第38話 (累計・第171話) クーリャ162:あとしまつ。 わたし、各方面からいっぱい叱られるの!
燃える王家の森、それを見渡せる小高い丘の上で3人の男たちが居た。
「これで、ジングウジの姫武者もお終いだな」
「ああ、我ら一族の復讐もこれで終わる」
極東の島国、蓬莱から来ていた2人の武士。
彼らは蓬莱譜代大名たるトモエの一族に対して反乱を起こし、敗れて大陸まで逃げ延びた者の残党。
蓬莱脱出時の戦いと大陸中央部にある砂漠等の過酷な環境で多くは倒れ、もはや2人しか生き残っていない。
「あの溶岩竜は、王国の戦力では誰も倒せない化け物。このまま王都まで焼き払えれば、我らが崇拝します暗黒神ラトフィス様の君臨する素晴らしい世界が訪れましょう」
漆黒の肌をした魔族青年が、酔いしれる様に呟く。
しかし、次の瞬間魔族青年は驚愕した。
「え!? なんですか、あの魔法弾の数は!! それにあの火矢は?」
溶岩竜に対して、まるで雨の様に降り注ぐ魔法弾。
また、後ろから火を噴きながら飛ぶ太い火矢。
火矢は何かにぶつかると炸裂し、魔力弾は全てを穿つ。
一瞬で魔獣の群れが壊滅し、強固な岩石装甲を持つ溶岩竜ですら身体中から炎と高熱の血を流した。
「指導者様! あれは一体?」
「わ、私にも不明です。まさか、あれほどの魔法力を持つ使い手が存在していたとは……」
その後も、溶岩獣は翻弄され、馬も無いのに走り回っている馬車を仕留める事が出来ない。
「まさか、溶岩竜の吐息すら短時間とはいえ防ぐなどと、想定外です!」
指導者と呼ばれた魔族青年は、驚愕が止まらない。
そして、湖にそそり立つ崖の上に来た溶岩竜、足元を崩された上に再び雨のような魔法弾を喰らい、湖へと落ちていくのが見えた。
「ああ、溶岩竜が……」
「我らの悲願、一族郎党、妻子まで殺された事への復讐が……」
崩れ落ちる侍達を横目に歓喜に震える魔族青年。
「ああ、あれこそ我らが怨敵。そして手に入れるべきターゲットなのですね」
小声で呟いた魔族青年は、侍たちに一声かける。
「申し訳ありませんが、作戦は失敗です。私は撤退しますので、後はご自由に。御忠告致しますが、ここからお早く逃げた方が良いですよ。あ、今爆発しますね」
そう言って、魔族青年は転移魔法で何処かへと跳躍していった。
「え?」
侍が魔族青年の声で振り返り湖を見た瞬間、溶岩竜が爆発した。
その衝撃波で侍2人は吹き飛ばされ、背後にあった木々にぶち当たる。
そして、彼らの頭上に、爆発で吹き飛ばされてきた溶岩竜の頭部が降ってきた。
◆ ◇ ◆ ◇
今日は事件解決後2日目。
あの後、なんとかゆっくりでも動けたテストゥード号や動かないダニエラの自動車を無事だったエル君やクラーラちゃん、先生の自動車で牽引してもらい、わたし達は王都へと帰還した。
そして今日は、各方面への謝罪行脚をしている。
因みに同行者はマスカー、先生、カティである。
「ふぅ、今日もお小言いっぱいですのぉ」
「姫様、それはしょうがないの。アタシが居ないところで無茶するから、罰が当たったの!」
昨日からカティの機嫌が悪い。
一昨日の溶岩竜討伐戦の際に、騎士団長さんにお願いしてクラーラちゃん達と一緒に、カティを無理やり先に避難してもらったからだ。
わたしが命がけで戦っている時に、一緒に居られなかったのが怒っている理由らしい。
「あの時はごめんなさい、カティ。わたくし、カティまで守れる自信が無かったのです」
「それは逆ですよ、クーリャ姫様。アタシはクーリャ姫様の一番の側仕えです。クーリャ姫様が戦う時は、盾にも刃にもなります。アタシだけが生き残って、クーリャ姫様が死んだら何の意味も無いの! 今度同じ事を言ったら、クーリャ姫様でも絶対に許さないのぉ!」
涙目になりながら、わたしに怒るカティ。
本来、主に対して反抗的な態度を取る事が許されないのが、カティの立場。
しかし、カティはそれを分かっていてもなお、自らの命はわたしを守るために使うと言い張り、怒ってくれた。
「姫様、わたくしからもお願いします。カティを大事に思うのなら、一緒に連れてあげてくださいませ」
「ええ、自分も同意見です。姫様は無茶ばかりなされるので、自分が見ていないところでの危機は心配でなりませんから」
2人、仲良さそうにしている先生とマスカーからも、わたしは忠告を受ける。
「本当にごめんなさい、カティ。もう二度と同じことは言いません。では、主として貴方に命じます。カティ、貴方は一生わたくしの側に居て下さい。そして、むやみに命を粗末にせず、自分の人生を大事にして、わたくしと共に戦い勝利しましょう」
「はいなの! カティは一生クーリャ姫様から離れません。絶対にぜったーいです!」
わたしはカティに主命を与えた。
この先、ずっと一生共に居てくれと。
……これ、男性からならプロポーズだよね。わたし、女の子にプロポーズしちゃったの。
わたし嬉し泣きをするカティが可愛くて、抱きしめてしまうも、ふとした事に気が付く。
「あ、ちょっと待って。カティの子育てとかの時は代理をお願いするから、自分の人生は大事にしてね。カティが不幸だとわたくしも嫌だから」
「えー。アタシ、しばらくは結婚しないよ。まだ相手いないし。それよりはクーリャ姫様の横で仕事してる時が楽しいもん! クーリャ様のお子様の面倒も見てみたいしぃ」
女性側近は出産や子育てとかで職場から離れる場合が多く、職場復帰がなされない場合もありうる。
カティの様に可愛くてお胸も大きい美少女は、お互いに望み合った相手と結婚しなくては社会の、いえ、わたし個人的にも損害だと思っている。
「もう、カティったら。それこそ早い話ですわ。わたくし、全部問題解決しても研究をいっぱいしたいの。結婚は……。まあ、義務なのは分かっていますけれども」
……先生が上手く片付いたから、わたしが15歳になる頃にはカティも相手先見つけなきゃ。お見合いおばさんが楽しそうなのも、今になって分かったの。自分の縁談なんて、とーぶん先なの!
「ふむ、敵に天罰が下ったのかや? 反乱を仕掛けておいて逆恨みとはのぉ。反逆者の妻子まで皆殺しというのは、よくある悲劇ではあるのじゃが、どこまで助けて許すというのは現在でも難しいのじゃ」
復讐をしたくなる様な悲劇はあるかと思いますが、無関係の人達を巻き込む無差別テロをした時点で、同情の余地は無くなります。
指導者に騙され利用されてしまったとはいえ、哀れです。
「指導者とやら、エルフ大公国の動乱の陰にも居たのじゃ。漆黒の肌となれば、アヤツの端末くさいのじゃ!」
そこは、今後の展開次第という事で、ネタバレはご勘弁を、チエちゃん。
「では、明日の更新を楽しみにしておるのじゃ! ブックマークなぞ宜しくなのじゃ!」




