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人狼夫婦のゆかいな雑貨店  作者: 蒼狗なるみ
3/3

エピソード2

2人のお店は不思議な魔法道具から日用雑貨まで、幅広く扱っている事が話題となり、たちまち街の人気店となりました。

 日々多種多様な種族の人が遊びにくるようになり、経営が軌道に乗ったと思われた時でした。


「大丈夫ですか!?」


 慌てた女性の声に、なるみが慌ててカウンターから駆け寄ります。


「どうされまし……ッ!?」


 なるみの目に映ったのは、苦しそうに胸を押さえ、蹲ったあすはの姿でした。

 荒い呼吸と汗の滲んだ真っ青な顔。

 なるみはそばにあった商品の包装袋を乱暴に取り出し、あすはの口へと当てました。


「どなたか救急車呼んでもらえますか!?」

「は、はいっ!」


 客の返事を聞きながらあすはの背中をゆっくりと摩ります。


「申し訳ございません。本日はこれで臨時休業とさせて頂きますね」

「ご、め……ご……」

「喋らなくていい。今はゆっくり呼吸することだけ考えて。気持ち悪くなったら袋にそのまま吐いていいから」

「う、ん……」


 しばらくして救急車が到着し、2人は病院へと搬送されました。


******


「軽い過呼吸ですので、しばらく安静にして頂いて、落ち着いたら帰って大丈夫ですよ」

「ありがとうございました」


 なるみは医師に頭を下げると、ベッドに寝かされているあすはを見ました。

 ″過換気症候群”。精神的な不安や極度の緊張などによって過呼吸となり、四肢の痺れ、動悸、目眩等の症状が起こる事、と診断されたのです。

 大事は無く、体の痺れが取れれば帰宅していいのは救いでした。


「ごめんね……」

「謝らないでいいよ。大丈夫だから、ゆっくり呼吸することだけ考えてね」

「呼吸はもう、大丈夫なんだ……足が攣って動けないだけだよ」

「うん。落ち着くまで本読んでるから眠くなったら寝ててもいいよ」


 なるみはそばの椅子に座り、鞄から本を取り出しました。


「病気の事、黙ってて、ごめん」


 なるみは静かに頷きます。


「迷惑、かけちゃったね……」

「それは違う」


 いつもと違う真面目なトーンの声を出すなるみに、あすははゆっくりとなるみを見ました。


「何となく、分かってた。同じ匂いがするな、て。それを分かってて店に誘ったのは私だし、あすはくんは何も悪く無いよ。無理をさせた私の責任だ」


 なるみは読もうとして開いた本を綴じて、ゆっくりとあすはに向き直ります。

 その顔は、どこか泣きそうで、でも強い眼差しでした。


「……私もね、同じなの」


 そう言って取り出したのは、精神障害者手帳でした。精神障害二級と書かれた手帳。写真付きなので、それは紛れもなくなるみの物です。


「うん、ボクも、そんな気はしてた……」

「一緒だね」


 あすはの頭を撫でながらなるみは嬉しそうに笑います。


「なでなで嬉しいな。ありがとう、なるみ」

「私がしたくてしてるから気にしないで……あすは……」


 処置室の窓から見える紅葉がゆらゆらと落ちていく中、2人は笑い合っていました。

 あすはが動けるようになるまで、2人だけの時間を過ごしたのです。


「帰ろう、私たちのお店に」

「うん」


 肩を並べてゆっくりとお店へ帰って行きました。

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