第28話 (累計・第331話) クーリャ317 アキム様の魔の手から逃げるわたし。演技派子役になれるかしら?
「では、皆様。お暇致しましょう」
わたし達は公爵様の葬儀に来ている。
そして喪主のアキム様から、何か文句を言われる前に撤退しようとしていた。
「あれ、ニシャヴァナ男爵様。どうかなされましたか? あ、今は子爵様でしたね。申し訳ありません」
「アキム様、今回はイサーク様の葬儀にご招待頂き、ありがとうございます。いえ、一緒に来ていました娘の体調が芳しく無いので先に部屋で休ませようと思っていたのです」
しかし、わたし達の動きを注目していたらしいアキム様は逃がさないよと、わたし達に声を掛けてきた。
……わざわざ子爵と言い直すのが嫌味よね。でも周囲の目や視線、気配もこっちに集中してきたの。囮作戦としては大成功だわ!
わたし程度の感知レベルでも、影や壁越しにこちらを見ている視線や気配が多数感じられる。
エル君なら、悪意が痛くてたまらない事だろう。
背後に控えるカティ、ニーニエルさん、ローベルトも、いつでもわたし達の盾になれるように警戒しているのを感じる。
「こほん。アキム様、申し訳ありませんですわ。わたくし、あまり身体が丈夫では無くて、寒いとすぐに風邪で発熱してしまうのです。アントニー様にはいつも御世話になっていますのに、彼のお父様の葬儀と思い来ましたのが、少々無理をしてしまったようですの……」
「それは大変。当家の主治医を呼んできましょうか、クーリャ様? ご夕食もお部屋に運びますよ?」
わたしが「逃げる」理由を説明すると、なんとかして捕まえようとしてくるアキム様。
……いくら、ノー天気なわたしでも、アキム様から頂いた飲食物は口にしないよ。絶対に何か仕込んでいるに違いないもん。
「いえ、少し早いですが眠れば大丈夫と思いますわ。夕食もご準備して頂いていますのに、申し訳ありませんです」
「そうですか、それは残念。せっかくシェフが頑張っていましたのに……」
残念と言いながらも、目が笑っていないアキム様。
どうやら、わたし達の毒殺も狙っていた可能性がある。
「公爵家のシェフは見事で、食べると頬が落ちるとも聞いていますが、残念です。では、申し訳ありませんが、退場させて頂きますわ」
「はい。では、おやすみなさいませ」
……頬っぺたは良いけど、命までは落としたくないよ!
わたしは、なんとか言いくるめてアキム様の前から去ることが出来た。
「クーリャちゃん、ナイス演技! アキム様、ボク達を狙っているよ」
「やっぱりなのね。じゃあ、このまま敵の注意をこちらに引き付けましょうね」
エル君が耳元でささやき、わたしの演技を褒めてくれた。
……今回は、いかにもか弱い乙女を演じてみたの! 向こうも演技とは思っているんだろうけど、か弱い少女をイジメるのは公衆の面前じゃできないでしょうしね。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、ここからは第二作戦ですぅ。出来る限り、こちらに敵の目を引き付けて、ズラータ様救出作戦を支援します!」
「では、待っている間にお食事の準備をしますね。今日は、クーリャ姫様特製のパスタ入りスープとパエリアですぅ」
一旦、あてがわれた部屋に退散できたわたし達。
防音結界張ったうえで窓や扉にはトラップ仕込んで、立て籠る準備完了。
……わたし達と別行動だったマスカーに罠の解除とこちらのトラップ設置をお願いしていたの。
屋敷の事は、全て知っているマスカー。
部屋の中に仕込んでいたトラップも過去と変わらなかったので、全部解除済み。
念のために、獣族特殊部隊の方達にも部屋が「クリーン」なのを確認してもらっている。
……盗聴系のものと、通気口からの毒は解除したよ。
「クーリャ、君に一緒に来てもらえてよかったよ。僕一人だけじゃ、あの場から逃げられずに毒盛られていたかもね」
「わたくし、己の姿すらも策に使いますわ! 卑劣な敵には手加減致しませんですの!」
お父様は、わたしの演技に感動してくれているが、お父様ならもっと上手く逃げる方法も知っているのだろう。
さもなければ、貴族社会では生き残れないだろうから。
……お互いに足の引っ張り合いやら諜報合戦やっているものね。暗殺は極端例だけど。
「しかし、立て籠った部屋で暖かい食事を食べられるのはありがたいです。流石は姫様ですね」
「わたくし、トモエ様程ではございませんが、食いしん坊ですので。己と周囲の幸福の為には食事すら手加減致しませんですわ」
ローベルトが感心しながら、ニーニエルさんやカティが全員分の食事を準備しているのを楽しそうに見ている。
水を魔法で生成、それを携帯型鍋に入れ、魔力型携帯コンロで加熱。
前世世界では科学技術で作っていた物を、今回は魔法で再現してみている。
……使える技術は、どんなものでも使うの! 魔法による「食料保存」ってのは科学の力、凍結乾燥で代用するの。
今回の食事は、凍結乾燥法などで作った携帯食。
カップ麺風なパスタ入りスープとパエリア。
後は、行動食兼お菓子としてのシリアルバー。
……シリアルバーは、エン麦、小麦、オリーブ油、ナッツ、ドライフルーツ、ハチミツで作ってみたの。こっちの世界にも元々あったのを改良してみたよ。特殊部隊の方には、なかなか好評ね。
パエリアについては、まだまだ改善の余地があるのだが、トモエ様同様にコメを食べたいわたしのワガママで開発を継続させている。
……一旦、デンプンをアルファ化してから凍結乾燥すれば、温めるだけで美味しいご飯になるんだったっけ。前世世界のパックご飯には、まだ遠いね。
「はーい、皆様準備出来ましたぁ。警備の方は交代でお食べ下さいませぇ」
「腹が減っては戦は出来ぬ。皆様、ここからが本番ですよ!」
「ボク、お腹ぺっこぺこだよ!」
わたしはエル君らと共に暖かい食事を取り、作戦本番の深夜までひと眠りした。
「クーリャ殿、軍隊で最も大変な兵站、食事にも改良をしておるのじゃな。それが災害時等にも役に立つのじゃ!」
中世や近代後期までの軍隊の食料は、現地確保が基本。
しかし、無理やりな徴発や略奪は後々治安悪化に繋がります。
そこを改善していくのが、ミリタリーにも詳しいクーリャちゃんですね、チエちゃん。
「現代のロシア軍ですら補給線が伸びすぎて、一部地域食料難が起きているらしいのじゃ。更には、現代でも略奪にレイプと、悪行ばかりなのじゃ!」
本当にこまったものですね。
原発すら攻撃対象になるのは、狂気としか言えません。
「早う戦争が終わるのを望むのじゃ。では、明日の更新を楽しみにするのじゃ!」
ではでは!




