第12話 クーリャ10:鋼は刃金! たたら製鉄を目指すの!
「それは、『たたら製鉄』という方法ですの!」
先ほどから姫様は、俺が知らない冶金の秘密を、とても良い笑顔で暴走気味に話してくれている。
「はあ、姫様の暴走再びですね。旦那様にどう説明したら良いのやら」
「アタシ、楽しみですぅ!」
そんな様子に女家庭教師のナターリャ様は呆れ顔で、姫様専属メイドのカティは嬉しそうだ。
昔から姫様は、俺の鍛冶場に来ては興味深そうに何をやっているのかを聞いてきた。
そして一度聞いた事は必ず覚えていて、次は別の事を聞いてきた。
また、時々些細な「イタズラ」をするのに、小道具の製作を俺に頼んできた。
……姫様。なんか、昔ドワーフ王国で懐かれたダニエラ様にイメージ似ているんだよなぁ。
ダニエラ・ゲーベロス。
王国では末っ子の第五王女と、継承権からは程遠い彼女だったが、その分、自由に王宮でも動いていた。
そして、王宮を抜け出しては、鍛冶場に来て俺や師匠とよく話した。
……姫様とダニエラ様、出会ったらすぐに仲良くなりそうだな。
しかし、姫様は先日の縁談破棄からすっかり変った。
といっても、気質は前と変らずで俺からしたら可愛い妹分のまま。
ただ、時折見せる眼がとても知性に溢れて力強い。
そう、先日の製紙や、今のように俺も知らない秘密を話すとき。
……あの時に何かあったんだな。で、それは秘密にしておきたいと。まあ、俺にとっては得しかない話だから、そこは聞かないで置こう。可愛い妹分、姫様の願いとあればな。
◆ ◇ ◆ ◇
「たたら製鉄ですが、準備するものが砂鉄、これは川砂から採取できそうです。次は木炭、出来るだけ品質が良いのが沢山欲しいです。後は、炉を作る粘土でしょうか?」
わたしは、アタシの記憶にある「たたら製鉄」の方法を話す。
この方法は、大量の鋳鉄を入手するのには不向きだけど、良質の刃物用の鋼、玉鋼が得られる。
「木炭は炭焼きに頼めば手に入るけど、砂鉄ってのはどう手に入れたら良いかわからないぞ、姫様」
「そこは、わたくし秘蔵の石が活躍するのです!」
ゲッツは、砂鉄の入手方法が分からないらしい。
確かにこの世界で「あの方法」は誰も知らないはずだ。
「ちゃっちゃらちゃーん! 磁鉄鉱!」
わたくしは、幼い頃川で遊んでいて見つけた、お互いにくっつく不思議な赤黒い石を、キツネ少女メイドのカティに持ってもらっていた布袋から取り出した。
「ん? それは鉄鉱石の一種だよな。それがどう使えるんだ?」
「こうするのです!」
わたしは、再び磁鉄鉱を布袋に入れて、しゃがんで鍛冶場の砂埃を擦った。
「姫様、ここは鉄くずや切れ端が転がっているから、危ないぞ」
「ええ、姫様。そういう危ない事をなさる場合は、事前におっしゃってくださいませ」
ゲッツやバージョヴァ先生が、わたしの事を心配してくれるのはありがたいが、今回はわたしが実演しなきゃ説明が出来ない。
「お2人とも御心配、ありがとう存じます。すぐに終わりますし、危ないものはこちらにくっ付きますから大丈夫ですわ」
わたしは立ち上がり、皆に袋を見せる。
そこにはびっしりと鉄粉や鉄の切れ端がくっ付いていた。
「な、なんで鉄がくっ付くんだ?」
「不思議ですぅ!」
「あ、姫様! それは磁石ですね。雷などで磁石が出来る事があるとは聞いていましたが、それがそうなのですね」
ゲッツは驚き、カティは喜ぶ。
そして先生が正解を言う。
「流石は先生、その通りですわ。これは自然に磁石になっていまして、鉄をくっつけますの。そして上流に鉄鉱山がある川、この石はそこで昔拾いましたが、そこの川砂には同じ磁鉄鉱が砂になった砂鉄が沢山あるはずです。それを、この方法で集めれば鉱石を掘らなくても良質な材料が手に入りますの!」
古来、日本では高温多湿なので良質な木炭が大量に確保できたのと、中国山地には良質な砂鉄があったので、今の岡山県、備前国辺りは名刀が沢山生まれた。
「材料と炉までは分かった。でも、この方法だと何日間かずっと鞴を回さなきゃいけないんだろ? 俺1人じゃ無理だぞ」
「あ、しまった! そ、そこは今から考えますの」
わたしは、製鉄には沢山の人が必要な事を忘れていた。
……うーん、イイ方法あるかしら。川近くなら水車動力でいけるんだけど、ここは川から遠いし。人力じゃ、何人いても直ぐに疲れるし。疲れない人って……。
「あ!! もしかしたら、これでいけるかも。でも、お父様に御願いしなきゃならないの。何か理由があったら……」
その後、わたしは「アイデア」を3人に話したが、お父様を説得する理由が見つからず、今回は断念することになった。
「うー、鉄さえも切れて折れない剣ってのは見てみたいし、作ってみたいなぁ」
「ゲッツ、もう暫くはお待ちください。わたくし、どうにかしますの!」
「もう、姫様。暴走する前に、ちゃんと足場をお固め下さいませ。旦那様を説得するのは、日頃の社交界の勉強が大事ですよ」
わたしは、ゲッツに安請け合いしたが、先生に突っ込まれる。
「そ、その通りですわ。では、今日は大人しく帰ります。ゲッツ、今日は色々ありがとう。お仕事の邪魔してごめんなさい。また良い話があったら、お話しに来ますね」
「こちらこそだよ。姫様と話すのは楽しいからな。じゃ、吉報を待っています」
ゲッツは最後に真面目な顔でわたしに礼をした。
「はいです! 必ず!」
「なかなか話が前に進まないようじゃな? まあ、内政ターンはイベントがなければタンタンとしたものじゃがな」
ということで、ここからイベントが発生します。
ご期待くださいね、チエちゃん。
「ふむ、となればアントニー絡みかのぉ? まだ大イベントには早すぎるのじゃが」
それは明日の更新までお待ちくださいませ。
「では、皆の衆。ブックマークや評価などをして待っておるのじゃ! なお、ワシのファンアートも随時募集中なのじゃぁ!」
チエちゃん、何言っているんですか?
まったく困った子です。
ではでは!