第33話 クーリャ29: お父様もすごいの! 公爵になんて負けていないの!
「お父様、御願いがありますの。もし、ヴァルラムが証言をしてくれるのなら、彼をわたくしの騎士に雇っても良いですか?」
「へぇ、クーリャはかなり思い切った事を言うんだね。仮にも一度は殺し合いをした相手だよ?」
毎度の保護者達の前、わたしは作戦を話す。
「はい。ここ数日話した感じでは、ヴァルラム自身はわたくし達を恨んでどうのこうのという感じでは無いです。命じられて戦ったというだけですわ」
「怖い思いをしたのに、クーリャはイヤでは無いのですか? それに裏切られたら大変ですの」
お母様は当然の事、裏切りの心配を話す。
「それは想定内ですわ。しかし、ヴァルラムは身体を動かすのも無理な状況。外に情報すら流すのも困難でしょう。第一、公爵様に情報を流せば口封じにと殺しに来ますわ」
「確かに、彼はイザーク様からすれば、生かしておくだけで危険な存在。実は、昨日公爵様から封書が来たんだよ。自分の解雇した『元』配下が『勝手に暴走』して迷惑をかけてすまなかったとね。そして、彼を回収かつ治療させるので、仲介者として決闘の時の審判人、司祭アフクセンチー他数人を送るってさ」
「それ、間違いなく……」
「ああ、口封じだね」
公爵は、ヴァルラムを早くこの世から消したいので、暗殺者として中央神殿の司祭を送ってくるつもりだ。
「お父様は、どう回答なさるのですか?」
「とりあえずお断りをするつもりだよ。勝手に暴走した上に既に解雇済みなら公爵様とは無関係のはず。こっちで勝手に処分するって回答しようとは思っているんだよ」
無関係だと向こうが言うなら、こちらが勝手に処分しても問題は無い。
「でも、それで納得はしないでしょうね。確実に……」
「ああ。そうだろうね。クーリャ、君は甘い事を言うのに、敵の動きはシビアに見るんだね」
「こんな甘いのはわたくしくらいですわ。わたくし、慌てなければちゃんと戦略も組めますのよ。お父様の案よりも面白いのを思いつきましたの」
わたしは、「にやり」と笑う。
「今回の姫様は、どんな悪巧みかしら」
「姫様の策は、エゲツないのもあるからなぁ」
「わたくし、わくわくしてきましたわ。さあ、早くクーリャ話すのです!」
先生やゲッツは苦笑しているけど、お母様は妙に乗り気だ。
……そういえば、お母様も策士だったと聞いた事がありますの。
お母様は、大昔に東方に存在した国の貴族末裔。
その国の王族とも近しい血筋だったものの、王国との小競り合いや国内内乱、更に東に存在する大国との戦争で滅び、生き残った人達は王国内に居た関係者を頼って移民・亡命。
お母様のお父様、わたしの御爺様は残った人たちをまとめて王国内で使われていなかった北方国境近くで洪水ばかり起こる荒地の開墾を王へ願い、許可を貰って開発を行った。
王としては、狭い土地にやっかいな者達を封じれば良いくらいのつもりだったとも聞く。
そう、その土地こそが、わたしの住むニシャヴァナ男爵領。
お父様の血筋は、王都で事務方をやっていた領地を持たない男爵。
学園で結ばれたお父様とお母様、2人を祝福して御爺様は自らの一族や戦乱から逃げ延びた獣族の住む領地をお父様に譲った。
王から領地の認定を貰い、お父様は正式にニシャヴァナ男爵領主となった。
お父様とお母様、2人の間にわたしが生まれてしばらくして御爺様は、満足するようにして亡くなったそうだ。
……お父様はお母様に一目ぼれしたそうだし、お母様はお父様を落とすのに策を沢山弄したんだって。
「ヴァルラムや捕まえた方々には、一端死んでもらうんです!」
◆ ◇ ◆ ◇
「お前達、本当に良いのか? もうこれが最後だ。雇い主はヴァルラムというが、その前にお前達は誰に集められたのだ?」
「そ、それは……」
「あ、ああ……」
カルカソンヌ砦内にある刑場。
そこに連れられてきた2人の生き残り「ならず者」。
彼らは、ヴァルラムに雇われて男爵一家を襲ったと証言するが、時間的にも伝手的にもありえない。
