第3話(累計・第129話) クーリャ121:私を救ってくれた聖女様。
今回は謎(?)の騎士マスカーのお話です。
では、どうぞ!
「どうだ、ローベルト! これで勝ち越しだ!」
「くそぉ、次は負けぬ。もう一勝負頼む、マスカー!」
「おう、かかってこい!」
「大怪我しない程度にしてくださいませ、2人とも。今は剣だけで勝てる戦いではなくなったのです。銃火器に対する警戒も大事なのですよ」
私、マスカーことヴァルラム・ヴィターリエヴィチ・ポロスコフは、今同じ主に仕える学院同期の騎士ローベルトと剣術試合をしている。
「流石、突撃技は凄いな、ヴァルラム!」
「ローベルトこそ、足さばきが見事なり!」
「おーい、ローベルト。ここにはヴァルラムなんて人は何処にもいませんから」
「ひ、姫様! 失礼しましたぁ。つい、癖で……」
学院時代から、私は同じような下級騎士の家に生まれ育ったローベルトとは競い合っていた。
しかし、その頃。
いや、割と最近まで私、いや俺はローベルトを憎み妬んでいた。
「お前は、誰にも負けてはならぬ。勝利の為には手段を選ぶな、そして強い騎士は傲慢であれ!」
生前、父ヴィターリエは、寝たきりの床から良く叫んでいた。
父は王に仕える下級騎士の一門だった。
しかし貴族間の内部争いに巻き込まれ、可愛がっていた配下の者から裏切られ、背後から刺され下半身不随となり、騎士としての能力を失った。
神殿に居る高位治癒術士の使う治癒魔法を使えば完治する可能性もあったが、裕福でもなくコネも無かった父には死なない程度の治療しか行われなかった。
長年の父の看護に疲れた母、満足に動かない身体に不満を叫ぶ父。
両親の姿をずっと見ていた俺は、絶対に裏切られない、裏切る事が怖くてできないくらい強い騎士になるのだと心に誓った。
そして父から教えてもらった数々の修行をこなした俺は、学院の一般課程を卒業後、騎士課程に首席で入学した。
「よくやった、ヴァルラム。これで我が家の復興も……」
入学時に喜んでくれていた父は、食事時に大きく咳込んで数日後から高熱と激しい咳を発し、二週間もしないうちに亡くなった。
後にクーリャ姫様から、誤嚥性肺炎が父の死亡原因だったのだろうと聞いた。
学院入学後、同じ騎士課程、そして同じ下級騎士のローベルトと出会った。
彼は、剣の入手にも困るくらい貧しい家庭であったのに、俺と違って全く歪みが無かった。
誰とでも仲良く話し、試合で負けても恨まず、逆に負けた理由を負かした相手に聞きにも行った。
それどころか、自分が負かした相手にも、ここが悪かったかもと助言をしていた。
そんな好青年ぶりに、俺は怒りを感じていた。
どうして、そんなお人好しでいられるのかと。
裏切られるのが怖くはないのかと。
「裏切られるのが怖くないのかって? こちらから裏切ってしまう方が怖いよ。裏切ってくるなら仕方がないさ。その時は本気で戦うだけだ」
ローベルトは、そう軽く話した。
そんなローベルトに、俺は更に怒りを感じた。
しかし、どんなに強くなっていっても、俺はローベルトには勝ち越しが出来なかった。
身体強化魔法、瞬動法による音速での突撃技を俺は得意技としたが、それすらも初回以外は避けられたり捌かれたりで、俺は気が付くと地面に転がっていた。
卒業時の天覧試合でも同じ、俺は突撃技をいなされ続け、魔力と体力が切れたところを転がされ、剣を首に突きつけられた。
「ま、参った」
「ふぅ。やっぱりヴァルラムは強いよ。俺じゃ、こんな消極的な方法でしか勝てなかった。もっと正面から戦えるくらいに強くならなきゃダメだなぁ」
俺の手を引っ張り立ち上がらせてくれながら、にこやかにそんな事を話すローベルト。
その姿に俺は、絶対に今度戦う時は殺すと思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ローベルト! 腰抜けのオマエなら逃げると思っていたぞ。しかし、そんな盾も持たない軽装備で私に勝てるとでも思っているのか!?」
「その言葉を貴君に返す、ヴァルラム! そんな重い装備で自分の動きについてこられるかな?」
