第27話 クーリャ24:死闘! わたしは、騎士を支援する!
「姫様、ここからはどうするんだい?」
「ゲッツ、後は錘を二つ、ワイヤーロープの先にしっかりと縛って下さい。これはボーラという獲物を捕縛する武具です」
今、わたし達がいる魔力自動車テストゥード号の外では、銀馬に乗って馬上槍突撃を繰り返す刺客ヴァルラムと、ウチの騎士ローベルトが戦っている。
ローベルトは徒歩かつ武器が日本刀なので、なかなかヴァルラムの間合いに入り込めず、ランス突撃を避けるのがやっと。
そして自動車が到着したカルカソンヌ砦の守備兵達も、うかつに手を出せない状況。
……これを打破するのは、ヴァルラムの視界外にいるわたし達の役目なの! でも、ぶっつけ本番でボーラを高速移動するゴーレム馬の脚に絡ませるのも難しいよね。もう一手、何かあれば……。
わたしは、焦りながら車内に何か使えそうなものが無いか探す。
「ゲッツ。槍代わりになるモノは無いですか? このままではローベルトはランスに捕らえられます。その前に、どうにかしないと……」
「うーん。今あるのは天幕を支えるパイプくらいだが、先を尖らせても、どこまで使えるか。それに、ローベルト様が槍を使いこなせるか……」
わたしが知る限り、ローベルトが槍を使っているのを見たことが無い。
その上、鉄パイプによる竹槍もどき程度では、ミスリルアーマーが貫けない。
「ど、どうしよう。このままなら、ローベルトが……。ゲッツにボーラ投げてもらっても、当らなきゃダメだし……」
わたしは、恐怖と焦りで頭の中がぐるぐるになる。
……ぶっつけ本番で上手くいくのなら困らないよぉ。あー、どうしよぉぉ!
「クーリャ!」
そんな時、お母様が声を上げる。
「貴方はローベルトの主なのでしょ! 貴方がローベルトの勝利を信じないで、誰が信じるのですか? 貴族令嬢たるもの、どっしりと構えるものですの」
確かにわたしが信じなくて、他の誰がローベルトの勝利を確信するのか?
ここでわたしが焦っても何にもならない。
「はいです、お母様! ふぅぅ」
わたしは、大きく息を吸う。
そして、もう一度車内をゆっくり見る。
……あれはベアリング用の部品だよね。今回はだいぶベアリングに助けられたの。
ゲッツによって実用化されたボールベアリング、その効果は絶大で、世界初の魔力自動車は車軸を傷めることなく疾走できた。
……ボール削るのが大変だったのよね。丈夫な筒の中に鉄の塊入れて、冷やしながら魔力モーターで回したんだっけ。ん? ボールってパチンコ玉くらいだよね!
「ゲッツ! ベアリング用のボールってまだありますか?」
「そこにサイズが合わなかったのが、沢山あるぞ、姫様。まさか、何かに使うのか?」
「ええ、イイ手を思いつきましたの!」
わたしは、ニヤリと「アタシ」風の笑みをする。
「それでこそ、クーリャよ。諦めなきゃ、何かが起こせるのよ」
「はあ、姫様。それは貴族令嬢がして良い笑顔ではないですわ」
「姫様の悪い顔が出たら、もう勝ち確定ですね」
「姫様、カッコいいですぅ」
何か、お母様やデボラ、先生にカティが酷いことを言っている気がするけど、今は戦いが優先。
「では、ゲッツ。それにお母様達、御願いしますわ!」
「おう!」
「ええ、宜しくてよ」
◆ ◇ ◆ ◇
ローベルトは肩で息をしながらも、ヴァルラムの突撃を避ける。
しかし、徐々にローベルトの動きは荒く遅くなる。
「息が切れてきたな、ローベルト。いかな身体強化魔法であろうとも、いつかは力尽きる。その時がオマエの最後さ。オマエさえ倒せば、後は有象無象。アントニー様を侮辱した憎らしい小娘含めて皆殺しにしてやる!」
「はぁはぁ。そう簡単に自分は倒せないぞ。それに、貴君は一番警戒すべき敵を見誤った!」
ヴァルラムは、自分の息を整えるためにゴーレムのスピードをやや遅くして面貌を上げ、ローベルトを挑発する。
しかしローベルトの眼は、まだ勝負を諦めていない。
そして逆にヴァルラムを挑発した。
「なに?」
そんな時ヴァルラムの視線の端、馬も無く前に進む不思議な荷馬車から飛び出したドワーフ男が紐に繋がれた「何か」を振り回すのが見えた。
そして、彼の横に小憎らしい小娘達が挑発するように、小石をこちらに投げつけていた。
「一体何をするつもりだ! それに何処に投げている?」
