第1話 カエデ1:運命の朝、アタシJD!
いよいよ始まるGOM流、悪役令嬢物語。
科学チートを駆使するクーリャちゃんの物語をどうぞ!
ロマノヴィッチ王国北方にあるニシャヴァナ男爵領、そこに西隣領から銀色に輝くミスリルゴーレムの軍勢が迫っていた。
「とうとう、この時が来たのね。絶対に『ゲーム』通りになんて、させないからぁ!」
領内中央部に存在するカルカソンヌ砦。
その城砦の上から、身長150センチメートル少々、黒髪の少女が叫ぶ。
彼女の名はクーリャ・マクシミリアーノヴァ・カラーシュニコヴァ。
このニシャヴァナ男爵領主、マクシミリアンの長女である。
これは、後に連合共和国初代大統領補佐になる「爆裂令嬢」、クーリャの物語である。
◆ ◇ ◆ ◇
「おねーちゃん、行ってきます! 今日はプラントの起動試験だから、少し遅くなるかも……」
アタシは、土曜日の朝なのに暗い自室でパソコンと格闘している姉に外出の挨拶をした。
「楓、足元には注意していきなさい! それと前をちゃんと見なさいよ」
「もー、アタシ子供じゃないんだよぉ?」
心配性の姉は、パソコンから目を離さずに、アタシに注意をしてくれる。
……長期海外出張中のおとーさん、おかーさんに代わって心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと過保護じゃない?
「そうかしら? この間、スマホ歩き見しながら道路工事の段差で転んだのは誰だった? 研究室でも色々やらかしているそうだけど? 集中したら他が見えなくなるのと、暴走癖を治した方が彼氏受けも良いよ」
「え、えーっとぉ。アタシ、カレシなんていないもん。じゃ、他所見せずに気を付けて行ってきます!」
アタシは、痛いところを突かれて、急いで逃げるように玄関を飛び出した。
アタシ、楠 楓。
今年23歳になるバリバリの理系女子大学院生、今風に言えばリケジョ。
といっても、身長155センチくらいしかないし、童顔のメガネっ子で体型もメリハリが無い。
その上、オタク・研究者気質だから、この年齢まで男っ気が無い。
姉、「さくら」に言わせれば、化粧っけも無い、おしゃれに無頓着なのも悪いと言われる。
「わたしの妹なんだから、可愛いし素材は悪くないと思うよ。もう少し身綺麗にしたらいいのに?」
姉は、大手商社のOL。
そして社内恋愛から、近日中20代の内に結婚という予定だ。
アタシから見ても、メリハリのある身体と派手っぽい美人顔の自慢の姉だ。
「まー、これで貴腐人じゃなかったらね」
姉は「貴腐人」、そういわゆる「腐っている」BL耽美系オタクだ。
そしてシナリオライターとしても有能で、コミケ壁サークルの代表でもある。
「結婚前に荒稼ぎって、勝負に出たのが大成功しちゃうんだもんね」
姉の彼氏、雅也さんは比較的オタクにもBLにも理解がある人で良かったけど、最悪の事態を考えてコレが最後とコミケ参加時に大勝負として発表した作品がバカ売れしてしまった。
「多方面に売るつもりだからと、アタシまで手伝わされたもんね。昨日もマスター前のテストプレイやらされたけど……」
アタシBL系は、そんなに好みではない。
かといって、筋肉系も好みじゃない。
「アタシ、恋愛なんて興味ないもん。女の子の友達も少ないけど……」
中学時代、周囲の女の子達とは趣味が合わず、アタシは無視と言う形でイジメられた。
そして男の子たちも、根暗に見えたアタシを「存在しないもの」として扱った。
そんな周囲の子達が、アタシにはバカで下品なものにしか見えなかった。
「女の子でミリタリーとか科学、SF趣味の子は、あの頃は珍しかったものね」
今なら高校生戦車モノとかミリタリー魔女っ娘系アニメが放送された影響で肩身が狭い事もなくなったけど、昔は腫物扱いならまだマシ。
クラスで透明人間の様に、アタシは存在しないものとして無視されてきた。
そしてアタシも「殻」を造り、誰も相手にしなかった。
「でもいいもん。アタシには科学があったし」
中学校時代、昼休みに寂しく図書室で科学雑誌を読んでいたアタシに話しかけてくれたのが、理科の女先生。
彼女は、アタシに会うたびに色々話してくれた。
彼女自身、女だてらに科学畑に進んだとイジメられた過去があり、アタシの事が他人事ではなかったそうだ。
「あの先生のおかげで、大学院にも行けたし、このまま博士課程まで行けそうなのは感謝よね」
先生は、アタシに科学だけで無く、人との付き合い方も教えてくれた。
自分から殻を造ってしまえば、他人は近づいてこない。
自分から相手を否定すれば、相手も自分を否定する。
まず怖がらすに、一歩前に進む勇気が大事。
お互いに話し合わなきゃ、理解もされないし理解できないよ、と。
アタシは勉強を頑張って偏差値の高い高校へ入学後、怖がらずにクラスメイトになった子達に話しかけてみた。
すると、案外簡単に友達になれた。
男の子達ともオタクなバカ話できる関係にまでなれた。
「まー、同級生の男の子たちがガキっぽいのは変わらないけどね」
◆ ◇ ◆ ◇
姉の作った同人ゲーム、「乙女革命戦記」
18世紀後半くらいのフランス・ロシアをモデルにしたファンタジー世界が舞台の異世界ファンタジー・ミリタリーシミュレーション乙女ゲーム。
「うん、なんでも混ぜすぎ」
平民出身の女の子主人公カトリーヌ・レオンが友人たち、彼氏たちと一緒に自らが住む王国で貴族社会打破の革命を起こし、連合共和国初代大統領になるまでの物語。
男性からは、バランスが取れた戦略・戦術性とミリタリー、ファンタジー要素。
女性からは、恋愛要素、BL、イケメンハーレム要素がバカ受け。
とうとう、大手ゲーム会社との提携が成立し、製品版の発売まで漕ぎつけてしまったのだ。
「アタシまでテストプレイに引っ張りまわされるんだもん。売れたらお小遣い要求しちゃる!」
思わずアタシまで取らぬ狸のなんとやら、を考えてしまった。
……型月みたいになったら、外部アドバイザーとして給料貰おうかな? そして『あの子』のハッピーエンドシナリオ追加したいな。
アタシはゲーム内で気になった子が幸せになるルートの追加シナリオを考えた。
「おい、危ないぞ!」
「ご、ごめんなさーい!」
考え事をしながら歩いていたアタシは、赤信号の横断歩道に踏み出しそうになった。
……油断大敵なのぉ!