そして卒業後、俺達は別の主に仕えた。
俺はキリキア公爵様次男のアントニー様の配下、ローベルトは隣のニシャヴァナ男爵様の配下に。
俺は、キリキア公爵様の為に様々な工作や作戦、時に暗殺までこなしていた。
公爵様は、いずれ王国を乗っ取るおつもり。
その為に様々な策を弄していた。
その一環がニシャヴァナ男爵領の奪取。
アントニー様と男爵令嬢クーリャ姫様の婚約に始まった策だが、そこから俺の失敗が続いた。
何もかもが失敗した。
同窓会にて上手くローベルトを公爵様から借りた魔法ミスリル剣で挑発、決闘に持ち込むも、クーリャ姫様によって作られた日本刀にて敗北。
その後、公爵様に雇われた「ならず者」達と一緒に男爵一家暗殺を狙ったが、これまたクーリャ姫様によって俺は負け、かつての父と同じく下半身不随となった。
◆ ◇ ◆ ◇
「恩義をわたくしに返したいのでしょ、ヴァルラム。それならわたくしの騎士になるのが一番ですの!」
下半身不随になった俺をクーリャ姫様は御救いになり、様々な世話や甘い菓子まで毎日贈ってくれた。
また俺の口封じに来た公爵様の配下も、返り討ちにしてくれた。
そんなクーリャ姫様に、俺は何かの形で恩義を返したいと思った。
しかし、クーリャ姫様は、かつての敵であった俺を自らの騎士にすると簡単に宣言した。
そのあまりに想定外の行動に俺は、言葉が出なかった。
だが、クーリャ姫様は男爵様を説得し、更に俺の治療方法まで調査・提案をしてくれ、俺は弱った脚で地面を再び踏みしめる事が出来た。
「あ、ありがとうございます、クーリャ姫様。俺、いえ、私ヴァルラムは、姫様の騎士として永遠に貴方様の剣となります」
ヴァルラムとしての俺は、この時死んだ。
男爵様襲撃事件の犯人としてヴァルラムは処刑され、持っていたミスリル製装備は公爵様に返品された。
「俺の死」を聞いた母キーラ、王都で倒れたのだが、男爵様の配下が真相を母に伝えてくれ、俺は男爵領で母と再会できた。
今では、母も男爵領内に移住し、私が領内にいる間は毎日家に帰って親孝行をしている。
俺の、いえ私の聖女、クーリャ姫様。
彼女によってかつての悪騎士ヴァルラムは死に、新たなる騎士マスカーが生まれた。
クーリャ姫様は、私を裏切り使い捨てにした公爵様やアントニー様とは全く違う。
別の世界、前世での事もあるのだろうが、貴族らしからぬ優しさとお人好しからくる行動力で、怖がったり泣きながらも人助けを決してやめない。
その行動方針で共に戦う私も人助けをしていて、とても心が温かくなった。
剣を振るって、多くの人々に感謝されるのが私は嬉しかった。
同時に、かつての「俺の行動」が恥ずかしくなった。
「ローベルト。昔、貴殿にとても悪い事をしてしまった。すまない。どう謝罪して良いのか……」
「何言い出すのかい、マスカー? 自分は何も覚えていないぞ。自分は昔、マスカーって人には会っていない。それに今は尊敬できる同じ主に仕える仲間じゃないか!」
気持ちのいい笑顔で、何でも無かったとかつての仕打ちを許してくれたローベルト。
その友情に私は感謝する。
「では、もうひと勝負頼む。私も姫様に良いところ見せたいしな」
「おう、ヴァルラム!」
「ローベルト、なんで何回間違うんですかぁ! もう、この剣術馬鹿達は」
姫様の笑顔に勇気づけられて、私たちは日本刀を振りあう。
こんな幸せがずっと続く様、私は姫様を守って戦っていく。
「良く分からなんだヴァルラム殿の心境が、今回の話で理解できたのじゃ。お父上の影響から傲慢な男になっておったのじゃな。しかし、クーリャ殿の真心に触れて浄化されてしもうたのじゃ!」
ヴァルラムの事については、色々考えていたのですが書いているうちに彼の人生について思い浮かんできました。
今後、彼が幸せになれる事を祈る次第です。
「それは作者殿次第であろう? 頼むから誰かをかばって死ぬとか、敵を押しとどめて立往生とかは勘弁なのじゃ!」
はいはい、チエちゃん。
一応は注意しますが、物語の進行次第ではどうなるか分かりませんよ。
そりゃハッピーエンド至上主義ですけどね。
では、明日の更新をお楽しみに!