ヴァルラムは一端開けていたヘルメットの面貌を下げ、乗るゴーレム馬のスピードを加速する。
「いけぇ!」
ドワーフ男から「何か」がヴァルラムへ、正確にはヴァルラムが乗るゴーレム馬の脚に向けて投げられた。
しかし狙いが甘いので、ヴァルラムはヒョイとゴーレム馬をジャンプさせて、「何か」を避けた。
「何がしたい! こんなのは無意味だぞ!」
しかし、次の瞬間ゴーレム馬の脚がズルっと滑る。
そしてゴーレム馬は、走っていたスピードそのままで転ぶ。
馬上のヴァルラムも慣性の法則に従い、走っていた速度のまま宙に跳んだ。
「なぬぅぅぅ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「やったのぉ!!」
「姫様、すっげーな。俺じゃこんな手を思いつかねーぜ!」
「姫様、いつものイタズラが役にたったのぉ!」
カティには何か褒められていない気もするが、これで勝負あり。
ヴァルラムは、遠くまで吹っ飛んで地面に叩きつけられ、ピクリとも動いていない。
「姫様、お見事ですわ。ゲッツのボーラは囮だったのですね」
「はい、先生。初めて使うボーラを馬の脚近くに投げられただけ、ゲッツは凄いですの。おかげで、わたくしの策がバレませんでしたわ」
ゲッツがボーラを回す事で、ヴァルラムの視線はゲッツに集中する。
そして、わたしは小石を投げる振りをして、ヴァルラムが進む先にベアリング球を、先生やカティ、デボラやお母様と一緒に沢山投擲した。
更にヴァルラムがヘルメットの面貌を閉じたので、彼には足元がはっきりと見えない。
「わたくし達に球を沢山投げさせたのは、あの球で馬を転ばせる為だったのですね」
「ええ、そうですの、先生。『アタシ』時代に、パチンコ玉で転ぶのを沢山見たので、思いつきましたの」
……パチンコ店で転ぶ人、結構見たよね。アタシは、タバコが苦手だったから、パチンコ店は苦手だったけどね。
後輩にパチンコマニアが居たので、後学にと一緒にパチンコ店に行った事があったが、それが今回役にたったのだ。
「そういえば、わたくし。以前急に廊下で転んだ事がありましたが、それは姫様のイタズラだったのですか?」
「で、デボラ。えーっと、昔の事は、ごめんなさい。もう、そんな危ない事はしません。あの頃は、『アタシ』の記憶も無くて、転ぶ危険性も知らなかったのですぅ」
わたしは、デボラに平謝りをする。
数年前、廊下の床にワックスをこってり塗って誰が転ぶのか、カティと一緒にイタズラをした。
あの時は、まだ幼く知識も無かったので、転倒する危険性も知らなかった。
「大きな怪我もしなかったですから、もう良いですわ。それに、あの時の経験が勝利に繋がったのなら、ご立派ですの。もちろん、今後はイタズラは禁止です!」
「あのぉ、デボラ。誰かの役に立つイタズラは許してくれませんかぁ」
わたしは、令嬢にあるまじき態度だと思うけど、ぺこぺことデボラに頭を下げた。
「クーリャは、困った娘ね。さて、皆さま。愚か者の末路を見ましょう」
お母様は、倒れ伏したヴァルラムの方を指差した。
「ほう。クーリャ殿も策士じゃな。ボーラを見せ技、そして己らがあがく姿すらも囮に使ったのじゃ。足元にパチンコ玉を一杯転がされれば、人間でも馬でも転ぶのじゃ。それが高速移動中のゴーレム馬なら、馬上の騎士は吹っ飛ぶのじゃ!」
ボーラを使うのは、昨日分の話を書く時に思いつきましたが、いきなり素人が当てられないだろうと後から気がつきました。
だったら、どうすれば良いのか考えていてベアリングに使った球に気がつきました。
そしてボーラを見せ技に使う事で、ヴァルラムはマンマと罠に引っかかってくれました。
「なるほど、作者殿も策士じゃな。そして、TCGでは策士、策に溺れて負けるのじゃな」
チエちゃん、それは言わない約束でしょ?
私、慌てたらミスしちゃうし、メタ読みで勝てるデッキ組まないと、負けるんだもん。
そしてメタ読み間違って大負けするけどね。
「まあ、拗ねるで無いわい。作者殿は前世紀からずっとプレイしているだけでも偉いのじゃ! 継続は力なのじゃ!」
ありがとうね、チエちゃん。
さて、ヴァルラムを倒す事に成功しました。
彼は、どうしてクーリャちゃん達を襲ったのか?
その秘密が明かされる……といいな。
「では、明日の正午を待つのじゃ!」