第20話 クーリャ17:日本刀つくりも本番! そして嫁入りの心配をされるわたし。
わたし達が製鉄を開始して約一ヵ月後、数回の失敗の後に良質な玉鋼が得られた。
「これで、ようやく剣つくりに入れるな。で、ここからはどうするんだ、姫様」
「同じくらいの固さの鉄を集めて、熱しては数回折り曲げながら鍛えていきます。ここで余分な炭素が抜けて、更に鉄が強くなります」
玉鋼の塊をハンマーで叩いて平らに伸ばす。
ここでも魔力モーターが大活躍。
トンテンカンと自動ハンマーの音が響く。
「クーリャに、不思議なゴーレムを作らされたと思ったが、こういう用途に使うのか。確かに人力よりは疲れない分、作業が楽になるね」
「はい。自分の剣がこのようにして作られるとは、実に興味深いです」
今日は、お父様やローベルトも鍛冶場に顔を出している。
「こういう機械化は農作業にも利用できますの、お父様。今回の事が落ち着いたら、畑を耕す機械、耕運機でも作りますわ。後、輸送用の馬車、自動車も作りましょう」
「姫様、暴走しすぎでございます。皆様が便利になるのは良いのですが、あまり派手に動きすぎますと他領に姫様の存在が露見いたします」
「あ、そうですね、先生。わたくし、注意致します」
……危ないのぉ。わたし、気をつけないとぉ!
「姫様、ここからはどうする?」
「では、固さを柔らかい順に心金、棟金、側金、刃金の4つの鋼に分けて、再び数回折り返ししながら叩きます。その後、中央に心金、左右に側金、後ろに棟金、前に刃金と熱して叩いてくっつけます」
こうして刀の基本構造、中央部が柔らかく、刃の部分が固く鋭いのが形成される。
「普通の剣とは、随分と作り方が違うんだな」
「はい、お父様。この剣、いえ刀は幾層もの多重構造を持つ鋼、炭素量、固さが違うものを組み合わせることで、固さと折れ曲がらない強さを実現しています」
西洋剣は鋳造、鋳型に鉄を流し込んだ後、表面を焼き入れする事で、表層のみ鋼鉄になった擬似多重構造になる。
しかし、表面のみの硬化なので、数合打ち合えば表層が削れ、直ぐに切れない殴打武器に成り下がる。
「お父様の愛剣に使われているウーツ鋼、『アタシ』の知識では『るつぼ』で作った鋼だそうで、幾層にもなる鋼と炭素の層が刀と同じく強度と固さを両立させているそうです」
お父様の剣、それは「ゲーム」でのわたしの破滅イベント時点では存在していなかった。
もしかすると、元々お父様はローベルトの危機に愛剣を貸し出すも、そこで失われ、ローベルトは顔に傷を残す事になっていたのかもしれない。
「クーリャ、もしこの刀とやらの製造が成功したら、二本目は僕にくれないか? 娘が考案した武具は、今後の自慢にしたいよ」
「はい。ぜひともお父様の誕生日にお送りいたしますわ」
お母様には化粧品、お父様には武具を贈れることになった。
これで、我が家は安泰。
外部の敵への対抗手段も取れるようになるだろう。
「さて、このまま鍛冶場に居たらゲッツの邪魔になりますわ。わたくしたちは退場しましょう。あ! ゲッツ、例のものは出来てますか?」
「おう! そこに置いてあるから持って入ってくれよ、姫様」
わたしは、カティに手伝ってもらって布に包まれた棒状のものを、ローベルトに渡した。
「姫様、これは?」
「今作っています刀は、ローベルトが使い慣れています剣とは重量バランスも、使い方も違います。わたくしが、メモした剣技がいくつかありますので、それを使って練習してくださいな」
わたしがローベルトに渡したのは、細い鉄板と木で作った柄を合わせたもの。
大体の重心バランスが日本刀そっくりになっている。
「ありがとうございます。うん? 随分とバランスが刃先にありますね。その分、一端振り回すと切れそうです」
「あ、ローべルト。切る時は剣筋をしっかりとね。ぶれたら切れないですし、刀が曲がりますの」
「クーリャ、キミの前世は一体何者だったんだい? 科学関係はまだ理解できるけど、剣術まで知っているなんて??」
ローベルトに、わたしは「えいやー」と剣術指南をしていたら、お父様に突っ込まれてしまう。
「えっとぉ。前世の『アタシ』は科学系は上級学校で学びましたが、剣術とか日本刀の作り方は趣味で覚えましたの。アタシ、女の身でミリタリー、軍事やら武術が好きだったんです」
「ふむ。本当にクーリャは不思議な娘だね。どうやら前世でも、ご両親を困らせたに違いない。女性ながらに戦事が好きだとは……。あえて聞くけれども、前世では結婚は出来たのかい?」
呆れて、アタシ時代の事を更に聞くお父様。
確かに、この世界では「アタシ」みたいなのは、嫁の貰い手は少ないだろう。
……今のわたしでも、嫁に欲しいって家は無いかもね。ちんちくりんで科学オタクだもん。
「恋人もいませんでしたわ。それに亡くなったのは、まだ23歳の頃。前世世界では結婚するには、やや早めの年齢でしたの」
「こちらでは23歳は適齢期後半。そろそろ行き遅れとも言えるぞ。くれぐれも今度はクーリャ、ちゃんと僕達に孫の顔を見せてくれないかな」
少々茶化しながらも、わたしの頭を撫ぜて、将来の事を話すお父様。
……つまり運命打破して、幸せになれって事なのね、お父様。
「はい、努力しますですぅ」
「姫様には、もっと社交界向けの勉強が必要になりますわね」
「アタシ、姫様にずっと付いていきます! 乳母でもなんでもやりますよぉ!」
先生やカティも、わたしを応援してくれている。
わたし達は目的、5年後の破滅を阻止する為に動き出した。
そして、皆で幸せになる。
そのためには、手段は選ばない。
どんなチート技術だろうが使って、生き残るのだ!
「もはや隠す秘密も無いので、開発は順調じゃな。これで、後は科学チートで、敵をぎゃふんと言わせるのじゃ!」
お父様達が完全に味方になったので、クーリャちゃんは動きやすくなりました。
もはや手加減無しにチートするのです。
「といいつつも、この技術が他領にバレたら危険なのじゃ。そこいらの秘密保全が今後のクーリャ殿の課題じゃな」
ええ、チエちゃん。
おそらく日本刀を見ただけでは、まさかクーリャちゃんが入れ知恵して作ったとまではバレないでしょうが、自動車なんて作ったら危ないですね。
「工業機械や土木機械、農業機械は比較的早くに欲しいのじゃ。落ち着いたら、今度はコンクリートで土木・治水作業なのじゃ!」
順番からしたら、そうなりますね。
さて、そろそろ剣を掛けた決闘が近付きます。
どうやって、クーリャちゃん達が勝つのか、乞うご期待です!
「では、皆の衆。ブックマーク等して待つのじゃ!」