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人狼夫婦のゆかいな雑貨店  作者: 蒼狗なるみ
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エピソード1

――一年前三月――

 日差しが差し込む森の中。川のせせらぎ。光を放つ苔。ポピー、キンセンカ、キンギョソウ、ストックなどの花が色とりどりに咲き誇る花畑。川で水を飲む動物達。

 そんな光景を横目に眺めながらなるみは川沿いを歩いていた。夢だった雑貨店を開店させる為の最終準備として、天然石を仕入れに森の奥へ向かっている所だ。時々足を止めて周囲を見回す。川沿いの道には、天然石が落ちていることが多く、今日の目当ては石英の中にある水晶だ。他にもガーネットやルビー等も稀に見つかるので、注意深く見回す。

 夢中になっていた時、頬に水滴が当たった事に気付く。川の水飛沫かと思っていたが、気付けば空が雨雲で暗くなっていた。慌てて走り出す。

 どんどん雨足が強くなり、しばらく走ると、洞窟が見えてきた。狭い入口を通り、奥へ奥へと進む。暗いが意外と広い道で、誰かが頻繁に通っているのか洞窟とは思えない程歩きやすい。

しばらく進むと、青く光り輝く水晶がたくさんある鉱床に辿り着いた。水が流れており、クリスタルの光が反射して洞窟内とは思えない程明るい。こんな所があるとは知らなかった。知っていたら、つるはしを持って最初からここに水晶を取りに来た方が早かったと思いながら辺りを探索する。水晶だけでは無く、サファイアやアクアマリン等の宝石もあった。天然石が好きななるみにとって、宝の山だ。

 胸が高鳴る。今日は満月で、人狼であるなるみにとって、理性が抑えられない日だ。目の前に広がる宝の山に興奮が抑えられず、尻尾がブンブン揺れる。日が落ちる前に帰らないといけないと思っていたのだが、足が勝手に奥へ奥へと向かう。


「……は……」


 微かに聞こえてきた声に耳が動く。とても優しく心が穏やかになる声。その声に惹かれて進むと、開けた場所で、あすはが岩の上に座っていた。蝙蝠や子供のドラゴン、白いタンクトップと青いズボン姿の白い狼と楽しそうに話をしている姿に心が惹かれる。体が熱を持つのが分かる。――これは、満月のせいだろうか。


「こんばんは」


 そんな様子を露知らず、あすはが、なるみに気付き声をかけ、近付いていく。なるみは目の前にやってきたあすはの顔を見上げると、どこか疲れていて悲しげな目をしている事に気付いた。それに気付いているのは自分だけだと悟りわざと明るく接する。


「こんばんは! 雨に降られて、ここを見つけたから入ってきたんだけど、邪魔だった?」

「邪魔なんかじゃないよ。今日は満月だからね、日が出たら街へ送るよ」

「うん、ありがとう」


 あすはの作り笑いに気付くが、気付いていないふりをして近くにあった岩の上に座る。あすはも元居た岩の上に座り、会話を再開した。仄かに感じる同じ匂い。自分と同じ病気を持っている気がして、あすはから目が離せなかった。その視線に気づき、あすははなるみに微笑む。


「ボクは、蒼狗あすは。蒼い狼だよ」

「私、白狼なるみ……て〝蒼狗〟⁉ あの有名な⁉」


 蒼狗家は、幻想の森に古くからある有名な武家の一族。元々は幻想の街に居を構えていたが、数百年前に起こった戦争で、幻想の街は国と対立し敗北。蒼狗家は街を守りきったが、国から賊軍として扱われ街を追い出されてしまう。幻想の街の住人は、街を守ってくれた英雄として語り継いでいる為、なるみもその名前を知っていた。


「やっぱり、知っているんだね……」


 知っていることに対して、浮かない顔をするあすは。一族の末裔であり、長男である彼はとても厳しく育てられ、その栄光に縋ろうと下心を持って近付いてくる者達で囲まれている。あすは

には、心から友人と呼べる人がおらず、孤独感に苛まれていた。


――ボクだけを、愛してくれる人はいないのかな……


 そんな思いをずっと抱えているのでは無いかとなるみは感じている。自分も、同じ気持ちを抱いているから、何となく分かるのだ。


「そりゃあね。有名な一族だもの」

「……うん……」

「でも」


 なるみは背伸びをして、あすはの頭をゆっくりと撫でる。


「あすはさんは、あすはさんだよ。家とか関係ない」


 それは、自分自身も欲しい言葉だった。かけられたい言葉を、欲しがっている人へ。


「ねぇ、あすはさんの事、いっぱい教えて?」

「……何を、話せばいいか、分からないや……」


 あすはが照れたように頬を掻く。


「趣味は?」

「ハンドメイドだね。UVレジンとか、ハーバリウムとか、かぎ針……」

「見たい!!」


 なるみは、あすはの手をぎゅっと握り、尻尾を嬉しそうに動かす。目を輝かせあすはの目を真っ直ぐ見る。


「え、うん。今度見せるよ」


 あすはが顔を少しだけ赤らめながら言う。


「そうだ! よかったら、後で私のお店に寄って行かない? 魔法道具とかハンドメイド品とか何でも売っている雑貨店だよ。ぜひ、見て行って!」

「分かった。じゃあ、ボクの家に寄って手芸品取ってから街に送るよ」

「うん! 楽しみにしてるね!」


 満月の夜、二人は朝までお互いの事やお店の事を話しながら、ゆったりとした時間を過ごした。そして、夜が明けると二人で街へと向かっていった。

 こうして、二人は出会い、運命の輪が回り始める。


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