第0話 プロローグ 王国歴426年 爆裂令嬢、爆誕!!
「クーリャ、貴方は学院から追放とします!」
時に王国歴426年夏。
ロマノヴィッチ王国ニシャヴァナ男爵長女クーリャ。
彼女は王立魔法学院から追放させられようとしていた。
「どうしてなの、学院長! わたくし、何一つ悪い事なぞしておりませんですわ! 追放を取り消してくださいませ!」
黒髪で黒い目、そして同級生よりも幼げな15歳の少女クーリャは追放命令を発布した学院長に歎願をする。
「この追放は王からの命でもある。クーリャ、其方の父ニシャヴァナ男爵様は王家に対して謀反を企んだ疑惑がある。なれば、娘のクーリャも同罪。即刻自領へ帰り王からのご沙汰が下るまで蟄居せよ!」
だが、学院長は冷酷な目でクーリャを見下し、王家からの命令であることも叫ぶ。
クーリャの願いは、周囲の雑踏と侮蔑の言葉に消されてしまった。
「あの子、生意気だったけれど、父親が謀反だって。ざまぁないわねぇ」
「王様に盾突くなんて。あんなヤツ、早く死刑にでもなったらいいのさ!」
その場に泣き崩れるクーリャ。
しかし、悲劇はこれで終わらかった。
「クーリャ様、わたしは……ごめんなさい。助けられなくて……」
「クーリャ、もしもの時はアタイの国、ドワーフ王国を頼って! お父ちゃんが大変な時、アタイの事を助けてくれたもん」
「わらわの母国も絶対に助けるのじゃ! わらわもクーリャには世話になったのじゃ!」
数少ない女友達らに見送られ、自領へ帰ったクーリャ。
しかし、一月もしないうちに王家から男爵家の御取り潰し、及び男爵一家全員の死刑判決が下された。
弁明の機会も一切与えられず、一方的に死刑判決を受ける男爵。
彼は疑われる原因を作った娘クーリャを、攻めはしなかった。
「お父様、わたくしがミスリルを密輸したせいで……」
「クーリャ、もう過去の事はしょうがないよ。それにクーリャがミスリルで作ったプラント製の肥料のおかげで、領内の人々は飢餓から救われたんだぞ。自信を持つんだ、クーリャ。なに、最悪僕の首一つで許してもらう様にするよ」
しかし、元々男爵を無実の罪に陥れる策を弄していた西隣のキリキア公爵。
彼は王家に働きかけ、なおも抗弁する男爵に対して強硬策、男爵領全土の制圧を行う事にした。
「公爵様、どうして私の命一つで許して下さらないのですか? 家族は元より領民全てを処するとは……」
「領主の罪は、領内全ての罪! それに、これは王命である! 問答無用なり!」
男爵は、急ぎ領内全ての人々に避難命令を下した。
そして自らと家族、小数の兵を纏め、領内中央部に存在する古代砦に立て籠った。
「あれは……!」
「なるほど、そういう事かぁ。公爵様は、もとより僕の命と豊かな男爵領が欲しかったんだね」
砦の西方より村々を焼き払いながら進軍してくる銀色の巨人。
公爵指揮下のアイアンゴーレムの大軍が、ニシャヴァナ領内を虐殺しつくしていた。
「クーリャ、君は心配しなくても良いんだよ。大丈夫、お父さんは強いんだからね」
「ええ、貴方は清く正しくありなさい。わたくしの大事なクーリャ」
クーリャが「隙」を作ったのにも関わらず、そのことを一切攻めない両親。
クーリャも自ら作った火薬を駆使し、約一か月間にわたり男爵たちはゴーレムの軍勢と戦った。
しかし、所詮は多勢に無勢。
補給も一切ない中、糧食や武器は次第に底を付き、更に領内を疫病が襲った。
「お姉さまぁ、お姉さまぁ……」
幼く身体が弱かったクーリャの弟は高熱の中、うわごとで姉の名を呼びながら息を引き取った。
そして、また一人、また一人とクーリャの大事な人々の命が戦場で失われていった。
「姫様、ここはローベルトが押さえます! 姫様に幸せがありますように……」
「クーリャ姫さん、俺は姫さんと一緒で楽しかったぜ。ドワーフ王国へ逃げたらダニエラ様に宜しくな!」
「姫様……。わ、わたくしが居なくなっても……、ちゃんと礼儀作法は覚えていてくださいませ……」
いよいよ最後、男爵夫妻は娘を守るために砦を飛び出し、生き残りの数少ない兵らと共に銀色の軍勢へと突撃を敢行した。
「クーリャ、お前だけは生き延びるんだ!」
「さようなら、わたくしの大事な娘」
しかし、命からがら砦から逃げ延びたクーリャにも敵の追手が迫る。
「クーリャ姫様ぁ。アタシ、姫様と一緒で楽しかったですぅ。それでは、お元気で!」
「わたくしも姫様とお勉強を一緒に出来て楽しかったですわ」
逃げ延びる途上、クーリャにとって姉の様に仲が良かった少女メイドと女家庭教師も、クーリャの身代わりとなり若い命を散らした。
「クーリャ、貴方は何を望みますか?」
「王妃様、わたくしはロマノヴィッチ王国への復讐を誓います。わたくしの大事な人々を殺した王国を絶対に許しません!」
逃げ延びた先の友好国、ドワーフ王国王妃に望みを聞かれたクーリャ。
彼女は己の大事な人達を全て殺され、そして復讐鬼「爆裂令嬢」となった。
◆ ◇ ◆ ◇
「お姉ちゃん、これはシナリオに救いが無さすぎだよ? このクーリャちゃんってアタシがモデルじゃなかったっけ? 家族に友人知人を皆殺しされたら、アタシだって復讐鬼になっちゃうもん」
「実妹がモデルだからこそ、容赦なくイジメたんだけどね、カエデ。でもね、ちゃんと救済シナリオは作中でもあるし、いずれは追加シナリオもゲームが売れたら考えてあげるね」
戦略ゲーム「乙女革命戦記」を試遊する妹が憤慨するのを、ゲーム制作者の姉は適当にあしらう。
「もー、そんなんじゃ彼氏にも振られちゃうぞ、お姉ちゃん!」
姉妹が仲良くじゃれ合う日常。
それは、長くは続かない平穏だった。