第1話 (累計・第401話) クーリャ385:戦いの後始末。わたし、大変なのぉ!
第1話 (累計・第401話) クーリャ385:戦いの後始末。わたし、大変なのぉ!
「クーリャちゃん! 早く歩き過ぎだよぉ」
「エル様、遅いですよぉ」
「だってぇ、わたくし。忙しいですもの」
戦いが終わって一週間、わたしは忙しい日々を過ごしている。
一応、連合国軍の参謀の肩書を貰っていたわたし。
終戦後の決めごとについて、全部関与しなくてはならない。
未成年で少女なわたしが、連合国軍を率いて王都コンスタンティア奪還作戦の実行をする関係で役職が必要になり、参謀の立場を得た。
おかげで好き勝手作戦を実行でき、被害最小で王都は開放された。
「その代わりに戦後処理でひっぱりだこなのねぇ」
「クーリャちゃん、愚痴なのかい? あれだけ暴れちゃったんだもん。後が大変になるのはしょうがないって。でも、ボクが支援するからだいじょーぶ!」
「アタシもお手伝いしますね」
戦争は、始めるよりも終わらせるのが大変。
こと、敵の政治中心が失われ、誰と終戦調停すべきなのか不明な今回の戦争。
わたしは王国側の立場として、各国代表と毎日会議に明け暮れている。
……まあ、殆どの人が顔見知りかつ友達のお父さん達だから、思っていたよりは気楽だけどね。
「でも、戦闘直後にクーリャちゃんが倒れてしばらく起きてこなかったのは、ボク怖かったよ」
「アタシも心配しましたぁ」
戦闘直後、激しい睡魔に襲われたわたし。
そのまま二日程昏睡状態になった。
学院長先生曰く、制御魔力が膨大過ぎて体内魔力回路がオーバーヒートし、身体や脳を守るためにシャットダウンしたのだろうとの事だ。
「あの時は心配をかけてごめんなさい、二人とも。あ、この後の予定はどうなっていますか、ニーニエルさん?」
「はい、クーリャ様。オルロフ朝王家の方々との昼食会が待ってます」
エル君の側仕え、ニーニエルさん。
最近はわたしの秘書的な事もしてくれている。
わたしとエル君が、正式に婚約関係になったのもあるのだろう。
「クーリャちゃん、ボクね。君の一生が欲しいんだ。ボクと一緒に居てくれる?」
「はい、喜んで。ただし、これ以降他の女の子のお尻を触ったら即、婚約破棄ですからね」
昏睡から目が覚めた時、目の前にエル君がいた。
そして幼いながらも優美な顔を赤く染め、わたしにプロポーズをしてくれた。
まだ寝起きで半分頭がボケていたわたし、夢の中でエル君とイチャイチャしていたのもあって、即答してしまった。
「だからって、いつもわたしのお尻に手を置いているのはどーかと思うの、エル君」
「だって、こうしていないとボク他の女の子を触りに行くんだもん。それにクーリャちゃん、今は怒っていないでしょ?」
ということで、今もお尻を揉まれているわたし。
いくら次の会談場所への移動中とはいえ、他の方々の目がある場所でいちゃつかれても恥ずかしいだけだ。
「あのね、エル君。二人きりの時は何やっても良いって許可したけど、公衆の面前で恥ずかしい事してくれるのは止めて欲しいんだけど?」
「えー、クーリャちゃんの恥ずかしがり屋さんってば、ばふぅぅ!」
調子に乗るエル君、今度はわたしのささやかな、本当にささやかな胸を揉んできた。
流石にわたしも堪忍の緒が切れ、容赦なく蹴りをエル君の腹にぶち込んで吹っ飛ばした。
「エル様、流石に破廉恥ですぅ」
「はぁ。親子そろってエロフなのは困りますわ」
背後で女性側仕え達が揃って愚痴る。
「姫様に春訪れる。自分もナターリャと早く家庭が持ちたいものですね」
警護しているマスカーからの呟きも、ぼそりと聞こえる。
周囲からも爆笑の声が聞こえるのは、とても恥ずかしい。
どうして公衆の面前で、わたしはエル君とイチャコラギャグをせねばならないのか。
わたしは、簡単に婚約をしてしまった事を後悔した。
……エル君のばかぁぁ!
