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干天の慈雨  作者: ゆうま
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始まりと死⑧

「ケンを助けてよ」


それがどんな表情で言われたのか、分からない

だが泣きそうな声だった

こんな声は初めて聞く

ナギを拾ってから様々なことが起きる

なんだか俺の物語の主人公が俺ではない気がしてくる


「もうケンが傷付くの、見てられないよ」

「この人はこの町から出る気がないですよ。例え小旅行に行くお金があっても、それすら行きません」

「ケン、この子拾って良かったね」


振り返って言った言葉は俺には意外なものだった

いつも軽いノリのカー坊が真剣な声色で言った

泣きそうな表情だ


「どうだろうな」

「メイちゃんが殺されたのはこの子のせいじゃないよ。拾ったケンのせいでもない」


じゃあ一体誰が悪いって言うんだ

なにがいけなかったって言うんだ


「メイちゃんが死んだときのことを話したのはこの子と同じ考えだったからじゃないかな」

「何故そう思う」

「ボクも同じだからだよー。誰かに殺してほしい」

「人間、なにを考えているか分からんものだな」

「そーだよー」


何故かカー坊は少しご機嫌だ


「ボクが誰かにそーゆーこと言わないのは、どーでも良いからだよー。ここで「大切」を見つけると大変だねー」

「生きている間「大事」にすること。死んでも「大切」にしたいこと」

「分かってるねー」


ナギが薄い笑みを浮かべる


「もしかしたらこの町は「誰かに殺してほしい人」が流れ着く町なのかもねー」


ご機嫌な態度で語り続けるカー坊

それを真剣に見るナギ


「カー坊さんは本当に誰でも良いんですか」

「なれない呼ばれ方だなぁ」

「茶化さないで」


ナギの少し強い声に微笑む


「本当はいるよ。でも心をこわしてね、ボクが誰か分からないんだ」


向き直ると真剣な表情で続ける


「ボクだってその人が誰なのか、なんだかもう分からないんだ」


自傷気味な笑顔になる


「そんな人に殺されたって意味ないから。だから誰でも良いんだ」

「どうせなら行きずりの――相手だって誰でも良かった、みたいな人の方が」

「そーだねー」


今度は悲しそうな笑顔になる

カー坊の元気に分類される笑顔以外を見ることはことの他珍しい

それをナギは…


「ナギだっけー?アンタもそーでしょー」

「はい。私の場合既に亡くなっていますが」

「そーなんだー。まぁボクにとってあの子は死んだよーなもんだからねー。同じだねー」


またご機嫌になりふわりと微笑む


「同じだねー」


ナギもまた同じ調子で言う


「…ねぇ、殺されるのはボクでも良い?」

「良いですよ」


狂気じみた言葉と声色にナギはふわりと微笑んだ


「…そー。じゃあ調理場行ってくるからちょっと待ってて」

「その辺の置物とかで良いですよ。ケンさんが逃がしてしまいます」

「それもそーだねー。楽に殺してあげたかったんだけどー」

「別に良いです。それだけのことをしてここに流れ着いたんですから」


待て待て

なんでだ

どうしてだ


「ほら、ケンさんが混乱して動けない今の内に」


ナギの表情も狂気に満ちている


適当な置物を見つけたカー坊が苦し気に振りかぶる


「止めろっ!」

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