亡くして、父子家庭で旅の空で子育てをしているそうな。
「モニカちゃん、言葉分かりますか? あなた、おいくつかしら? わたくしは、今年11歳になりますの」
「8つなの。おねえちゃん、助けてくれてありがとぉ」
モニカちゃんは、少したどたどしいけど言葉を話してくれる。
……小人族の独自言語は設定ではスペイン語だよね。日本語話すだけでも、すごいの!
「いえいえですわ。わたくし達が間に合って良かったですの」
「姫様、皆様の手当てが終わりましたわ」
「姫様、お夕食の準備も出来ましたのぉ!」
先生とカティが仕事を終えて、わたしのところへ来てくれた。
「姫様、遺体の処理終わりました。皆、火葬の上埋葬しました」
「姫様、馬車の方だが、片方は動かせるまで直せそうだ。でも、もう一台は無理だな。それに馬がいなきゃここから動かせないな」
遺体処理をしていたマスカー、そして馬車の様子を見ていたゲッツも帰ってきた。
なお、埋葬用の墓穴はトンネル魔法、火葬は火球魔法で行う様に学院の騎士過程で習うんだとか。
「皆さま、大変な仕事お疲れさまでした。マスカー、盗賊達の遺品で身元が分かりそうなものはありましたか?」
「いえ、どいつもこいつも大したものは持っていませんでした。小銭は持ってましたが、埋葬した上に置いて地獄への渡り銭にしました」
「そうですか。ありがとう存じます」
どうやら、ただの食い詰めた農夫・兵士くずれとからしい。
装備もマスカーが倒した相手、こいつが盗賊の頭だったっぽいけど、彼以外は大したものを持っていなかった。
「姫様、公爵領の北方では生活できずに村を離れる人も多いと聞きます。悲しい事ですが、それでは無いかと」
盗賊は全員、只人族。
そしてウチの男爵領は最近経済状況が好調で、棄民になったという話も聞かないし、今日通った街道沿いも栄えていた。
「先生、悲しい話ですわね。さあ、今日はここで泊ります。楽しい夜にするようにしましょうね」
「袖擦りあうのも何かの縁なのじゃ! 人助け、結構なのじゃ! しかし、棄民が盗賊となるとは悲しいのじゃ」
そうですね、チエちゃん。
この街道は最近裕福なクーリャちゃんのところ、そして公爵領からの旅人・商人が通行する上に、襲われた場所は最近政情不安定なドワーフ王国内。
盗賊が暴れ放題です。
「今回は、雇った警備兵が盗賊じゃったがな。先に馬や馬車の車軸を狙うとは、かなり手慣れておるのじゃ。最初に移動手段を破壊するのは、やり手じゃな。まあ、クーリャ殿の仲間達の前には無力なのじゃ。優れた指揮官の元、優秀な兵が戦えば烏合の衆なぞ、鎧袖一触なのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに!