第24話 (累計・第157話) クーリャ148:キツネかタヌキか? アナスタシヤ様のお父様は手ごわいの!
「クーリャ様、わたくしの父にお会いになってくださるのですね」
「はい。わたくし、アナスタシヤ様のお父様には一度お会いしたいと思っていましたので」
ゲッツによって運んでもらった荷物が到着後、わたしは政治活動を開始した。
……まー、お土産を持参してお話するだけなんだけどね。ただ……。
アナスタシヤ様は、わたしの秘密を知っていても、隠密方のお父様ヴァース伯爵アルトゥル様にはナイショにしてくださっている。
しかし、多くの情報を集めているアルトゥール様は、薄々だけれどもわたしが何かをしようとしているところまでは把握済み。
娘の恩人だから今のところはノータッチだが、わたしが王国への害となるなら排除を考える事もありうる。
なれば先手で動いて、わたしには邪な考えが無い事をアピールするに限る。
「クーリャ姫様、くれぐれも油断なさらぬように。自分も王国隠密方とは一戦交えた事がありましたが、逃げるのがやっとでした」
「ええ、マスカー様の言う通りです。くれぐれも、要らぬ事を言わず、失礼の無い様にお願いします」
「マスカーも先生も心配しすぎですよ。既に娘様のアナスタシヤ様はお味方。将を得るには馬をとも言います。いかな隠密方の総元締めとはいえ、娘は可愛いと思いますよ」
ゲッツと共に来てくれたマスカー。
わたしの護衛兼騎士過程の教育手伝いをする事になった。
……先日から先生とマスカーが妙に距離近いのぉ。以前はそんな雰囲気無かったけど、もしかして、もしかするのかな?
カティがふと呟いた「先生が喜ぶ」。
事実、先生はマスカーと再会した際に嬉しそうだったし、それ以上にマスカーが嬉しそうだった。
仮面ごしにすら笑顔が見える程に。
……へー。そうなのね。これはゲームでは無かった展開なの。以前の敵同士が同じ主の元で助け合い、共に戦って愛情を育む。王道のありがち展開だけど、悪くないの。先生もお年頃だし、マスカー、いやヴァルラムもそろそろ結婚を考えてもいい歳。お互いの家も騎士爵同士だから、つり合いも取れているしね。
先生の家は一代騎士爵、ヴァルラムの家は永代騎士爵。
家の格も同じくらいだし、職場結婚なら問題も無い。
その上、仕える主がわたしと同じなら、今後もずっとわたしに仕えてくれる。
文句なしの状態なのだ。
……今度、家に帰ったらお父様に縁談の相談しましょ。うふふ、どうして他人のコイバナは楽しいのかなぁ。
わたしは2人からお小言をもらいながら、脳内でカップル誕生を喜んでいた。
◆ ◇ ◆ ◇
「夏近く新緑深くなる季節、ヴァース伯爵様にお会いできましたことを感謝いたします」
「こちらこそ、娘の制服の件では世話になりました、クーリャ様」
学院の新学期が始まってひと月ほど経過した日。
白い植物紙や高級石鹸に乳液、そしてパウンドケーキなどなどのお土産を持って、わたしはアナスタシヤ様のお父上、ヴァース伯爵アルトゥル様にお会いする為に王都内の屋敷をお伺いした。
「あの節は、もう少しわたくしが冷静に行動していましたら、アナスタシヤ様にご迷惑をお掛けしなかったかも知れません。わたくし、反省する次第です。ですので、制服はその罪滅ぼしでございます。それに早く仕上がったのは学院長先生のおかげですし……」
「それでも、娘は貴方に救われました。既にお聞きでありましょうが、私の仕事は貴族の間では忌み嫌われるものですし、その関係で目立つこともせずに毎日城内で昼行燈をしております。なので、娘が何もしない伯爵家の娘として言われるのを、どうにも出来なかったのです」
横に座るアナシタシヤ様に似て、灰色に近い茶色の髪と灰色の瞳。
何処にでも居そうな溶け込む感じが一見する風貌。
されど、その瞳の力は強く、どこかわたしを値踏む様な感じすらする。
……親の愛と職務の板挟みなのね。娘の友達がどんな人物かは職務の一環で調べると思うけど、わたしは以前からやらかしてるものね。
「伯爵様のお仕事は、非常に大事だと思いますの。王国の安寧を陰から守るのは大変でしょうが、大事なお仕事だと思います。で、その隠密方から見て、わたくしはアナスタシヤ様の友として合格でしょうか? また、王国にとって排除すべき敵では無いと判断して頂けたのでしょうか?」
……まだるっしいことは嫌なの。屋敷に入れた段階で、殺す気ならいつでも殺せると思うけど、そんな気配は無いし勝負に出ちゃうの!
「え! クーリャ様、いきなり何をお話になるのですか!?」
「クーリャ姫様ぁ。単刀直入過ぎるのぉ」
「はぁ、姫様は真っすぐ過ぎますです」
今まで笑みを浮かべていたアナスタシヤ様が驚く。
そして、わたしの背後で待機中のカティとマスカーが揃ってわたしを残念がる声が聞こえるけど、わたしに腹芸なんて無理。
貴族に腹芸は必要とも言うけれども、正直に話すのも信頼を得るのに時には必要と、わたしは思っている。
「……。また、随分直球に聞いてきますね、クーリャ様。その勇気と正直さに免じてお答えします。正直、貴方様の正体は私共でも掴み切れていません。ドワーフ王国救国の英雄、西方エルフ公国動乱を封じた女傑、魔族帝国王女暗殺撃退、その他ニシャヴァナ男爵領での新産業開発に、キリキア公爵とのアレコレ。更には制服開発。その行動力と偉業、更には神のような英知。どう考えても、12歳の少女が行うものではありません」
「そう事例を並べてもらえば、当の本人であるわたくしもビックリですね。確かに疑念やら恐怖すら感じます」
流石は隠密方。
伯爵様は一瞬驚くも、すぐに表情を薄い笑みに戻す。
やはり、わたしがやらかした事案を把握している様だ。
自分で聞いても、12歳の少女がやらかす事案では決して無い。
「ですが、その行動全てが人助けに繋がっています。最初は配下の騎士、そこなるマスカー殿を元は敵でありながら御救いになったのはお見事です。そして、その行動で多くの人々、貴族だけならず民草も多く御救いになってます。巷では聖女様という噂もあるのですよ」
「えー!! それは流石に盛りすぎですのぉ。わたくし、間違っても聖女ではございません。ただの残念暴走突撃娘にございます」
「ええ、クーリャ様はわたくしにとって英知の女神様ですわ!」
「姫様、聖女なんて嬉しいの!」
「しかり。我が命は姫様の物でございます」
妙に、アナスタシヤ様や後ろの2人が感動しているけれども、間違ってもわたしは聖女なんて立派な者じゃない。
もっと俗っぽくて自分勝手でワガママなだけ。
自分だけ助かるのが嫌だし他の人の笑顔が好きだから、ワガママと権力、更に前世知識を使って人助けしているだけ。
「そうですか? 確かに友人を助ける為に侯爵家に喧嘩を売るのは、クーリャ様くらいですね」
「オホホ。わたくし、周囲が悲しんでいると面白くないから、勝手に暴れているだけですのよ」
笑いながらも、眼が一切笑っていない伯爵様。
わたしも、オホホ様、いやエカテリーナ様の真似をして笑ってみる。
「ふぅ。もう化かしあいは辞めましょう。本当にクーリャ様が12歳、ウチのアナスタシヤと同級生か怪しくなってきました。もしかして、エルフとか魔族種、ドワーフ種が先祖とかに居ませんでしたか?」
「わたくし、見た通りの年齢ですし、先祖も知る限り只人だけですの。まあ、頭の中は少し違うかもですが。わたくし、夢でしか行けない世界で色々な知識を得ましたので……」
わたしは、差支えないレベル、嘘とも言えないレベルの答えを伯爵様に渡す。
……変に怪しまれるよりは、ある程度事実を言った方が信じてもらえるものね。
「夢の世界……ですか。それを信じろと?」
「ええ。わたくし、その知識で全ての人々を幸せにしたいだけですの」
◆ ◇ ◆ ◇
「クーリャ様、父が申し訳ありませんでした。あそこまで追及してくるとは……」
「アナスタシヤ様。お父様を責めないでくださいませ。隠密方ともなれば、人を疑うのがお仕事。王国の害とならば、暗殺もありえます。なのに、ちゃんとわたくしは帰宅できましたし、アナスタシヤ様とずっとお友達でいて欲しいと頼まれました。今はそれで十分ですの」
カティやマスカーには随分心配はされたが、無事にわたしはヴァース伯爵アルトゥル様の面接から生きて帰ってきた。
一応、「勝負」には勝ったのだろう。
なお、夜の定期通信では、お父様から馬鹿正直すぎるのは美徳ではないと、こっぴどく叱られた。
ぐすん。
「クーリャ殿は無茶しすぎなのじゃ! いくら相手が隠密方と知っておっても、馬鹿正直に勝負を挑み過ぎなのじゃ!」
そですよね、チエちゃん。
作者も、その馬鹿正直な直球勝負に呆れてます。
もう少し腹芸ってのをやって欲しいのですが、クーリャちゃんはそれよりもズバっと行くのが好みの様です。
「おかげで伯爵殿も悪感情は無いようじゃな。あそこまで手札を晒されたら、逆に攻めにくいのじゃ」
ある意味での抑止力ですよね。
人助けしたいから、勝手にやっているだけと言われてしまえば、排除も難しいです。
その上、自分の娘を損してまで助けてくれた恩人、娘の友人なら排除する気も起きないです。
「裏というか欲目が無い分、逆に怖いのじゃ! 馬鹿正直は怖いのじゃ! ワシも馬鹿正直相手が一番困るのじゃ」
とまあ、チエちゃんが困ってますが、クーリャちゃんは頭が良いのに残念なバカな娘です。
今後とも宜しくお願いしますね。
では、明日の更新をお楽しみに!




