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妬まれボッチの異世界政務録  作者: シャット・キャット
第3章 第一次共和国戦
33/44

第27話 襲撃の翌日

 翌朝。


 今朝はいつもとは違う朝だ。


 昨夜お母様の部屋で寝たのだが、なかなか寝付けなかった。あの光景が幾度(いくど)となくフラッシュバックし、俺の意識を強制的に覚醒させた。


 隣で寝るお母様は俺を抱き枕にしてぐっすり寝ている為、俺が深い眠りにつけていないことに気づくことはなかった。けれど、お母様が俺を優しく抱き締めてくれるため、その抱擁が吐き気を和らげ、嘔吐することは無かった。


 そして、朝になった。


 なかなか寝付けなかった為、いつもは自然に目を覚ますのだが、今日はお母様に体を揺さぶられて目を覚ました。


「ランス。起きて。朝だよ」

「んん~っ」

「ほら。起きて。朝ですよ」


 ゆっくりと俺の意識が覚醒し、やがて(まぶた)を開けるとそこにはお母様ががいた。


 まだ朝なので、お母様は素顔で、その肌は透明感と弾力を兼ね備えており、とても美しい。


 優しそうな表情をお母様は浮かべるが、その瞳の奥には不安が宿っていることがすぐに分かった。


 これ以上お母様に心配をかけないようにする為に俺は意識をすぐに覚醒させ、ゆっくりと上体を起こした。


「おはようございます。お母様」

「おはよう、ランス。目覚めが悪いようだけれど、なかなか寝付けなかったの?」

「はい。ずっと目が冴えていましたので……」

「それもそのはずね。今日はあまり無理はしないでね」

「はい。お母様」

「それじゃあ、着替えておいで。着替えの後は朝食にしましょう」

「はい」


 俺はお母様の部屋を出て、私室へと戻って行った。



 * * *



 私室に向かうと、そこにはウィリアムとバルマ、サラ、マリアが控えていた。


 バルマは近衛騎士団団長。銀髪に青い目をしていて、柔らかい表情をしている点が印象的な人。身長は180cm程と平均的で、体格もとても大きいというわけではない。彼は力尽(ちからず)くで戦うタイプではなく、素早い攻撃で相手を翻弄(ほんろう)するタイプである。とはいうものの、バルマの防御力もとても高い。これまではお父様の警護に当たっていたが、今は参謀本部にて書類仕事をメインにしてもらっている。


「「「「おはようございます。ランス様」」」」

「おはよう、ウィリアム、バルマ、サラ、マリア」


 4人ともいつものようにきれいな(たたず)まいで一礼をした。


「昨夜の襲撃の件について既に知らせを受けています。ご無事で何よりです」

「私も再び陛下に会うことができてとても嬉しく思います」

「ありがとう、パルマ、サラ。俺も2人にまた会えて嬉しいよ」


 パルマとサラが頭を下げながらそのように言ったので俺も答えたのだが、なかなか頭を上げず、頭を上げたのは10秒程経ってからだった。


 すると、今度は(いま)だに頭を下げた状態でいるウィリアムとマリアが話し始めた。


「昨夜のことは既に聞いております。夜中に陛下が襲われたと聞き、早馬に乗って急いで登城したのですが、その頃には既に陛下は王太合殿下とお休みになられていました。ご無事でなによりです」

「私も登城が遅れてしまい申し訳ございません。陛下とこうして言葉を交わすことが叶い、とても嬉しく思います」

「ありがとう。俺も2人にまた会うことができて嬉しいよ」


 2人の改まった言葉に対してフランク(frank)に答えたのだが、2人の反応はあまり良くなかった。


「昨夜の襲撃について部下から詳細な話を聞きました。話によれば、昨夜陛下のお部屋の警護に当たっていた近衛騎士は侵入者の接近に気づかず、陛下自ら侵入者の対応に当たることになってしまったことに対し深くお詫び申し上げます」


