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第36話 クーリャ32: 戦うわたし! そして……。

 ……うわぁぁぁ!!


 前世家族の声で金縛りが解けたわたし、全ての力を込めてお母様を殺そうとする司祭アフクセンチーに体当たりをした。


 ……お母様を、皆を守るのぉぉぉぉ!


「なにぃぃぃ!!」


 まさかターゲットのわたしの方から飛びかかってくるとは思っていなかったのか、わたしの突撃を避けきれなかった司祭の腹部深くにわたしの頭が突き刺さった。

 そして、わたしが飛びかかった勢いで司祭は吹き飛んでいった。


「はぁはぁはぁ」


 いつのまにか司祭の<沈黙(サイレンス)>魔法の効果が切れ、わたしの息切れをする声が聞こえてきた。


「クーリャ!」


 お母様が叫ぶ声が聞こえる。


「わたくしは大丈夫ですの! お母様は……。あ! カティは、大丈夫!?」


 頭突きをした頭が少々痛いけど、他は大丈夫。

 毒付短剣にも当っていない。


「姫さまぁ……」


 小さく弱いけど、カティの声が聞こえる。


「良かった、生きていますのね。あ!! 司祭は!?」


 わたしは、急いで吹っ飛んでいった司祭を見る。


「ま、まさか、ワシが、あんなガキにぃ。ぐぅぅぅ……」


 倒れている司祭は、起き上がり苦々しくわたしを見る。

 そして次に己の腹を見た。

 短剣が深々と刺さった己の腹を。


「あ!?」


「姫様、もう手遅れですわ。この毒は、即死毒ですの。こちらの獣族の戦士は自ら仮死状態になって生き延びましたが、只人(ヒト)族では……」


 毒を受けた獣族の隠密方を解毒魔法で癒しているデボラ。

 司祭の方を見て、首を振った。


「ぐががががが、あぁぁぁぁ!!」


 数秒間激しい痙攣を起こし、そして叫んだ直後にピタリと動きを止めた司祭。


「死にましたわ。悪党の末路としては哀れで惨めなものですのね」


 お母様が、悲しげにラマンを抱きしめながら呟く。


「わ、わたくしが司祭を殺しましたの?」


「クーリャ。これは正当防衛です! 貴方は何も悪くないのです。神が貴方の手を借りて、神に仕えながら悪を成す悪鬼を討っただけですわ」


 お母様は、「人殺し」をしたわたしを慰めてくれる。

 

 ……そう、悪党を倒して何が悪いの! お母様や皆を殺そうとするヤツをやっつけただけなの! わたしは何も悪くないの!


 心の中で自分を鼓舞するわたし。

 しかし、わたしは、苦悶に歪んだ司祭の死に顔を見て、胃液が上がってくるのを感じた。


「う、うぅぅぅ……」


「奥様、姫様! ご無事ですかぁ!! あ、姫様ぁ」


「すまない、間に合わなかったのか。え! クーリャ、大丈夫か!?」


 わたしは、急いで駆けつけて来たローベルトやお父様がわたしを心配する声を聞きながら、胃の中身をボトボトと吐き出す事しか出来なかった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「なんだ? えらく湿っぽい顔だな? それは、お前には似合わないぞ?」


「ヴァルラム、姫様になんて事を言うんだ!? 姫様、お気になさらずに。コイツの相手など今なされなくても……」


「ありがとう、ローベルト。でも、これはわたくしの仕事ですわ。仕えてくれる者を支え守るのも主の役目ですから」


 司祭によるわたし達の暗殺未遂事件から3日後。

 あの後、寝込んでいたわたしだけれども、今朝になってようやく起きられたので、自分の仕事、ヴァルラムへのデザート持ってのお見舞いをしている。


「ヴァルラムもありがとうね。態々(わざわざ)憎まれ口まで言ってわたくしを励ましてくれるだなんて」


「ふ、ふん。今の俺は、お前のお情けで生きている。なれば、騎士として恩義の一つくらい返すのは当たり前。それに、お前に何かあったら俺はデザートを食べられなくなるではないか?」


