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人狼夫婦のゆかいな雑貨店  作者: 蒼狗なるみ
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プロローグ

 日差しが降り注ぎ、光を反射して輝く透き通る川。その上に架かる木製の橋。緑や青の木々。色とりどりの花。光を纏って飛ぶ妖精達。幻想の森と呼ばれるこの森にはたくさんの動物で賑わっている。

 そんな光景を見ながら、桜が舞う森の小道を歩く銀髪の少女。青いケープを羽織った肩に囀る小鳥を乗せ、同じ生地のジャンパースカートがふわふわと舞う。鼻歌に合わせて動く銀色の狼耳とふさふさの尻尾。

 少女は、ふと足を止めて空を見上げる。風に乗って花弁が舞う青空。その青空が思い人と重なって見え、顔が綻ぶ。

 再び歩き出し、細い坂道を散策していくと、森を抜け、住宅街が姿を見せた。少女のような獣人達、人間、動物、妖怪、妖精、精霊、エルフ、竜、キメラといった多種多様な人達で賑わう街【幻想の街Wheel of Fortune】。その中央に、十番街という場所がある。石畳の広場を囲うレストランや花屋、ケーキショップ、カフェ、チャペル、ヤギ小屋、博物館、美術館、図書館、コンサートホールが並ぶ一角に、少女が経営する店があった。

 すれ違う人に挨拶をしながら少女は店の中へと入る。

 【幻想雑貨店】と書かれた看板が扉の開閉によって揺れ、入店を知らせる鈴の音が響く。本やお菓子、インテリア雑貨、手芸用品、魔法道具等を扱うカフェが併設され、黄色や黄緑で明るい内装の店、二階は少女と店員の寝室等がある店舗兼住居である。


「いらっしゃいませ! ……UVレジン液は色々種類があるけど……そうだね、これが良いかな」


 優しげで明るい男性の声が店の奥から聞こえてくると、少女の耳が嬉しそう動いた。森で仕入れてきた新鮮な果物類を抱えたまま、声に誘われ、商品棚の陰からゆっくりと店の奥を覗く。

 最初に目に入ったのは、青い大きな尻尾。緑のM五一パーカーを着た長身で細身の青年が、身振り手振りで接客をしている。会話の内容を察するに、ねずみの耳が可愛らしい金髪ミディアムヘアの女子高生がUVレジンに挑戦する為、材料を買いに来たようだ。

 彼女は常連客で、男性が主催したお茶会に参加した事もある。その時はツインテールだったのだが、今日は学校帰りだからか髪を下ろしている。


「UVライトは、最初は小型の物でも問題ないと思うよ」


 青い髪と狼の耳が揺れる姿と先程見た青空が重なる。接客に夢中で、帰宅した少女の事は客と思っているのか気付いた様子は無い。

 少女は併設されたカフェへと向かい、仕入れた果物をカウンターの上に置くと、冷蔵庫からブレンドしておいたハイビスカス入りのハーブティーを取り出し、二つの透明なティーカップへと注ぐ。カウンターの下から蓋付きの紙コップを取り出し、それにもハーブティーを注ぐ。冷凍庫からミックスベリーを取り出し、スプーン一杯分をそれぞれのカップに入れ、材料を元の場所へ戻し、使い捨てのスプーンを添え、トレイに乗せて雑貨コーナーへと戻る。


「ありがとう。ぜひまた来てね」


 青年の声に少女は慌てて入口の扉へと向かう。


「むぎちゃんいらっしゃい! また来てくれてありがとうね。この紙コップのやつ、帰りに飲んでいってー!」


 少女は客の女子高生にトレイを慌てて差し出す。


「ありがとー!」


 お礼を言いながら紙コップを受け取り、トビネズミの棲子むぎは、店を後にした。

 少女がゆっくりと振り返ると、驚いた様子で固まったままの青年に気付く。


「待って!? いつの間に居たの!?」


 青年は尻尾を立てたまま少女に聞いた。


「んー? いまいまだよー?」


 少女は首を傾げながら、雑貨店のカウンターへと入っていき、レジの横にトレイを置いた。青年も後に続いてカウンターへと入ると、尻尾を嬉しそうに振りながら少女を強く抱きしめた。


「おかえり、なる。気付かなくてごめんね」

「別にいいよ。気にしないで……ただいま」


 少女は青年を抱きしめながら、頭を優しく撫でる。


「接客お疲れ様。ちょっと休憩しよう?」


 トレイに乗せてあったティーカップを一つ手に取り、青年に差し出す。青年は差し出されたティーカップを見つめ、名残惜しそうに少女から体を離すとカップを受け取り、カウンターの下に仕舞われていた椅子を取り出して座る。


「なるは何もしてないじゃない」

「えー!? 森で果実取ってきたからきちんと働いているもーん」


 少女、蒼狗なるみは、顔を膨らませて反論し、自家製のハーブティーを一口飲む。


「あのね、それは仕事じゃなくてただの趣味でしょ?」


 青年、蒼狗あすはは、呆れつつも愛おしそうになるみを見つめながらハーブティーを飲む。接客でずっと話していたので、喉が渇いていたのもあるが、なるみの淹れたハーブティーが好きで一気に飲み干す。


「堅いこと言わずに休憩しよう?」


 なるみは、あすはに微笑み、自分の分のハーブティーを飲み干す。空になったティーカップをトレイに戻し、あすはからカップを受け取りトレイに並べる。

 幻想雑貨店は店主のなるみと店員のあすはが切り盛りするお店であり、二人の家。二人は、冬に結婚したばかりの夫婦で、人狼という種族。

 これは、そんな二人が織り成す物語。幻想雑貨店で二人が笑ったり喜んだり、時には怒ったり悲しんだりする。そんな物語。


「さ、休憩終わり! 一緒に頑張ろうね、あす」


 二人が手を取り合って少しでも笑顔を届ける為に、今日も店を開店する。


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