第38話 クーリャ33:足元固めに頑張るわたし! 敵も味方にスカウトしちゃうの!
「ヴァルラム。話はクーリャから聞いた。貴殿は、クーリャの騎士になりたいとの事だが、どうなのだ?」
「マクシミリアン様。自分は、本来貴方様方を襲った敵。そのまま打ち捨てるも殺すのも自由なのにも係らず、姫様は自分をお救いになり、また騎士としての誇りも守って頂きました。付きましては、このご恩をお返し致したく思いました」
今日は、ヴァルラムのわたしへの仕官話。
ヴァルラムの病室へ、お父様、お母様、先生、デボラ、ローベルト、カティ、そしてわたしが居る。
「それはキリキア公爵様やアントニー様を裏切るのと同意だが、それは騎士としてどうなのか?」
「もちろん、一旦仕えた主君を裏切るのは騎士としては論外でございます。しかし、元主君は自分に卑怯な勝負をするように持ちかけ、更に破れた自分に領主暗殺をさせるような邪悪でございます。その上、自分の騎士としての誇りさえも奪ったのです」
ヴァルラムはベットに身を起こし、しっかりとした眼でお父様を見て、答える。
「そして用済みとばかりに、自分共々皆様にあろうことか司祭を暗殺者として送るような、人としてあるまじき者。向こうから先に自分を裏切ったのですから、これは裏切りにはなりませぬ」
「確かに公爵様は、主君としては論外だな。まあ、貴族として国家や領内を肥やす為に清濁併せ呑むのは、私でも同じ。私も、決して綺麗な身では無い。その分、我が娘クーリャは綺麗なものだね」
「お父様、わたくしを茶化さないで下さいませ。今は、ヴァルラムの事ですわ」
わたしの方を見て、話を脱線させるお父様。
もしかして、硬くなりそうな場を和ませているのかもしれない。
「さて、公爵様から縁が切れているのは納得した。後は貴殿の問題だ。ローベルトから色々聞いているが、過去に傲慢な面が多く見られている。それは、どう弁解する?」
「はい、それに関しましては申し開きをするつもりもありません。幼少期より厳しい亡父からずっと、騎士は負けてはならぬ、勝利の為には手段を選ぶな、そして強い騎士は傲慢であれ等と言われていました。父自身、卑怯な手を使われて一生剣を握れぬようになったので、その反動ではなかったかと、同じく剣を握れなくなった今になれば思います」
ヴァルラムの視線が下がり、満足に動かせない己の腕を見る。
「そうか。今回の事で己を見直せたのだな。では、その動かぬ身で娘にどう仕えるのだ?」
「自分には学院で学んだ知識、技能がございます。そして公爵様の身近にいましたので、彼の動きも予想できるかもしれません。今回の事で、公爵様やアントニー様は姫様をますます警戒するようになったと思いますので。自分は、姫様に全てをお授けしたいと思います」
「では、クーリャが死ねと命じたら貴方は死ぬのですか、ヴァルラム?」
お父様に問われたヴァルラムは、自分が知る事をわたしに伝えると言ってくれた。
そんな中、お母様は、突然とんでもない事を言い出す。
「お母様、何を言うのですか? わたくし、間違っても誰にもそのような命令は出しませんわ!」
「それは軍勢を指揮するものとしてはダメですわよ、クーリャ。時には、指揮官は可愛い部下に死を前提とした命令を出す必要がありますの。これから貴族が率いる軍勢と戦う貴方には、その覚悟が必要ですわ!」
「それはその通りでございます、ニーナ様。殿、囮、その様な重要な任務を頂けますのは、騎士としては誉れでございます。はい、自分は姫様に命を救っていただいたものです。姫様に『意味のある死』を命じられれば、それに従います。信じられないとおっしゃられるなら、誓いの呪詛魔法を使います」
ヴァルラムは、お母様の意見が正しいとしてわたしに忠誠を誓ってくれた。
更には裏切ったら死ぬ呪いすら、自らに掛けるとも言う。
……むーぅ。確かに戦略・戦術で捨て奸が『正しい』のはわたしも知っていますの。伊達に前世で『孫子』を読破していませんわ。だからこそチートを使ってでも、そのような哀しい作戦を命じずとも勝ちますのぉ!