 パルマが深々と頭を下げてそう言った。


 すると、パルマに習ってウィリアムも話し始めた。


「私からも、昨夜の部下の不始末について深くお詫び申し上げます」

「そうだね。けれど、今回の侵入者は視覚妨害の魔術を使っていたから、魔法師が警護に当たっていなかったことが今回の不祥事の間接的要因になっているからね。騎士たちの気配察知の練度を高める必要があることがわかったけれど、騎士たちをそこまで責めないでね」

「はっ。今後は近衛騎士、近衛魔法師双方による警護を徹底したいと思います」

「王族の護衛を更に強化して参ります」


 パルマとウィリアムが悔しそうな表情を浮かべながら意思表示をした。


 2人に(なら)い、今度はサラが謝罪した。


「私からも深くお詫び申し上げます。今後は近衛魔法師による警護を増強したいと思います」

「よろしくね、サラ」


 最後に、マリアが謝罪の言葉を述べた。


「この度は陛下専属のメイドが陛下の護衛に当たらず、陛下の背後で縮こまるという不祥事を起こしたことに深くお詫び申し上げます。本来であればメイドは肉壁となり、陛下の御命を守らなければならない立場にあるにも関わらず、部下は陛下の背後で(おび)えていました。今後同じ不祥事が起こらないよう、メイドの再教育に努めたいと思います」

「それもそうだけど、メイドたちは自分の身を守る手段をあまり持っていないよね? 多分、俺の方が自分の身を守ることができるはずだから、自分の身を投げ出して俺を守ることを強制することは止めてね?」

「私共メイドへの配慮、痛み入ります」


 マリアは悔しそうな表情をしながら深々と頭を下げた。


 マリアはこう言ったけれど、きっと部下に「緊急時は陛下の命を第一に考えなさい!」などと厳しい言葉をかけるのだろう。まぁ、これがメイドの仕事であるから俺からはこれ以上のことは言えない。


「陛下。お召し物と洗面器をお持ちしました」

「マリア、ありがとう」


 こうした堅苦しい話をしていると気疲れする。昨夜の一件もあり、俺はうっかり疲れた顔をしてしまった。


「陛下。心労を(いた)わらず、長らく扉の前に立たせてしまい申し訳ありません」


 マリアはウィリアム達を払い、俺を部屋に通した。


「ごめん、マリア。気を遣わせてしまったね」

「滅相もございません」


 マリアは俺の顔を見ると不安と憐れみの表情を少し浮かべたが、俺を気遣ってのことかすぐに普段の表情に戻った。


 こうして俺は朝の準備に取り掛かった。



 * * *



 着替えを済ませると食卓へ向かい、3人揃うと朝食を食べ始めた。


「お兄様。顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」


 朝食を食べ始めて早々、ソフィアが俺の顔を心配そうに(のぞ)きながら話しかけてきた。


「あぁ。大丈夫だよ」

「昨夜、メイドが突然私の部屋に入ってきて、私の体を揺らして起こしましたので、何がありましたのか尋ねました。すると、お兄様が襲われた旨を聞きましたので、すぐにでもお兄様のもとに向かいたかったのですが、騎士たちに安全が確認されるまで部屋を出ないよう注意されたので部屋で待機していました。けれど、いつの間にか寝落ちしてしまっていて……」


 ソフィアは申し訳ない表情をして(うつむ)いてしまった。


「そうだったんだね。俺のことを心配してくれてありがとう。それだけで十分嬉しいよ」

「けれど、お兄様の元気がありませんので、何があったのか気になって……」

「詳しい話は聞いていないの?」

「はい。お兄様が襲われたとしか聞いておりません」


 そうか。昨夜のこと話した方がいいのかな?


