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妬まれボッチの異世界政務録  作者: シャット・キャット
第3章 第一次共和国戦
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第30話 前門の子虎

 サラがいつも通う酒場まではそう遠くはなかった。


 人通りの多い大通りを数分歩くと、大勢の人が出入りする店が見えてきた。


 その店の壁は灰色を基調としており、明らかに年季が入っている。入り口は開けっ放しで、老若男女が出入りしており、20代、30代の体付きのいい男性が若干多いように見受けられる。さらに、店までは距離があるのだが、店内の喧騒がここにまで聞こえてくる。


「ノル。あの店ですよ」


 サラは喧騒に包まれた目の前の店を指差して言った。


 サラが通っているのはあの騒がしそうな店か。店内から酒の匂いが(ほの)かに香る。昼間から酒を提供しているようだ。


「あの店には多くの冒険者が通っていて、昼間から酒に酔った冒険者で騒がしいのですよ」

「そうみたいだね」

「ですので、ノルにはまだ早いかと……」


 確かに、昼間から酒を提供している酒場となると子供には敷居が高くなるであろう。けれど、俺は前世から数えると46歳なのだ。そこらへんは大丈夫だ。


「大丈夫だよ。それより、早く入ろう! 美味(おい)しそうな匂いを嗅いでいると、小腹が空いてきた」


 俺とサラは早速店内へ入って行った。


 店内に陽の光はさして差し込んでおらず、その上照明の数がとても少ない為、店内は薄暗く、昼間の食事処とは思えないほどである。そして、20程ある4人掛けテーブルのほとんどが使用されており、この店の盛況っぷりは明らかである。さらに、全テーブルの半分ほどが中年の男どもで埋め尽くされており、彼らは酒を飲んでその(ほとん)どが悪酔いしている。


「いらっしゃい。適当に座りな」


 入店するとお盆を持った女性店員が声をかけ、すぐに忙しそうにして厨房へ去った。


 彼女は体格が良く、過去に冒険者や騎士として戦闘職に就いていたと見受けられる。冒険者という力仕事に就く男どもを客層にするこの店では男勝りな気性を持ち合わせていなければ働けないだろう。悪酔いした男どもが喧嘩することもあるだろうし。


 俺は席が空いていないか見渡し、ちょうど奥の厨房に近い2人用の席が空いたので、そこに向かい合って座ることにした。


「サラ。この店にメニューはないの?」

「メニューは無いわよ。平民の(ほとん)どは字を読めないからね」

「それもそうか」

「だから、店員が注文を聞きに来た時にメニューを聞いて、その場で決めるの」


 メニューが無いと客席の回転率がかなり下がってしまうと思うが、仕方のないことであろう。


 すると、先程の店員がテーブルの前に立った。


「サラ、久しぶりだね。さっきは気づかなくてごめんよ」

「別にいいわよ。それにしても、相変わらず忙しそうね」

「あぁ。どっかの脳筋どもが昼間から酒に酔って騒いでいるからね。乱闘があれば仲裁に入らないといけないし、酔い潰れた奴は路地裏に捨てないといけないし。それは別にいいけれどよ、給料が上がらねえのよ。こんだけ働いているのによ」

