第16話 (累計・第359話) クーリャ345 子爵領攻防戦10:ルカVSアクエン! 決着の刻。
「はぁはぁ」
「あれ、もう息切れですか、アクエン殿。歳は取りたくないですね」
アクエンは、大きく息を切らせながらも曲刀を振るう。
しかし、一向にルカには届かない。
「ど、どうして俺の剣が届かない!?」
「さて、それはどうしてでしょうか?」
ルカは軽口でアクエンを弄ぶ。
そして隙を見逃さないようにしつつも、攻撃をいなしていた。
実際、アクエンの操る曲刀の刃筋は通っていて、自分よりも技量は上に思える。
……多分、そろそろ攻め時だとは思うけど、どうしようかな?
しかし、ルカもそろそろ焦れてきていた。
身体強化と視覚強化、思考加速魔法を行使しているので、向こうの攻撃を完全に無効化は出来ているが、防御に徹しているから凌ぎ切れているだけ。
こっちの攻撃が一撃でも通る訳でも無い。
アクエンよりもスタミナの問題は無いけれども魔力残量もあり、ずっとこのままという訳にもいかない。
……俺にはサロモンのような剛力もアレクみたいな技量も無い。更に言うならトモエみたいな大技も無い。でも、クーリャちゃんやテノ様の前で恥ずかしくない剣にはなりたいと思って修行したんだ!
「クソガキめぇ、ちきしょぉ!」
飛び掛かる様に上段からの無茶な大振りをするアクエン。
その必死な表情に、ルカはチャンスだと思った。
ルカは、クーリャから教えてもらった「切り落とし」からの一撃を狙う。
……あれ? これは俺がクーリャちゃんと戦った時の逆だ! じゃあ……。
しかし、ルカは違和感を感じた。
あまりに、アクエンの動きが単調だから。
自分よりレベルの高い剣士の技には思えない。
もしかすると、自分がかつてクーリャに対して秘技を狙ったときと同じ、フェイントではないかと。
また、アクエンの表情も何か含みがある様に見えたから。
思考加速状態のルカはアクエンの動き、こと曲刀を持つ右手では無く左手に注目した。
頭へ目掛けて振りかぶってくる曲刀、刃が己に迫るのを眺めるルカ。
しかし視線の端で、アクエンの左手に握った短剣も見えた。
何か黒い液で濡れた短剣は、するどくルカの腹部を狙って突き出される。
……だったら、この技だ!
ルカは剣を持ち替え、剣先で円を描く。
魔力で輝く剣は円の上半分で曲刀を弾く、そして下半分で短剣を握った左手首を深く切り裂いた。
「ぎゃ!」
曲刀と毒短剣を取り落とし、しゃがみ込んで切られた左手首を右手で押さえるアクエン。
「<ホウライ偃月斬>! 勝てば官軍……だったな。これで勝負あり。まだやるか、アクエン殿?」
「ち、ちきしょぉ!」
落としていた曲刀を右手で拾い、立ち上がりながら斜め上への斬撃を放つアクエン。
ルカは両手で握った剣を下から上へと薙ぎ、己に向かう曲刀を上にかち上げる。
そして大きく踏み込み、アクエンの胴に強烈な横薙ぎの一撃を放った。
「ぐぅ……」
曲刀を落とし、腹を押さえ込んで九の字に倒れるアクエン。
ルカは残身を忘れず、しばし倒れたアクエンの様子を見るも、立ち上がらないのを確認する。
そして曲刀と毒短剣を遠くに蹴り飛ばしてから、己の剣を懐紙で拭った。
「ルカ様、お見事です。最後の一撃は手加減ですか?」
「ええ。こいつは俺が切る価値も無いですからね」
倒れ伏すアクエンはピクピクと痙攣を起こしているも、鎧の腹部装甲が大きく凹んだだけで手首以外には大きな出血も無い。
ルカは、最後の一撃を放つ際に剣をひっくり返し峰打ちをしたのだった。
ちょうど落ちていく夕日が、刃を光らせている。
刃先に大きな破損が無いのを確認し、鞘に戻すルカ。
「はぁ。これで戦いも終わり。完全勝利ですね、ゲッツ」
「ええ、さあ凱旋しましょ、ルカ様」
「俺達の勝ちだ! これでもう安心だぁ!」
落ちてゆく春の日の中、戦士達が勝利の鬨の声を上げていた。
……クーリャちゃん、テノ様、父上。俺は立派な剣士になれましたか?
