第36話(累計・第117話) クーリャ109:議会第二ラウンド! 荒れる議会、踊る議会!
「では、最初の議案はこれにて終了。続いての議案については30分の休憩の後、行う。では、一時解散!」
大公様の発言で、議場から多くのエルフ達が離れていく。
「ふぅ、ありがとう。まずは第一歩。クーリャちゃん、技術供与の件ありがとう。おかげで文句を言いそうなヤツらを黙らせられたよ」
「いえいえ。わたくしは元々、武器に関係ない技術は徐々に開示するつもりでしたものね。皆おなか一杯食べられるのが幸せです!」
貴賓室に休憩に来た大公様に、アデーレさんがお茶と菓子を差し出す。
そして茶と菓子を受け取った大公様は、わたしの技術供与に礼を言ってくれた。
……大公様、私の『正体』については、決して聞いてこようともしないけど、シルヴァリオ様から聞いたのかな? エル君は、あれでも口は堅そうだけど。そういえば大公様は、どうして専属の側仕えからお茶貰わないのかな?
わたしの規格外な知識、普通に頭が回り知識の価値が分かる者なら不思議がるはず。
どうして幼い女の子が、学院の教授陣すら知らない知識を持っているのかを。
しかし、大公様はわたしに対して何も聞く様子を見せない。
「叔父上、かっこよかったのじゃ! わらわも演説の練習をするのじゃ!」
「あ、ああ。クラーラちゃん、それはまた今度な。さて、これからが第二ラウンドだ。保守派も改革派も暴れるぞ。ははは!」
……あ! ここにも気にしない子がいたの。まー、クラーラちゃんは、元々わたし以上に細かいとこ気にしないけどね。
大公様は、もはや議場が荒れるのすら楽しみにしているようだ。
悲観的になるよりは建設的だと思うが、楽観的過ぎるのも心配になってしまう。
「大公様、今回の提案は劇薬にございます。くれぐれも御身を含めてお気をつけて下さいませ」
「そうだね、クーリャちゃん。君やエルロンドを含めて、この部屋に今いる人は、『敵』からすれば排除するべき障害だものね」
「そこで、ワシの出番じゃ! シルヴァよ、アレを全員に配布するのじゃ!」
「ああ。エルウェ、それに他の皆よ。このブローチを肌身離さずに持つのだ。もし、これを持つものに悪意をもって害しようとする者が発生した際に、発熱して知らせてくれる。更に所有者同士の危機感覚も同調するぞ。我が血筋の者は、皆危機感知能力があるから、それを共有するだけで、安全度が更に上がるな」
わたしが大公様に暗殺の気配をさりげなく伝えると、何故か学院長先生がノリノリでわたしの配下やアデーレさんを含めて仲間達全員分のブローチを渡してくれた。
シルヴァリオ様の説明では、危機感知能力と精神感応の同調が出来る魔法アイテムらしい。
……あれ? 大公様の側仕え女性、確かニーニエルさんには渡さないのかな? 数が足りなかったとか? 学院長先生もミスするんだ。
一人アイテムをもらえなかったエルフ女性側仕えの人が眉をぴくりとさせるのが、わたしの視界に入ってきた。
「こ、このような便利な防犯アイテムがあるのですね、学院長先生。わたくし、びっくりですの!」
「おう、クーリャちゃんを驚かすのに成功したのじゃ! いつも、クーリャちゃんがワシを驚かして居ったので仕返しできたのじゃ! ははは。これはな、古来から権力者が暗殺を嫌っており、開発された魔法道具なのじゃ。最近は出番が無くて、学院の倉庫にあったのを持って来たのじゃ。存分に活用するのじゃぞ」
「エフゲニー殿。御助力、実にありがたい。しかし、どうして王国学院長の貴方が我が国にここまで支援をしてくださるのですか?」
大公様は、ブローチをありがたく受け取るも、どうしてという顔をして学院長先生に聞いてみる。
「それはな、友の息子だからだよ。シルヴァはな、あれでも子供思いなのさ。そっけない顔をしていても、大公殿の危機を聞くとじっとしておられぬかったのだ。それに、ここには我が学院への入学予定者も多数おる。可愛い子達が危険に会うのは、ワシ辛抱できぬじゃよ」
「と言って、本音では一緒に暴れたいのですよね、先生。いい加減良い御年なのですから、ご無理はなさらないで下さいませ」
「ナターリャちゃん! せっかくクーリャちゃん達にカッコいいい処見て貰うつもりじゃったのに、ネタばらしし無くても良いじゃん。ぐすん」
かっこよく決めようと大公様に決めた学院長先生。
しかし、先生に突っ込まれて拗ねちゃうのは可愛いって言って良いんだろうか?
……学院長先生の場合、どこまでポーズでそこから本音か見えにくいの! これが歳の候なのかな?
「ははは! さて、良いものを頂きましたし、今から第二ラウンドに行ってまいります」
大公様は、じゃれあう学院長先生と先生を見て笑いながら、貴賓室を離れた。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、議会を再開する。次の議案だが、昨今国内は保守派と改革派が争っている。エルフらしく他国から離れていつまでも変わらぬ世界を望むのか、大公国が生まれた時の様に他国と積極的に係わりあいながら新たな世界を望むのか!」
大公様は、議場にて演説を再開する。
大公国内での最大の問題、派閥争いにメスを入れだした。
そんな、予想外の発言に議場はざわつきだした。
「そして領内に増えてきた他種族との混血児、彼らは純粋なエルフよりも早く成長をする分、寿命が短い。彼らは、社会からは半端もの、混じりものと虐げられ、満足に教育も受けられず、まともな職業にもつけず、我ら純粋種に対して羨望の目を向けながら此の世を去っていった。それは、実に悲しい事ではないか! 彼らも同じ国に住む同胞。もちろん、それはエルフの血を継がぬ、この地に住まう者も全て同じだ」
更に大公様は、爆弾発言を行う。
今まで国内で虐げられた混血児、ハーフエルフや他種族に対して人権を認めようと言うのだ。
前世世界ですら、全ての人々に人権を訴えだしたのは、第二次大戦後。
ここ、近代にも入っていないファンタジー世界で、等しく人権を認めようとする発言は、頭が固いだろうエルフにとっては、禁句に違いない。
「大公殿は勝負に出たのじゃな。これでは、保守派の爺共は納得せぬぞ。特に伯爵とやら、こやつは暗黒神教団の中ボス。油断ならぬのじゃ!」
クーリャちゃん達は、敵がいるとまでは知ってますが、誰とまでは気が付いていません。
チエちゃん、ここから先の展開をお楽しみにです。
「うむ、明日の正午を楽しみに待つのじゃ! 読者の皆の衆は、ブックマークなぞ宜しくなのじゃ!」




