第34話 クーリャ30:悪意の胎動! 公爵家VS男爵家、諜報合戦!
「ヴァルラムらを死刑にしたと言う封書が男爵から来たが、諜報方はどう言っている?」
「砦や領主公館より、棺が3つ運び出されたのは確認しております。男爵暗殺に送った者9名の内、6名は奇襲時に倒されており、ヴァルラム様を含めた3名が捕虜になっていますので、数は一致しております」
キリキア公爵公館の奥深く、公爵は側使えから報告を受けている。
薄暗い部屋の中、獣脂ろうそくの明かりが揺らぐ。
「砦や公館の中の様子は分からぬのか? どうも先日から男爵領の動きが全く見えぬ。今まで入手出来ていた情報すら、続報がぴたりと止まっているのは不自然だ」
「こちらでも『草』を潜入させる様に動いてはおりますが、男爵領では獣族を徴用する傾向が多く、我らの諜報方では公館や農場等への潜入が困難になっております。商人ルートの情報は入っていますし、平民達が酒場で噂する事は聞けております。今のところ、公爵様の話題は聞こえてきません」
公爵は、男爵の動きが見えないので不安に思う。
自らが指揮した暗殺行為、それが男爵にバレている筈なのに非難の声も一切上げないし、王族への報告も行わない。
その様子が不気味である上に、急速に数々の新産業を興し、国内貴族達への売り込みが凄い。
高級石鹸に至れば、自らの妻からも追加で買ってほしいとの希望すら上がっている。
「うむぅ。これは情報収集のためにも司祭を送るべきだろう。そして、できれば機会を狙って男爵の口を封じたい」
「でしたら、諜報方に暗殺を得意とするものがいますので、2名ほど司祭様に付けて男爵領へ派遣しましょうか?」
「そうだな。司祭にも『依頼』をしよう。この時の為に教団に多額の寄付をしているし、司祭個人にも投資をしているのだからな。では、亡くなった者達への弔意と遺産回収という名目で派遣しよう」
高級な椅子に座った公爵は、再び男爵暗殺を狙う。
「はっ。そういえば、襲撃した者達の遺族はどうしましょうか? 口封じをしますか? 今は監視もしておりませんが」
「放置しておけ。平民が何を言おうとも、我らに傷は付かぬ。では、他の領や他国への話題に移ろう。最近、ドワーフ王国では王家内での争いがあると聞く。一部とはいえ、国境を接する我らとしては、扱いやすい『神輿』を担ぎたいのだが?」
「今は、第一王子、第一王女間での抗争に第ニ王子が暗躍中といった感じでございます。ドワーフにしては多産な王で、王子は3人、王女が5人いますので、相続時には骨肉の争いになるかもしれませぬ」
「では、誰に付くのが扱いやすいのか、調査を頼む。男爵領よりもドワーフ王国を乗っ取る方が、王族への受けも良いからな」
「はっ!」
公爵は、グラスの中で琥珀色の高級蒸留酒を転がし、自らが思うように世界を動かすのを想像した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ようこそ、司祭様。今回は態々死刑になった者の慰霊にお越しとのこと、慈悲深き事に感動を禁じ得ません」
「いえいえ。ヴァルラム殿は私が最後に審判をしたのです。あの時、ちゃんと話しておけば、かの様な惨劇を起こす事も無かったでしょうに」
好々爺風な顔で、ウチに来ている司祭アフクセンチー。
しかし、誰が見ても怪しすぎる。
これを怪しまないお人好しは、いるはずもない。
……わたしでも、口封じとか情報収集に来たって思うもん。
「ますは、遠くから来られたお疲れを癒して頂き、明朝以降に彼らが葬られた墓地をご案内いたします。お付きの方の部屋も用意致しております」
「色々とありがとうございます。では、夕食時に再びお会い致します」
司祭と2人の御付は、謁見室から出て行く。
「さて、クーリャ。君ならどうする?」
盗聴防止に謁見室に風の結界を貼り、わたしに意見を聞くお父様。
「本当なら、監視を付けて動けないようにしたいのですが……。あの御付、堅気ではございませんよね。わたくしでも、とても宗教関係者には見えませんの」
「だよね。ウチの隠密によると暗殺専門の人達だってさ。大方、今晩遅くに僕を殺しに来るんだろうね」
「あら、それを分かっていて家の中に引き入れたのですか、貴方は?」
お父様は、今回の訪問が自分への暗殺計画その2だと分かっていて引き入れた様だ。
流石に、その事実にお母様もお父様に苦言を言う。
「なあに。敵の暗殺手法まで、既に分かって居るんだから怖く無いよ。逆に罠仕掛けて、容赦なく返り討ちだね。そうすれば、公爵様も迂闊に暗殺者を当家に差し向けるのも、躊躇するようになるさ」
「もう、大胆すぎますの、お父様。わたくしの策など子供だましに見えてしまいますわ」
「いやいや。僕は貴族としては、ひねくれ者さ。後ろ盾も無く、王国で生き残るには、卑怯な手を取るのもしょうがない。それが公爵様には気に入らないんだろうね。クーリャとアントニー様の婚約も裏があったのを知っていて、逆に利用し返すつもりだったんだよ。まあ、クーリャが全部吹き飛ばしちゃったけどね」
「お父様ぁ。わたくしをからかわないで下さいませ!」
どうやら、わたしが気がつく前から公爵家とは諜報合戦が行われていたらしい。
わたしの婚約すら、お互いに手の内を読みあっての事。
それを馬鹿なアントニーが自爆して、わたしが吹き飛ばした。
……なるほどなの。『ゲーム』でお父様達を狙ったのも、お父様が隙を見せるのを待っていたのね。わたしが派手に動きすぎて、それが公爵から付け入る隙になってしまったの。
わたしは、「今回」は同じミスをしないように、心に誓った。
「さあ、こちらも『歓迎』準備をするよ!」
「はい!」
「暗殺者が来たのじゃ! クーリャ殿も危ないのじゃ! しかし、お父様はワシ以上に大胆なのじゃ。よほど、情報に長けておらねば、ここまで動けぬのじゃ。現代の情報化世界では無く、中世から近世のファンタジー世界で、ここまでの情報戦が出来るとは恐るべしなのじゃ!」
マクシミリアン様に従う獣族を主力にした隠密方。
彼らは国内全土に広がっており、様々な情報収集をしております。
そして、マクシミリアン様は、元々情報を扱う文官の家系。
武術、魔法も平均以上ではありますが、恐るべきは情報戦と戦術・戦略家としての実力。
ゲームシナリオでも、国内全部を敵に回しても一ヶ月戦い抜けたのは、伊達では有りません。
逃げる場所も応援も来ない戦いだったので、最終的に削り殺されましたが。
「クーリャ殿が元々優秀なのも納得なのじゃ! お父様もお母様も優秀で、更に優秀な家庭教師が付くのじゃからな。オマケに前世での科学技術を得れば鬼に金棒なのじゃ!」
努力無しのオレツエータイプでは無いですが、クーリャちゃんも家族も普通じゃないですよ。
今後の戦い、ご覧あれ!
「皆の衆、ブックマークや評価をして待つのじゃ! 感想、レビュー、ファンアートも随時募集中なのじゃ。ワシのファンアートも待っておるのじゃぁ!」
はぁ、チエちゃんたらぁ。
ではでは!