前世世界での関が原の戦い、窮地になった薩摩の島津。
死ぬまで殿が敵を足止めするという「トカゲの尻尾切り」を何回も繰り返す戦法、つまり「捨て奸」を行って主君を逃がしきった。
漫画にもなった「妖怪首置いてけ」島津豊久は、この際に今風に言えばMIAになった。
……しっかしヴァルラムって極端。狂信者傾向あるのかもね。だから公爵に裏切られても従っていたのかも。
「なら、わたくしからは何も言いませんわ。マクシミリアン様、貴方はどうされますか?」
「あのね、先にそんな事言われては、僕の言う事なんて何も無いよ。ホント、ウチは領主の僕を放置する事が多くて困るよ」
お母様に全部取られたお父様は苦笑をした後、表情を引き締めた。
「さて、ヴァルラム。ウチは見ての通り小さくて何もないところさ。そして、君らが嫌う亜人達も多く住む。それでも、かつての主君を倒す事になろうとも構わないんだね」
「はい! 自分は、動けぬ身になりまして獣族の方々に多数お世話になりました。また、マクシミリアン様やクーリャ様達が多くの他種族の方々と仲良く領地を築いているのを見て、自らの愚かさに気が付いたのです。何も出来ぬこの身ではありますが、最悪姫様の盾、公爵様への生贄くらいにはなります! 是非とも御願い致します」
お父様へ最後の質問を受けたヴァルラムは、お父様へしっかりと眼を合わせた後、頭を深く下げた。
「じゃ、後はクーリャに任せるよ」
「お父様、ありがとう存じます! さて、これでわたくしの騎士は2名になりましたの!」
……うふふ、これで破滅フラグを一個ふっ飛ばしたの! お父様を殺しに来る騎士が、少なくともヴァルラムじゃなくなったわ。『ゲーム』で覚えている限り、今のアントニーの手勢でヴァルラム以上の騎士は居なかったはずだもん。
「ちょ! ローベルトは僕の騎士だよ? なんで、クーリャは僕から配下を全部取っちゃうの?」
……あ! しまったのぉ。このところ、ずっとわたしに付いてくれていたから勘違いしてたのぉ!
「えーっとぉ。姫様、自分はマクシミリアン様に一応仕えています。もちろん姫様に対しても騎士であるのは代わりませぬ。第一、ヴァルラムよりは自分の方が強いですから!」
「おい、ローベルト! 聞いた話では、前回の決闘は姫様の入れ知恵があったからじゃないか。同じ条件でもう一度決闘、いや試合を申し込む! 今度は同じ主君を担ぐ仲間として競うのだ!」
「あのね、2人とも落ち着いてくださいませ。第一、ヴァルラムは『まだ』動けないんですから、試合はヴァルラムが治ってからね」
今度は、わたしの騎士一番を争い合う2人。
この2人、実は仲が良いんじゃないかと今になれば思ってしまう。
「それですが、姫様。以前、貴方様に恩義をお返しするとお話しした時もおっしゃられていましたが、本当に自分の麻痺を治せるのですか?」
「まだ可能性の話ですけれども、不可能では無いとも聞いていますわ。デボラ、どうですか?」
「はい、確かにわたくしが使えます上位治癒魔法<全快>で、身体を完全体へと治す事は可能です。ただ、わたくしの魔力量では成功確率は低く、触媒的なものも必要です。更にヴァルラム様の怪我の状況を詳しく把握せねば難しいと思いますわ」
……ふむぅ。だったら、わたしはチートでなんとかしちゃうの!
「そうですか。では、魔力と怪我の状況調査に関してはわたくしがなんとかします。触媒については、……。お父様、お願いできますか?」
「一人娘の頼みとあればしょうがないか。ヴァルラムよ、貴殿の為に我らは動く。間違っても公爵様のように貴殿を使い捨てる事は無い! 今後はクーリャを守ってくれないか?」
「御意! この命に代えましても」
こうして、わたくしは味方をまたひとり増やしたのだ。
「これでクーリャ殿は、フラグを一つ爆破したのじゃな。まずは一歩からじゃが、偉大な一歩なのじゃ!」
ええ、将棋で言えば角クラスのコマを敵から手に入れた形ですね。
そして、次はお父様のターン!
ここから公爵様をイジメて、もうウカツに手出しさせないように頑張ります。
「それも楽しみなのじゃ! 作者殿、頑張って物語を紡ぐのじゃ!」
はい、チエちゃん。
頑張りますね。
さて、次回くらいで第一章は終わり。
次のフラグがクーリャちゃんを待っていますぞ!
「うむ、楽しみにしておるのじゃ! 皆の衆、ブックマークなぞで応援をよろしくなのじゃ!」
ではでは!