第15話 クーリャ13:お父様にプレゼン! 目的の為には手段は選ばないの!
「さて、話とは何かな、クーリャ?」
今は夕食後のお茶タイム。
わたしは、両親を説得すべくタイミングを狙った。
なお、当家は貴族と言えど、格式はそこまで気にしない。
それなりの立場の人なら平民でも食卓を共にする。
なので、ハウスキーパーのデボラや先生も席を同じくしている。
……だって、冷めた食事で孤独に食べるなんて、御飯が美味しくないもん! さすがに給仕役のメイドさん達や警護をする騎士さんなんかは、一緒に御飯とはいかないけどね。
「今回のお話は、少々政治的な問題が多いので、できれば人払いを御願いします」
「ほう。では、すまぬが皆は席を外してはくれぬか?」
「あ、お父様。既に事情を知っていますバージョヴァ先生、カティ、それと当事者のローベルトは残ってもらった方が助かります」
話の進み具合次第では、最悪「アタシ」の秘密を話すかもしれないので、わたしは人払いをお父様に頼んだ。
「ふむ。カティ1人にこの人数の給仕を頼むのも難しかろう。今後の方針決定もあるので、デボラにも残ってもらうぞ」
「はい、それで御願い致します」
わたしは、内心「不味いかもぉ」と思いながら、お父様の決定に従った。
……デボラは手ごわいよねぇ。
「さて、一体人払いまでして相談したい事とは何かな?」
柔和だけど目力の強いお父様、そして既に眠そうなラマンをメイド長に頼むお母様。
この2人に加え、頭の固いデボラをどうやって説得するか、ここからがわたしの大仕事だ。
……クーリャ、頑張るの! 鉄を手に入れる為には手段は選ばないの!
「では、ローベルト。お父様にご説明を御願いしますわ」
「はい、姫様。マクシミリアン様、この度は自分の不祥事に対してお時間を御取り頂き、ありがとうございます。実は……」
お父様が、魔法で部屋に音を遮る風の結界を貼った後、わたしの「戦い」が始まった。
◆ ◇ ◆ ◇
「つまり、クーリャは自分の為に罠に嵌ったローベルトを助けたいのだね」
「はい。その通りですわ、お父様。なので、わたくしに魔剣に勝てる剣作り、冶金、鍛冶仕事のお手伝いをする許可及び資金面や魔法的お力添え等をお父様に御願いしたいのです」
ローベルトの説明で、お父様は事態のあらましは理解してくれたらしい。
「しかし、どうしてクーリャに魔剣に勝てるような剣の作り方が分かるのかい? 話だとゲッツにも分からない方法らしいじゃないか? この間からの製紙といい、石鹸作りにしろ、あまりにこれまでの『イタズラ』レベルの実験とは大きく違う」
「それは、先生にお教え貰った事を応用したにすぎませんの。先生は素晴らしいですわ」
わたしは、予め先生と打ち合わせした通りの答えを、お父様に返す。
……ここまでは想定通りね。さて、これでお父様が納得してくださったら良いのだけど?
「ほう、それは素晴らしい。ナターリャ殿、そんな方法があるのなら私にも教授願えないかな?」
「はい、マクシミリアン様。今回の製鉄方法は、砂つぶに紛れる小さな鉄鉱石を使います。そうする事で材料入手の簡便さ、更に過熱効率の向上など、……」
先生は、わたしが授けた知識を、さらさらと話す。
……さっすが先生! このままお父様を押し切るの!