 もしかすると、話を聞いたソフィアに不快な思いをさせてしまうかもしれない。


「ソフィアは聞きたい?」

「はい。お母様とお兄様が知っていて、私だけ知らないのは嫌です」


 それもそうだ。仲間外れにされる、それも家族に仲間外れにされてしまうとつらいだろう。


「お母様。ソフィアに話をしてもよろしいでしょうか?」

「そうね。ソフィアも仲間外れにされたくはないものね。ソフィアに不快な思いをさせてしまうけれど、それでもいいの?」

「はい。お兄様に何があったのか知りたいです」

「わかりました。食事の後、私からソフィアに話をするわね。食事の席で話すようなことではないから」

「はい」


 ソフィアは後で話を聞けるということで安心したのか、ソフィアの顔に浮かぶ不安が(やわ)らいだ。


 けれど、俺の食欲はなかなか戻ってこない。城の料理人が手間暇かけて作ったパン、サラダ、スープ、ベーコンのいつもの美味(おい)しい朝食であるのだが、食欲が全然()かない。しかし、昨日の夕飯のほとんどを吐き出し、消化・吸収できていない為、俺の体には栄養が足りていない。栄養失調で倒れるわけにはいかないので、朝食を無理矢理喉に押し込んだ。


 なんとか出された朝食を喉に押し込み、食べきるとさらに気分が悪くなった。



 * * *



 朝食の後執務室に向かい、政務に当たった。


 お母様はソフィアに昨日の出来事を説明しており、今は俺一人で政務に勤めている。


 けれど、政務には身が入らず、昨夜のことについて考えてしまう。


 一体、誰の差し金なのだろうか?


 ダリアの連中?


 マーク?


 将又(はたまた)、俺の命を狙う連中が他にもいるのだろうか?


 俺に敵対する勢力が複数存在し、それも手段を選ばずに暗殺を実行する過激な輩であることが判明し、気分は益々(ますます)ブルーになる。


 はぁ。


 お父様を亡くし、エルマに命を狙われてから10日。またしても俺の命が危機に(さら)され、さらには他人の無惨な死を目の前で見せられ、俺は過度なストレス(stress)でどうかしてしまいそうだ。


 早くこの感情に折り目を付けないと、政務に差し障りが生じてしまう。


 俺は昨日のあの光景を思い出さないようにする為に、書類仕事に全力で取り組んだ。



 * * *



 書類仕事に取り組んでいると、扉がノックされた。


「陛下。バルマです」

「入っていいよ」

「失礼いたします」


 パルマは部屋に入ると扉を閉め、直立不動となった。


「近衛騎士団よりご報告申し上げます。昨夜の襲撃の調査について中間報告させていただく為に参上しました」

「そうか。ご苦労。立ったまま話すのも何だからそこに座って」

「はっ。失礼いたします」


 俺はバルマを目の前のソファーに座らせると、机から立ち上がり、バルマの向かい側に座った。


「それじゃあ、報告よろしく」

「はっ。()ず、昨夜の侵入者の侵入経路なのですが、これについてはわかりそうにありません」

「窓ガラスが割られていたとか、そういった侵入の形跡は何処(どこ)にもなかったの?」

「はい。しかし、侵入者の中には魔術師もいましたので、魔術で城の者を眠らせ、その(すき)に城内に侵入した可能性もありますので、侵入経路の特定は難しいと思われます」


 確かに。こうなると侵入経路の特定は無理であろう。


「わかった」

「次に、今回、侵入者を送り込んだ者の特定についてですが、これについても難しいと思われます」

「それもそうだな。証拠らしきものは何も残さないで去って行ったからな」

「はい」


 そういえば、侵入者との交戦中に魔術師の名前が呼ばれていたような気がするな。


 誰だったっけ?


 ガッツ?


 いや、バッツ?


 あと少しで思い出せそうなんだけどな・・・。


「ザッツ」

「……? 陛下。如何(いかが)なさいましたか?」

「そうだ! ザッツだ。侵入者の中に魔術師がいたんだけど、そいつの名がザッツ。まぁ、偽名だと思うけど」

「ザッツ、ですと……」


 バルマがあからさまに動揺して見せた。どうしたのだろうか?


