第21話 クーリャ18:剣術指南も楽じゃないの! 秘剣を授けるわたし!
「ふん! ふん!」
ローベルトが、真剣に剣もどき、いや刀もどきを振っている。
剣の持ち方が西洋剣とは全く違うので、かなり苦戦している様だ。
……真剣に真剣を振るって、ギャグよね。
「刃を当てる瞬間に、もっと手を雑巾を絞るようにするの! それとね、人差し指には力をあまりいれないで。そうすれば手首が固まらないですわ。それに力配分は左7の右3よ!」
「はい、姫様!」
わたしの日本刀作りは順調、今はゲッツが刀身の仕上げの段階、他の細工師が柄や鍔の部分の作成に入っている。
……問題は、『アタシ』の記憶に柄の仕様が、ざっとしか無いんだよね。外見は覚えているけど、どうやったら、ああなるか分かんないの。
柄については柔らかい木製なのとサメ革巻いて、その上から滑り止めに糸で巻くってのと、黒焼きした竹を刀身固定用の目釘に使うくらいしか、わたしは知らない。
竹など、この世界では手に入らないものも多いのと、今回は時間省略の為にしょうがないので適当な感じで作って、刀身が抜けたりしないように目釘穴を二本あけて、そこは柔らかめの銅釘を使うつもり。
更にこんな感じかなと刀身を固定するハバキも銅で作ってもらう予定なのだ。
「クーリャ。この刀とやらを使った剣術は、僕が習った両手剣術や片手剣術とは随分違うね。剣術では右手が主で、手首の返しで切ったり突いたりするけど、これは刀身の動きが流れる様に、そう円を描くような感じだ」
今日もお父様は、わたしの横でローベルトの練習を眺めている。
「はい、お父様。この刀身は力まかせに押し切るのではなく、撫で切るものですの。肩を支点として円を描くように、装甲の薄い部分で血管が表面に近いところ、例えば利き手首の内側を狙えば、確実に戦闘力を奪いますわ」
日本刀を使った戦い、大抵は時代劇の様に一撃で、ずんばらりんとはいかない。
そんなのは、初太刀にすべてをかける薩摩藩の東郷示現流や薬丸自顕流くらい。
大抵は、首、手首などの表面に大きな血管がある部分を切って、出血多量による気絶・死亡を狙う。
一番日本刀での戦闘が行われたと言われる幕末。
そこで行われた戦い方にヒントが多い。
……アタシの愛読書は「燃えよ剣」とか「るろ○」なのぉ。ああ、総司さまぁ! 斉藤さまぁ!
案外とミーハーなアタシは、恥ずかしい事に剣術を知るのに有名フィクションから入った。
なので、知っている技には、現実では不可能な技も多い。
「突き技は平正眼、右半身にして刀はすこし右内側で相手の左目に向けた形にするのです。そして外したら、そのまま刀を振るって首を切り落とすの!」
間違っても3連突きとか「がとつ」なんて無茶は言わない。
更に言うなら同時9連撃とか真空を起こす居合いなんて論外。
西洋剣術使いに、居合いなんて理解させるのも難しいし。
「そうそう。で、相手の攻撃は体さばきで避けるか、横の峰で弾きますの。『切り落とし』が出来たらミスリル剣も怖く無いわ」
「姫様、無茶言わないで下さいよぉ! 相手もいないのに技なんて、これ以上は練習できませーん」
「では、私が木刀で相手しようかな、ローベルト?」
「マクシミリアン様、ご勘弁をぉ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、刀は間に合いそうですから、今度は闘技場外の戦いですわ」
「だね。さて、クーリャ。何か策はあるのかい?」
「マクシミリアン様、あまり姫様をおだてないように。また暴走したら、わたくし止められません」
「姫様、暴走すると可愛いけど怖いですぅ」
「マクシミリアン様ぁ。あれは無いですよぉ……」
半分気絶状態のローベルトを介抱しながらの休憩中。
ダウンしたローベルトを囲って、お父様、わたし、先生、カティで相談している。
なお、ダウンした理由は、お父様がとっておきの秘剣を使ったから。
……まさか、あの体勢から剣先が伸びるなんてスゴイの!