◆ ◇ ◆ ◇
「クーリャ様。お忙しい中、わざわざ昼食会に来ていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、殿下。王族が下々に簡単に頭を下げては困ります」
「二人とも、今日は見知った方ばかりだから、普段通りにしないかしら?」
王家との昼食会、しかし王家側に座っているのは見知った同級生。
「カトリーヌ様のいう通りで良いかしら、アレクセイ殿下?」
「……そうだね。僕達だけなら、今更だもんね」
「それでは。カトリーヌちゃん、婚約おめでとー」
「それを言うならクーリャちゃんもだよぉ。エル君、絶対に余所見しちゃダメだからね」
カトリーヌちゃん、終戦後アレク君からプロポーズをされた。
一番苦しいときに寄り添い、共に戦ってくれた事でアレク君が惚れてしまったんだとか。
「ボク、そんなに信用無いかなぁ。本命はずっとクーリャちゃんだったんだけど?」
「でも、他の子のお尻狙っていたのは誰かな? エル君、君はずっとクーリャちゃんを守ってあげてね」
前王様以下、王族全員の生存は確認された。
しかし、愚王ルドルフの悪行にてアレク君以外の王族は意識を奪われ、傀儡となっていた。
更に王女様は兄ルドルフによって辱めを受けていたとも。
「でも、お父様お兄様たちの治療の目途が立ってよかったですわね、アレク君」
「それもこれも、クーリャちゃんのおかげだよ。やっぱり君は『英知の聖女様』だったんだね」
「アレク君まで、わたくし恥ずかしいですぅ」
戦闘終了後、学院長先生は学院に帰り、早速学院の図書館に籠った。
図書館には過去の呪術、魔法に対する資料も多く残っていて、今回邪神やルドルフ、アキム様が行ってしまった魂のコピペ呪法についての対策を探すためだ。
「まさか、お姉ちゃんがまた仕掛けしていたのはびっくりでした」
学院長先生が図書館で本を読んでいた時、とある感覚を覚え書棚を見たそうだ。
そして見覚えのない背表紙の羊皮紙本を見つけ、そこに真っ白な植物紙でメモ書きが挟まれていたのを発見した。
「クーリャちゃんへプレゼント byお姉ちゃん」
メモ用紙にはそう書き込まれており、メモ書きが挟まったページには魂を操り移し替える呪法が書かれていた。
また、その際にすり減る魂を回復させる方法も同時に書き込まれていた。
「ボクも学院長先生に教えてもらった時はびっくりしたもん。明らかにオーパーツだもんね、漂白した植物紙なんて」
「お姉ちゃんらしいイタズラね。でも、これで皆を救えるのなら、イタズラ大歓迎なの!」
夢で出会ったときに、公爵領で行われていた非道な呪法についてお姉ちゃんに話していたのが、役になったのだろう。
追加シナリオによって時間がさかのぼり、歴史改変から打開策が出来たのだから。
「父上とは既に会話も出来ました。他の方々も順調に回復中です。ルドルフ兄上は、どうなるかはまだ分かりませんが」
ルドルフの「身体」は地下遺跡、ドラゴンゴーレムが収容されていた場所で発見された。
長年、異界からの魂によって寄生されていたルドルフ殿下。
他の王族以上に魂が空っぽ、廃人になっており、今は学院長先生やシルヴァリオ様を中心に治療プランが練られている。
彼の治療が出来るのであれば、他の魂を無くした方々も回復できる可能性が上がる。
是非とも学院長先生達には頑張って欲しい。
「クーリャちゃん、君は王国を、いや世界をどう変えたい?」
「そうですわね、アレク君。皆が笑って自由に暮らせる世界を望みますわ」
わたしは目指す、世界を幸せにすることを。
せっかく権力を得たのだ、ワガママを通すのは今だ。
誰もが笑顔で居られる世界、それを目指すのに誰にも文句を言わせない。
「もちろん、ボクも全力協力するね、クーリャちゃん!」
「アタシ、姫様に一生くっついていきますよー!」
私に怖いものはない。
愉快で素敵な仲間達が一緒なら何でもできる!
この時のわたしはそう思ったのだった。
「ぱふぱふ! いよいよ物語のエピローグなのじゃ。何処か寂しいのじゃが、笑って終わるのが一番なのじゃ!」
チエちゃん、タイトルコールありがとうね。
さて、一年四カ月に渡って描いてきました爆裂令嬢クーリャちゃんの物語。
今日でラスト、可愛い子達いっぱいで書いていて、とっても楽しい時間でした。
「お疲れ様なのじゃ、作者殿。さて、次はどうするのじゃ?」
そうですねぇ。
まずは『六波羅探題』のラスト書いて、リーヤちゃんの外伝書いて、新作の構想でも練りましょうか。
「作者殿、頑張るのじゃぞ。書籍化も夢ではないのじゃ!」
ありがとね。
では、明日の午前8時過ぎにまた!