「ここの店主、カレンの伯父さんなのよね? 相談してみたら」

「相談しているんだけどよ……はぁ~~」


 カレンが深い溜息(ためいき)をついた。


 やはり、何時(いつ)の時代でも組織に属する下々の意見なんぞ聞き入れてくれないのだなぁ。俺も8年前まではカレンのようだったなぁ。


 8年前までの、身を粉にして働いていた日常に寂寥(せきりょう)感を抱いていると(あの生活に戻りたいとは思わないが)、カレンが再び話し始めた。


「それで、今日は昼間からここに来てどうしたの?仕事は大丈夫なのかい?」

「今日は休みなのよ。それで、知り合いの子供の面倒を見ることになったの」


 サラは俺を知り合いの子供という設定にしたようだ。


「へぇ~。この坊やが()()()()()()()、ね~~」


 カレンが俺の顔を覗き込み、面白そうな顔を浮かべた。


「何か事情があるようだね。その坊やを()()()()()()()と呼んでいることから察するに、お忍びだろう?」


 どうやら、俺の正体を見破ったようだ。


「そうよ」


 サラがカレンの問いに答えると、カレンが俺に話しかけてきた。


「君にこんな口調で話しかけているけど、不敬罪で罰しないでよ?」

「もちろんです。俺はサラの()()()()()()()ですので、不敬も何もないですよ」


 俺が笑って応えると、カレンが面白そうな笑みを再び浮かべ、サラに向き直った。


「それより、サラはシチューでいいかい?」

「えぇ。お願いね」

「坊やはどうするかい?」

「俺もシチューで」

「了解」


 カレンは注文を聞くと別のテーブルへ注文を取りに行った。


「カレンさんはサラの昔馴染みなの?」

「そういうわけではないよ。ただ、私がこの店でいつもシチューを注文していたから、覚えられてしまったの」

「そうだったんだ……」


 どれだけシチューを注文していたのか少し気になった。


「ノル」


 サラが真面目な顔をして声をかけた。


「お忍びであったにも関わらず、正体を看破させることになってしまい……」


 サラは生真面目(きまじめ)である為、このようなことでも謝罪をし始めた。


 その謝罪を俺は(さえぎ)って話し始めた。


「そんなことで謝罪しなくてもいいよ。サラが悪いわけではないから」

「ですが……」

「この話は終わりにしよう……」

「……わかりました」


 サラが渋々同意した。


 (しばら)くするとカレンがシチューとパンを2つずつ抱えて来た。


「シチュー2つ。銅貨16枚ね」


 サラが懐から銀貨と銅貨を取り出してカレンに渡すと、カレンは去って行った。


「銅貨8枚は私の財布から出しますね」

「そんな細かいことは気にしなくてもいいのに……」

「そんなことありません。お金の管理はしっかりしないといけません」


 それもそうなんだけど、今回くらい俺の(おご)りってことにしてもいいのに。


「それより、冷めないうちに食べ始めましょう」

「そうだね」


 そこでシチューに目を落とした。


 シチューは赤に近い茶色をしており、ミートソースのようである。湯気立つシチューからは酸っぱそうな匂いと肉の美味(おい)しそうな匂いが漂い、食欲が掻き立てられる。


 しかし、シチューとパンを食べるとなると、この量は8歳の子供が食べるには少し多すぎる。それも、昼食を食べたばかりだ。これだけの量を食べれそうにない。


「サラ。俺こんなにも食べれそうにないから、パンを食べて欲しいけど……」

「そんな……ノルの食事を頂くなんて……」


 俺が国王であるからか、サラが遠慮した。


「そんなこと言わないでよ。残すわけにはいかないし、食べてちょうだい?」

「……そうだね。食事を残すわけにはいかないからね」


 そう言って、サラは俺のパンもらった。


「それじゃあ、食べようか」


 俺は早速シチューを食べ始めた。


 シチューは一般的なものだった。トマトのような酸味のあるルーに肉や野菜が入っている。前世のシチュー比べたら味は数段落ちるのだが、とてもおいしい。ルーには2、3種類の調味料が使われ、それに肉の臭み消しもされている。完全に肉の臭みが消えているわけではないが、ちゃんと下ごしらえされている。1日にシチューだけで数百食つくるであろうから、これが限界であろう。


「おいしいね。ルーの酸味と肉の旨味がマッチしているよ」

「ノルの口に合ってよかったわ。このルーの酸味が好きで、ここに通っているのよ」

「この肉はイグアの肉だね。癖が強いのに、こんなにもマイルドな味になるなんて……ここのシェフはいい腕をしているよ」


 8歳の小僧が生意気な評論をするが、このシチューはとても美味しい。そこだけは強調しておきたい。


「ふぅ~。お腹いっぱ~い」

「ノルが満足してくれてよかったわ。それより、ノル……」

「わかってるよ」


 サラが真面目な口調で話し始めたところを遮った。


 サラが言わんとしたことはわかる。


 先程から俺とサラを睨む輩がいる。


 ここは昼間の大衆食堂で、冒険者とそれ以外の人が半分ずつ食事している。


 冒険者以外の人は酒を飲まずに食事を楽しんだり、商談らしきことをしているが、冒険者の殆どは酒を湯水のごとく喉に流し込み、騒いでいる。


 その騒いでいる連中の一部が俺とサラを睨み、下衆(げす)な表情を浮かべている。


「ノル。そろそろ行きましょう」

「でも、サラの食事がまだだよ」

「ですが……」

「サラの食事が終わるまで待っているよ」


 サラは俺のパンも食べているので、俺より食事に時間がかかっている。


「わかりました」


 すると、サラは食事のペースを上げた。


 サラは1、2分するとシチューを(たい)らげた。


「お待たせしました」

「それじゃあ、行こうか」

「ちょっと待ちな、餓鬼(がき)


