第24話 クーリャ21:夕闇の襲撃! わたし達を襲う賊!
決闘の後、わたし達は公爵に丁寧に挨拶をして帰路に着いた。
……様は、今回の決闘で禍根は残さないでね、って話なんだけど、公爵側は最初からこちらを貶めるつもりだから、聞きはしないよね。
「クーリャ。ローベルトが使った技、僕にも教えてくれないかな? あの刀を作ってくれるのなら、それに見合った技を使いたいからね」
「お父様には、元々すごい突き技がありますよね。それを応用できそうな技ならお教えできるかもですわ。問題は、普通の人類に出来るかどうですけど」
「まあ、クーリャ。貴方は前世とやらで、どんな勉強をしたのですか? 何から何まで凄すぎですわ」
「お母様。お恥ずかしい事に、わたくしが知っている技の大半は特殊な『物語』に書かれていたものなのです。なので、実際にわたくしが使えるものではありませんのよ」
帰り道中、石畳の街道を進む馬車の中、わたしは両親から質問攻めにあっている。
ミスリル鎖をも切り裂く刀、そしてそれを効率的に操る剣術。
どちらも、この世界では見られないものだから。
……ううん、確かこの『世界』でも日本らしい国が東にあったよね。そこからの留学生も学園に居たし。いずれは彼女にも出会えるよね。
「とにかく、クーリャの持つ異界の知識は使い方を間違えたら大変だ。絶対に周囲には秘匿するように。特に、クーリャ自身の『口』が一番危ない。ナターリャ殿、くれぐれも教育を頼む。このバカ娘がいらぬ事を口走らぬようにな」
「はい、必ず姫様には間違いを起こさせないよう、指導を致します」
「お父様、先生。わたくし、そこまでバカではありません。さすがに自ら正体をばらすような……」
「あら、マクシミリアン様の剣を見て、口走ったのは何処のバカ娘だったかしら? それに暴走しだすと、周囲を見なくなるのはダメですよ、クーリャ」
「お母様ぁ! もう、過ぎた事はご勘弁を」
「姫様、過去は反省の糧でございます。カティ、貴方からも姫様をお守りするよう、気をつけなさい」
「はい、デボラ様ぁ。アタシ、ぜーったいに姫様を守りますぅ!」
どうやら、わたしの「口」には、一切信用がならないらしい。
全員から、酷い言われようをしている。
そして暴走癖にも、大きな釘が打たれる。
……わたし、普段は落ち着いて考えられるのに、興奮するとダメなのねぇ。秘密は自分からバラしちゃうし、とことん事態を進めちゃうし。家に居る間は良いけど、学院に行くまでには、なんとかしなきゃね。
わたしは、前世から続く暴走癖をなんとかしたいとは思った。
思ったけど、なんとかなるような気もしない。
うん、たぶんダメだろう。
でもいいのだ、これがわたし、クーリャなのだから。
「旦那様、後方から何かが接近しています!」
そんな時、御者をしてくださっている獣族の方が、わたし達に警告をしてくれる。
耳が大きい種族、うさぎっぽい方だけど、聴覚が鋭いのだろう。
「どれ? うむ、確かに武装した者達が複数騎馬にて走ってくるな。実に怪しい。ローベルト、戦いの後で疲れているであろうが……」
「マクシミリアン様、お任せを。この時の為に自分は騎士をしているのですから」
お父様は、馬車から顔を突き出し後方を見る。
夏の夕方、闇が徐々に迫りつつある中、おそらく視覚強化魔法で遠見をしたのだろう。
そして、騎馬で馬車に近付いたローベルトに攻撃準備を命令した。
「他の者も戦闘準備を。馬車も早足で頼む。あの様子では夜盗ではあるまい。『アヤツら』が負けた腹いせに、ならず者でも雇ったに違いない」
「まったく困った公爵様ですわ。まさかこちらの領内で仕掛けてきますとは」
「ここで皆様に何かあれば、残るは幼いラマン様。そこに領主代行としてでも入り込むつもりでしょうね」
まったく碌な事を考えない公爵やアントニーである。
自分達が負けて恥をかいたのを逆恨み、領主一族が揃って移動中を狙って「事故死」させる様に動くとは、困った事だ。
「お父様、こうなったら『アレ』を使って宜しいでしょうか?」
「ふぅぅ。しょうがあるまい。では、私と獣族の方々、ローベルトで時間稼ぎをするから、その間に女性達は『アレ』で逃げなさい。そして救援を寄越してくれると助かるよ」
「はい、お父様! ゲッツ、聞こえますか!」
加速して揺れる馬車の中、わたしは「アレ」に乗って同行中のゲッツを通信用の魔法札で呼んだ。
「おう、姫様。既に状況は把握済みだぜ。テストゥード号、準備万端だ!」
そんな中、ローベルトが叫ぶ。
「後方から火炎球と火矢が来ました!」
……まさか、魔法使いまで投入? どんだけ、わたし達を消したいのかなぁ、公爵家って。
「<水の守りを>!」
「<風の守りを>!」
「<神のご加護を>!」
お母様、先生、デボラが防御結界魔法を唱える。
その結界に弾かれて、火炎球や火矢は馬車から外れた。
「クーリャ。貴族たるもの、その持つ力で自らを、そして愛する者たち、領内の人々を守る義務がありますの。貴方もいずれは、貴族令嬢として戦う身。その事は、覚えておくのですよ」
「はい、お母様! 先生、わたくしに魔法もお教えくださいませ」
「そうですね、姫様。今回の事が落ち着いたら、基本からお教えしますわ。暴走癖のある姫様が魔法を使うのは少し心配がありましたが、今回みたいな事があるのでしたら、魔法を使えないほうが危ないです」
「姫様。機会がございましたら、わたくしからも神聖魔法はお教えできます。是非とも御身を守る力になさってくださいませ」
……うふふ。これもいいチャンス。『アレ』の実戦データと魔法学習の機会を得たと思えば問題ないの。それに、複数に囲まれない限り、お父様やローベルトがザコに負けるはずないですわ!
わたしは、震える手足を「思い込み」と気合で誤魔化す。
これから、わたしが戦うのは、こんな血なまぐさい世界。
そこで、わたしは皆を絶対に守らなくてはならない。
こんな事で、怖がっていては始まらない!
「この爆裂令嬢を怒らせて、無事に済ませないわよ、アントニー!!」
「まさか、堂々と領主たちを襲うとは、公爵はバカなのかや?」
おそらく貴族に目撃者さえ残さなければ、事故死の扱いに出来るとでも思っているのでしょう。
何せ、ここはいいとこ18世紀くらいの封建社会。
権力の前には、領民の口、いや命なぞ簡単に塞げるのですし。
「それは確かになのじゃ。そして、襲撃者を後から口封じすれば、完全犯罪なのじゃ! 実にいやらしいのじゃな」
本当は帝都でローベルト君をイジメ殺す予定でしたが、完全に予定が狂ったので、作戦変更したのかと。
というか、元々おびき寄せて暗殺を狙っていたのかもですね。
「なるほど、敵にも知恵者はおるのじゃな。これは、今後もクーリャ殿は危ないのじゃ」
ええ、そこは今後のクーリャちゃんの頑張り次第です。
次回は、クーリャちゃんの秘密兵器炸裂ですぞ、チエちゃん。
「それは楽しみなのじゃ! では、皆の衆、ブックマークや評価をして待つのじゃ! 感想、レビュー、ファンアートも募集中じゃ。ワシもリーヤ殿みたいにファンアート欲しいのじゃ!」
すっかり宣伝ガールですね、チエちゃんは。
では、明日の更新をお楽しみに!