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妬まれボッチの異世界政務録  作者: シャット・キャット
第3章 第一次共和国戦
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第37話 グリーンパーティー その2

 三公爵を見送ると、次にやって来たのはルーブグ伯爵家。漁業大臣シリウスの実家で、現在の当主はシリウスの兄だ。


 現在、ルーブグ家は当主であるルーブグ伯爵と伯爵夫人、11歳の息子の3人家族である。


「「「お久しぶりです。陛下。王太合殿下」」」

「久しぶり、ルーブグ伯爵家の皆さん」

「久しぶり」


 ルーブグ伯爵の挨拶にお母様、俺の順に応えた。


 ルーブグ伯爵はシリウスにとても似ているが、シリウス以上の筋肉を身に着けている。加齢の為、お世辞にもかっこいいとは言えないが、とても男らしい体格をしており、若かりし頃はさぞハンサムであったと見受けられる。


 それに対して、伯爵夫人は美人とも不細工(ぶさいく)ともいえないほどの平凡な容姿をしており――失礼な言い方ではあるが――息子のルージュも母親似でとても平凡な顔つきである。


「そして、お初にお目にかかります。ソフィア姫」

「「お初にお目にかかります。ソフィア姫」」

「初めまして、ルーブグ伯爵、夫人、ルージュさん」


 ルージュは伯爵と夫人の息子の名前。


「伯爵は近頃どのようにお過ごしで?」


 お母様は物腰を柔らかくしてそう尋ねた。


「最近はルージュの剣術の指南をしていましてね……とても筋が良くて鍛え甲斐があるのですよ」

「そうなのですか?」

「えぇ。ルージュの剣筋が良いものだから、近頃はルージュがすくすく成長できるよう食事にも気を使っていますよ」


 伯爵が食事に関する話題を持ち掛けたので、俺はそれに乗ることにした。


「そうか。どのようなものをルージュは食べているのか?」

「栄養に偏りが無いよう、様々なものを食べさせています。そうですね……カムナやムギ、ファックスの肉などを食事に出しています」


 おぉっ! まさか、伯爵が自分からムギの話を持ち出すなんて……。


 今日はついているぜ!


 ちなみに、カナムは根菜で、ムギは麦のような穀物である。


 俺は伯爵に鎌をかけることにした。


「そうですか。ムギは伯爵領で収穫しているものを出しているのですか?」

「いいえ。我が領はムギの生育に適していない為、ムギは他所の領から取り寄せております」


 無論、ルーブグ伯爵領がムギの生育に適していないことは既知であったが、鎌をかけるために聞いたのだ。


「そうか……ムギは穀物だから、栽培すると伯爵領は潤うと思うのだが、ムギを栽培できないか試したことは無いのか?」

「はい。我が領は栽培実験の為に時間とお金を割くことができない状況ですので、ここ10年ほどは行っておりません」


 はぁ。やっぱり、会計報告書の支出欄にあった『各種農産物の栽培試験』は虚偽であったか。


「へぇ。確か、ここ数年の会計報告書には『各種農産物の栽培試験』の為にお金が支出されたとあったのだが、そのなかにムギの栽培試験も含まれていたはずだが、どういうことかな?」