 俺とサラが言葉を交わしていると、横やりが入ってきた。


 声が発せられた方を向くと男が3人いて、一人は盾を、一人はロングソードを、最後の一人はナックルと2本のナイフを装備している。


「ここは餓鬼が来るようなところじゃないよ。餓鬼は家で(まんま)でも食べてな」

「あぁ。母さんのおっぱいがお似合いだぜ。さっさと帰りな」

「帰るときは、そこの女を置いて行けよ」


 3人は下卑(げび)た笑みを浮かべながら話しかけてきた。


 俺は3人の頭の悪さに驚きを隠せず、目を丸くしてしまった。


 俺の隣にいるのは古代魔術文字を使える近衛魔法師団団長なのだ。九分九厘の冒険者なんてサラにとって有象無象でしかない。仮にサラ一人でここにいたとしても彼らはサラに敵わないに決まっている。


「目を大きく開いてどうしたんだ? ビビったか?」


 真ん中の男が俺を見てそう言うと、左右の男は笑い出した。


 俺はサラの気分が害されていないか気になり、真向いに座るサラを見た。


 サラは(あき)れた表情を浮かべており、その顔からは疲れが(にじ)み出ている。


 けれど、サラはどうしたらいいのか迷っているようだ。ここで魔法を使って3人を蹴散(けち)らしてしまえば俺とサラは目立ってしまい、今回のお忍びの意味が無くなってしまう。これを気にしているのだろう。


「さっさと帰りな、餓鬼」


 中央の男がそう言ったので、俺はそいつの顔を見てどうしたものかと考えた。


「おい! さっさと帰れ!」


 最終勧告と言わんばかりに怒鳴(どな)った。


 これ以上黙ってはいられないだろう。


 俺はこの場から逃げることはできないだろうと考え、意を決してお断りの言葉を述べることにした。


 しかし、俺が話し始めようとしたところに2mほど離れたところから話しかける人が現れた。


「おい、そこの3人」


 声の主を見ると、カレンだった。


「他の客に迷惑かけんじゃねぇ」

「はぁ? てめぇ、俺らに指図(さしず)する気か?」

「あぁ。迷惑かけるなって言っているんだよ。お前の耳は飾りか?」

「はぁ?」


 カレンが助け舟に来てくれた。


 けれど、カレンは故意に3人を(あお)っているようだ。この場を治める気はあるのだろうか?


「てめぇ。覚悟できているんだろうな?」

「そっちこそ、()られる覚悟はできているんだろうな?」

「このやろーー!」


 3人のうち、ナックルを装備した男が怒り狂い、右の(こぶし)でカレンの顔を殴りかかった。


 カレンは男の拳を見切り、素早く(かわ)すと男の右横に移動し、少ししゃがんで男の右足を払った。すると、宙に浮いていた男は空中で左に傾き、そのまま倒れてしまった。


「てめぇ。よくもダチを遣ったなーー!!」


 残りの2人も怒り狂い、カレンに攻撃した。


 初めに盾を装備した男が先程の男と同じようにカレンの顔を目掛けて殴るが、カレンは素早くしゃがみ、足払いをして男を仰向けに転倒させた。


 仲間2人が遣られたところを見て、さらに怒り狂った最後の1人は剣を抜き、両手で剣を持つとカレンに向かって正面から切りかかった。


 けれど、深酒をした男の剣はヨレヨレで、剣をゆっくり振り下ろしている。カレンは男の剣に殺傷性が無いことを確認すると、剣が振り下ろされる前に間合いを詰め、男の手首を掴んで足を払い、後方に転ばせた。


 3人は床上に大の字になって気を失った。


「ありがとう。カレン」


 俺とサラのところに歩いてくるカレンにサラが話しかけた。


「こんなことどうってことないよ。それより、坊やがいるのに危ない目に合わせたこっちが悪いよ」

「そんなことないですよ。助けてくれてありがとうございます」


 俺はカレンに謝辞を述べた。


「カレンさんはどうしてお腹を殴らなかったのですか?」

「そりゃあ、あいつらが食べたものを吐き出すかもしれねからさ」


 なるほど。酒場で働く人はこういうことも考えているのか。


「あの人たちはどうするのですか?」

「うちは前払いだから、あいつらにここに居てもらう必要はねぇ。だから、裏口に放り出しておくさ」

「そうですか」


 まぁ、そうなってしまうか。


「それでは、私たちはそろそろ行きましょうか」

「そうだね。カレンさん。シチュー美味しかったです」

「そうかい。ありがとよ」


 俺とサラは酒場から出て行った。

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