第9話 6歳
6歳になった。
充実した日々を送っている。
5歳のパーティーの帰りの馬車でお婆様の出自に驚いてしまったが、まぁ、出自は関係ない。
今を生きることが大切なのだ!
教育アニメによくある台詞を言ってみたけど、深い意味はない。
それはそうと、パーティーの後、俺はジーク、ハイド、フレア、サリーと仲良くなることができた。
カナート公爵とアウルム公爵が王都に用事があるときには、4人に王都に来てもらい、一緒に時間を過ごした。
その時に、4人とも俺が第二王子ということで敬語を使おうとするが、公衆の場でないときは”ランス”と下の名前で呼ぶようお願い、堅苦しい敬語を使わないようお願いした。
そして、今日は4人に城まで来てもらっている。
「「「「おはようございます、殿下」」」」
「おはよう。今日も来てくれてありがとう」
そう言って、4人をサロンへ通した。
「ジークたちは最近何している?」
「俺は公爵になるための勉強で忙しいよ。それ以外の時間はお父様に剣術を教わっているよ」
最初に俺の質問に答えたのはジーク。
「そっか。勉強はどんな感じ?」
「最近習っていることは難しくて、進度が遅くなってきているかな。特に、経済なんて全然理解できない。労働市場の需給曲線が歪な形をしている意味が全然分からない」
「おい、それくらい簡単なことだろ。ジークはそんなことも理解できないのか?」
ジークの発言に突っかかったのはハイド。
「うるさい! そういうハイドはどうなんだ? 理解できたのか?」
「あぁ、理解できたとも」
「ふん! ハイドは地頭がいいだけだ。フレアとサリーはどうなんだ? 勉強は順調なのか?」
「私は問題ないですよ。礼儀作法の先生には『もう教えることはない』と言われましたし、とても順調ですよ」
「私も問題ないよ。地理や歴史、政治、経済は楽しいからどんどん勉強にのめり込んじゃって、お父様とお母様からは『勉強しすぎじゃない?』って心配されちゃったけど」
フレアは去年の社交会で素晴らしいダンスを披露したが、今となっては礼儀作法はもう習うことはないらしい。俺は習い始めて3年目になる今年も礼儀作法の授業が続いているのに、2年足らずで授業を終えてしまうとは。フレアが怖ろしすぎて、畏怖してしまう。
サリーは文官になる素質がありそうだ。
この世界は男系の貴族制なので、サリーは貴族にはなれずに嫁ぐことになるだろうが、嫁ぎ先では政務に勤しむのだろう。
「フレアとサリーも裏切るのか! ランス様なら俺の気持ちを理解してくださいますよね?」
目をうるうるさせながら俺を見つめてきた。俺はジークの左肩を掴み、憐みの顔を浮かべながら応えた。
「残念ながら、ジークの気持ちは理解できない」
すると、ハイドが間抜けそうに口を開け、呆然とした。
「ジーク、ランス様にその質問をすることがそもそもの間違いだ。1歳の時に文字を学び始め、3歳から各科目の講師がつけられて勉学と体術に勤しんできたのだ。これまでに勉学にかけた時間は、たとえ3つ年上のジークであろうとランス様には敵わないだろう」
そう言ってハイドがジークを慰め、ハイドが正気を取り戻した。
「そっか。ランス様と比べることがそもそもの間違いなのか。人外の存在であるランス様と同じ土俵で張り合うなど、烏滸がましいことなのだ」
「いいや、ジーク、かなりひどいことを言ったよ? 俺は人ができる範囲で努力してきたというのに、俺を人外呼ばわりするのは不敬じゃない?」
「いいや、だって本当のことじゃないですか? 文字を学ぼうとする1歳児がこの世界のどこにいるんですか?」
「ここにいるよ」
「ここにしかいないんですよ!」
ジークがつっこみ、4人揃って笑った。
「ハイドは何しているの?」
「俺は教養とか政治、経済の勉強をしているけど、魔法の勉強もしているよ」
「おぉ! ハイドには魔法の適性があったの?」
「あったよ。火、水、風の3つの適性があったよ」
「それで、今はどの言語を勉強しているの?」
「まだ現代人間語の勉強をしているところ」
ハイドにも適性があったのか。
「ジークたちは適性あったの?」
「俺はなかったな」
「私には火と風と光の適性がありましたよ」
「私は土と氷と治癒の適性がありました」
フレアとサリーは3属性もちか。それも、特殊属性も持っているのか。
フレアの光魔法は便利だろうな。ダンジョン探索で明りを照らす魔道具が使えなくなったときとか、暗闇での需要は計り知れないだろう。
それより、サリーは治癒魔法が使えるのか。治癒魔法の使い手は魔法師数十人いて一人いるかいないかというぐあいなので、サリーの才能には驚いた。
「それより、ランス様は何の属性があるのですか?」