「へっ、陛下……どうしてそのことを……」


 ルーブグ伯爵の顔は一変し、突如真っ青になった。


「会計報告書に『各種農産物の栽培試験』という項目を偶然見かけて、それでどういった試験をしているのか企画書を読んだのさ」

「そっ、そうでしたか……」

「ムギの栽培が可能になるとルーブグ領に、まして国にも利益となる。面白い企画だと思ったよ。今度、視察に出向こうとも思ったよ」

「そっ、そうですか……」

「けれど、先程『ここ10年ほどは栽培実験を行っていない』と言っていたが、どういうことかな?」

「そっ、それは……」


 ルーブグ伯爵の顔が益々(ますます)青ざめていく。


「その反応は俺の質問に答えているようなものだな。詳しい話を聞くことにしよう。バルマ」

「はっ」


 俺は少し離れたところで控えていたバルマを呼んだ。


「この3人を牢屋に連れて行け。夫人や子供のルージュに罪はないと思うが、念の為だ。伯爵が2人を使って証拠隠滅をするやもしれない」

「畏まりました」


 バルマは返事をすると近くで控えていた近衛騎士を数人呼び、3人を後ろ手に拘束させた。


「おっ、お待ちください! 陛下! これは陛下の為に行ったことです!」


 ルーブグ伯爵は大きな声で弁明をし始めた。


「そっ、そうだ! 会計報告書に『栽培試験』と書いたのは、数年がかりでお金を陛下に秘密に溜め、いずれ(まと)まった金額のお金を陛下に献上する為でありまして……」


 いかにも今思いつた言い訳だな。見苦しいにもほどがある。


「ねぇ。あなた、どういうことよ! どうして私が拘束されないといけないわけ?!」

「父上! どうしてこのようなことになっているのですか?!」


 伯爵夫人とルージュは伯爵への非難を始めた。


五月蠅(うるさ)い! お前たちは黙っていろ。陛下。どうか、お考え直し下さい!」


 伯爵は妻と子供を黙らせて、俺に懇願を続ける。


「騒ぐな。ここにいる者を動揺させてしまう」


 パーティーが終わってから3人を拘束するという手があったにもかかわらず、このような事態を作った張本人が言うことではないが、俺はバルマに命じて3人に猿轡(さるぐつわ)をつけさせた。


「バルマ。3人の牢屋には誰一人入れないよう、厳重な警備を頼む」

「畏まりました」


 俺がそう言うと、バルマたち近衛騎士たちが3人を連れて行った。


 別に、ルーブグ伯爵をこの場ではなく、伯爵の私邸に兵を送って捉えても良かったのだが、今回は見せしめのためにも伯爵をここで捕えたのだ。



 * * *



 その後も貴族たちとあいさつを続いた。


 しかし、ルーブグ伯爵の見せしめを行ったからか、貴族たちの表情はいつもより硬いものになっていた。


 あいさつが終わると、ダンスの時間。


 このパーティー会場にいる子供の中で一番高位の者は俺であるため、今回は俺が一番最初にダンスをする。


 相手はフレア。初めてのダンスから3年経ったが、その間にフレアのダンスにはさらなる磨きがかかっている。それは礼儀作法についても同様で、素晴らしい淑女に育っている。


「私と踊ってくれませんか?」

「えぇ、喜んで」


 俺はフレアの手を取り、ホール中央へと向かった。


 踊り始めると、フレアはいつも通り、素晴らしい踊りをする。


 それに対し、俺のダンスは普通の人が見るには8歳のそれ以上のダンスに見えるかもしれないが、普段のダンスと比べると幾分か固くなってしまっている。


「ランス様。体を強張(こわば)らせていますが、大丈夫ですか?」

「フレアには分かってしまうか……」

「そこまで気を張らなくてもいいですよ」

「けれど、襲撃があるかもしれないと思うとね……」


 襲撃があるかもしれないというのに、緊張しないでいられる人は一体どれだけいるだろうか?


「ランス様は今、私とのダンスに夢中になってくれればいいのですよ」

「そうは言っても……」

「それとも、ランス様はダンスの相手を余所(よそ)に他のことを気にするのですか?」


 フレアが俺の張り詰めた緊張を緩ませようとしていることを理解し、警戒を少し緩めることにした。


「わかった。ダンスの間は目の前にいるフレアに集中する」

「それでいいのです。ランス様」


 その後もフレアと踊り続け、大過なく踊り終えた。


 次にダンスに誘うのはサリー。


「私と踊ってくれませんか?」

「えぇ、喜んで」


 ここからは、この場に集まっている子供たち全員で踊る。


 俺の近くでは、ソフィアがガッツからダンスの誘いを受けている。


 ガッツはフィーベル公爵家の嫡男で、13歳の為ジークやハイドより先にソフィアをダンスに誘っているのだ。


 そのガッツはと言うと、相変わらずの肥満体形である。「柔道78キロ超級に出場できるのでは?」と思うほど体は大きいのだが、柔道家と違うのは腕周りやお腹周り、足周りについているものが筋肉ではなく脂肪だということである。


 13歳のガッツと5歳のソフィアが踊るため、身長差がとても大きい。それに加え、2人は体を近づけようにもガッツの贅肉がそれを阻み、とてもアンバランスな組み合わせとなっている。


