エピソード2
2人のお店は不思議な魔法道具から日用雑貨まで、幅広く扱っている事が話題となり、たちまち街の人気店となりました。
日々多種多様な種族の人が遊びにくるようになり、経営が軌道に乗ったと思われた時でした。
「大丈夫ですか!?」
慌てた女性の声に、なるみが慌ててカウンターから駆け寄ります。
「どうされまし……ッ!?」
なるみの目に映ったのは、苦しそうに胸を押さえ、蹲ったあすはの姿でした。
荒い呼吸と汗の滲んだ真っ青な顔。
なるみはそばにあった商品の包装袋を乱暴に取り出し、あすはの口へと当てました。
「どなたか救急車呼んでもらえますか!?」
「は、はいっ!」
客の返事を聞きながらあすはの背中をゆっくりと摩ります。
「申し訳ございません。本日はこれで臨時休業とさせて頂きますね」
「ご、め……ご……」
「喋らなくていい。今はゆっくり呼吸することだけ考えて。気持ち悪くなったら袋にそのまま吐いていいから」
「う、ん……」
しばらくして救急車が到着し、2人は病院へと搬送されました。
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「軽い過呼吸ですので、しばらく安静にして頂いて、落ち着いたら帰って大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
なるみは医師に頭を下げると、ベッドに寝かされているあすはを見ました。
″過換気症候群”。精神的な不安や極度の緊張などによって過呼吸となり、四肢の痺れ、動悸、目眩等の症状が起こる事、と診断されたのです。
大事は無く、体の痺れが取れれば帰宅していいのは救いでした。
「ごめんね……」
「謝らないでいいよ。大丈夫だから、ゆっくり呼吸することだけ考えてね」
「呼吸はもう、大丈夫なんだ……足が攣って動けないだけだよ」
「うん。落ち着くまで本読んでるから眠くなったら寝ててもいいよ」
なるみはそばの椅子に座り、鞄から本を取り出しました。
「病気の事、黙ってて、ごめん」
なるみは静かに頷きます。
「迷惑、かけちゃったね……」
「それは違う」
いつもと違う真面目なトーンの声を出すなるみに、あすははゆっくりとなるみを見ました。
「何となく、分かってた。同じ匂いがするな、て。それを分かってて店に誘ったのは私だし、あすはくんは何も悪く無いよ。無理をさせた私の責任だ」
なるみは読もうとして開いた本を綴じて、ゆっくりとあすはに向き直ります。
その顔は、どこか泣きそうで、でも強い眼差しでした。
「……私もね、同じなの」
そう言って取り出したのは、精神障害者手帳でした。精神障害二級と書かれた手帳。写真付きなので、それは紛れもなくなるみの物です。
「うん、ボクも、そんな気はしてた……」
「一緒だね」
あすはの頭を撫でながらなるみは嬉しそうに笑います。
「なでなで嬉しいな。ありがとう、なるみ」
「私がしたくてしてるから気にしないで……あすは……」
処置室の窓から見える紅葉がゆらゆらと落ちていく中、2人は笑い合っていました。
あすはが動けるようになるまで、2人だけの時間を過ごしたのです。
「帰ろう、私たちのお店に」
「うん」
肩を並べてゆっくりとお店へ帰って行きました。