「基本5属性の適性があるのはわかっているけど、特殊属性はどれが使えるのかはまだわからないんだ。今のところ、無属性魔法・契約魔法・自然魔法・電気魔法が使えるのはわかっているけど、他はわからないな」
「……ランス様、本当に人間? エルフだったりしない?」
「俺は人間だ!」
ジークがそう聞いたのには、エルフが魔法を得意とする種族だからだ。
それはそうと、俺は古代人間語も使えるようになった。古代魔術言語もあと数ヶ月でマスターできるだろう。
あと、古代人間語を使うと強力な魔法の行使ができるようになった。
例えば、高さ5mほどの火柱を出したり、高さ5mほどの旋風を起こしたり、自分の周囲半径5mほどを凍らせたりと、面白いことが沢山できる。
これと同じことを古代魔術言語で行うと威力がおおよそ2倍になる。
まったく、恐ろしい言語だ。
すると、サリーが聞いてきた。
「ランス様はどの言語を使えるの?」
「現代人間語、現代魔術言語、古代人間語は使えるよ。あと数ヶ月したら古代魔術言語も使えると思う」
「もしかして、魔術も同じだったりするのかしら?」
「フレア、正解! あと数ヶ月したら古代魔術言語で魔術を行使できるようになるよ」
すると、フレアが苦笑いした。
「ランス様、やっぱりエルフだったりしない?」
「俺は人間だ!」
ジークが問いかけ、皆がドッと笑い出した。
そんなこんなで楽しい日々を送っている。
しばらく5人で話をしていると、ハイドが立ち上がった。
「ランス様、俺はそろそろお暇します」
「何かあるの?」
「この後、お父様が取引を行いますのでその立ち合いに向かわないといけないのです」
「そうか」
「あっ。ランス様、俺も帰ります」
「ジークも何かあるのか?」
「いっ、いぃやぁぁー。ランス様と話をしていたら、今すぐにでも勉強したくなってきたので……」
ハイドが下手くそな嘘をついたので、笑ってしまった。
「ランス様、何で笑っているのですか?」
「だって、ハイドの嘘が下手すぎるんだもん」
「ジーク、いくら何でもその嘘は下手だ」
「ハイドまで笑うな。おい! フレアもサリーも何で笑うんだ!」
そうして、ジークとハイドは去って行った。
「ランス様。お兄様たちは行ってしまいましたし、何かしませんか?」
ジークとハイドを見送ると、フレアが話しかけてきた。
「そうね。せっかく気を使ってくれたのだから、魔法の勉強でもするか?」
俺の応答にサリーが答えた。
「いいですね。このような機会は滅多にないので、嬉しいです!」
というわけで、3人で魔法の勉強をすることになった。
「フレアとサリーは現代人間語の勉強中だっけ?」
「「そうですよ(そうですわよ)」」
「そっか。じゃあ、始めようか」
そういうわけで、俺は2人に魔法を教え始めた。
現代人間語の魔法はとても簡単だ。
なんていったって、自分たちが普段使っている言葉を使うのだから、あとは魔法の行使に沿った型を覚えるだけだ。
あと、俺は魔力操作の練習を一日中行っていた。
去年あたりから一日中魔力を操作していても汗をかいたり疲れるようになることは無くなったため、今は操作する魔力の量を増やしたり、速く動かしたり、細かく動かす練習をしている。
それと、魔法について教わった時、「魔法は詠唱が絶対に必要」と習ったが、これは嘘だったことが判明した。
俺は数か月前、「魔法は詠唱が絶対に必要」だという言葉が本当なのか疑い、実験をした。
先生曰く、「熟練度が上がれば詠唱は短縮できる」とのことだったので、もっと練習すれば詠唱を破棄することではないのかと思ったのだ。
そこで、現代人間語で直径10cm程度の水球を掌に作る魔法のときに流れる魔力を魔力操作で再現できないか試したのだ。
その結果、掌にできたのは魔力の球体だった。
いうなれば、無属性の魔力球ができたのだ。
すなはち、無詠唱でも魔法を行使できるのではないかと希望を抱いたのだが、そこからが大変だった。
無属性の魔力を他の属性の魔力に変換するにはどうしたらいいのか。
今も実験の段階で、成功はしていない。
まぁ、そういうわけで、無属性魔法なら無詠唱で行使できるようになった。
というわけで、身の安全のために一日中、起きているときも寝ているときも索敵魔法を展開させることにした。俺を狙う輩がいるかどうかはわからないが、展開させておくに越したことはないだろう。
あと、魔力操作の練習をしたら保有魔力量が増えるということや、無詠唱でも魔法を使えることはまだ誰にも話していない。この情報が各国の勢力関係に変化をもたらしら、戦乱の時代の突入……、なんてことになったら最悪だからな。
1,2時間ほど勉強し、勉強を終えた。
「「ランス様、今日はありがとうございます」」
「いや、フレアとサリーと勉強していて、俺も楽しかったよ」
ふと、疑問に思った。
なぜ、フレアとサリーは俺と時間を過ごすことが多いのだろうか?
