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妬まれボッチの異世界政務録  作者: シャット・キャット
第3章 第一次共和国戦
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第35話 4人との約束

 3日後。


 パーティーは明後日(あさって)に迫った。


 一昨日にはアウルム公爵、カナート公爵、フィーベル公爵の3人を城に招き、パーティー当日に何かあるということを知らせた。


 話をしたときの3人の表情には少しばかりの差異があった。アウルム公爵は深刻な面持(おもも)ちで考え事をし、カナート公爵は青ざめ、フィーベル公爵は驚いてみせた。


 その後、3人には有事に備えて私兵を会場に連れてくるようお願いした。


 そして、時は現在。


 俺はジーク、フレア、ハイド、サリーとサロンで話をしている。


 一昨日、アウルム公爵とカナート公爵が帰り際に子供たちだけを登城させると提案され、お母様がその提案をあっさり受け入れたのだ。お母様が提案に乗り気であった理由は見当もつかないが、ジーク達が来てくれるのだ。提案を断る理由はない。


 そういう経緯で、俺は4人と紅茶を飲みながら話をしている。


「それで、どうして今日は登城したの?」

「ランス様とお話ししたくなったからですよ」


 フレアが微笑(ほほえ)みながら答えた。


「3日前にも沢山話したのに、それでも話したりなかったの?」

「えぇ、そうですとも。それとも、ランス様は私たちとの会話に飽きてしまわれたのですか?」


 フレアが冗談めかして尋ねた。


「そんなことないよ。皆とどれだけ話をしても退屈しないよ」


 俺は笑って答えた。


「それより、ランス様。明後日のパーティーはきな臭いことになるとか……」


 ハイドが語尾を濁しながら聞いてきた。


「うん。明後日か明々後日(しあさって)かはわからないけど、何かあると思う」

「そうですか……」


 ハイドが落胆しながら答えた。


「ランス様はこの2ヶ月の間に3度も御命を狙われていますのに、(また)しても……」

「ランス様。今回の襲撃を何事もなく乗り越えることはできるのでしょうか?」


 ジークが(つぶや)くと、サリーが俺に尋ねた。


「う~ん。何とも言えないね。相手の正体も規模も分からないから、具体的な対策を取れないんだよ。俺も警備を厳重にしたり、俺自身が戦えるよう準備をしているけど、これ以上の対策はできないんだよね……」

「パーティーを延期にすることはできないのですか?」


 (また)してもサリーが俺に尋ねた。


「それは難しいね。国中の貴族が既に王都に集まっているわけだから、『1、2カ月後に延期します』なんて今更(いまさら)言えないよね……」

「それでは、中止に……」

「サリー。それはとても難しいことよ」


 サリーが「中止」と言いかけたところで、フレアがサリーの言葉を(さえぎ)った。


「中止になんてすると、次に王族がパーティーを主催するとき、貴族たちが参加を断ってしまうかもしれないの。そうなると、王族の面子(めんつ)が潰れてしまうわ」


 フレアがそう言うと、サリーは困惑し始めた。


「でも、そうでもしなければランス様の御命が……」

「サリー。俺の命を案じてくれてありがとう。けれど、俺は皆の方が心配だよ。俺は当日、襲撃があったら()ぐに反撃できるよう魔法の杖とスクロールを(ひそ)かに持ち込むけど、皆は武器を持ち込むことができないからね。もしもの時は会場の警備兵に守ってもらわねければならないから、心配だよ」


 当日の参加者は外から見える形での武器の持参を禁じられている。例えば、服の下にナイフや杖を隠し持つことは許されているが、剣を腰に下げて参加することはできない。


 この世界に火薬はない為、何かを隠し持っていたとしても自爆テロのような悲惨な事態は考えられない。それ故、外から見えない範囲で、護身の為の武器を携帯することが許されているのだ。


 その為、剣が得意のジークは一切の装備を持参できないのである。ハイド、フレア、サリーは魔法を使うことができるが魔法の杖を持っておらず、その上魔術を使うこともできない為、こちらも武器の持参はできない。有事の際、ジークは格闘術で、ハイド、フレア、サリーは道具を使わずに魔法で対処しなければならないだろう。


