第15話 (累計・第188話) クーリャ179:怪異! 犯人が化け物に変化するの!
「クーリャ姫様、それにお友達の皆様。逮捕にご協力頂き、ありがとうございました。では、犯人を引き立て……ん?」
アンナちゃん家族を皆殺しにした暗殺者ストラングを、わたし達は全力でタコ殴りにして確保した。
そしてお父様の騎士であるローベルトが犯人を逮捕して引き連れようとした際に異変が起こった。
折れ曲がった四肢を引きずられていく犯人。
彼は突然大声で叫ぶ。
「ああ! 暗黒神よ! 俺はお前の使徒になる!」
そして男の身体が大きくビクンと痙攣をした。
その後、男の胸元から黒い糸状のものが吹き出し、取り押さえていた兵士達を吹き飛ばした。
◆ ◇ ◆ ◇
「ち、ちきしょぉ。どうして俺はこんなガキ共に負けなきゃならないんだぁ」
四肢を折られ、身動きが出来なくなった暗殺者ストラングは、兵士に引きずられていく際の苦痛で意識を取り戻した。
しかし、もはや這うのがやっと。
この状況から逃げる手段は、何一つない。
……俺の人生、一体何だったんだ? 両親を奪われ、盗賊らに屈辱的な目にあわされ、盗みや殺しを無理やりやらされた。そして、最後は子殺しの暗殺者として囚われ、死刑になるなんて……。此の世には、神なんていやしないんだ!
男は今までの人生を思い神を否定する。
……俺の時は誰も助けてくれなかった。なのに、こいつらはお貴族様なのに平民のガキ一人を殺した俺を必死に追いかけ、こんな目に合わせやがった。此の世には神なんていやしない! 俺には悪い事ばかりしか起こらない! こんな世界、滅んでしまえばいいんだ!
そして、世界を呪った。
〝汝のその願い、聞き入れよう!〟
そんな時、男の脳内に声が響いた。
……お前は誰だ!?
男は引きずられながらも周囲を見るが、男に話しかける様な人は誰も居ない。
〝我は暗黒神ラトフィスなり。汝は我が配下の命により仕事を成した者。されど、この度は我に仇名す者によって討たれた。汝、世界に復讐をしたいのだな?〟
……ああ! 俺を助けない世界なんて、滅んでしまえ! どうして俺だけ苦しまなきゃならんのだぁ!
男は、かつて盗賊団での事を思い出す。
両親を殺され、男娼にされ、更に殺しを覚えさせられた。
盗賊団壊滅後も、貴族の言いなりに人を殺す毎日。
なのに、男を倒しに来たのは貴族の子供たちだった。
そして、男を倒したことで喜び合っていた。
……綺麗な服を来て、裕福な暮らしをして……。そして気まぐれに平民を助けて喜ぶ様なガキ共に、俺を批判する権利なんてあるはず無い!
〝そうだ! アヤツらは自己満足で人助けをしている偽善者に過ぎない。我は全てを平等に愛し、平等に滅ぼす。そして世界を虚無へと戻すのだ。汝、我の使徒にならぬか?〟
暗黒神は男に囁く。
共に世界を破壊しようと。
「ああ! 暗黒神よ! 俺はお前の使徒になる!」
〝では、我は、汝に真なる名を告げよう。我こそは、暗黒神にして夢の世界カダスの王、夜に吠える無貌の神、そして……〟
男が叫んだ瞬間、男の身体は胸元に秘めていたアイテムから飛び出した黒い糸に包まれ始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「あれは一体?」
「クーリャちゃん! あれ、怖いよ。とっても怖いヤツだよ」
「わらわの目にも怖く見えるのじゃ!」
エル君とクラーラちゃんが恐怖を訴える。
敵意感知を得意とする二人が恐怖する程のモノ。
黒い糸に包まれて繭状になっていく暗殺者。
繭から立ち上る妖気にわたしは、言葉も出ない。
それは、周囲にいる人達全員が同じだった。
「な、何が……」
「クーリャちゃん! わたし撃つよ。全開<魔法の矢>97連発!」
しかし恐怖に身を固めた人達の中、ただ一人悪意に立ち向かう少女がいた。
クラーラちゃんは、右手から全力魔法攻撃を敢行した。
ガガガ!
繭は魔法弾の連撃を喰らい、少し削れて中身が一瞬見えだす。
しかし、再び黒い糸が繭を修復していった。
「! うん、ここで固まっている暇は無いの!」
わたしはカトリーヌちゃんの行動に勇気づけられた。
そして、令嬢らしく無いと思いつつも、頬をぱちんと両手で叩き気合を入れた。
「皆様、固まっていないで連続攻撃で倒しますわよ。アレは最早ヒトではありません。おそらく高位の妖魔です。今、ここで倒さねば多くの人々の命が奪われます。手加減無しにぶっ倒しますわ! 遠距離攻撃開始なの!」
そして大声で叫び、全員に指揮を飛ばした。
「あ……、うん。そーだね、クーリャちゃん。いくよ、<真空斬>3連撃!」
「わらわも行くのじゃ! ダブル<閃光投槍>!」
「アタイは、これ使うぜ! いっけー、ロケット!」
「自分も行きます! 蓬莱爆裂波!」
「では、わたくしはこれを。全て消滅せよ!消滅魔法陣!」
エル君は真空の刃、クラーラちゃんは光の槍を投げる。
ダニエラは、自動車からロケットランチャーを引っ張り出して撃ち、トモエ様は刀から凄まじい衝撃波を放ち、先生は繭を包む殲滅魔法を作り上げた。
「これでやったか?」
「マスカー、その台詞は負けフラグですのぉ! そんな事言う暇あったら攻撃ですの! わたくしも撃ちます」
穴が幾度も開き、ボロボロになっていく繭、しかし一向に崩れさる気配が無い。
マスカーの死亡フラグ発言を封じて、わたしは機関銃をますます妖気が強まる繭目掛けて連射した。
「誰もが救われる訳でも無いし、逆に救いが無いわけでも無いのが、世界の残酷さなのじゃ。確かにクーリャ殿の救済は、クーリャ殿自身も言っている様に個人のワガママ、自己満足なのじゃ。じゃが、偽善、自己満足でも誰かが救われるのじゃ!」
救われる立場からすれば、例え救い主の自己満足でも救いの神であるし、救われなければ逆恨みされるのも世の中です。
また、その救いが悪意からの場合もある訳で……。
『鬼滅の刃』遊郭編でも、妓夫太郎と梅の兄妹に救いを与えたのが、よりによって上弦の鬼『童磨』。
逆に炭治朗と禰豆子の兄妹を救ったのが、『水柱』冨岡さん。
「実に難しいのじゃ! といって、人助けをする行為をせぬわけにもいかぬのがクーリャ殿であろう」
まあ、そこはクーリャちゃんの性分でしょうからね。
では、明日の更新をお楽しみに!