 ソフィアの初めてのダンスの相手がガッツである為心配であるのだが、今は目の前にいるサリーに集中することにする。


「ランス様。先ほど、フレアと何を話していたのですか?」

「『私から目を離さないで』って注意された」

「そ、そうですか……。あの、私からも目を離さないで下さいね」

「うん。今はサリーだけが見えているよ」


 俺がそう言うと、サリーの頬が紅潮し、照れて見せた。


 ただでさえダンスで顔と顔が近づいているというのに、サリーが照れて見せたので、俺も恥ずかしくなる。


 俺は照れ隠しに、サリーを揶揄(からか)うことにした。


「サリー。顔が赤いよ」

「はぅっ。ランス様こそ、顔が赤いですよ」


 あぁぁぁぁ! こんなことになるなら、サリーを揶揄わなければよかった。


 その後も、俺とサリーの間には気まずい空気が流れ、ダンスの間に話すことは無かった。


 サリーとのダンスの後はいつも通り、何人かの伯爵令嬢や男爵令嬢とダンスをした。


 その間、ソフィアも大過なく踊っていた。ガッツとは踊りづらそうにしていたが、ジークやハイドとはとても楽しそうに踊っていた。それに加え、ソフィアのダンスはやはり周りの子供たちの中で頭一つ抜けており、周囲の大人からは称賛の声が上がっていた。


 そして、自由会談の時間になった。


 いつもはフロアに出て、多くの人と話をするのだが、今日は何があるか分からない為踏み台近くで立ち話をした。


 ソフィアとお母様も踏み台から離れることは無く、様々な人たちと話をしている。


 そして、俺は今アランと話をしている。


「陛下は、どのようにお過ごしですか?」


 本名はアラン・ド・スミス。フィーベル領内スミス伯爵家の長男で、6歳である。


 スミス伯爵は王都に隣接しており、フィーベル領内で王都に出荷するものは必ずスミス伯爵領を通過しなければならないので、伯爵領は商業で栄えている。


 そのアランはと言うと、銀髪に青い目をしており、まだ6歳と言うこともあり、あどけない表情をしている。とてもかわいらしい子で、去年俺からアランに声をかけたのだが、その時俺は彼を気に入ったのだ。


「色々なことに手を出しているからなぁ。読書や魔法、魔術の勉強は勿論(もちろん)のこと、武術もしているよ。アランは?」

「私は武術に励んでいます。体を動かすことが好きで、いつも走り回ったり、剣を振ったりしています」

「そうなんだ。スミス伯爵は『勉強しなさい』とか言わないのかい?」

「最低限のことを学んでいますので滅多にありません」


 そうなんだ……。スミス伯爵領は商業で潤っているから、てっきりアランに商業についての勉強を重点的にさせているのかと思っていた。


「そっかぁ。アランは将来何になりたい?」

「『私は騎士になりたいです!』って言いたいところですが、父の後を継がないといけないので、諦めています」


 やっぱり、アランも諦観しているのか……。6歳でその境地に至るとは、流石(さすが)の一言に尽きる。


 その後もいろいろな人と話し、お母様がパーティーのお開きを宣言した。


 結局、この日は何も起きることなく、皆会場を後にしたのだった。



 * * *



 夜も深くなったころ。


 王都内の路地裏に男と女が現れた。


「本国からの指令書だ」


 1人の女は書を読むと、納得する。


「なるほど。この程度のこと、造作もありませんね」

「そう言ってくれて助かる。明日の料理にこれを混ぜてくれればそれでいい」

「かしこまりました」

「うん。一応、毒を盛れなかったときの保険も準備してある。失敗したときは、会場内を光の魔術で照らせ。そなたなら古代魔術文字も使えるであろう」

「かしこまりました」


 2人はそれだけを話すと、その場を後にしたのだった。



 * * *



 その頃。


 王都内のもう1箇所には多くの人が集まっていた。


「俺のところは兵の準備完了しましたぜ」

「俺のところも、問題ないっす」

「俺のところもだ」


 その後も、各自状況報告を続ける。


「それで、本当に明日成功するんだろうな?」

「あぁ。我らにはあの方がいるのだ。勝利は約束されている」

「そいつにはいつ会えるんだ?」

「今回の革命が成功した暁に顔を出すということだ。大丈夫だ。皆も知っているお方だ」


 1人がそう言うと、皆の謎は深まる一方であった。


「とにかく! 明日の革命を成功させたら、我々には革命を成した功績が与えられ、これまでの不遇な生活から解き放たれるのだ!」

「そうだ! 明日の革命は何としても成功させるぞ!」

「「「おぉぉぉぉぉー!」」」


 1人がそう言うと、皆盛り上がったのだった。

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