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干天の慈雨  作者: ゆうま
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始まりと死⑤

「分かりました。では私が殺してきます」


穏やかな声のまま続けて言った言葉の意味が分からなかった


「待って!なにもきみが行かなくても」

「どうせ誰かにそのうち殺されますよ。そんなこと分かってます」

「じゃあ!」

「でもこの場で人を殺せるのは私だけです」


ドクンと心臓の音がした気がした


「きみにも人は殺せないよ」

「…お前は人を殺したことがあるのか」

「間接的に殺してしまったことならあります」

「そうか。それなら行かせるわけにはいかないな」


俺が拾ったんだから

だから、面倒を見る

道を踏み外させるわけにはいかない


「私はまだ店の人間ではありません。なのであなたの言うことを聞く必要はありません」

「それならお前にあの男を殺す理由もない」

「乱暴されました」

「たったそれだけで人を殺していたらこの町の住民の半分はお前に殺される」


一歩踏み出すと間に人が立った

その人物はナギをぎゅっと抱きしめて弱々しく言った


「お願い。行かないで」


ヤスだと認識するのに時間がかかった

背中まで弱々しく見えた

こんな姿を見たのは、こんな声を聞いたのは、初めてだ


「殺さないで」


ナギの視線の先にはなにもない

けれど確かに、なにかを見ているような気がした

右手を背中に乗せ優しくぽんぽんと叩く


「きみを今夜買う」

「…はい」


ナギが返事をするとすぐに抱きかかえて2階へと上がって行く

心配になって追いかける

いつもヤスが使う部屋の隣の部屋へと入って行った


最初は間違えたのかと思った

だが、あの部屋に戻ってカイが発した一言で気付いた

泣きはらした目でメイの手を握りぽつりと呟くように言った


「あいつにも特別があるんだ」


間違えたんじゃなく使いたくなかったんだ

そして入り浸っているヤスは隣の部屋を使う人物がいないと知っていた

だからその部屋を選んだ

俺は馬鹿だ


メイが言ったことをカイに伝えよう

すぐに駆け出したなら到着が遅い

恐らくヤスとなにか話したのだろう

ヤスがなんと言って、それを聞いたカイがどう決断をしたのか

聞きたい


「カイ、メイはお前を特別だと思っていた」

「そんなの知ってます」


流石公認カップルだな

本人たちは一応否定していたし特別そういった素振りはなかった

だが周りはそう思っていた


「だからメイが俺に「もしなにかあったらカイにだけは綺麗にした後の姿だけを見せてほしい」そう言ったとき、驚かなかった」

「メイが?」


当人の方が驚いている


「ずっと私の片思いだと思ってました。最初のは嘘です。すみません」

「そうか。メイも片思いだったんだな」

「気付かなかった…」

「メイは怖がりだからな」


「もし」を沢山並べて踏み出せずにいたんだろう


「それに意地っ張りだし、割とわがままだし、ちょっと抜けてるとこあるし」

「本人を目の前にして言いたい放題だな」

「聞こえてたら言いませんよ。それでも大好きだ、なんて」

「確かに、恥ずかしがり屋のカイには無理かもな」


頭を撫でて立ち上がる

今でなくても良い

カイがメイと過ごせる最後の時間を邪魔するなんて、野暮なことをした


「メイの遺体はどうなるんでしょう」

「家族が引き取りに来ないなら店に埋める」

「土葬ですか」

「悪いが火葬する費用はないんだ」


カイがくすくすと笑う


「ケンさんって本当、馬鹿ですね」

「悪かったな」


肩を竦めるとメイに向き直る


…そういえばカイがあの部屋に着いたとき、ナギが言ったこと

あれはどういう意味だったんだろう

まるでメイが俺に言ったことを知っているような…

考え過ぎか

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