ルカは、晴れやかな顔で夕焼けが始まる空を見上げた。
◆ ◇ ◆ ◇
「見事なり、ルカ。剣技も凄いな。何処か蓬莱風にも見えるがな」
「陛下、なかなかなお目でございますね。ルカ様の剣技は蓬莱の剣姫、トモエ様からの伝授です。王国流よりも相性が良かったらしいです」
CICからスクリーン越しに戦場を見回す匈奴皇帝、単于とマクシミリアン。
戦闘が全て終わり、子爵陣営は被害もほぼ無く完全勝利ともいえる状況。
その上、敵の情報も多く入手できた。
「傀儡にした兵を使う事。これが王家暗殺事件の答えでは無いかな?」
「陛下もそうお考えですか。詳しい事はクーリャが帰ってきてからの事になりますが、この先の事を考えば王との戦いも気が重いですね」
大人達は今後を考え、頭を抱える。
「陛下、マクシミリアン様。今は皆の無事を喜びましょう。大きな被害も無く敵の撃破。更には敵本陣の制圧。もう完全勝利ですわ」
「そうですね、アナスタシヤ様。皆様、今は子供たちや兵士の方々の無事を素直に喜びましょう」
しかし、若者たち、アナスタシヤとナターリャは仲間達が全員無事で戦いが終わった事が嬉しいと笑いあう。
「そうだな。ますは一勝、されど一勝。おごり高ぶり事も無く、今の勝利を喜びましょう」
マクシミリアンはCIC内の笑顔を見回し、安堵した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ。デク人形を抱いててもあまり面白くは無いなぁ。血族だから肉体の相性は良いのだが……」
獣脂ランプの灯りだけが灯る暗い寝室の中。
何一つ表情を変えない栗毛碧眼娘を抱く英雄王ルドルフ。
王になる前までの軽薄な雰囲気は減り、どこか狂気じみた表情も見え隠れしている。
「お楽しみのところ、毎度申しわけありません。陛下」
「ん? 本当に毎回、俺が女を抱いている時に出てくるのだな、指導者殿は」
ベットの横の陰からぬるりと漆黒の肌をした魔族青年が現れる。
ルドルフは仕方ないという表情で娘から身体を離し、腰回りをシーツで隠す。
「それは毎回、陛下がお楽しみだからかと。さて、本題に入ります。キリキア公爵アキム殿が敗北、子爵軍により捕縛されました」
「何! それはどういう事だ? アキムは無数のゴーレムを要していたし、確か今は子爵領を攻略中だぞ?」
報告では現在、子爵領を攻略中と聞いていたルドルフ。
しかし逆に攻め滅ぼされたと聞けば驚くしかない。
「それが攻略中に空中から逆侵攻、ルドルフ陛下の元世界で言うところの強襲空挺を直接受け、ゴーレム工房及び公館が制圧されました」
「く、空中から攻められただとぉ! あの小娘は何処まで斜め上で舐めた事をしてくれるんだぁ!」
寝室で吠えるルドルフ。
その叫びにもベット上の裸身な娘、元第一王女アデリーナは目を見開いたまま、あらわな胸を隠す事どころか身動き一つもしなかった。
「なんと、ルドルフめが妹を抱いたのかや!? 王族は皆殺しになっていたと言っておったが、生き残りもおるのか?」
下衆なルドルフ、悪行には事足りません。
一つの戦いは終わったが、まだまだ戦いは続きます。
この先、物語がどうなるのか見て下さいね、チエちゃん。
「読者の皆の衆、あともう少しお付き合いを頼むのじゃ!」
それでは、明日の更新をお楽しみに。