フェンシング風な突き技から、更に剣先が伸びる。
その突きを避け切れなかったローベルトは、見事ダウンしたという訳だ。
「とりあえず、向こうの策を読みたいですわ。隣同士なのに、何故わざわざ王族や他の貴族に見られやすい王都での決闘になったのかです」
ウチと公爵領は隣同士、王国中心やや南部に存在する王都へ向かうのと隣領に行くのでは、大きな違い。
かたや馬車では最低二日は必要な王都、しかし隣領なら馬車でも日帰り可能。
どう考えても、ただの決闘にしては無駄が多い。
……まるで、見せしめ。よってたかって虐めちゃおうってハラかしら?
「多分、クーリャが思っている通りだろうね。先日の婚約破棄で、クーリャに恥をかかされたって思っていて、その恨み返しに違いない。王族をも巻き込むつもりかもしれないよ」
「そうなったら不味いですわね、お父様。幸い、今回はわたくし達が策を練ったので、少なくとも大負けは無いです。ただ、もう一度負けたらアントニーは激怒するでしょうね」
「それは大変ですわ。難癖つけて、もっと無理難題吹っかけてきそうですわね。どうしましょうか、姫様」
さて、どうすれば向こうに大恥かかせず、かつこちらが勝って問題なく終わらせられるのか。
わたしは、頭を捻った。
「あ! お父様、先生。決闘の場所を変更では如何ですか? 態々王都まで行かなくても、お互いの領土が接する場所で行えば近くて良いですし、王族を巻きこむ危険性も減ります。更に近所ですから、お父様が決闘の場に行く事もできますわ」
「ふむ、確かに本人達だけでなく領主も観戦するとなれば、向こうも嫌とも言うまいし、決闘の場で変な小細工も出来まい。ローベルト、決闘の場所については既に決まっているのかい?」
「い、いえ。まだ、詳しい事を決めていません。というか、無理やり向こうが決闘を押し切った形だったので、こちらの意見を聞いてくれませんでした」
わたしは、決闘の場所変更を提案した。
王都にローベルトだけ送れば、味方が少ない中、どんな卑怯な罠を仕掛けているか分からない。
しかし、お互いの領主同士が観戦する中での試合型式にしてしまえば、命の危険性も少なく、更にあからさまな罠は仕掛けにくいだろう。
「ならば、こちらからイザーク殿に部下の不手際に対しての謝辞の封書を送れば、向こうも無碍には出来まい。そこで、決闘とはお互いに風評も悪いので、技を競い合う試合として、王族に知られにくいお互いの領地境で行うのではどうかと書こう」
「それで向こうの反応を見ましょう。騎士の誇りもありますから、決闘自体を無くすのは不可能ですが、お互いの落としどころで決闘ではなくて試合型式にしてしまえば、ローベルトが例え負けても命の心配は無いですし。領主一族が見る前で、卑怯な事は出来ないでしょう」
「姫様。一応ローベルト様の事は心配なさっていますでしょうが、本心では、そのような事を考えていらっしゃらないでしょ? 決闘の場に直接赴いて、ローベルト様が勝つ場面で悔しがるアントニー様を見たいのですよね?」
「せ、先生! え、えっとぉぉぉ……。お、お父様。わたくし、刀を作った責任がありますので、現場に……」
わたしの意見に同意してくれたお父様に上手く話して決闘場に行こうとしたのだが、先生にその意図を見抜かれてしまう。
……先生ったら、わたしの内心を読みすぎなのぉ! そりゃ、アントニーが地団駄踏むのを見たいけどね。
「まあ、そんな事だと思ったよ。暴走娘のクーリャが大人しくしているはずも無いからね。放置していたらゲッツ辺りを騙してでも来ちゃいそうだから、しょうがない。クーリャ、私の側から絶対離れないと約束できるかい?」
「はい! 絶対、お父様から離れたりしません!」
「なれば、許可を出そう。じゃあ、更に策を練っておこう。まずは決闘での勝利からだ」
「自分、どうなるんだろう……」
ひとり不安げなローベルトを放置して、わたし達は色々相談した。
「あ! イイ事を思いつきましたの。お父様、刀作りが終わったらゲッツをお借りできますか? 作ってみたいものがあるんです」
「あー。姫様が、また暴走し始めましたぁ」
「アタシ、今から姫様と一緒に行くのが楽しみですぅ!」
……ぐふふ。色々前倒しでやっちゃうもん!
「下準備は、ちゃんと出来たのじゃな。さて、では次回は、いよいよ対決かや?」
ええ、そうするつもりです。
チエちゃんや読者の方々を長々お待たせするのも悪いですからね。
「では、明日の決闘を待つのじゃ! ブックマークも頼むのじゃ!」
ではでは!