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第2話 カエデ2:意図しない事故、アタシ爆発?

「反応プラント、暖機運転から実働運転に移行します!」

「二酸化炭素分離装置内部圧力上昇中、冷却ユニットも正常稼働中です!」


 アタシ達研究室のメンバーは、大学研究棟外に作られたプレハブ小屋に来ていた。

 アタシ達が研究中のプラント起動試験を行うためだ。

 一応、安全のために全員不燃白衣と防護めがね、ヘルメット装備をしている。


 ……労災で大変になった話多いしね。準備しすぎて、しすぎは無いもん。


「これでうまくいけば、空気中の二酸化炭素が有機化合物になるんですよね、カエデ先輩」


「そうよ。二酸化炭素が水素発生装置から出た水素と金属触媒で反応して低級オレフィンが出来るの。今回のミソは触媒。鉄系を使う事が多いんだけど、鉄・銅・マンガンを活性炭にコーティングしたのよ。そしてこのコーティング技術が更に……」


 調子に乗って、アタシは科学ウンチクを話し出す。

 だって、こうやって分かってくれる人に話すのが楽しいから。


「はい、先輩! お話はここまでです。先輩のウンチクエンジンが掛かると、いつまでもお話しちゃうんですから」


「あ、ごめんね。アカネちゃん。つい、やっちゃった。実験見なきゃね」


 アタシはアカネちゃんにストップを掛けられた。

 今は、実験中。

 お話よりは実験観察が最優先だ。


 アタシ達が今回行っている実験は、大気中の二酸化炭素からの有機物合成。


 大気を圧縮、膨張し冷却することで、二酸化炭素を粉末ドライアイスとして分離する。


 ……ホントは実験用液体空気製造プラントの水分・二酸化炭素吸着ユニットの応用なんだけどね。余った液体空気は、もったいないから横にある施設で液体窒素と液体酸素、液体アルゴンにしているし。


 そして集めた二酸化炭素を、水から作った水素と300℃ほどの温度条件で鉄・銅・マンガン等からなる金属触媒下で反応させることで、炭素数2から6の不飽和炭化水素(オレフィン)、エチレンやヘキシレンなどが作れる。

 これらオレフィンは、ポリエチレンやポリプロピレンなどプラスチックの材料になる。


 ……二酸化炭素排出量低減化と石油消費量の低減化、一石二鳥ね。問題は電気代がかなりかかる事、そこが改善点ね。今回は余剰で出来る液体空気は別目的に使っているけど。


 水素発生や二酸化炭素の分離には、まだまだ課題が山積み。

 他所では分離膜を使った大気からの二酸化炭素分離の研究も進んでいるらしいし、水素も太陽光触媒での生成も研究中とか。

 今でも太陽光発電からの水電気分解で水素は得られる。


 課題は多いものの、この研究は世界を救う一歩になる。

 

 ……科学が世界を救うの! 地球温暖化の原因は大気中の二酸化炭素濃度上昇だけじゃないし、一番影響が大きい太陽がくしゃみした(活動低下)方が大変だけどね。氷河期と温暖化、どっちも怖いよ。


「あれ? これ、こんなに反応速度速かったっけ?」

「どれ? あれ、確かに速すぎだ。このままじゃ発生オレフィンが溢れちゃう!」


 圧力計や温度計をモニターしていた学部4年の男のコ達が騒ぐ。


「どうしました? え? 確かに反応がおかしいです。触媒添加量合ってますか?」


 教授もモニター表示を見て驚愕している。


 ぶしゅ!


「あ、姉御! 危ない!」


 アタシの近くの配管が裂けて中からガスが噴出す。


「あ、危ないなぁ。え!」


 アタシはプラントを見て、驚く。

 プラントが大きく震動し、各部からガスが溢れ周囲に溢れている。


「き、緊急停止を!」

「で、電源切っても止まりません!」


 教授の指示どおりに停止シークエンスを行っても、なおも暴走状態のプラント。

 アカネちゃんは、既に恐怖のあまり涙声だ。


 ……これ、やばくない?


「教授、早く逃げましょ!」

「そ、そうだな。全員、退避! はやく、ここから逃げるぞ!」


 アタシの提案で、全員プラントがあるプレハブから飛び出す。

 教授は、119に電話をし始めた。


 アタシもプレハブから出ようとした時、アカネちゃんが腰を抜かしているのを見つけた。


「アカネちゃん! 早く逃げるよ!」

「せ、先輩。わたし、立てないのぉ……」


 すっかり恐怖で腰を抜かしてしまったアカネちゃん。

 アタシは彼女の手をひっぱるも、彼女よりも小柄なアタシじゃ立たせるのも難しい。


「姉御、アカネちゃん危ない!」


 4年の男の子が戻ってアタシ達を助けようとした瞬間、アタシの背後にあるプラントから熱を感じた。


 ……あ、ダメだこりゃ。こうなったら!