 けれど、ジークは11歳で剣の腕がいいと言っても、大人相手に(かな)う見込みは(ほとん)どない。それに、ハイド、フレア、サリーは現代人間語を習得している段階で、大した攻撃魔法を使えない。


「皆。当日はできるだけ近くにいて。何かあった時、皆の命だけは絶対に守るから」

「ありがとうございます。けれど、私たちはランス様の(かせ)になるつもりはなりません」

「そうですよ。私たちも魔法を使えるのですから。自分の身を自分で守れるかは分かりませんが、ランス様の御手を(わずら)わせるつもりはありません」


 フレアとサリーが俺の申し出を断った。


 2人の気持ちはわかるのだが、心配で仕方がない。


「そんな顔をなさるな。俺たちだってランス様の力になりたいんだからよ」

「そうですとも。できることはあまりありませんが、(たま)にはランス様の役に立ちたいです」


 ジークとハイドが俺の顔を見るなり声をかけた。


「わかった。けれど、絶対に無茶はしないでね。周りの警備兵に守ってもらってよ?」

「「「「はい」」」」

「ランス様も、警備兵を頼ってくださいね」


 最後にフレアが「できるだけ前線に立たないで下さい」と釘を刺した。


「うん。できるだけ警備兵を頼ることにするよ」


 俺はフレアを見て答えた。


 すると、フレアが突然心配そうな顔をした。


「ランス様。無理をされていませんか?」

「えっ?」


 フレアの突然の言葉に唖然(あぜん)とした。


「どういうこと?」

「ランス様が最近無理をされていないか心配で、お体は大丈夫ですか?」


 どうしてそう思ったのかな?


「大丈夫だよ」

「本当ですか? 私には無理をされているように思えますが……」

「そうかな~~?」


 フレアの応答に、俺は苦笑いを浮かべて答えた。


「見ていたら分かりますよ」


 フレアが表情を変えずに言った。


「先ほど『ランス様は私たちとの会話に飽きてしまわれたのですか?』と聞いた際も、作り笑いをして答えていましたよ」


 流石(さすが)にフレアは俺の作り笑いを見破った。


 確かに、4人と談笑する時間も楽しいが、政務の時間が減ってしまうことは惜しい。この心理が顔に出ていたと考えると、4人に申し訳ない気持ちで一杯になる。


「そうかな~~?」


 俺はまたしても苦笑いで答えると、サリーが俺の言葉に応えた。


「はい。それに、2ヶ月前ランス様が刺客に襲われた際、3日も寝込んだと聞きました。その時の心の問題は解決したと城に働く者の(ほとん)どが考えているそうですが、王太合殿下はそうではないそうです」


 俺が3日間寝込んだ話、聞いちゃったんだ……。


 言わないようにしていたのに……。


「そんなことないよ。3日間寝込んでから、体調には十分に気を付けているよ。これ以上皆に心配をかけるわけにはいかないからね」

「それができていないのではないかと心配をしているのです!」


 サリーが強い口調で話した。


 サリーに続いて、今度はハイドが話し始めた。


「ランス様は一人で居らっしゃるとき、何をなさっていますか?」

「そうだな~~。本を読んだり、昼寝をしたりしているかな」

「それは嘘ですね?」


 俺が答えると、ハイドは俺の発言が嘘だと間髪入れずに問いかけた。


「そんなことないよ」

「嘘です。ランス様は嘘をつく際、少しだけ重心が左に傾きます」


 俺は誤魔化そうとしたのだが、ジークは俺の発言が嘘だと断定した。それも、明確な根拠を付けてだ。


 ジークは剣術が上手いからか、俺の些細(ささい)な体の動きに気づいたようだ。これほど些細な動きは近衛兵でも一握りの者しか気づかないと思うのだが、どうして気づいたのかな?