◆ ◇ ◆ ◇
「カエデさん、おはようございます」
「カエデちゃん、おはよう!」
「カエデ姉御、今日も可愛いですよ!」
「はいはい、みんなおはよう。プラントの調子はどう?」
「今のところ順調です。今日の結果次第では、ノーベル化学賞間違いなしですよぉ!」
冗談まじりにアタシと話す男の子達。
彼らは、アタシと同じ研究室の大学四年生や院生らだ。
アタシと同じ科学系オタクどもなので、会話も弾む関係なのだ。
「先輩、おはようございます。教授は今、来客中です。今日は午前10時からプラント稼働試験をする予定です」
「アカネちゃん、ありがとね。でもこんな朝早くからお客様って珍しいよね?」
大学3年で成績優秀なために、既に研究室入りをしているアカネちゃん。
……男って、こういう可愛いタイプが好みなんだよねぇ。
周囲の男の子たちの目線はアカネちゃんに集まる。
そう、その可憐な童顔と豊満な胸に。
……バストって成長期後にも大きくなったっけ?
アタシは、断崖絶壁で今後が絶望的な自らの胸を見下げながら、白衣に袖を通した。
「では、実験宜しくお願い致します」
教授室から数人の男達が出てくる。
彼らの胸のバッジから、今回の研究プラントの共同研究をしている大手化学会社の社員たちらしい。
「ほう、工業化学系の研究室にしては女の子が多いですね。目の保養になります」
朝から、アタシ達を舐める様な視線で見ては下品な事を言う四十路後半くらいの男。
他の男たちの態度から、会社の上役らしい。
「彼女達は、男の子達よりも優秀ですよ。見た目も可愛いですけど。しかし、一流企業ならセクハラは駄目ですよねぇ」
教授は、さらっとアタシ達を庇う様に話す。
……教授、お見事!
「これは失礼。では、実験がうまくいくことをお祈り致します」
そう言って、男は下品な笑みを浮かべながら去っていった。
「教授、アレなんですか? 感じ悪いですねぇ」
「おう、姉御やアカネちゃんは、見世物じゃないんだぞぉ!」
「みんな、ごめんね。スポンサー会社の重役なんだよ、彼。確か会長の息子らしいけど、実験プラントを稼動前に見たいって朝早くから来ていたんだ」
「はあ、貧乏が全部悪いんですね」
今回のプラント、スポンサー無くしては出来ない実験だった。
国立大学は、現在独立大学法人となり、今回のような産学連携研究収入をかなりアテにしている。
こと、ウチのような中堅工業大学など、国からの予算も豊富ではないから企業からの「お誘い」は拒否できない。
「まあ、プラントが成功したら皆でパーっと遊ぼうよね」
「はーい!」
この時、アタシは後に起こる事を一切予見も予想もしていなかった。
さあ、始まりました新作「爆裂令嬢」。
既にお試し版は発表していますが、ここからクーリャちゃんの物語が始まります。
「ふむ、ワシも気になるのじゃ!」
えーっとね、チエちゃん。
いきなり現れたらダメでしょ。
皆様に御挨拶を。
「しょうがないのじゃ! 初めての読者殿や。ワシは、魔神将チエ。作者殿の生み出す世界や隣接する世界の何処にでもお邪魔する、お節介焼きなのじゃ! ワシの事は作者殿の作品『功刀康太』や『異世界CSI』を読むと分かるのじゃ! また、毎度の読者殿達は、お試し版以来じゃな。今作も後書き世界には、顔を出すのじゃ!」
チエちゃん、くれぐれも作品世界には顔を出さないでね。
キミが行くと、必ず変になっちゃうから。
「といって、半分期待しておるのじゃろ? ワシは、ご都合主義の塊、デウス・エクス・マキナなのじゃ! 作者殿に都合よくしても良いのじゃぞ?」
いえいえ。
後書きくらいならいいですが、作品世界にまたチエちゃん降臨させるのは、禁じ手。
執筆者としての腕が上がりませんから。
「うむ、分かったのじゃ。『戦乙女』ちゃんの時も外部から見ておるだけじゃったしのぉ。今回もゆっくり見るのじゃ!」
はい、ありがとうございます。
って、自分の生み出した「子」に振り回される作者でした。
「今回は、初日に序章を5話公開するのじゃ! ぜひぜひ、ブックマーク、評価の程を頼むのじゃ! レビュー、ファンアートなぞ来たら作者共々嬉しいのじゃ! それでは、次の更新時間まで、しばしの別れじゃ!」
では、次は正午12時過ぎ公開です。