第9話 (累計・第352話) クーリャ338 子爵領攻防戦3:二日目開始! いよいよ戦端が開かれるの。
夜明け前、古語では彼は誰時とも呼ばれる時間。
薄暗い森の中を兵士達が東に向かう。
「後方、付いてきてるか? 足元に気を付けて進めよ。まったく『処置』された奴らは素直に言う事を聞くが、融通が聞かなくて困るぜ」
東洋風な兜を被る男が、足元を気を付けながら深い森の中を進む。
その背後には無言で歩む兵士達が居た。
「しかし、王国を襲って捕まった俺達が、今度は王国軍として俺達を倒した反乱分子のクソメスガキを襲えるとはね……。これで仕返しできるぜ、ははは」
兜の中で苦笑いをしながら日が昇るのを見上げた男。
しかし、次の瞬間背後で爆発が起きて驚いた。
「い、一体なんだ!?」
男の目には空を飛ぶ「何か」が朝日を受けて輝いていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おい、トルタイ。本当に俺達は待機で良いのか? このまま何もしないのでは、兵を持って来た意味が無いぞ?」
「単于陛下、今しばらくのお待ちを。いずれ敵は燃える森から飛び出して来ます。そこを一気に襲い殲滅するというのが、クーリャ姫様の策でございます。姫様は、我らの損害を最も少なくかつ最大の戦果を上げられる様お考えです」
「そうか。なら今日のところはクーリャに従おう。しかし、あのように上から攻撃をされたらたまらんな。トルタイよ、よくお前はアレから生き残れたのだな」
「そこは運かと思います。それとウチの百人隊長の判断が早かったのもあるかもですね」
COIN機からの空爆で燃えさかる森を見ながら待機中の単于。
圧倒的かつ一方的な戦闘を見て、身震いをした。
……うむ、クーリャには味方で居てもらうのが一番だな。あの娘は怒らせずに仲良くしておれば、色々便宜も図ってくれるしな。
これからの王国、クーリャとの付き合いを考え、今回出兵して貸しを作れたことに安堵する単于であった。
……貸しというか借りの一旦を返せただけか? ははは。
「陛下、敵兵が飛び出して来ました」
「うむ。では銃兵及び弓兵、引き付けて一斉射。そののち、残党兵を騎馬兵で囲みこんで殲滅するのだ!」
「御意!」
爆撃されて燃えさかる森から飛び出す様にしてきた兵らを撃ち倒す匈奴軍。
そのうち、指揮官らしき者が森から飛び出し、驚愕の表情で叫んだ。
「ど、どうして! ぜ、単于陛下が、こんなところでクソメスガキの味方をしているんだぁ!?」
「ん? 皆の者、射撃をやめよ! 騎馬兵、アヤツを囲みこんで生かして捕らえよ」
「御意!」
慌てふためく敵指揮官を見て、首を傾げた単于であった。
◆ ◇ ◆ ◇
「よし、攻撃開始!」
お父様の宣言で、野戦仕様の榴弾砲からの砲弾が鉄の雨として朝日に照らされるオルメダ村に降り注ぐ。
爆炎が見えた後、しばらくしてから衝撃と音が飛行場にも響いてきた。
「クーリャちゃん、ボク達の出番はまだだよね?」
「ええ、エル君。敵にはワイバーン・ゴーレムがまだ居ます。そいつを撃墜してからになりますね」
わたし達は、公館からやや南東に作られた飛行場にいる。
大型輸送機の中、空輸モードになっているテストゥード号の中から、CIC経由の映像を見ている。
……輸送機が安全に公爵領へ侵攻するのは、ワイバーン・ゴーレムが邪魔だもんね。
ビリビリ!
輸送機の壁ごしに、振動が響いてくる。
輸送機の小さな窓越しに音源の方向を見ると、エンジンをブン回す魔力ジェット機が見えた。
……魔力ジェット機、デザイン的には前世世界のF-20っぽいの。単発エンジンだけど、早いよー!
「クーリャ、あれがジェット機なんだ。矢みたいな形でカッコいいね」
「ええ、ダニエラ。速さはプロペラ機よりも早いの。音の速さまでは、たぶん出ると思うわ。その代わりに航続距離は少し短いんだけどね」
技術に詳しいドワーフ族なダニエラが、ワクワク顔でジェット機を見ている。
とうとうジェット機すら実用化できたわたし。
このまま力押しで勝ちたいものだ。
「クーリャちゃん。ワイバーンが砲撃避けて飛びあがったみたいだよ。CIC情報だと、今からジェット機が迎撃に出るみたい」
「じゃあ、わたくし達ももうすぐ出番ね」
窓の外では、ゲッツとゴットホルトさんがジェット機に最後のチェックをしていて、OKサインを出していた。
「さあ、皆。ここからが本番なの!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「マクシミリアン様、ただいま迎撃のためのジェット機が離陸しました!」
「うむ。ジェットはワイバーンタイプを迎撃せよ。航空優位が取れ次第輸送機を発進! 援護機も共に送れ。輸送機のクーリャに繋げ!」
情報が飛び交うCIC。
いつもであれば娘に指揮を任せているが、今日は本気モードのマクシミリアン。
報告されていく情報を瞬時に判断し、てきぱきと指示を出してる。
「こちらCIC、マクシミリアン。クーリャ、現在敵は砲撃で足止めを出来ている。ワイバーンタイプも1機地上で撃破できた。残る2機が上がってきたが、ジェット機で対応中だ」
「情報ありがとう存じます、お父様。では、こちらも発進準備をしますね。では、皆さまにご武運がありますように」
「ああ、そちらもな。くれぐれも皆、命を大事に」
「はい!」
横で黙って戦場の様子をモニター経由で見ている婦人たち。
「ポリーヌさん。今は子らを見守りましょう。大丈夫、カトリーヌちゃんは強いですものね。ウチの馬鹿突撃娘の方が心配ですわ」
「ニーナ様……。はい。クーリャ様、娘を頼みます……」
彼女たちは身分の差など考えず子達を心配し、今はハラハラはしつつ神に子達の無事を祈っていた。
「いよいよ、クーリャ殿の出陣なのじゃ! じゃが奇襲部隊の指揮官が妙な事を言っておるのが気になるのじゃ。まさか?」
さて、戦いも中盤。
ここからのクーリャちゃん達の戦いをご覧くださいませ。
「皆の衆もブックマークなぞで応援宜しくなのじゃ! じゃが魔法ジェット戦闘機がF-20モチーフとはのぉ。エリア88、シンの愛機なのじゃ!!」
では、明日の正午に!




