第15話 (累計・第318話) クーリャ304 舌戦! わたし、単于様に勝つの!
「……つまり、匈奴は戦うのではなく交易をすべきだというのだな、クーリャよ」
「はいです、単于陛下。既に王国にて匈奴の方々は交流や交易をおこない、暮らしております。王国流の事を学び、王国側でも匈奴の技術を学んでおります」
上手くわたしの話題誘導に乗ってくれる単于様。
このまま商談に入りたい。
「そこで、王国から化学肥料とやらや農業技術を買うと……」
「はい、その代わりに金や鉱石、特産の絹製品、陶磁器や植物紙等をこちらが頂く形になります。その一部を賠償金として頂くことで、匈奴の国庫にも急激な負担を掛けずに済みますの」
「クーリャ、お主は本当に見た目、いやこの場合は声に聴くばかりの幼子か? あまりに高度な商取引であるし、未知の技術を知り過ぎている。さては、王国軍が使っていた兵器も……」
「うふふ、それは単于様にも言えない乙女の秘密ですわ」
……少しやり過ぎちゃったかなぁ。単于様、わたしに興味だけでなく警戒もしちゃったの。
周囲の大人たちは、わたしが一言言うたびに顔色を赤くしたり青くしたりしている。
エル君達、わたしのファン同盟達は、どうやって単于様からわたしを守るか相談中。
他の女の子達は通信士のお手伝いで、わたしと単于様の会話を記録するのに忙しい。
……クラーラちゃんは遊んでいるけどね。
サロモン君にアレク君は、話題が政治と科学の高度な話になっているので、ついていくのが難しくなっているっぽい。
「まあ、そこは今は良い。いずれクーリャが俺の近くに来た時に聞こうぞ。そこでクーリャの最初の話につながるな。匈奴が王国へ賠償をすると言う話だが、今の話では匈奴に都合が良すぎないか?」
「そうお思いになるのも理解致しますわ、陛下。ですが、わたくしとしては短期的では無く長期的に見ますの。一気に匈奴から賠償を取り立てて国家が不安定になれば、また騒乱の元でございます。そうなれば王国や蓬莱を襲わなくても他国を襲い迷惑をかける事になりますわ」
平和を望むわたしとしては、これ以上の騒乱は勘弁である。
単于様が噂通りの冷酷非道でダメな奴なら、飛行機からの爆撃を繰り返して、国家を不安定化させてからシャビ様を新たなる皇帝、単于に祀り上げる事も考えてはいた。
しかし、単于様は案外と話が通じるし、頭もよい。
なれば、この皇帝を上手く使い、王国に良い意味で「依存」させる事を狙うのがお互いに損が無い。
王国からは、様々な技術に化学肥料を匈奴へ与える。
一度、化学肥料の効果を知ってしまえば、最早過去には戻れない。
更に増産した食料をもとにした人口増加は、肥料無くしては維持できない。
……いずれは化学プラントの技術も開示するけど、それまでに匈奴には国際国家としてのノウハウを知ってもらわないと迷惑なの。
「……つまりお互いに交易を行う事で結びつきを強め、戦争を防ぐという事か」
「御明察ですわ、陛下。それは王国とだけではございません。南方の小国家も、今のままでは匈奴本国に負担がかかりますでしょう」
小さな国とはいえ、それを乗っとるのであれば政治機関に匈奴本国から裏切らない人員を送り、国家運営をする必要がある。
それは、あまりに負担が多い。
オリジナルの元、いやモンゴル帝国が滅んだ理由が、これ。
あまりに広がった国家を運営しきれず、それぞれ内紛や内戦を起こした。
そして最終的に複数の国家に分裂し、滅んだ。
「では、クーリャには良い国家運営案でもあるのか?」
「はい、思い付きではありますが……。現在駐留している軍をその国の防衛をする駐留軍にして、国家運営を元に戻すのです」
わたしは、アイデアを話す。
匈奴の駐留軍を支配するものから、国家防衛の兵にするのだ。
……前世でいうところの在日米軍の形ね。国家防衛を匈奴に肩代わりしてもらうの。
そして国家運営を元の支配層に戻し、駐留軍は大人しく居るだけになる。
もし国家運営が匈奴にも、またその国の民にも不味い場合は駐留軍が動き、政権を打破、匈奴に都合の良い新たな政権に変える。
ようは「傀儡」を操る糸として駐留軍を使うのだ。
「ほう、クーリャよ。お前は聖女という噂もあるが、なかなかに悪どいのだな?」
「わたくし、別に聖女になるつもりもございませんですの。民にとってより良い、誰の血も流れぬ方法を提示したまでの事です。でも、難しいですよ。今まで見たいに村を襲って女を漁ったり、食料を無理やり奪ったらダメです。その国の人達に愛される駐留軍にならないと、意味が無いのです!」
……前世世界の『元』も似た様な事やってたし、ソ連なんかは衛星国家や傀儡国家沢山持ってたよね。でもね、前世世界の在日米軍でもタマに事件やらかしてたから、軍の管理は難しいと思うよ、単于様。
「そ、それはかなり難しいな。今までの力での支配が出来ぬぞ」
「単于陛下、泣き言をいう時間なぞ無いのです。匈奴は様々な国々を破壊してきました。陛下にはその償いをする責務があります。破壊された国が元に戻るまで守り導く義務が匈奴にはあるのです! 綺麗ごとでも悪意でも、国が民が幸せに生きていける為には、適時行うのが支配者の義務なのです!」
わたしは弱事を言う単于様に問いかける。
襲った責任を取れと。
……破壊された物や殺された命は、もう二度と帰ってこないの。でも、これから失われる命を救う事は出来るはずなの!
