第11話 (累計・第314話) クーリャ300 悩む単于、王は孤独。
「トルタイ、すまぬがもう一度説明を頼む」
「はい、単于陛下。クーリャ姫様ですが、匈奴とは公正な交易を希望しています。しかし、先日の様に襲ってくる場合は容赦しないとも申しております」
匈奴の帝都王宮、皇帝単于ことレンテイ。
彼は、王国戦より生きて帰ってきたトルタイより毎日話を聞いている。
最初、彼から伝えられてきた敗北をレンティは信じられなかった。
今回の遠征、確かに皇弟であるシャビの厄介払いを兼ねていた威力偵察ではあった。
近年力を増しているロマノヴィッチ王国、そこを襲うように単于ら匈奴が信仰する神、そして神のしもべたる神官たちが預言を伝えてきた。
海を越えた東にある小さな島国「蓬莱」。
生意気であるが金と豊かな農地を持つ蓬莱を、匈奴は襲った。
得意ではない上陸戦ではあるが、匈奴に敵は居ないと二度の遠征を行うも、二度とも敗北。
こと数十万の兵と多くの船を要した二回目の戦では、満足に上陸すらさせてもらえず、一方的な敗北を期した。
神官からの預言もあり、蓬莱戦での敗北による怒りの鉾先として王国への遠征を行った単于レンテイではあったが、これまた一方的な敗北。
それも伝え聞く限り、敵兵の姿すら見ないままの敗北。
その事実は弟シャビからの書面にも書かれていた。
「そ、そんなバカな事があるのか? 敵兵の顔も見ないままアクエンが、二万の兵が全滅しただと?」
「はい、陛下。王国、ことクーリャ姫様の軍は遠距離攻撃を得意としております。見えない距離からの砲撃、無人の兵器、そして空を飛び爆弾を落とす『鳥』。我らが知るこれまでの戦い方では、どうにもなりませんでした」
目の前に座る敗残兵トルタイ。
彼は初戦において敗北し投降、そのあとは敗残兵を纏めて生活をしやすくする為に働いていたと話す。
「一体誰がそんな兵器を作り上げたのだ!? 更には王国の小娘が余直々に交易を要求するとは、いかなる事だ?」
「私にも姫様の真意は全て掴み切れてはおりません。ですが、彼女自身には悪意は一切ございません。我らを殲滅したのも襲ってきたから自己防衛行為のため。攻めてこないのであれば何もしない、技術支援すらも行うとおっしゃっております。また話次第では王国への損害賠償についても取次ぎより値引き交渉するとの事です。実にお優しい姫様です」
何回もトルタイから話を聞いている単于。
彼の中で、クーリャという小娘の存在がどんどん大きくなってくる。
一体どういう少女なのか、何を知り何を求めているのか。
これまで彼の周囲には居なかったタイプ。
実に興味ぶかく面白い存在。
……俺の周りに寄り付く者は男も女も、俺じゃなくて皇帝、『単于』としてしか見ていねぇ。権力という餌に寄り付くハエ共だ!
彼は、元々権力、政治というものに興味があった。
彼の父が、皇帝、単于として戦争や交易で国を大きくしていくのを誇らしく見ていた。
そして自分も同じように国を操り、誰からも尊敬される皇帝になりたかった。
……結局、肉親同士の殺し合いをして得た『椅子』がこれとはなぁ……。
最初から自らに従ったシャビ以外の兄姉弟妹。
彼らは肉親の情なぞ一切考えず、ただ単于の座だけを狙ってきた。
元々正室の長男であり継承権が最も高かったレンテイ、彼に勝てない「きょうだい」はジャビの様に従うでもなく、表立って戦うのでもなく卑怯な手を駆使してきた。
シャビの妻を卑怯にも毒殺し、またレンテイの周辺にも暗殺者を多数送ってきた。
レンテイは、そんな肉親達に嫌気がさした。
正々堂々、政争や決闘を選ぶのならまだ良かった。
それなら気持ちよく戦えた。
またシャビの様に従うのなら、丁重に扱う気でもあった。
なのに、彼らは卑怯な手ばかり使い、王家内だけでなく官僚、平民まで巻き込んだテロすら行った。
だから、レンテイは容赦なく彼らを追い詰め、最後には一族郎党全てを殺した。
肉親を殺してまでレンテイが得た玉座、それは想像していた物とは大きく違っていた。
配下は、ただただ単于を怖れ、陰では妬む。
国教神殿も単于へペコペコして都合の良い預言を行うが、裏では好き勝手に己の利益のみを追及する。
国民も強い単于、匈奴帝国を求め、国の都合も考えずに交易ではなく戦さを望む。
……誰も彼も自分勝手だ! 誰も俺の心を癒してくれない。
それは唯一残った肉親であるシャビも同じ。
彼は一人娘の方ばかり見て、レンテイの事を兄としては一切見てくれなかった。
そして戦さをする単于を幾度も批判してきた。
……俺がやりたい戦争なぞ無いんだぞ! 俺は国民が望むから、そして俺の心の渇きを勝利で満たしたいから戦うのだ!
だからレンテイは、シャビを近くに置いておくのが嫌になって遠征軍の指揮官として送り出した。
もちろん簡単に死んでほしかった訳ではない。
だから、アクエンという乱暴だが優秀で実績のある将軍を下に付けた。
……遠ざけた、そしてもしかすれば、知らない土地で勝手に死んでくれるのを望んでいた、今思えばそうだったのだろう。
アクエンには、シャビを皇弟として丁重に扱え、少々苦労させても構わぬが決して簡単に殺すなと命じてはいた。
所詮は弱小な敵、威力偵察レベルの軍でも十分成果を上げられるだろ。
そしてシャビにも戦さの現実、怖さを知って欲しかった。
……俺だけが一人、戦さの苦労を背負うのは割に合わん!
だが、現実を甘く見ていたのは自分、単于だったのかもしれないと、レンテイは今更ながら気が付いた。
己の渇望を異国の美女を抱くことと、戦争で勝つ事で満たそうとした。
渇きを支配欲に置き換えたのだ。
その結果が、ここ3回に渡る全面敗北。
「クーリャ姫様は、陛下や匈奴の民にも幸せになって欲しい。もう無益で悲しい争いをしてほしくないと申しております。その為に、この度の冷夏に対する支援も賠償とは別に行うとも……」
そして、今度は年端も行かぬ少女に己の行為を窘められ、慰められもした。
そんな少女、クーリャをレンテイは欲しくなった。
「トルタイよ。余は一度、クーリャとやらと話しをしたいぞ!」
「単于殿、肉親との争いで心がすさんでしもうたのじゃな。そして心の渇きをいやすがために、女漁りに戦さを行っていたとは、哀れな存在なのじゃ」
単于様の心の隙を邪神は狙って、クーリャちゃんへの嫌がらせに利用しようとのでしょうね、チエちゃん。
「じゃが、クーリャ殿の頑張りで事態は大きく変わりそうなのじゃ」
ということで、明日の更新をお楽しみに!
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