第19話 クーリャ16:怪我の功名! わたし、魔力モーターを開発したの!
「では、ゲッツ。宜しく御願いしますわ」
「あいよ、姫様!」
わたしが両親に秘密を打ち明けて数日後、打倒・魔剣作戦が開始された。
なお、わたしが「アタシ」の知識をもって何か行動をする際には、今後必ずお父様、お母様、デボラ、先生の4人の許可を得る事になった。
そして、いくら時間が無かろうとも貴族令嬢としての嗜みについては、手抜きせずに必ず勉強する事にもなった。
……まあ、そこはしょうが無いよね。貴族社会で戦う以上、社交界で恥をかく訳にもいかないし。
「では、『たたら場』からですけど、わたくしの送ったメモが役に立ちましたか?」
「ああ、こんな感じに仕上がったぞ。砂鉄を使うのは初めてだけれども、これはこれで面白そうだな」
ゲッツは、自慢げに「たたら場」を示す。
彼は、わたしの「秘密」、異世界の知識については概ね感づいていた様で、後にお父様からの命令でわたしの秘密についての秘匿を約束してくれた。
「こんな面白い技術、他所に渡してたまるかよ。それに可愛い姫様は、俺にとっても大事なご主人様だしな」
と、ゲッツも彼なりにわたしを大事にしてくれている。
「姫様、こちらの『たたら場』とは普通の鉄を作る溶鉱炉とは、随分違いますね」
「はい、先生。砂鉄を使うので、大きな鉄鉱石を溶かすよりも低温で作業が出来るのが利点なんです」
低温化での還元作業、酸化鉄から鉄への変化を行うので、リンや硫黄分が少ない優秀な鉄が産出できる。
弱点としては、大量生産が出来ず、鋳造向けの鋳鉄を作るのには向かない事だ。
「しかし、姫様はすっごい事を考えるんだな。鞴を動かすのに、ゴーレムの力を借りるなんて」
「本当は水辺で水車を使いたかったのですが、それは今後の課題ですわ」
たたら製鉄を行うには全工程で3日弱、約70時間ほど必要。
その間、ずっと鞴を動かすのは少人数での人力では不可能に近い。
なので、大抵は水車などの動力を用いる。
「今回のミソは、普通のゴーレムでは無い点です。名づけて『魔力モーター』ですぅ!」
わたしが鞴を動かすアイデアとして思いついたのが、ゴーレムを使う事。
人力がダメなら、人力に近いものを使えば良いと。
しかし、わたしにはゴーレム作成技能も知識も無い。
先生には、学園で習った術式はあるものの、今度はゴーレム作成の材料が足らない。
そこで、わたしは、それらが全て揃っているお父様を説得しようとして、先日のバカをやってしまったのだ。
「本当に姫様の知識というか、思いつきはすごいです。ゴーレムが人型や動物型でなければいけない、という概念をすっかりふっ飛ばしました」
「アタシ、ビックリですぅ!」
先生やカティも、わたしが立案した「ゴーレム」に驚く。
最初は鞴を動かす腕部分だけ、アタシが知る産業ロボット風に作る予定だった。
しかし、お父様や先生からゴーレムを作成する際の術式を聞いていて、わたしは思いついたのだ。
「あ! じゃあ、魔力をエネルギーにして、ぐるぐる棒を回すだけのゴーレムって作れますか、お父様?」
「ああ、出来るよ。それなら魔結晶も少なくて済むし、命令形も殆どいらないから擬似精霊を使う必要もなく、必要魔力も多くないね」
そして四角い箱から、回転する棒が突き出たもの、モーターモドキが生まれた。
なお、摩擦が起こる軸受けにはゲッツに頑張ってもらってベアリングを作って付けた。
「この魔力モーターの回転運動をクランクで上下運動に変えて、鞴を動かすのです!」
「姫様、最初から上下運動をするゴーレムを作ればよかったのでは?」
先生は、誰もが思いつきそうな疑問をわたしに聞く。
「はい、先生。これが鞴専用のゴーレムなら、わたくしもそうしました。しかし、この魔力モーターは汎用性が高く、とても画期的なのです! 例えば、これを馬車、いえ、自動車や農機具の動力に使えば、皆の作業が楽になります。また、わたくしの計画も一気に進みました」
本来であれば蒸気機関を開発するまで、大規模な工業化は不可能。
しかし、魔力さえあれば無限に動く動力を手に入れたからには、一気に計画は前倒しに出来る。
加圧ポンプも簡単に出来るのだ。
「このアイデアは、本来の『ゲーム』では無かった事。わたくしの、いえ『アタシ』の科学知識、先生やお父様の魔法知識、それにゲッツの金属加工技術が合わさって出来たのです!」
「いまひとつ、姫様が興奮しているのが理解しかねますが、画期的なのはわたくしにも分かります。平民の方々でも使える魔力量で動くのなら、これは大発明です!」
本来、ゴーレムを動かすには物凄い魔力量と、機体をコントロールする擬似精霊を宿らせる必要がある。
それこそが、アントニーの家、公爵家が貴族内で大きな顔を出来ている理由。
「本当は、これは電気の力で動く機械、モーターの真似事なんです。でも、今は時間短縮が大事。ですので、わたくし、手段は選びませんの!」
「さて、姫様。このモーターってのがスゴイってのは俺にも分かった。俺の魔力量でも動かせるしな。で、無人の場合はどうするんだい?」
「そこは、モーター内にある魔結晶が魔力を蓄える構造、電池代りになってます。貯蔵魔力量は、表面表示板の色の変化で分かるようにしていますの」
今回は、回転数はそこまで早くしていない。
長時間回転を優先しているから。
スピード調整とかは、今後の課題だろう。
……後、気になっているのは発電ならぬ発『魔力』なの。
モーターは電気で回転するけれども、逆にモーターを回せは発電機となり電気が生まれる。
これが魔力モーターも同じなら面白い事になりそうだ。
「さあ、たたら製鉄の開始です!」
「クーリャ殿は、これまた面白い事を思いついたのじゃ。魔力で動くゴーレムから、モーターを作ったのじゃ! 量産化の暁には、産業革命が起こるのじゃ!」
蒸気機関などの外燃機関や普通のエンジンの内燃機関を通り越して、ほぼ無限に手に入る魔力を動力源としたモーター開発は、画期的ですよね。
作者も、最初は腕だけゴーレムの産業ロボット風なのを作る予定でしたが、ぴかりっと閃きました。
「廃熱や燃料を考えないで済む分、凄いのじゃ! そういう意味ではナイツ&マジックのシルエットナイト開発にも通じるのじゃ! しかしエル殿、スパロボにデビューめでたいのじゃ!!」
あそこの場合は強化魔法を使う関係で人体模写から始まりましたが、エル君がロボヘンタイ(褒め言葉)だったので、イカルガみたいな異形なロボになっちゃいました。
しっかし、スパロボ30年記念作品に登場とは、出世しましたねぇ。
エル君とOG勢のリュウセイ君が、ロボット談義するのが見えます。
「うん? まさか、クーリャ殿も将来はロボにでも乗るのかや? ワシも『異世界CSI』の後半でロボ戦をやったのじゃ!」
さあ、短編版では多脚戦車を開発してましたが、どうなりますやら。
そこは、長期連載になるかどうか、皆さまの応援次第かと。
「うむ、先が楽しみなのじゃ。では、明日の更新を楽しみに待っておるぞ!」