「バルマ。ザッツという名に心当たりがあるの?」

「はい。ザッツという魔術師は裏の世界ではとても有名な魔術師です。聞いたところによると、古代人間文字を使えるそうで、その上並みの魔術師より多くの魔力を保有している為魔術の威力もとても強いのだとか。世界各地を転々としており、彼を見つけたら近くの人間はこぞってお金を積んで、『一度でいいから俺たちと一緒に仕事をしてくれ』と頼むそうです」

「古代人間文字か。かなり腕の立つ奴だな。そんな奴を引き入れるなんて、余程俺を殺したかったのであろう。まったく、ここ10日で2度も殺されかけては俺の体がもたないよ」

「それについては私共近衛兵の不徳の致すところです。申し訳ありません」

「そうだね。でも俺も言い過ぎた。これでこの話は止めよう。それで、ザッツがいたということから今回の主犯を見つけることはできそうか?」

「それも難しいでしょう。ザッツという男はとても気まぐれで、その消息を追うことは誰もできないでしょう。少なくとも、近衛兵の実力では消息を追うことは不可能です。ザッツは気配を消すことに()けていますからね。ザッツがいたという情報から主犯を特定することは望めないでしょう」


 今回の襲撃者の主犯を特定できないのは辛い。今どれだけの組織が俺を目の(かたき)にしているのか分からず、不安で仕方がない。


「そうか」

「そこで、陛下にお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あぁ。話を聞こう」

「昨夜の襲撃者を陛下の索敵魔法で探すことはできないでしょうか?聞いたところによると、陛下は数百キロ先にいたエルマとヘルマンを見つけることができたとか……」

「俺もできることならそうしたいのだが、今回は無理だ」

「そうでしたか……」


 バルマは残念そうな表情を浮かべた。


「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「そうだね……」


 バルマは魔法についてどれ程の知識を持っているだろうか?一から話すわけにはいかないしな・・・。


「魔法師は自身の体内にある魔力を使って魔法を使っていることは知っているか?」

「はい」

「そして、すべての動物、植物、そして剣や盾といった物にも魔力はこもっている。索敵魔法は対象の内部にある魔力を感知ことで対象の”形”を捉える魔法なんだ。ここまで理解できた?」

「はい」


 バルマの理解が早くて助かる。これなら、索敵魔法の仕組みの概要を説明できそうだ。


「さらに、すべての事物は魔力を外界から吸収したり、逆に放出したりしている。そして、対象から放出される魔力にはそれぞれの事物によって特徴がある。その特徴を(つか)むことによってそれが誰であるのかを特定するんだ」

「なるほど」

「けれど、昨日の襲撃の際、俺は侵入者の魔力の特徴を掴む暇がなかったんだ」

「そうでしたか……索敵魔法も万能ではないのですね」


 バルマには表面的な説明しかしていない。まぁ、魔法の講師から習うことはこれがすべてであるのだが、ここで索敵魔法の仕組みについて俺の仮説を述べることにする。


 すべての動物、植物、物は常に魔力を外界から吸収したり、逆に外界へ放出している。そして、魔力とは光と同じように粒子性と波動性を持っており、放出される魔力波の振動数は離散的(飛び飛びの値をとること)で、それぞれの動植物が固有の振動数を持っている。索敵魔法では対象内部で(うごめ)いている魔力波の運動を調べることで対象の”形”を捕捉し、対象に自身の魔力を放射することで対象から放出される魔力波の振動数を調べることで対象が何(誰)であるかを突き止めている。光電効果やフレンク・ヘルツの実験を知っている人はこの仮説を理解できるであろう。


 この仮説によると、索敵魔法で対象が何(誰)であるかを調べるには魔力波の振動数を調べなければならないのだが、現代科学でこれを行うとフーリエ解析をしなければならず、基本的に手計算で瞬時にできるようなものではなく、コンピュータを使って計算をすることが(ほとん)どだ。そう考えると、魔法というものは本当に便利なものであることを痛感する。


 しかし、これはあくまで仮説でしかない。魔力に波動性があるかを確かめる実験をしていない為である。それに、実際の索敵魔法では、「この魔力はあの人のものとは違うな〜~」という直感的な方法で索敵している為、魔力を波として感知していないのである。