「しかし、簡単には言うが、決して楽は話ではないぞ、クーリャよ」
「別に、男どもに女を抱くなというつもりはございません。ちゃんとお金を支払って清潔なお店で『春』を買うとか、真面目な恋愛をすれば良いのです。こういう形でも経済を動かすことは出来ますしね」
「く、クーリャ! それはあまりにも露骨ですの……。一体、何処でそんな恥ずかしい事を知ったのでしょうか?」
「に、ニーナ。ま、まあ、クーリャは他所でとはいえ、一度は成人していた子だからね……。そ、そのくらいは……」
後ろでお母様とお父様が頭を抱えてはいるけど、そこは一旦無視。
「抱くって……。『買う』ってそういう意味なのですかぁ!? あ、アタクシ……」
「エカテリーナ様、お心をしっかりお持ちくださいませ」
「クーリャちゃん、オトナなのぉ!」
子供組も混乱しているけれども、説明は後だ。
まずは単于様を納得させなければいけない。
……でも、わたしって前世でも今世でも、誰とも恋愛もエッチもしていないよ! 悲しいけど耳年増なだけだもん!
「……。もう一度聞くぞ、クーリャ。お前は本当に13歳の小娘なのか?」
「はい、そうですわ陛下。正真正銘の乙女ですの、おほほ!」
この一撃がトドメになったようで、この後大した質問も飛んでこず、無事にわたしは単于様と商取引と賠償の話が出来た。
「……ふぅ。俺は面白かったが、酷く疲れたぞ。クーリャよ、俺は王国ではなく、お前に負けたのだな……」
「いえいえ、単于陛下。陛下は戦さに負けましたが、人生に勝ちましたの! 王国との条約締結をすることで、戦さで勝つ以上の物を沢山得られたのですからね! わたくし、今後とも単于陛下にはご協力を致しますわ。皆様で幸せな世界を作りましょう!」
という事で、無事単于様との舌戦は、わたしの一方的な勝利で終わった。
詳しい条約とかは、お父様達大人や王家にぶん投げる予定。
わたしは商取引の切っ掛けさえ出来、今後誰も死なないのなら文句は一切ない。
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「クーリャ姫様、後からお話することがいっぱい、いーっぱいございます! ニーナ様、ナターリャ様も沢山お話があるとお聞きしています」
「は、はいですぅ。デボラ、お手柔らかにお願いしますの」
しかし、わたし個人の戦いはまだまだ続く。
というか絶対に勝てない勝負、いろんな人から延々とお小言を聞く事になるのは間違いない。
「あ、僕からも色々と聞きたいこといっぱいだね。学院長先生も待ってるよ」
「クーリャちゃん! ボクらも聞きたいこといっぱいだよぉ!」
お父様にエル君も、わたしにぐいぐい迫ってくる。
「え、えーっとぉ。カティ、助けて……」
「クーリャ姫様、もう手遅れなの。アタシでも恥ずかしい話をあれだけしちゃったら、お説教タイムになるのもしょうがないのぉ」
わたしはカティに助けを求めるも、彼女からすら見放されてしまった。
「ご、ごめんなさーい! もー不相応で破廉恥な事は絶対に言いませんですぅ!」
そして一週間、わたしは個室に閉じ込められ、毎日くどくどとお説教を受けたのだった、ぐすん。
「クーリャ殿は、やり過ぎなのじゃ! ここまで恐ろしい手口を言われては、単于殿も怖がるのじゃ!」
軍事力と科学力をバックに少女が皇帝を脅す。
まあ、普通じゃないですが、これも無双の一種。
それに匈奴側にもメリットいっぱいなのですから、まあ良いのでは無いですか、チエちゃん?
「実にえげつないのじゃ。斜め上なのじゃ! でも、ワシこういうのも好物なのじゃ! 人死にが減るのならあくどいのでも良いのじゃ!」
治安安定化するのは、誰にもメリットありですものね。
では、明日の更新をお楽しみに!