「本当の事を言えば、お前達が行ってきたこれまでの悪行を一部見逃しても良い。しかし、このまま黙ったままなら、今日お前達の首を飛ばし、男爵一家暗殺未遂犯として首を砦に晒す」
男爵と騎士が、ならず者に死刑宣告をする。
他にも獣族の戦士達が周囲を囲い、手足を縛られたならず者は逃げる先すらない。
「こ、殺せばいい。俺達は貴族を襲った重罪人だからな!」
「ああ、殺せ!」
「そうか。では、娘が悲しむな。お前達が望んで私達を襲った事では無い事を知って悲しんでおった。家族を人質にされていたと……」
「ど、どうして!」
男爵の思いもよらない答えに狼狽する「ならず者」達。
「こちらにも密偵が居るという事だ。おかしいと思ったぞ。まさか学院に通っていた平民魔法使いまで、襲撃に参加するのだからな。何か裏があるとは思ったさ」
「どうせ家族の元に帰っても家族ごと口封じをされる。なれば、正直に話せ。そうすれば、家族含めて考えてもやろう」
男爵と騎士は、ならず者達を説得する。
「わ、分かった……。俺は借金を帳消しにしてやると言われて今回の話に乗ったんだ。娘の医療費で借金が嵩んで……」
「俺は盗みで捕まって、死罪のかわりに男爵を襲えって言われたんだ。幼い弟を養うのに盗みしかなかったんだ」
◆ ◇ ◆ ◇
「なんて事をするのぉ! 公爵って許せないのぉ!」
わたしは、刑場を見下ろせる部屋から彼らの話を聞いている。
「酷い話ですわ。しかし、マクシミリアン様はすごいですのね。あの短期間で襲ってきた人の事を調べ上げるのですから」
「すっごいのぉ!」
先生はお父様の事を褒め、カティも大喜びだ。
……どおりで、妙に凄腕の者達ばかりが襲ってきたのね。わたしの作った魔力自動車テストゥード号などの活躍で無事に乗り切ったけど、危なかったのぉ。
わたし達が乗っていた馬車は壊されていたし、あのまま馬車に乗っていたら、わたし達は無事ではすまなかっただろう。
魔法使いまで投入するのは、殺す気満々だったと思う。
……その上にフル装備のヴァルラムだもんね。よーく全員無事に助かったのぉ。
◆ ◇ ◆ ◇
「あい、分かった。では、お前達には北方にある鉱山での強制労働を命じる。強制ではあるが、ちゃんと衣食住は保障するし、休日も与える。給金も定期的に渡すので、既に向こうで待つ家族と暮すが良い!」
「は、ははぁぁ! 家族の事まで助けて頂き、ありがとうございます!」
お父様が、実に粋な判決をした。
いつのまにか、彼らの家族を隣領から逃がしていたとは、すごい。
「旦那様には、奥様の一族に昔から仕える隠密方、そして獣族の優秀な密偵が多数いらっしゃるのです。この狭い男爵領が今まで生き残ってきたのは、そういう訳です」
デボラが誇らしげに語る。
……ふーん、わたしが知らない処でお父様も戦っているのね。それでも『ゲーム』では王から反逆を疑われるんだから、敵も強いの!
わたしが領内で好き勝手やっても安全なのも、隠密方が頑張ってくれているからなのだろう。
いつか、彼らに会ったら感謝したいとわたしは思った。
「では、君たちは一端死んで、棺に入って此処から出て行ってね」
「はい!??」
こういうお茶目さも、お父様のすごいところね。
「ほう、マクシミリアン殿も策士じゃな。クーリャ殿よりもシビアな分、もっと上なのじゃ!」
綺麗ごとでは政治は出来ませんからね。
お父様は、清濁併せ呑める強い人。
でもクーリャちゃんが大事なので、彼女の提案する「甘い」作戦を実現可能なところまで変えて実行する訳です。
「ヴァルラム殿ならいざ知らず、ならず者達の家族まではクーリャ殿は見えていなかったのじゃからな。でも、しょうがないのじゃ! ワシも、暗躍時には色々苦労したのじゃ」
チエちゃんは、「ご都合主義」かつ「絶対ハッピーエンド至上主義」ですものね。
そりゃ大変ですよ。
「じゃが、皆に感謝されて完全勝利するのはキモチが良いのじゃ! 少々の苦労は気にならぬのじゃ!」
作者も頑張ってみましょうか。
では、明日の更新をお楽しみに!