「報告ご苦労。主犯の特定が厳しいようなら、適当なところで調査を打ち切ってね」

「はっ」


 バルマは姿勢を正して返事をした。


「ときに、バルマは最近書類仕事ばかりやっているようだな。体を動かさないでずっと椅子に座っているのは辛くないか?」

「いいえ。これも仕事ですから」


 まぁ、これ以上ない言い訳だな。


「そんなこと言わないで、久しぶりに俺に剣を教えて欲しいな」

「私でよければいつでもお相手致します」

「そう? 今すぐ俺に付き合うこともできる?」

「はい。襲撃の調査は部下に任せても問題ありません。それでは、訓練場に参りましょう」

「おぉ。久しぶりにバルマと剣を交えることができて嬉しいよ」


 俺はバルマにそう言うと訓練場に足を運んだ。



 * * *



 同日の夜。


 ナナリーはいつものように就寝前の読書をしていた。


 すると、扉がノックされた。


「王太合殿下。バルマです」

「入っていいわよ」

「失礼いたします」


 バルマは部屋に入り、扉を閉めると一礼した。


「バルマ。こんな夜更(よふ)けにどうしたの?」

「夜更けに失礼いたします。陛下のことについてお話がありましたので、参上いたしました」

「そうなのね。そこに座って」

「失礼いたします」


 ナナリーはソファーにバルマを座らせると、その反対側のソファーに腰かけた。


「それで、ランスがどうしたのかしら?」

「はい。今朝、陛下に剣の稽古に付き合うようお願いされましたので訓練場にて陛下と剣を交えました。いつもと同じように誘われたので私も陛下を鍛え上げるつもりで剣を振ったのですが、陛下の剣に手応(てごた)えがありませんでした。これは可能性にすぎませんが、陛下は昨夜の一件をトラウマにしてしまい、人を傷つけるほど強い攻撃をすることができなくなったかもしれません」

「ランスの剣筋が弱弱しいものになってしまったのですか。私も午後からランスと一緒に政務に励んでいたのですが、元気がなかったわね。私が声をかけると元気そうに振舞うけど、やはりランスなりに思うところがあるのでしょう。これから私がランスをフォローしていくわね。報告してくれてありがとう」

「はっ」


 バルマは姿勢を正して返事をした。


 その後、ナナリーとバルマは世間話をして時間を過ごしたのだった。



 * * *



 ナナリーとバルマが話をしていたその頃。


 王都内の路地裏でフードで顔を覆った複数の人影が現れた。


 1人の大男が仁王立ちで構え、その斜め右後方に1人が控え、大男の目の前には数人の男達が片膝を地につけて(ひざまず)いている。


 大男は目の前に跪く男達を見下ろすと、一番前で跪くリーダーらしき男の頭を右足で踏みつけ、男の顔を土に(こす)り付けた。


「昨夜の一件はどういうことだ?!」

「申し訳ありません。我々の侵入に気づいていたようです」

「大金を(はた)いてあいつを雇ったというのに、無駄金になったではないか!」

「申し訳ありません」


 大男は足で踏みつけていた男から右脚を離すと、勢いよく男の頭を蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた男は後ろで跪いていた仲間達を巻き込みながら後方に2メートル飛んでいった。


 男は左(あご)を蹴られ、左下顎の犬歯と小臼歯が抜けてしまうが、その痛みに耐えながら元いた場所に戻り、跪いた。


「この落とし前を如何(どう)つけるんだ?!」

「次こそは、必ずや遂行して見せます」

「考えはあるのか?」

「それは……現在作戦を練っている段階でして……」


 すると、大男はさらに苛立(いらだ)ち、今度は男の左脇腹を蹴った。


 男は仲間を巻き込むことなく右に飛んでいき、積まれていた木箱の山の下段に頭から衝突し、空の木箱を突き破った。すると、上段にある、フルーツの入った木箱がバランスを崩して落下し、男は落下してくる重い木箱を体で受け止めた。


「ガハッ」


 木箱は男にぶつかると粉々に砕け、男の周囲に無数のフルーツが無秩序に散らばった。


「ちっ。あいつを雇っても危うく刺客の1人があの小僧に捕らえられ、俺が犯人だと突き止められるところだったのだ。これ以上城に刺客を送り込んでも無駄であろう」


 大男は憎しみに満ちた瞳で、フルーツに囲まれて力なく横たわる男を(にら)んだ。


「仕方ない。他の手段を考えるしかない。また依頼することもあるだろう。その時は失敗するなよ?」


 大男は眉を(ひそ)め、目の前で跪く男たちを睨んだ。

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