 それはそうと、実のところ最近は一人の時間にも政務をしている。


 仕事が多すぎるからだ。


 各貴族が提出する会計報告書を見直したり、大臣達の過誤を俺一人でフォローしたりと自分で仕事を増やしていることも多少あり、その為非常に多くの政務を(こな)している。


 そういうわけで、1日の睡眠時間は約5時間だ。お母様やソフィアに手伝いを求められたり、お茶を勧められたときには心配をかけないよう2人に付き合うのだが、それ以外の時間は政務と読書に時間を(つい)やしている。


 「睡眠時間を増やしたいのであれば読書の時間を削ったらどうか?」と思うかもしれないが、それは無理な話だ。ダリアとの戦争に向けて、王国とダリアの地形図を読んだり、古代エルフ文字の教本を読んだりと読まなければならない本が多々あるのだ。


 まぁ、前世では1日の睡眠時間は4時間弱であった為、あの頃より長い時間眠ることができている。しかし、8歳児に推奨されている睡眠時間は8~10時間である為、このままでは自身の成長に弊害が生じるやもしれない。


 そういうわけで、睡眠時には自身に精神属性の睡眠魔法をかけ、より深い眠りを実現したい気持ちは山々である。しかし、睡眠魔法をかけたときに索敵魔法を発動することはできず、再び刺客に命を狙われる可能性を考慮すると睡眠魔法を使うわけにはいかなくなる。そういうわけで、短い時間で質の良い睡眠を実現したいのであるが、それがなかなか難しいことであり、困っているところである。


 ――閑話休題――


「ジークに見破られたか」


 俺は自分の嘘を見破ったジークに苦笑いを浮かべながらそう言った。


「一人の時間は何をなさっているのですか?」

「ん~っ。読書と……政務?」

「やはりそうですか。一人の時間の殆どを政務に費やしているのですね」


 ジークは俺の回答から、俺が政務ばかりしていると断定した。


 すると、今度はフレアが俺に尋ねてきた。


「何時まで起きていらっしゃるのですか?」

「10時……」

「嘘ですね」


 ジークは俺の話を遮って「嘘」だと断定した。


「ランス様! 嘘をつかないで下さい!」


 俺はフレアに怒られてしまった。


「ごめん。いつも12時過ぎに寝ているよ」

「12時……そんな夜更(よふ)けまで……」


 4人はあからさまに動揺して見せた。


 (ちな)みに、この世界には日時計のみが存在し、その日時計を観測した者が王都内の鐘を使って9時、12時、15時、18時を知らせている。その為、日没後の時間は正確にはわからない。けれど、月の上り方を見ていれば時刻は大まかにわかるものだ。