「アカネちゃん、皆! 伏せて、眼と耳を閉じて、口開けて!」


 アタシはアカネちゃんを庇うように、彼女の上に覆いかぶさった。

 そして次の瞬間、アタシの意識は消し飛んだ。


 ……死ぬなら痛くないほうが良いな。おかーさん、おとうさん、お姉ちゃん、ごめんね……


  ◆ ◇ ◆ ◇


「……リャ、クーリャ。しっかりして」


 アタシは女の人の声で目を覚ます。


 ……うーん、アタシ助かったのかな?


 視界が眩しくて、眼を大きく開けられない。

 ぼんやり見える視界には、沢山の人たちが居る。

 そして天井は、今まで見たことが無い。


 ……見知らぬ天井ってのはお約束だけど、これ病院の天井じゃないよね。まるで天幕付きのベットなんだけど?


「よ、良かったわ、クーリャ。階段から落ちたのを見てから、あたくし心配で心配で……」


 焦げ茶の髪と目で、東洋と西洋が混ざった中央アジア風な美人さんが涙を流しながらアタシの手を取り、泣いてくれている。


「ああ、良かったよ。クーリャ、もう縁談の事は心配しなくてもいいからね」


 こちらは、如何にも西洋、たぶんゲルマン系に見える濃い金髪で碧眼の壮年男性が、同じく心配そうな顔でベットに寝るアタシを見てくれる。


 ……この人たちって誰だろう? 皆、古風だけどお洒落な服だし、俳優さんみたいに全員美形だもの。


「くーりゃおねえさまぁ」


 ベットの下から、淡い金髪に緑眼の幼児、多分男の子がアタシに触ろうとしている。


 ……この子、まるで天使なのぉ! かわいー!


 アタシの周囲では、他にもメイド服を着た人達が涙を流しながらアタシの無事を喜んでくれている。


 ……あれ? あの小さなメイドの子って猫耳、じゃなくて大きいからキツネ耳! 一体、どういうこと?!


 アタシは、自分を取り巻く状況が理解できない。

 頭がズキズキするから、頭部に怪我をしているのは分かる。

 この感じは大きなタンコブでも出来ているっぽい。

 でも、周囲の人々に心当たりはない……いや、ある。


 ……お父様にお母様、弟のラマンに決まっているじゃないの。え! 今、何を思ったの、アタシ?


 くらくらした頭を手で押さえようとして、アタシは見た。

 アタシの手がとても小さい事を。

 そして、視線の向こうに鏡があり、アタシ達の姿が映っている。

 

 ……え!? これ、一体何が起こったの!?


 鏡にはベットに眠る小さな黒髪の少女の姿があった。


「えー! アタシ、どーなったのぉ!!」


 アタシは、思わず大声を上げた。


 ……貴族令嬢としてはハシタナイのにぃ。アレ、おかしいのぉ。『わたし』の中に『アタシ』が居るよぉ!!

「ほう、爆発事故からの転生とはのぉ。しかし、普通は過剰反応で爆発なぞ起きぬよな。何か原因があるのでは無いかや?」


 チエちゃん、そこは今後の展開次第ですよ。

 「チェーホフの銃」は今回、最初から沢山仕込んでいますので。


「なれば良いのじゃ。実験前に怪しげな人物も現れておるしのぉ。さて、今回は科学に詳しくない方々には、かなり難しい話をしておるのじゃが、解説はいらぬのかや?」


 そうですね、少し解説しましょう。

 物語中で語られている二酸化炭素からのプラスチック合成は、現実でも試験プラントレベルでは実際に研究中のものです。

 2020年から富山大学と日本製鉄などが工場排気ガス中の二酸化炭素と太陽光発電を用いた水素からのパラキシレン製造実験を開始しています。

 二酸化炭素排出量削減できて、ついでにプラスチック原料の製造できるのは面白い技術ですね。

 作者もネタ探していて、興味深く思いました。


 それと、爆発前にカエデちゃんがアカネちゃんに指示したのは防爆姿勢。

 爆発は上へ逃げるので、伏せる事で被害を低減化できます。

 また、爆発時の急激な気圧上昇に対して、眼と耳を塞ぐ事で目と鼓膜の破裂防止、口を開けることで肺に高圧が掛かって緊張性気胸や血気胸になるのを防ぐ効果があります。

 まあ、爆心地だと気休め程度ですけどね。

 もちろん呼吸は、しばし我慢。

 爆発時の不完全燃焼からの、一酸化炭素が怖いです。


「現実の科学技術と物語を絡めるのが、作者殿の得意技じゃな。さて、物語がどうなるのか。お試し版である程度は分かっておるが、そこまでの過程が気になるのじゃ!」


 ということで、続きは15時過ぎの更新をお楽しみに!


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