「学院では、最近は冶金学や化学まで教えているのですか。これは実に興味深い。しかし、この方法で一から剣を作るのは決闘までに時間が足らないのでは無いかな? なれば、私の愛剣を貸し出すほうが早かろう。デボラ、すまぬが私の部屋から剣を持ってきてはくれぬか?」
「分かりました」
デボラが風の結界を抜け、閉ざされていた扉を開いた。
……お父様の愛剣って何だったっけ? かなり良い剣だったとは思うけど。
そして再び扉を閉じたデボラの手には、一見地味だけど彫刻が細かくされた剣があった。
「ローベルト、見ると良いよ」
そしてローベルトの手に、お父様の愛剣が渡された。
……お父様って、ローベルトやデボラなど自分に仕えてくれている人の事、とっても信用しているんだね。普通、部下に剣貸したりしないし、ましてや今の密室状況で無造作に武器を差し出したりしないよ。暗殺し放題だものね。
「も、もったいないお話しにございます。姫様にもマクシミリアン様にも、ここまでの事をして頂き、自分は感謝で頭が上がりません」
「そういう事は良いから、早く鞘から抜いて見なさい。自分が使う剣なら見てみたいだろ?」
お父様は、恐縮しっぱなしのローベルトを半分茶化してお茶目に話す。
こういう固いだけでない部分、お父様が領内の人々から尊敬され、愛されている部分。
わたしも受け継ぎたいものだ。
……まー、わたしの場合は砕けすぎって言われているけど。
「では、ありがたくお借りします。お! この刀身は!」
ローベルトが護拳がある片手半用の柄を握り、剣を鞘から抜いた。
そして刀身を見て、はっと驚く。
「これは!?」
わたしも先生も、その刀身の美しさに驚いた。
何重にもなった木目状の模様が、刀身一面に美しく輝いていたのだ。
「これはね、妻の、ニーナのお父上からの結納品なんだよ。なんでも先祖代々受け継がれてきた秘剣で、その刀身に使われている鋼は東の大国で昔作られて、今では製法も失われた……」
「ウーツ鋼!」
「そう、そのウーツ鋼を使ったダマスカス・ブレードという……? ん!? なんで、クーリャがウーツ鋼を知っているんだ!?」
……あ! しまったのぉ! つい、暴走して知っていること話しちゃったぁ。
「あ、そ、それは……。せ、先生にお教えしてもらったぁ……」
「そ、そうでしたわね……」
わたしは、急いで視線を先生に向けた。
先生も、わたしの意図に気がついて反応はしてくれたけど、この部分は打ち合わせにないから、詳しく聞かれたら不味い。
……先生の顔が赤から青にクルクルしちゃっているの。それに冷や汗も一杯。先生、ごめんなさい!
「ほう。では、ウーツ鋼がどういう製法で作られていたのかもナターリャ殿はご存知かな?」
「え、えっとぉ……。既に失われた製法なので、わたくしも特殊で優れた鋼としか存じませんです。学院にも資料は無いですし」
「それは、父から教わったわたくしも同じですわ。でもおかしいですわね。こちらの国では、誰も知らないはずですし、学院にも資料は無い。なのに、外見を見て直ぐに分かるのは、ことマタ聞きのクーリャが一番先に反応できましたのは、どうしてかしら?」
お父様の追及から上手く逃げた先生、しかし今度はお母様の魔の手が伸びる。
……お母様がとても鋭いの! 確かに聞いただけの人が外見から直ぐに反応するのはおかしいの。どーしよう。
「そ、それは……。姫様が、とても優れていらっしゃるからに違いありませんですわ」
「クーリャが賢いのは当たり前。しかし、先日の階段落ち以降、言動が時々変になり、新しい知識から素晴らしいものを沢山生み出したのは不自然。あの時に何かあったのかしら。ねえ、クーリャ?」
「そ、それは。頭を打って以降、脳の回転がとても良くなった気がしますの!」
先生からわたしに、お母様の追求の手が伸びる。
そして、わたしや先生の挙動をじっと見るお父様。
……どうしよう? また失敗しちゃったのぉ!
「クーリャ殿は、あいも変わらずバカじゃのぉ。基本賢いのに、こういうところがヌケまくりなのじゃ!」
そうクーリャちゃんを責めないでくださいね、チエちゃん。
彼女も完璧じゃない、ましてや脳や身体は10歳女児なのですから。
「こういう可愛い欠点も、主人公としては親しみやすさを生む利点なのじゃ! 世の読者は完璧人間や聖人君主には、興味を持たないのじゃ!」
そういうチエちゃんも超絶スゴイ魔神将だけど、片付け苦手で、案外大雑把で人情家の泣き虫ですものね。
「悪いのかや、作者殿? そういう風に生んでくれたのは作者殿なのじゃ!」
だから、可愛くて、あとがき世界にいつも呼んでいるんだけど?
「それなら良いのじゃ! ワシらは、皆に愛されてナンボなのじゃ! では、明日の更新を楽しみに待つのじゃ! ブックマークなぞ宜しくなのじゃ!」
ではでは!