「城の者は知っているのですか?」


 ハイドに尋ねられた。


「俺専属の騎士とメイドは知っているけど、彼らには口止めしてあるから……」

「王太合殿下とソフィア様は?」

「……知らないよ」


 ハイドの質問には答えたくなかったが、ここまで知られた以上ここで嘘をついたとしても後々お母様とソフィアの耳に入るだろうと考え、自白した。


何故(なぜ)それほどまで無理をなさるのですか?」

「そうですよ。政務なら役人に任せればいいですのに……」


 ジークとフレアが心配と立腹が五分五分の顔をして言った。


「それもそうなんだけどね。大臣達が失敗したりするから、そのフォローをしないといけないし、それにやりたいことが色々とあるから……」

「そのやりたいことが政務なのですか?」

「うん」


 サリーの問いに同意すると、4人からは呆然としてしまった。


「そういうわけだからさ、俺は好きで無理をしているんだ。だから、大丈夫だよ」

「そのようなはずが……」

「それに、ちゃんと体調管理はできているから。体調が優れないときは休むようにしているからさ」


 サリーが否定しようとしたところで、俺はそれを遮って畳みかけた。


「本当に体調管理はできていますよね?」


 ジークが俺の両眼を見据えて尋ねた。


「うん。できているよ」

「わかりました。俺たちができることは無いようですので、これ以上のことは言いません」

「ジーク!」


 ジークは納得してくれたようだが、他の3人はそうでもない様子で、ハイドがジークを呼んだ。


「ランス様は無理をしすぎだ。毎日5~6時間しか眠っていないなんて、いずれ体に支障がでる決まっている!」

「だが、俺たちにできることが何一つないことも事実だ」


 ジークの言葉を聞くと、ハイドは悔しそうに歯を食いしばった。


 すると、ジークが話し始めた。


「ランス様。俺たちにできることがありましたら躊躇(ちゅうちょ)せずに仰って下さい」

「うん。その時はよろしくね」

「約束ですよ?」

「うん」


 ジークは、何かあればジーク達を頼るよう約束させると少しばかり表情を緩めた。


 けれど、他の3人はそうもいかず、フレアがジークに批判がましく尋ねた。


「お兄様。それでよろしいのですか?」

「うん。他に手段はない」

「けれど、このままではランス様の体調が……」


 今度はハイドが反論した。


「だが、俺たちができることは他にない。精々(せいぜい)、王太合殿下に話をするくらいだ」


 ジークがそう答えると、フレアとハイドは悔しそうな表情を浮かべた。


「わかりました。王太合殿下にランス様の近況を知らせるということならジークの言う通りにします」

「「サリー!」」


 サリーがジークに同意すると、ハイドとフレアがサリーを呼んだ。


 しかしながら、サリーにとんでもない条件を付けくわえられた。


 これまでお母様とソフィアに心配をかけないようにしてきたというのに、サリーがお母様とソフィアに話をしてしまえばこれまでの行動が水の泡になってしまう。


「サリー。それだけは止めてくれ。お母様とソフィアに心配をかけたくない」

「ですが、このままではランス様の負担が重いままです」

「俺なら大丈夫だから。今の仕事が一段落したら長い休みを取るからさ。お願いだから、お母様とソフィアには話さないで」

「で、でも……」


 俺のお願いを聞いたサリーは困惑している。


「皆。どうか、この話はここだけに(とど)めて。俺の体は俺が一番理解しているから、倒れるまで政務をするようなことは決してしないから。お願いします」


 俺は4人の目を見据えて話した。


「……わかりました。ランス様の言う通りにします」

「仕方ありませんね」

「そうですわね。これ以上ランス様を説得しても応じてくれそうにありませんし」

「えぇ。無理をなさらないと言質(げんち)を取れましたので、それでよしとします」


 サリー、ハイド、フレア、ジークの順にそう言った。


「皆、ありがとう」


 これ程まで自分の身を案じてくれる同年代の人がいるなんて、予想だにしなかった。


 前世からこれまでで自分の身を案じてくれた人は両親だけだった。


 家族でない人からこれ程まで心配されるなんて、とても嬉しい。


 けれど、それと同時に申し訳なさが(つの)ってしまう。


 この初めて知った感情に、俺は嬉々とせずにいられなかった。


 俺の身を案じてくれた皆に感謝して、その後も4人と談笑を続けた。



 * * *



 談笑を終え、4人は各々の屋敷へと戻った。


 カナート邸にて。


「「ただいま戻りました。お父様、お母様」」

「おかえり」

「おかえりなさい。ジーク、フレア。今日は楽しかったかしら?」

「はい。とても楽しい時間を過ごしました」

「私もとても楽しかったですわ」

「それなら良かったわ」


 ジークとフレアの返事を聞き、公爵とミルテイアは2人をソファーに座らせた。


「それで、陛下の御様子に変わりはなかったか?」


 公爵は2人に聞き出した。


「変わった御様子ならありました」

「やはり……」

「けれど、ご心配には及びません」


 ジークが公爵の言葉を遮った。


「そうですわね。陛下は私たちと約束をしましたものね」


 ジークに続き、フレアも陛下を心配する必要は無いことを伝えた。


「どんな約束をしたのだ?」

「それは言えませんわね、お兄様?」

「そうだな。陛下に緘口令(かんこうれい)を敷かれたからな」


 陛下は緘口令を敷いたわけではないのだが、この場を上手くやり過ごすために尾鰭(おひれ)を付けて話した。


「そうか……それなら仕方あるまい」

「そうね……ジークとフレアが大丈夫と言うなら問題ないでしょう」


 そして同じ頃、アウルム家でもカナート家と同じような話がなされ、同じ結論に至ったのだった。

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