 顔を真っ赤にして、視線をわたしから外すヴァルラム。

 この捻くれ者でも、わたしの事を心配してくれているようだ。


「そうですわね。元気だけがわたくしの取り得ですもの!」


「姫様の取り得は他にもありますよ。とっても優しいところとか、賢いところとか、一直線に飛び出しちゃうところとか」


 カティは、わたしを慰めようとしているのだけれども、最後のはちょっと違う気もする。


「わたくし、そんなに暴走しちゃうんですか、カティ? 貴方もわたくしを助ける為に突撃したのに?」


「あ!? そーでした。姫様、ごめんなさい。でもぉ、今回も姫様の暴走で皆助かったの。ありがとうございましたぁ」


 カティは、わたしを助けたい一心で司祭に突撃したものの、動きが俊敏な獣族ということで、彼女から警戒を切っていなかった司祭に避けられた上に蹴り飛ばされた。

 あの時、カティは口から出血していたが、内臓に傷がついたのではなく、歯で口の中を切っただけだった。


 隠し部屋が司祭にバレた件。

 司祭が何故か「子供部屋」では無く、地下倉庫に入ってきたので、監視していた隠密方獣族の人が慌てて阻止行動に移ったかららしい。

 彼は、後からお父様に隠し扉露見で叱責はされたけど、良く時間稼ぎをした、そしてよく生き延びたとも褒められていた。


 ……司祭って妙な動きしていたものね。案外、隠密方の人が何もしなくても隠し扉バレていたかも。


 そして、わたしの「暴走」。

 考えなしの身体強化魔法を使っての体当たり。


 ……今思ったけど、毒付き刃物持った相手に体当たりは考え無しすぎだったかも。普通は遠距離から仕掛けるものだしぃ。


「後から話を聞いて、自分は死にそうになりましたよ。まさか、毒短剣を振り上げた相手に突撃頭突きをなさるなど……」


「それは、俺でも予想しないぞ。さすが俺を倒した姫だな。あのどんくさい司祭では避けられも出来まいて」


 自らの毒短剣を腹に刺して死んでいる司祭とわたし達を見たお父様とローベルトは、とても驚き心配してくれた。

 そして、後から話を聞いたヴァルラムも、呆れつつわたしの攻撃を賞賛してくれた。


「あ、あの時は、このままではお母様が殺されると思って必死だったのです。<沈黙>魔法下でありながら何処からかの声を聞いて、金縛りが解けたわたくし、最近お父様やローベルトに教えてもらった身体強化魔法を使っただけですわ」


 どうして、あのタイミングで前世両親や姉の声が聞こえたのか。

 そして「眼を覚ませ」と3人とも言ったのか。


 ……謎は多いけど、今は調べようもないですの。とりあえずは、お父さん達に感謝ね。


 体内魔力を動かす訓練を終えたわたし、今度はそれを応用した身体強化魔法をお父様達に教えてもらっていた。


 身体強化魔法にもいくつかの技法がある。

 身体全体に魔力を纏わせてパワーアップする方法。

 また、足元に集中し爆発的に放出することで高速移動をする「瞬動法」。

 他にも、拳に纏わせてパンチ力アップや視力などの感覚強化とかの技術もある。


 ……ローベルトやお父様が戦っている時に、自らの身に行っている常在型の魔法ね。覚えておいて良かったですわ。


「まさか司祭も、姫を侮って『瞬動法』で突撃してくるとは思わなかったんだろうな。あいつ、神殿でも弱いものイジメやっていたし」


「それで、自分は『か弱い』ご婦人子供相手だったのか。神に仕える者として最悪だな」


「ああ、ローベルト。だからバチが当ったのさ。まあ、俺もバチが当ってこんな障害持ちの身体になっちまった。だからお前、いやクーリャ姫様。貴方様は、一切気に悔やむ事はありません。思うがまま、貴方様が正しいと思うようにお過ごしくださいませ。これは負けた者から、そして貴方様に助けられた者からの忠告です」


 ヴァルラムは、急に(かしこ)まった顔になってわたしを慰めてくれた。


「ありがとう存じます、ヴァルラム。貴方に、まさか真剣に慰められるなんてね。では、貴方を正式にわたくしの騎士に雇います。お父様達の許可を得て、貴方の治療計画も考えなきゃですわ。歩けない騎士にタダメシを食わす程、わたくしお金持ちじゃないのです」


「そ、それは?? 確かに、俺はクーリャ様に恩義は返したいとは言いましたが?」


「恩義をわたくしに返したいのでしょ、ヴァルラム。それならわたくしの騎士になるのが一番ですの!」


 クエスチョンマークを浮かべたヴァルラム。

 その様子に、わたくしは3日ぶりに笑えた気がした。

「クーリャ殿。司祭を殺したのを引きずらねば良いのじゃが……。PTSDとかにもなる可能性はあるのじゃ」


 故意では無いとは言え、クーリャちゃんの一撃が死の引き金になったのですから、クーリャちゃんの心に傷が付かないはずは無いです。

 これを、どう乗り越えるのか。

 そこが、今後の課題でもあるんでしょうね。


「うむぅ。ワシが直接行けるのなら、いくらでも慰めるのじゃ。可愛い女の子が泣くのはワシ、イヤなのじゃ!」


 チエちゃんのご好意には感謝しますが、いまはご遠慮を。


「みゅー。しょうがないのじゃ。まあ、いずれはワシの出番もあるじゃろうから、今から準備しておくのじゃ!」


 ちょ!

 勝手に物語世界に介入しないでくださいね、チエちゃん。


「うふふなのじゃ。読者の皆の衆、ワシの活躍を期待してブックマークなど宜しくなのじゃ!」


 もー、勝手に宣伝しないでよね。

 では、明日の更新をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人を殺めてしまうというのは、どうしても心の傷として残ると思いますが、これも大切な人を守るためで……乗り越えていって欲しいなと、思います(;´・ω・) とにかく、ヴァルラムさんが正式に騎士に…
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