公爵令嬢が婚約するなら普通、王位継承権第一位のヘルマン兄様のはずなのに、どうして2人は俺といる時間が長いのだろうか?
2人とも長女なのだ。彼女たちは第一王子のヘルマン兄様のところに嫁ぐべきで、俺と結婚するのはおそらく次女といったところが本来あるべき形だろう。
それなのに、2人は俺と時間を過ごす。
それどころか、お父様は俺が2人と長い時間を過ごしていても何も言わないのだ。
考えても考えても、答えが出ない。
憶測を立てようとするが、全く思いつかない。
お父様が何を考えているのか、黙り込んで想像していた。すると、フレアが話しかけてきた。
「ランス様、大丈夫ですか?」
「あぁ。大丈夫だ」
「私たちでよければ、話を聞きますよ」
「ありがとう。でも、大丈夫だ」
まぁ、こればっかりは考えても仕方がないだろう。
その後、2人は帰って行った。
* * *
その日の夕食の席でのこと。
最近、朝食と夕食は皆で摂るようにしている。
長テーブルの短辺にお父様が座り、長辺の1辺にお婆様とヘルマン兄様が、その対辺にお母様と俺とソフィアが座っている。
ソフィアは3歳になり、すくすく成長している。
3歳になったということで王族教育が始まり、ソフィアはすべての授業に真面目に取り組んでいるらしい。
なんて素晴らしいことだろう。お父様とお母様の子が2人ともこんなにも優秀だとは。
それに対して、ヘルマン兄様は相変わらずのことだ。
未だに文字しか覚えていないというのは本当のことらしい。
先日、俺は休日だったので城内を散歩していたら、扉が勢いよく開き、部屋の中からヘルマン兄様が飛び出してきたのだ。その後ろからは講師らしき人が飛び出し、「殿下! お戻りください。13歳になって文字を読むことしかできないようでは国政に支障が出ます」て言っていた。
まぁ、ヘルマン兄様についての情報はこのくらいでいいだろう。
そして今、6人で夕食を摂っている。
誰一人として喋らずにだ。
別に、この場には家族しかいないため、多少のマナー違反は許されるのだが、誰一人として喋らないのだ。
その為、殺伐とした雰囲気が流れる中で食べ進める。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
お婆様とヘルマン兄様はそう言うと先に部屋に戻って行った。
これもいつものことだ。
2人が先に食べ終え、部屋から出ていき、あとは家族4人で水入らずの談笑の時間になる。
「今日、カナート公爵とアウルム公爵が午前中城で儂と一緒に仕事をしていて、休憩中に『2人の子供たちは魔法が使えるのか?』と聞いたのだが、フレアとハイドとサリーが使えると聞いたぞ」
「まぁ! ジークは残念ですが、3人に魔法の適性があるなんて、素晴らしいわね」
「そのジークのことだが、ジークは剣術や体術に秀でた才があるらしいぞ」
「俺もそう聞きました。カナート公爵が直々に指南しているそうですよ」
「ランスの同い年には逸材が沢山いるのですね」
なんてことを話しながら楽しい夕食の時間は過ぎていった。




